Lyrical NANOHA The Lord 〜契約せし魔法使い〜 作:vegatair
……どもども、vegatairです。
変身まで終わらせたいなと思って書いたらなんと一万字に到達。
まぁ今回は話を区切りのいいところで終わらせたかったので長くなっただけで、次話からはもう少し分量は減らそうと思っています。
だいたい7,000〜8,000字程度ですかね。
さてさて今回の話、タイトルでわかる通り変身します!
まぁ過度な期待はせずに、お菓子でも食べながら読んでください。
それでは、第1話をどうぞ!!
『昨日未明、ミッドチルダの北部にて魔導師が一名謎の失踪をとげました。これで失踪した魔導師は8名に登り、管理局は魔力を持った者への注意を促しました』
「……ふ〜ん。なんだか最近は物騒だねぇ」
テレビから流れるニュースを見ながら、興味がなさそうな声音でそう呟く男。彼の名はトオル・ミツハネ、今年で21になるごくごく普通の青年である。
現在、彼は一人暮らしているアパートにて朝食を食べている最中だ。焼きたてのトーストにマーガリンを塗り、テレビに視線を向けたまま一口
するとピンポーン、とインターホンが鳴る音が聞こえ、何事かとトオルが玄関へ向かい扉を開くと
「おっはよートオル
元気な挨拶とともにドン、という衝撃がトオルの腹部を襲う。突然のことにトオルは受け身を取れず、そのまま後方へ背中を強打させる。
背中に走る痛みを我慢しつつ、トオルが目を開けると視界を覆い尽くす青がそこにはあった。
またか、と心の内で溜息とともに漏らしながら倒れた元凶へと声をかける。
「おはようさん。でもな、いきなり抱きつくのはやめろって言っただろ……スバル」
「えへへ〜、ごめんね〜」
ちょこんと舌を出し、可愛らしい顔で謝るスバルと呼ばれた少女。彼女はスバル・ナカジマといい、トオルの知人にして妹分のような存在である。
そんな可愛い妹分に謝られては許さないわけにもいかず、トオルはスバルから体を離すとよっこらせっと起き上がる。
「にしても、お前と会うのも久しぶりだな」
「訓練校を卒業してすぐに部隊に入ったからね〜」
あはは〜、と笑いながら頭を掻くスバル。
「どうだ、部隊での調子は? いつもみたいに馬鹿はしてないだろうな?」
「もう、私だって成長してるんだよ! いつまでも子供扱いしないで!」
「ははっ、そうかそうか悪かったな。でもな、出来の悪い妹分を持つと兄貴は心配なんだよ」
屈託無く笑いながらトオルはスバルの頭をガシガシと撫でる。その行為自体が子供扱いしてるんだよと思いながらも、こうやって撫でられるのも悪い気はしないスバルはトオルのされるがままでいる。
「それにしても、あの泣き虫だったお前が魔導師になぁ。しかもCランク……いや、今日でBランクか」
「あれ? なんでトオル兄、私が今日昇格試験受けること知ってるの?」
「ゲンヤさんから聞いたんだよ。ここだけの話だけどな、お前がちゃんと昇格できるかってかなり心配してたぞ、あの人」
トオルの話を聞き、スバルは頬を膨らませムッとした表情を浮かべる。
「もう、お父さんまで私を子供扱いして!」
「そう怒るなって。親っていうのはいつだって子供が心配なんだよ」
そう言い、今度は優しい手つきでスバルの頭を撫でる。目の前にいる少女はもう、自分の助けなどいらないほど、いやむしろ自分を守るほどにまで成長し強くなったのだ。
愛すべき妹分が成長したことに、嬉しさと若干の寂しさがこみ上げるトオル。そして僅かな不安もまた、同じようにこみ上げてくる。
魔導師として部隊に入るということは、必然的に危険な任務に就くことになる。まだ魔導師になったばかりで、しかも年齢的にも若いスバルが大怪我をしないか心配なのだ。
それにここ最近起こっている魔導師失踪。先ほどのニュースは他人事で聞き流してはいたものの、その実かなり気にしていたのである。
「スバル、無茶だけはするんじゃねぇぞ? ダメだって時には俺を呼べ、いいな?」
「大丈夫だって! それに私はもう、トオル兄よりも強くなったんだよ。だから今度は私がトオル兄を守ってあげるよ!」
「……そうか、それは心強いな。けど約束はしてくれ、絶対に無茶はしないってよ」
そう言ってトオルは右手の小指を立て、スバルの前へ持っていく。スバルは少し不満に思いながらも、自身も右手の小指を立ててトオルの小指と絡ませる、所謂『指切りげんまん』をする。
そして指を離し、トオルがチラリと壁に掛けてある時計に目を向けると、時計が示す時間は9時30分。
「……おいスバル。お前、試験の受付完了時間は何時だ?」
「えーと確か……10時だったっけ?」
……まずい、これはかなりまずい。あと30分しか時間がない。もしも遅れてしまえば次に試験が受けられるのは約半年後。スバルの実力ならば合格は出来るだろう。だがそれは試験を受けなければ何の意味もなさない。
たらりと、トオルの頬を汗が伝う。
「あと30分しかねぇじゃねぇか馬鹿野郎!!」
「え──わわわっ、本当だどうしよう!?」
言われて初めて気づいたらしく、あたふたと慌てふためくスバル。
「落ち着け、俺が試験会場まで送ってやる。ぶっ飛ばせばギリギリ間に合いはするだろうしな」
そう言い、トオルはさっと着替えを済ませアパートの駐車場へと向かう。そこには黒塗りの大型バイクが停めてあり、トオルはヘルメットを二つ取り出すと片方をスバルへ投げ渡す。
「おら、さっさと乗れ!」
「ごめんね、ありがとうトオル兄!」
「礼は間に合ってからだ! それよりもちゃんと掴まってろよ──振り落とされても知らねぇぞ!」
スバルを後部座席へ乗せ、トオルは目一杯のスピードで試験会場へと向かう。
結論から言って、スバルは間に合った。とは言っても本当にギリギリで、あと数分遅れたらアウトだっただろう。
「この馬鹿スバル!! あれほど余裕を持って来いって言ったでしょ!?」
「ごめんってばティア〜。でも間に合ったから結果オーライでしょ?」
「そ・れ・は! トオルさんが送ってくれたからでしょ!」
ガミガミとスバルへ説教を垂れるのは、彼女と訓練校のときからコンビを組んでいる少女ティアナ・ランスターである。
ティアナはそのオレンジのツインテールが逆立つほどの怒りを露わにし、スバルへと詰め寄っている。
「ったく……トオルさんもありがとうございました。わざわざ試験会場まで送ってもらって」
「ああ、気にしなくていいよ。それよりもそのままスバルに説教を続けててくれ」
「トオル兄!?」
試験前だというのに、そんな緊張感のかけらもないやり取りをするスバル達。
そして試験の説明時間も近づいてきたらしく、三人の前に受付のスタッフが近づいてくる。
「間も無く試験会場への入室となりますので、どうぞ中へお入りください」
「わかりました。行くわよスバル。トオルさんも、ありがとうございました」
「行ってくるねトオル兄!」
「おう、帰ったら昇格祝いだな」
互いに手を振りあい別れるトオル達。スバルとティアナの姿が建物の中へと消えるまで見送り、トオルは駐車場へと向けて足を進める。
そんなトオルを建物の陰に潜み見つめる人物が一人いることに、彼自身はまだ気づいていなかった。
「さて……スバル達は無事に合格できるかねぇ?」
駐車場へ着いたトオルは、バイクからヘルメットを取り出しながら、今頃は試験を受けているであろうスバル達の心配をする。
スバルにおっちょこちょいな面がある分、もしかしたらということもあるだろう。
「いやいや、ティアナちゃんが付いているから大丈夫か」
しっかり者の彼女が付いているのだ、絶対にとは言い切れないが大丈夫だろう。そう結論づけ、トオルがヘルメットを被ろうとした瞬間──ドンッ、という衝撃と共にトオルの体が前のめりに倒れる。
何事かと、トオルが体を起こし振り返るとそこには、自分の足へ乗りかかるようにして倒れこむ一人の少女がいた。
「……やっと、見つけました」
「…………はい?」
ふらりと、まるで幽鬼のごとく立ち上がる少女。その異様な雰囲気にトオルはわずかに後ずさる。
そして数秒、だがトオルにとっては1分にも感じられる長い長い数秒が経過した後、少女は懐に手を突っ込む。
(まさか凶器か!?)
トオルはすぐに身構え、少女の次の行動に備える。
「──あなた」
そう言い、少女は懐から何かを取り出す。それは白い手形のようなものが付いた変なベルトだった。
(なんだ、あの変な……ベルト?)
トオルが不審そうな目をそのベルトに向けると、少女はそのベルトをトオルの眼前へ差し出し
「私と契約して、魔法使いになってください!」
頭を下げ、そうお願いしてきた。急にそんなことを言われたトオルはというと、目を丸くし口をあんぐりとさせ一言。
「……へ? 魔法使い……?」
「クソが、あの女! 絶対に逃がさねぇぞ!」
とある場所で、一人の男が苛立った表情で叫んでいる。
「この近くに反応はあるんだ。さっさと見つけて甚振ってやるぜ」
そう言い、男はどこかへと向けて足を進める。そんな男の手には、身の丈ほどの石斧が握られていた。
なんだこいつは。それがトオルの抱いた感想だった。急に人を押し倒し、何か見知らぬベルトのようなものを取り出し。極め付けは契約して魔法使いになれだ。
トオルは目の前の少女へ疑惑の目を向け──目を見開いた。
「……お前、その傷はどうしたんだ? それに服もボロボロじゃねぇか」
そう、少女の着ている白のワンピースはボロボロで所々が破け、その隙間からは幾つもの切り傷が覗いていた。
だが少女はそんなもの知ったことではないと、トオルへ再度お願いする。
「お願いします、私と契約してください! 魔法使いになってください!」
「待て待て待て! 急に契約てくれだ魔法使いになってくれだ言われてもわかんねぇよ。せめて少し説明してくれ」
なぜ目の前の少女が自分へそんなことを言ってくるのか。一先ずそれを知るためにトオルは少女へ説明を求める。
トオルの言葉を聞き、少女は顔を上げるとその小さな口を開く。
「……ある人に言われたんです。このベルトの適合者を見つけて契約しろと。そうすれば私の助けになってくれると」
「適合者って、俺じゃなくちゃいけねぇのか?」
「はい。貴方がこのベルトを使うに値すると、そう感じたので」
そして少女は再び頭を下げ、トオルへお願いする。
「お願いします! 私と契約を……私を助けてください!」
「助けてって言われてもなぁ……」
別に助けること自体は構わないのだが、契約をしてくれと言われたら答えづらくなってしまう。
「……ひとまず場所だけ変えるか」
場所は変わり人気のない公園。ここならば多少声が大きくても誰かに聞かれる心配はないだろうと、トオルは少し古びたベンチへと腰をかける。
「それで助けてくれってことだが、いったい誰に追われてるんだ?」
「……私を追っているのはファントムという怪人です」
「ファントム……?」
初めて聞くその言葉にトオルは首を傾げる。
「ファントムとは絶望した人間から生まれる怪人です」
「人が怪人にだと? そんなことがあり得るのか?」
信じられないと、そんな声音で少女に問うトオル。人が怪人になるなどと、そんな話は今まで一度も耳にしたことがない。
「はい。とは言っても、ファントムになり得る可能性がある人物は少ないので、話自体を聞いたことがなくても仕方ありません」
少女はそういうが、トオルは未だに半信半疑のままでいる。やはりそういった類のものは、自分の目で見ないと信じられないものなのだ。
「まぁファントムの話はそこまででいいとして。じゃあ次の話に移るが、なんで嬢ちゃんはそのファントムに追われてるんだ?」
「……賢者の石の在り処を知っているからです」
「賢者の石だと?」
これはトオルでも知っている。賢者の石、それは人知を超越したあらゆる超現象を引き起こすことができる奇跡の石である。
ただしそれはおとぎ話の中だけの話だと思っていたが、まさか本当に存在するとはと驚きを隠せないトオル。
「賢者の石は、古くから私の家に伝わってきた秘宝でした。でもある日、賢者の石を狙ったファントムが襲ってきて……父さんと母さんをっ!」
そこで言葉を切る少女だったが、トオルにはその先が想像できた。おそらく少女の両親は怪人の手によって……。
おそらく目の前の少女は両親のおかげで逃げ出すことができたのだろう。そしてファントムは石の在り処を知っている少女を追っていると考えるトオル。
「……なるほどなぁ」
トオルは腕組みをし、今までの話を整理する。魔法使い、ファントム、賢者の石……どれもこれも自分には過ぎた話である。正直関わらないことが一番の得策だとは思うが、追われているという少女に助けを求められてそれを無視というわけにもいかない。
黙り込んだトオルに、少女は不安な表情で問いかける。
「やはり、信じてもらえないでしょうか……」
「いいや信じてるぞ。でもこっちにも色々あってだな……まず俺は魔力がこれぽっちもねぇんだ」
「魔力がない、ですか……?」
首を傾ける少女にトオルは首を縦に降る。
事実、トオルには魔力といったものが欠片もない。魔法文化が発達しているだけあってミッドチルダには魔力を持つものが多いが、それでも全員が全員魔力を有しているわけではないのだ。その一人の中にトオルも含まれている。
魔法使いというならば魔力があることが大前提となるだろう。つまり、トオルは彼女のいう魔法使いになる資格がないと言える。
「魔法が使えないなら魔法使いとはいえねぇだろうし、残念だけど他の魔導師を当たってくれや。それまでだったら面倒くらいは見てやるからよ」
追ってから助けることはできないが、生活を援助してやることはできる。ちゃんとした魔法使いの資格を持つものが現れるまでは面倒を見ようと、トオルがそう言うが
「でも、あなたから適合反応が出ているんです!」
この少女、是が非でも引く気がないらしい。そして少女は名案が浮かんだとばかりに、手を合わせると
「それではこのベルトだけでも着けてみてください! もしも本当に適合者ではなかったなら、なにも起こらないはずですし」
あれやこれやという間に、少女に
いったい何が悲しくて、こんなわけのわからないものを着けなければならないのだろうか。トオルは内心でため息を吐く。
(ま、これで白黒はっきりすることだし、手っ取り早くていいか)
そんな楽観的な考えでトオルはベルトを腰に巻きつける。だがしかし、トオルには何の変化も見当たらない。トオル自身もどこか変わったということはなく、体調もいたって普通の状態だ。
「ほらな。やっぱり俺じゃだめなんだ──」
《ロード エントリー》
「──よって…………は?」
突如、ベルトから機械的な音が鳴り、まさかと顔をヒクつかせるトオル。
対照的に少女はキラキラと目を輝かさせ、歓喜の声を上げる。
「ほらほら、やっぱりあなただったんですよ!」
「いやいやいや、これ何かの間違いだから! きっと何か変なスイッチを──って、これ全然外れねぇんだけど!? ちょ、外し方とか知らない!?」
「へ? 外れないんですか?」
「外れないんですかって、まさか何も知らねぇのか!?」
可愛らしく首を傾ける少女へ、トオルはベルトと格闘しながら激昂する。それにしても本当に外れないベルトだ。
「おいおい、マジで外れねぇんだけど!? もしもずっとこのままだったら、俺はこの先どうやって洋式便所でことを済ませればいいんだよ!?」
「ベルトを渡した私が言うのはなんですが、心配するのはそこですか?」
もっと別に心配することがあるだろうに、と少女が若干ずれた発言をしているトオルに突っ込みを入れる。
「ですが、これで条件は満たしました! 後は私と契約をするだけですね!」
それはそれこれはこれと、少女はトオルへ契約を申し入れる。結局トオルはベルトを外すことはできず、ガックリと項垂れながら低いトーンで聞き返す。
「一応聞いてやるけどよ、契約ってどうするんだ?」
「…………わかりません」
「はぁ!?」
少女の返答に思わず叫んでしまうトオル。だがそれも仕方のないことだろう。契約しようと言われ、外れない呪いのベルトのようなものを付けられた上、契約の方法を知らないときたのだから。
「おいおい冗談じゃねぇよ! なんで契約の方法知らねぇの!? ちゃんと用法を確認してから頼んでくれよ!」
「し、仕方ないじゃないですか! 私だってこれがなんだかわからないのに、説明されないまま渡されたんですよ!?」
「あ゛あ゛!? じゃあ何だ、自分でもわからないもんを付けさせたってか!? おいおい勘弁してくれよ、これが本当に呪いのベルトだったらどうしてくれんだよ」
ギャーギャーと、トオルが少女と言い合っていると──突如、背後から激しい悪寒を感じる。
「──伏せろ!」
「え、キャア!?」
トオルが少女の頭を押さえ込み体勢を低くする。すると二人の頭上を巨大な何かが回転しながら飛んでいき、少し離れた地面へ激突し巨大な砂煙りをあげる。
いったい何がと、トオルと少女がその何かに目を向けると──そこにあったのは巨大な石斧だった。
「斧? ったく誰だよ、んな危ねぇもんぶん投げたやつは」
「あの斧……まさか!」
「──ようやく見つけたぜぇ!」
突如響き渡る第三者の声。その声に少女はびくりと肩を跳ねさせ、恐る恐るといった風に振り返る。するとそこにはTシャツにジーパンといった格好の若い男が立っていた。
「ガーゴイル!? あの時、あの魔法使いの爆発でやられたはずでは!?」
「は! 俺があの程度の力でやられるはずがねぇだろ! それよりも、今度こそ逃がさねぇぞ」
「ん? なに、お前ら知り合いなの?」
男の姿を見て驚愕の表情を浮かべる少女。対し男は不敵な笑みを浮かべ少女へ言葉を返す。
一方、完全に置いてけぼりのトオルは、少女にガーゴイルと呼ばれた男との関係性について問いかける。
「あれはガーゴイル。私を追ってきたファントムの一人です」
「あれがファントム……見た目はただの人間じゃねぇか」
怪人と聞きどんな異形が来るのかと思っていたが、見た目は普通の人間で少しばかり拍子抜けするトオル。
「いえ、あれはただの俗世に紛れ込むための仮の姿にすぎません。少しでも油断すると殺されますよ」
そんなトオルへ注意を促す少女。その間にガーゴイルは斧の元まで向かうと、なんとその巨大な斧を片手で軽々と持ち上げたではないか。
「今度は逃げられねぇよう、その手足を叩ッ斬らねぇとなぁ」
ガーゴイルは照準を少女に合わせ、斧を地面に叩きつける。すると斧の先から衝撃波のようなものが放たれ、少女目掛けて地面を抉りながら進む。
咄嗟にトオルが少女を抱きかかえ横に飛んだことで回避に成功。二度も己の邪魔をしたトオルへガーゴイルは鋭い視線を向け、斧を肩に担ぐ。
「さっきから邪魔ばっかしてくれるやがって……ただの人間ごときが楯突いてんじゃねぇよ」
「生憎だけど、俺はまだこいつに聞きたいことが山ほどあるんでな。お前こそ、俺の邪魔をするんじゃねぇよ」
「……ひゃははっ! いいねぇそういう強気な態度! 潰しがいがあるってもんだぜ!」
直後、ガーゴイルの体に変化が訪れる。人間の柔らかい皮膚はゴツゴツとしたものへと変わり、手足の爪は鋭く、顔は爬虫類を思わせるそれへと変貌する。
トオルはその異形っぷりに目を見開くも、視線をそらすことはせず少女を背に隠す。
「へぇ、随分と王子様をしてるじゃねぇか。それはそいつの正体を知っててやってることか?」
「──っ! やめて、言わないで!」
正体と、どこか含みのある言い方をするガーゴイル。そんな彼の発言に、大声をあげて制止させようとする少女。
だがそんな少女の叫びなど意味なく、ガーゴイルは少女の正体を明かす。
「そいつはな、俺たちと同じファントムなんだよ!」
言われてしまったと、少女は顔を俯かせる。対するトオルは俯く少女へ顔を向け、静かに言葉を紡ぐ。
「……今の話は本当か?」
「……はい」
震える声で答える少女。返事を聞き終えたトオルは、今度はガーゴイルへと視線を向ける。
「一応聞くが、お前は賢者の石を手に入れて何をするつもりだ?」
「ああ、そこまで聞いたのか。ったく、おしゃべりな女だ。まぁいい、冥土の土産に教えてやるよ」
するとガーゴイルは斧を地面に突き立て、両手を目一杯広げるとあらん限りの声で叫ぶ。
「俺、いや俺たちの目的は一つ! 賢者の石を使って次元世界すべての人間をファントムに変えることだ!!」
「次元世界の人をファントムにだと?」
「不可能だと思うか? でもな、賢者の石さえあればそんなことぐらい造作もねぇんだよ!」
そしてガーゴイルは少女へと視線を向け
「それにしてもお前の両親はバカな奴らだったなぁ! あの時歯向かわずにさっさと賢者の石を渡しておけば良かったものを。
それをまさかこんな小娘に石を渡して逃がした挙句、俺たちに刃向かってくるなんてよ……つくづく馬鹿な奴らだぜ」
「──ッッッ!!」
両親を馬鹿にしたガーゴイル言葉に、少女は声にならない叫び声をあげ、殺さんばかりの視線を向ける。だがそんな少女の視線をガーゴイルは心地好さそうに受けながら、今度はトオルへ向けて言葉を発する。
「それで、お前はどうする? そいつを助けて無駄死にするか、差し出してファントムになるか……道は二つに一つだぜ?」
二つに一つとは言っても、どちらも待っているのは死のみ。いやガーゴイルの言うことが本当なら、自分だけではなくスバルとティアナ、延いては知人の全てが危機にさらされる。
『──私がもしもの時は、スバルとギンガのことを頼むわね』
思い出すのは嘗てした約束の記憶。絶対に守ると、命をかけて守ってみせると誓った約束だ。
トオルは背後にいる少女へ顔を向け、その震える肩に優しく手を置く。
「……トオルだ」
「……はい?」
「トオル、俺の名前だ。己の思いを貫き通す男になれと、両親がつけてくれた名前だ。それで嬢ちゃん、お前の名前は?」
いきなり自己紹介をされてポカンとする少女だったが、震える声でトオルの問いに答える。
「──エルピス。誰かの希望になれと、両親がつけてくれた名です」
「エルピスか……いい名前だ」
トオルは微笑み、エルピスの肩から手を離すと再びガーゴイルへと視線を向ける。
「エルピス、俺には命に代えても守らなくちゃならねぇ約束がある。けど、それを守るための力が今の俺にはない。……もし、本当に俺が魔法使いになれるっていうなら──」
そこで一度言葉を区切り一度めを伏せる。そしてそっと、腰のベルトへ手を伸ばし覚悟を決めその言葉を言う。
「俺と契約しろ! そしたら
「──っ!! はい! この身は貴方とともにありましょう、トオル!!」
直後、エルピスの懐が輝いたかと思うと、10個の光の球体がトオルとエルピスを囲むように輪を作り、その内の一つが二人の間にやってくる。
(今ならわかる、この指輪の使い方が──契約の仕方が!!)
エルピスはその指輪を取り、右手の中指にはめる。そしてその手をトオルのベルトの手形へとかざすと
《プレジ・カモーン!!》
妙にテンションの高い声で新たな音声が鳴り響く。その直後、トオルは自身の中に何かが流れ込んでくるのを感じた。それはまるで滝のように自分の中へ入り込み、まるで侵食していくかのように体全体へと渡っていく。
そしてその途中、トオルの頭の中に一つの映像が流れ込んでくる。
──それは一人の少女の記憶。
『逃げろエルピス! お前だけでも生き延びてくれ!』
──目の前には剣を持ち叫ぶ男性と、自分を抱きしめる女性が。
『ごめんねエルピス。あなたを一人にさせて……でも、それでもあなたには生きて欲しいの』
──涙を流しながら、女性は小さな宝石を少女の胸に押し付ける。すると宝石はすうっと少女の胸の中に消えていった。
『さぁ行きなさい。振り返ってはダメよ、真っ直ぐ走るの』
──最後に、女性は少女の額にキスを落とし
『エルピス、あなたが生まれてきてくれて本当に嬉しかったわ。できることなら、もっと一緒に暮らしたかった……っ!』
『でもそれ以上に、お前には死んで欲しくないんだ。お前は俺達の希望だから』
──そして少女が最後に見た両親の顔は、別れを惜しむ涙ではなく
『『さよなら、愛しい我が子よ!!』』
──まるで絶望の内に咲く小さな希望のように、とても綺麗な晴れ晴れとした笑顔だった
(──っ!? 今のは、エルピスの過去……?)
我に返ったトオル。だが時間は全くと言っていいほど経っていないのか、ガーゴイルは未だに同じ場所に立っていた。
「……ん? 左手に何か……って指輪?」
左手に違和感を覚えたトオルが視線を落とすと、そこにはいつの間に嵌められていたのか銀縁の指輪が陽の光を浴びてキラリと輝いていた。
「……それが私とトオルの力です。さぁ、変身してください」
「変身……なるほど、だいたいわかった」
頭の中に流れてくるのは、この
トオルはベルトの横にあるレバーへ手を添え、左下を向いている手形が右下を向くように操作する。
《シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!……》
するとそんな陽気な音声が繰り返し流れる。そして次にトオルは左手を右肩まで上げると
「変身!!」
まるで呪文を唱えるように叫び、左手をベルトへかざす。
《ロード・カモーン!!》
その音声鳴り終わると同時に左手を水平に伸ばす。すると何かの紋章が刻まれた、銀の丸い魔法陣が現れ
《イエス! アドベント!! マイロード!!!》
魔法陣がトオルの体を通過する。それと時を同じくして、半透明になったエルピスがトオルの体と一体化。
そして魔法陣が通り抜けた後、トオルの姿は先ほどまでの私服ではなくなっていた。
全身を包む黒色のボディースーツ。そして銀色の手首から肘にかけて装備された籠手、膝からつま先まで覆う銀の装甲。それらの手首、足首の近くには銀色の宝玉が埋め込まれている。さらに胸と両肩には銀の胸当と肩当が装備され、背中には風に吹かれて靡く黒色のマントが。頭部はフルフェイスの仮面で覆われ、銀の双眸が一瞬発光する。
魔法使いというよりは銀の騎士と呼ぶべきだろう仮面の戦士へ変身したトオル。ガーゴイルをその銀の双眸で睨みつけたトオルは左手をなぎ払うようにして振るい
『王の御膳です、控えなさい!!』
同時にどこからか、トオルと一体化したエルピスの声が響き渡る。
今ここに、一人の戦士が誕生した。
従者と共に戦う、その戦士の名は
──仮面ライダーロード──
どうだったでしょうか?
こんな在り来りな名前や設定でも色々とあれこれ悩んだんですよ……。
まぁ、私が後悔はしてないからよしとしますか!
それと、オリジナルリングが出た場合は後書きで説明をしますので。
↓にあるような感じやります。
では、感想並びに批評をお待ちしております!!
オリジナルリング
・プレジウィザードリング
契約の指輪。
契約者となるファントムが装備し、トオルのベルトに翳すことで主従の契約を交わす。
絵柄は指切りのマーク。
・ロードウィザードリング
トオルがロードへ変身するための指輪。
絵柄はロードの顔。