Lyrical NANOHA The Lord 〜契約せし魔法使い〜   作:vegatair

8 / 10

かなり久しぶりな投稿です。
とりあえず気長な更新の繰り返しと思いますが、それでもよければどうぞよろしくお願いします!



繋ぐ手

 次元の狭間。そこでは現在、二人の男が話し合いをしていた。

 一人はボスと呼ばれるローブ姿の男。そしてもう一人はシャツとジーンズを身にまとった厳つい顔をした男。

 

「俺に何の用だ、ナーガ」

 

 ローブの男の言葉にナーガと呼ばれた男は不満を前面に押し出した顔で口を開く。

 

「ボスよぉ、なんであんな半端モンに次の役目を任せたりしたんだ? 俺ならあいつよりもうまくやれるぜ」

 

「それはそうかもな。だが、それでも俺はあいつを選んだ」

 

「だからなんだって──っ!」

 

 

 ──俺の選択に意を唱えるつもりか?

 

 

 ローブから覗く瞳がナーガを捉える。瞬間、男の全身から空間をも押しつぶさんばかりのプレッシャーが。

 ナーガは無意識に一歩後ずさると、チッ、と一つ舌打ちをし踵を返す。

 

「わかったから、んな怒んなって」

 

 そう言いながら、ナーガは男の元から去る。しかしその表情は歪み、苛ついたもので。

 そしてナーガはどこからか現れたルルハリルによって狭間から姿を消した。男は一人になったことでローブの中から本を取り出し、栞を挟んだページを開く。

 

「これでまた一つ、未来が動く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ中央区画湾岸地区。そこには設立されたばかりの真新しい建物が。

 その建物は先日、スバル達がスカウトされた『古代遺失物管理部機動六課』の隊舎である。

 隊舎内のある一室。ミーテイングルームのような場所に彼女達の姿はあった。

 

「みんな、急に集まってもらって悪いなぁ」

 

 制服に身を包んだ少女はモニターの前に立ち、集まった面々へと頭を一つ下げる。

 

「大丈夫だよ、私たちの仲じゃない。ね、フェイトちゃん?」

 

「うん。だからはやて、頭を上げて」

 

 栗色の髪をサイドテールにした女性、高町なのはと隣の金髪の女性フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは笑顔で答える。

 そんな友人二人の言葉にはやては頭を上げ笑顔を向ける。

 

「ありがとうな。シグナム達も、忙しい時にごめんな?」

 

 そして次の言葉を自身を守る騎士達へと向けた。

 

「いえ、私たちはあなたの騎士ですから」

 

 はじめに答えたのはピンクポニテの美女、シグナム。主であるはやての言葉に恭しく頭を下げる様は、まさに騎士のそれだ。

 

「ま、固いこと言うのはなしってことだ」

 

「うんうん、ヴィータちゃんの言う通り」

 

 次いで答えるのは赤髪を三つ編みに纏めた幼い少女、ヴィータ。そしてその隣で朗らかに笑う金髪ボブカットの女性、シャマル。そしてその傍らにて腕組みし、無言で頷く獣人の男性、ザフィーラ。

 彼女達もシグナム同様、はやてを守る騎士達である。

 

 皆の賛同を受けたはやては一つ頷き、モニターにある画像を映す。そこはミッドチルダとは別の世界で、燃え盛る炎に包まれた画像だった。

 

「これはつい数ヶ月前、管理世界のある村で起こった事件の映像や」

 

「これ、村全部が燃えてるの……?」

 

 映し出された画面を埋め尽くす炎になのはは小さな声で呟く。おそらく夜に撮られた景色だというのに、昼のように明るいその様は燃え盛る業火の勢いを物語る。

 

「この大火災での死傷者は幸いにも少なかった……やけど」

 

「けど、どうしたの?」

 

「……この一件で行方不明となった人が約二百名。しかもそのどれもが魔力を持った人ばかりなんや」

 

 はやての言葉に息を飲むなのは達一同。二百名近くの行方不明者など、津波などであればまだ分かるが火災となれば話は別だ。

 

「大火災の裏に隠れた、もう一つの事件があるってことか」

 

「でも、いったい誰がそんな数の人を……」

 

「そこや。二百もの数の人を気がつかれずに攫うなんて、火災に隠れたとしても至難の技や。でも、その手がかりとなるものが一つ」

 

 モニターをコントロールし、次なる映像を映し出すはやて。そこには場所は変わるが、業火に包まれる村の光景が。

 

「これはたまたまこの村を訪れていた人が撮った映像や」

 

「それはわかりましたが、この映像が人攫いに何の関係が?」

 

 画像が映像に変わっただけで、燃えた村が映っていること以外何も変わった様子は見られない。

 シグナムの問いにはやてはさらにモニターをコントロール。映像が徐々に拡大され、炎の包まれたある一点を映し出す。

 そこには炎の中逃げ惑う一人の男の姿があり、助けを求めて傷ついた体を引きずりながら歩いていた。だが次の瞬間、その姿はまるで煙のように掻き消える。

 

「え、人が消えた?」

 

「これをスローで流すと……こうなるわけや」

 

 驚くフェイトに視線を向けつつ、はやてはさらに操作を続ける。すると映像が巻き戻されスローモーションで流される。

 ゆっくりと動く映像。それに従い、巻き戻された男もその歩みを遅くする。そして男が消えた地点へと辿り着いた時、映像に変化が現れた。

 それは男の横の空間、まるでナイフで切られたかのように縦に二つへ裂けたそこから、突如一つの影が飛び出す。それはスローモーションで流しているにもかかわらず、素早く男の体を掴むと裂け目の中へと引っ張りこむ。

 

「今出てきた影、これをさらにスローで流すと……」

 

 再び巻き戻され、そしてさらにスローで流される映像。そこに映し出された影の正体は、全身が灰色の人狼を模した異形の姿だった。

 その異形の姿になのは達は口を閉ざし、険しい表情でモニターを見つめる。

 

「空間を裂いて人を……」

 

「つまりはこいつが誘拐の犯人ってことか」

 

 その光景に唖然とするシャマル。対しヴィータは睨みつけるように目を細め、モニターに映る人狼を見続ける。

 ヴィータの言う通り、この人狼の異形が火災に紛れて人々を誘拐したのは間違いないだろう。

 

「目的も何もわかっとらんけど、この異形達が何かをしようとしていることは確かや」

 

「達ってことは、他にも仲間がいるってこと?」

 

「そうや。ここ最近頻繁になった魔導師の失踪、おそらくこの異形が何かしら関わっているのは間違い無いと思う」

 

 魔導師失踪。ここ1年近く前から急に増加しだした、管理局が頭を悩ませている一件だ。なにせ目撃情報がなく、誰がどのようにして局員を拐ったのかがわからない。

 

「今はこの映像一つしか手がかりと呼べるものがない。けど、相手がどういったものなのかは知ることができた」

 

「あとはこれからの相手の出方次第、というわけですね」

 

「つっても、これじゃ後手に回り続けるだけだぞ。どうにかあいつらの動きを予測しねぇと」

 

 ただでさえ相手はとんでもない移動手段を有しているのだ。何か手を打たなければイタチごっこになるのが目に見えている。

 だが相手の情報が圧倒的に少ない現状では、動きを予測をするのも困難。その事実になのは達は表情を険しくする。

 

「レリックにカリムの予測。それに加えて魔導師失踪事件……ほんま、やることてんこ盛りやなぁ」

 

「でも頑張らないと。そのために創った『夢の部隊』、でしょ?」

 

「……そうやね」

 

 微笑むなのはにつられ、はやても口元に笑みを浮かべる。

 

 

 ──機動六課始動、一週間前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりミッドチルダ北部。

 月明かりのみが照らす薄暗い街道に小さな影が一つ。

 

「もう少し、あと少しで……」

 

 幼い体を動かしつつ、懸命に走る少女。どこか焦燥を孕んだ表情で走る姿は、まるで何かに追われているようで。

 

「早く、あの人の元へ……」

 

 青い双眸は真っ直ぐに、進むべき道を見つめ。

 

「そしてどうか、どうか私を──」

 

 絞り出すように吐き出した言葉は、とても、とても重く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりトオルのマンション。

 朝日がカーテンから漏れ、開いた窓から涼やかな風が入り、椅子に座るトオルの肌を撫でる。

 淹れたてのコーヒーに口をつけながらテレビへと視線を向けるトオル。

 

「はい、朝ご飯ですよトオル」

 

 その言葉とともにキッチンからやってきたのは、白いエプロンを身につけたエルピスだ。白い長髪を赤いリボンで一纏めにしたエルピスは、その手にお盆を持ちトオルの座る机へと朝食を運ぶ。

 

「ん、ありがとなエルピス」

 

 トオルはエルピスからお盆を受け取り机にそれらを並べていく。皿を並べきったところでエルピスも椅子に座り、二人合わせて朝食を食べ始める。

 

「にしてもエルピス、お前料理作れたんだな」

 

「ふふ〜ん。こう見えても私はずっと家事をしてきましたから! 炊事洗濯お手の物です!」

 

 トオルの褒め言葉に鼻を高くし笑みを浮かべるエルピス。彼女のおかげで家事が今までよりも楽になったことは、トオルも素直に感謝している。

 ここ数日、ワイバーン以降のファントムの襲来もなく、穏やかな日々を過ごすことができた。いつ襲撃して来るかわからないので気は抜けないが、それでもこうした日常を謳歌するのも悪くはないだろう。

 エルピスの作ったハムエッグを口に含みつつ、テレビで流れているニュースへと目をやる。

 

(古代遺物管理部機動六課。スバルの話だと確か明後日には始動するんだっけか……)

 

 管理局関連のニュースが流れ、妹分の新たな職場のことが頭に浮かぶ。過剰戦力と言っても過言ではない程の実力者が揃った部隊、さぞスバルにとってもいい経験となるだろう。順調に魔導師としての道を進んでいくスバルに安心すると同時に、若干の不安も覚えるトオル。

 

(ファントム、なんでスバルとティアナちゃんを狙ったのか)

 

 偶然か、それとも彼女たちに襲うに足りうる『何か』があったのか。いずれにせよ、今後のファントムの行動をいかに早く察知するかが大事になるだろう。

 そのためには使い魔の二体にの存在は必要不可欠だ。プラモンスターたちはファントムの魔力に反応するので、これ以上のうってつけはいない。

 それにスバルやティアナだけではない。エルピスを狙って襲ってくるファントムにも十分に警戒を払わなければならない。

 

「今日はお仕事お休みなんですよね?」

 

「ああ。だから今日は1日ゆっくりだ」

 

 そう言いコーヒーに口をつける。

 するとピンポーン、とインターホンが鳴る音が聞こえてきた。

 

「ん? 誰だ、こんな朝早くから」

 

 今はまだ早朝。客にしても訪ねてくるのには些か時間が早すぎる。

 とはいえ放置というわけにもいかず、訝しげな表情で立ち上がり玄関まで向かう。

 そして玄関の扉に手をかけようとしたその時、トオルの視界が一瞬、白で埋め尽くされた。それはプラモンスター達からの連絡で、白い視界の中に一つの映像が流される。

 

(こいつは、ファントムを見つけたのか?)

 

 はやる気持ちを抑えつつ、トオルは流れる映像に目を向ける。

 映像には白いシャツに赤いスカートを着た水色の髪の幼い少女の後ろ姿が映されており、その少女はどこかの家の扉の前に立っていた。

 

(女の子……? それに、その扉って)

 

 映像に映る見慣れた扉。もしかして、とトオルが思った矢先、映像に映る少女は扉のインターホンへと背伸びで手を伸ばし

 

 ──ピンポーン

 

 ほぼ、いや全くの同時だった。少女がベルを押すタイミングで鳴った自宅のインターホン。そこで映像は終わり、トオルは元に戻った視界で改めて目の前の扉を見つめる。

 この扉の向こうにいるのはあの少女で間違いはないだろう。だとすれば何故、彼女はトオルを訪ねてきたのか。疑問が募る。

 

「……ま、このままじっとしてても始まらねぇか」

 

 覚悟を決め、トオルは鍵を開けてドアノブをひねる。そして扉の向こう、トオルの視界に見えてきたのは映像の少女。

 映像越しで見るよりもはるかに小さなその容姿は小学生ほどで、彼女は青い瞳で上目遣いでトオルを見上げる。

 

「えーと……君、俺に何の用かな?」

 

「……いが……ました……いさん」

 

 尋ねると、ごにょごにょ、と何やら少女の口が小さく動く。しかし声が小さすぎてなかなか聞き取れない。

 トオルが再度、少女に問いかけると、少女は意を決したのか先ほどよりも大きな声を出す。

 

「お願いがあって、来ました……魔法使いさん」

 

 少女の放った言葉にトオルは目を見開く。

 魔法使い、そのことを知っているのはエルピスかファントムのみ。それを知っているということは、目の前の少女はおそらく……。

 だが争おうとする気配は一向に見られないので、トオルは一度深呼吸し気持ちを整理すると

 

「……とりあえず、中に入ってくれ」

 

 少女を自宅へと招いた。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 リビング。先ほどまでトオルとエルピスだけだったそこには、癖のある水色の髪の少女が二人の対面に座っていた。流れる空気はお世辞にもいいとは言えず、トオルとエルピス、そして少女は各々緊張の面持ちをしている。

 そんな中、初めに口を開いたのはトオルだ。

 

「それじゃあ君が誰なのかと、ここに来た理由を教えてくれるか?」

 

「……はい」

 

 小さく頷き、少女はゆっくりと口を開く。

 

「私は、ファントムです。名前は『ダインスレイブ』って言います」

 

 ダインスレイブ、そう名乗る少女。彼女がファントムであることは薄々感づいていたので、トオルは別に驚きはしない。隣のエルピスも彼女の中の魔力を感じ取っているのか、落ち着き払った表情をしている。

 トオルが視線で話を促すと、少女は続けて口を開く。

 

「私は、あなたにお願いがあって来ました」

 

 きた、玄関でも言っていた『お願い』。彼女がいったい何をお願いしたいのか、大方賢者の石関連であろうとトオルは推測する。

 そして一拍呼吸を置き、少女は今までで一番大きな声で言う。

 

「魔法使いさん────私を、殺してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、ミッドチルダのどこか。

 そこには一人の男が歩く姿が。イラついているというのを一切隠さない男は、不快に顔を歪めて街を歩く。

 

「チッ、なんだってボスはあんな半端モンに! 俺だったら確実に魔法使いを殺れるのによ!」

 

 ボスであるローブの男の言葉を頭の中で思い返し、ナーガは不愉快そうに舌打ちを一つ。

 周囲の人はそんな彼を避けるようにして歩き、またヒソヒソと会話をするがナーガは我関せずとばかりに歩みを進める。

 

「クソが、あんな半端モンさえいなけりゃ! そうすれば俺が──」

 

 ぴたりと、ナーガの足が止まる。

 

「ああそうだ、あいつさえいなけりゃ俺が魔法使いとやれる」

 

 そう、賢者の石の回収を任されたあのファントムがいなくなればいい。偶然、何かしらの想定外の出来事で死んでしまえば、空いた穴を自分が埋めることができる。

 その顔には名案を思い付いたと、そう物語るような狂気を孕んだ笑みが。

 

「はははっ、こいつは楽しくなりそうだ!」

 

 先ほどと打って変わり上機嫌に歩き出すナーガ。

 不穏な空気を纏う彼を表すかのように、ミッドの空には黒い暗雲が立ち込め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺してくれ、だと……?」

 

 少女、ダインスレイブの口から告げられた『お願い』。その内容は『自分を殺すこと』。

 予想外の内容にトオルは思わず持っていたコーヒーを落としかける。だがそれも仕方のないことだ。敵であるはずのファントムが『殺してくれ』と、そうお願いしてきたのだから。

 エルピスもまた驚いているらしく、今にも立ち上がりそうな雰囲気を出していた。

 

「はい、ですのでどうか……お願いします!」

 

「ちょちょっ、待て待て待て! とりあえず待ってくれ!」

 

「なぜ、ですか? 魔法使いとは私たち、ファントムを倒す存在だと、そう伺ったのですけど」

 

 コテン、と可愛らしく首を傾げるダインスレイブ。しかしトオルからしてみれば、無抵抗の誰かを殺すなどたまったものではない。

 とりあえず、なぜ彼女が自分を殺したいのか。その理由だけでも聞いておかなければと、トオルは質問をする。

 

「その、殺す云々は置いといて……なんでそんなお願いをしたのか、理由を話してくれるか?」

 

「……私は、誰かを傷つけたくない、です。これ以上、誰かが傷つく姿、見たくないんです……!」

 

 泣きそうな、悲痛の面持ちで語る少女。

 

 どうやら彼女にはファントムとしてのもう一つの人格があるらしい。その人格は非常に好戦的で、血を見るのが好きなんだそうだ。

 関係ある者も無関係な者も巻き込んで傷つける、そんなもう一人の自分。そんな自分を彼女は止めることができない。だから自分を殺してくれるであろう魔法使い、トオルの元を訪ねたとのことだ。

 

「……私にできるのは、彼女の力を抑えることだけです」

 

「なるほど、話はだいたい理解した。ただもう一つだけ、質問してもいいか?」

 

 了承を得て、トオルは再度ダインスレイブへと質問する。

 

「君はファントムだろう? なんで、そこまでして人を守ろうとするんだ?」

 

「……それは、私があの子の記憶に強く影響されてるから、だと思います」

 

「記憶に影響……?」

 

「そこからは私が説明をしましょう」

 

 首を傾げるトオルにエルピスが説明をする。

 

「ファントムとは絶望した人間から生まれる、ここは話しましたね?」

 

「ああ、確か初めて会った時に聞いたような……」

 

「ファントムは核となった人物の記憶を朧げながらも有しているんです。いや記憶という名の情報、といったほうがいいですね」

 

 ですが、と続け

 

「基本ファントムは核となった人物の人格とは全くの別人になります。それでも彼女のように記憶に影響を受けるということは、それだけ元となった子の思いが強かったのでしょう」

 

「……記憶の中のあの子は、とても優しくて暖かくて、お日様のような子でした」

 

 そう語るダインスレイブの表情はこの場で初めて見せる微笑み。それほどまで、彼女にとってその子は特別なのだろう。

 だがその表情もすぐに曇ってしまう。

 

「私は、あの子の体で、これ以上人を傷つけたくない。優しいあの子に、傷つけて欲しくない……」

 

「だからこれ以上罪を重ねる前に死のうと、俺のとこに来たわけか」

 

「はい。勝手なことだと、わかってます。ですが、どうか……私のお願い、聞いて貰ください」

 

 そう言い深々と頭を下げるダインスレイブ。理由を聞いたトオルは腕組みし、目を瞑って考え込む。そんなトオルの隣では、エルピスが同じく口を閉ざしたまま静かに座っている。

 そして1分、トオルは組んでいた腕を崩し目を開く。そんなトオルにダインスレイブは視線を向け、彼の答えを待つ。

 

「ダインスレイブ、俺の答えを言うぞ」

 

 少女の体がわずかに跳ねる。緊張と期待と、様々な感情が入り混じった顔で、それでも通るから目を離さず。

 そんなダインスレイブへトオルもまた、その視線を逸らすことなく真っ直ぐに見つめ

 

 

「悪いな、俺は君の頼みを聞けない」

 

 その言葉に、ダインスレイブはゆっくりと瞼を下ろす。

 

「君の思いはわかった。どうして俺の元へ来たのか、あんなお願いをしたのか」

 

 それでも彼女の頼みを聞くことはできない。例えどれだけお願いされようと、この答えは絶対に覆らない。

 だって、目の前で座る彼女はこんなにも

 

「だって君は、こんなにも優しい子じゃないか。そんな君を手にかけるなんて俺にはできない」

 

 この答えはただの我が儘だ。目の前の彼女の気持ちを、勇気を無下にするものだ。

 でも、それでも、トオルは剣を握らない。握る理由がないから。

 

「俺に君は斬れない。だから別の形で君の力になろうと思う」

 

 その言葉に少女の目が見開かれる。驚きがありありと見て取れる表情だ。

 だってまさか、他の方法を提示してくるとは思わなかったから。断られたまま、そのままで終わると思っていたから。

 

 ダインスレイブの表情を見て、ふっ、と微笑むトオル。

 頼みは聞けない、だからと言ってこのままさよならは後味が悪い。放っておけば、彼女の手で犠牲者が出るのは目に見えている。それがこの子のしたくないことだとしても。それを止めるのは魔法使いとしてファントムと戦う自分の使命だ。

 そうでないとしても、目の前で泣き出しそうな少女を見ていると、嫌でも思い出す。あの日、一人の女性の遺影の前で泣く、二人の少女の姿を。

 

「力になるって言うなら、それこそ私を……」

 

「それじゃ君が救われないだろ。大丈夫、俺とエルピスに任せておけって。な?」

 

「ふふっ、トオルならそう言うと思っていましたよ。さすが、私の相棒です!」

 

 ウィンクを飛ばし、笑顔を浮かべるエルピス。彼女も力を貸す気は満々だ。

 乗り気な二人にダインスレイブはただただ困惑する。なぜ、そこまで親身になって力を貸してくれるのか。勝手に押しかけて、勝手にお願いして、ただの迷惑者でしかないはずの自分になぜそこまで……。

 

「なんで、私なんかを……」

 

「なんでも何も、伸ばされた手を無視はできない、ただそれだけだ」

 

 この手で剣を握るのはやめた。だから代わりに目の前の少女の手を握ろう。これまで必死に彼女の中の『少女』を守ってきた、心優しい彼女の手を。

 

 笑顔とともに差し出す右手。ダインスレイブは差し出されたその手に戸惑い困惑する。本来だったら自分を手にかけるはずのその手が優しく広げられている、その光景に。

 だが混乱する意識とは裏腹に、彼女の右手はゆっくりと動き、差し出されたその手を取る。二人の手の大きさに差があり、握るというよりも『包み込む』という形になる。

 

(……あったかい)

 

 包み込む右腕から伝わる暖かさ。それは心にまで伝わり、ポカポカと胸を温めてくれる。その感覚はまるで、記憶の中の少女と同じお日様のようで。

 

「あーっ、二人だけずるいです! 私も混ぜてください!」

 

 トオルの右腕を包み込むように、エルピスは両手を重ねる。

 

 手と手は繋がった。残すは問題の解決のみ。

 

 

 

 

 

 

 





はい、とうわけで出てきましたね新たなファントム。
ダインスレイブ、魔剣のファントムとなります。

色々と設定に疑問があればどうぞ、遠慮なく仰ってください!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。