Lyrical NANOHA The Lord 〜契約せし魔法使い〜   作:vegatair

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取引

「それで、いったいこれからどうするんですか?」

 

 ダインスレイブを助ける。そう約束をしたはいいが、主だった作戦は決まっていない。首をかしげるエルピスの問いに対し、トオルは腕組みをしつつ答える。

 

「厄介なのが二人は一つの体を共有してるってところだな。そこをどうにかできない限り、手の出しようがないな」

 

 もう一つ人格と呼べる、争いを好むダインスレイブ。二人が同じ体を使っているという事実、これほどやりづらいものはない。無理に人格を引き剥がそうものなら、こちら側のダインスレイブにも影響が出ないはずはない。

 となると、残された道は一つ。トオルは組んでいた腕を解き、ダインスレイブへ向けて言葉を投げかける。

 

「よし、じゃあ散歩にでも行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 トオルの一言により、エルピスとダインスレイブが訪れたのは町から離れた場所にある公園。遊具という遊具もなく、ただ砂場がポツンと一つだけあるその公園には大人はおろか子供の姿すらない。

 そんな物悲しい雰囲気が流れる場所へ訪れたトオル達三人。現在、公園唯一のベンチへと腰をかけ、ぼんやりと日向ぼっこを決め込んでいる。

 

「あぁ、今日もいい天気だな……」

「それはそうですが、その……いいんですか?」

「んー? なにが?」

 

 気の抜けた返事に肩を落とすエルピス。

 

「だから、彼女の悩みを解決するんでしょう? こんなところでゆっくりしていてもいいんですか?」

「おいおい、俺がなにも考えてないとでも思ったか? ここに来たのもちゃんと理由があんだよ」

 

 さすがに何か考えがあってのことだったようだ。早とちりした自分を叱責し、エルピスはトオルの考えに耳を傾ける。

 よっこいしょ、という些かオヤジ臭さを感じさせる一言とともに腰をあげ、そしてベンチの隅で小さく座り込むダインスレイブの正面へと移動する。

 

「今から俺が言うこと、聞いてくれるか?」

 

 勤めて優しく、目の前の少女へ声を掛ける。そんなトオルの頼みにダインスレイブは小さく、だがはっきりと頷いた。

 自分を見上げる目は覚悟を決めており、トオルは今から彼女に伝える言葉を頭で反芻させる。

 これから言うことは、きっと彼女にとって辛いものだ。きっと言葉にすれば彼女は困惑するだろう。

 

 だが彼女の命を奪わず救うにはこの方法しかない。頭が硬い自分が考えられる最善の策、それは……

 

 

「もう一人の君と入れ替わってくれ。俺が彼女と話をつける」

「──っ!」

 

 自分が考えられる最善の策。それはもう一人のダインスレイブとの対話だった。

 もう一人の彼女を説得すれば、彼女を殺すことなくその願いを叶えることができる。それがトオルの考えだった。

 

「彼女と、入れ替わる……」

 

 震える小さな体。

 彼女は恐れているのだ。入れ替わった後、もう一人の自分がなにをするのかを。

 

『トオル、それはあまりにも……』

『わかってる。けど、これが俺が考る最善の方法だ』

 

 震える少女の姿に、たまらずエルピスが念話を送ってくる。トオルはそんな彼女に視線を移し、首を横に振り一蹴する。

 確かにダインスレイブにとってこの頼みは酷なことだろう。だがそれでも彼女にはやってもらわなければならない。彼女の願いのために、彼女に生きてもらうために。

 

 一歩、トオルは足を前に進める。そして膝を曲げベンチに座る彼女と目線を合わせ、もう一度優しく声を掛ける。

 

「入れ替わるのは怖いか?」

「…………はい」

 

 申し訳なさそうに呟く声は消え入りそうなほどか細いもので。

 スカートの裾をぎゅっと握りしめ、ダインスレイブは震える声で続ける。

 

「彼女と入れ替わったら、きっと暴れます。もしそうなったら……」

「ああ、近くにいる俺たちが真っ先に襲われるな」

「……魔法使いさんたちは、こんな私に親身になってくれました。そんな人たちに、怪我をさせたくありません……」

 

 ここまで来て他人の心配をする少女の優しさにトオルは笑みを浮かべ、澄んだ青空のような髪へ片手を乗せる。

 

「ははっ、やっぱり君は優しいな。けど……」

 

 ガシガシと、乱暴に頭を撫で回す。頭を前後左右に揺さぶられ「あわわわわ」と、ダインスレイブは困惑の表情を浮かべる。

 一通り撫でたトオルはその手を止め、しかし手は頭に乗せたまま話を続ける。

 

「んな顔すんなって。別に死にに行くわけじゃねーんだから」

「でも……」

「そんなことより自分の心配しとけ。もし戦闘にでもなったらたんこぶじゃすまねーぞ?」

 

 緊張を和らげるためポンポンと頭を叩き、水色の髪から手を離す。先ほどよりも表情は幾分か良くなったものの、まだどこか不安を抱いた様子のダインスレイブ。

 どこまでもお人好しな奴だと、トオルは苦笑する。きっと彼女にとってトオルはどこまでいっても人間で、だからこそ不安になるのだろう。

 そんな彼女の不安を和らげる手段、そのとっておきをトオルは使用する。

 

「それによ、俺は魔法使いだ」

 

 その言葉に、はっ、とダインスレイブは顔を上げる。その先にはサムズアップするトオルの姿が。

 

「信じろ。君が頼った男は、そう簡単にくたばらないって」

「……わかりました」

 

 覚悟を決めるダインスレイブ。

 

「その……彼女を宜しくお願いします!」

「ああ、俺に任せておけ」

「私たちに、ですよ!」

 

 仲間外れにはされまいと、最後の最後で会話に割り込んでくるエルピス。トオルの腕にしがみつき、体全体で意思表示を示す。

 そんなエルピスにダインスレイブは小さく笑みを零し、そしてそっと両の目を閉じる。

 

 そして数瞬後

 

「──ハッ! 随分と勝手言ってくれるじゃねぇか!」

 

 先ほどまでのおとなしい口ぶりから一転、まるで不良のように荒げた言葉遣いに変わる。それだけでトオル達は、彼女たちが入れ替わったことが理解できた。

 その証拠に開かれた双眸は海のように澄んだ青色から、血のような鮮やかな赤色へと染まっている。

 

「『俺』と会うのは初めましてだな、魔法使い」

「……お前がもう一人のダインスレイブか」

「応とも! 俺に関しての話はあいつがしたことだし、省略させてもらうぜ?」

 

 ベンチに踏ん反りかえるようにして座り足を組む。仕草一つとっても彼女とはまるっきり正反対なようだ。

 そして彼女の口ぶりからするに、人格が表に出ていなくともその間の記憶は共有しているらしい。ということはダインスレイブがトオル達の家を訪れ、そしてなにをしたのかも知っているのだろう。

 

「そうか、なら話す手間が省けたな」

 

 人格が違うとはいえ、同じ姿の少女に同じ話をするのは面倒だ。話の内容を相手が理解しているのならばそれに越したことはない。

 

「単刀直入に言う、これ以上悪戯に他人を傷つけないで欲しい」

「……ハッ! やだね!」

 

 トオルの言葉を一蹴した直後、ダインスレイブは拳を握りしめ殴りかかる。突然のことに反応が遅れるも、すんでのところで腕をクロスしガードに成功。

 しかし見た目は子供であってもファントムはファントム、力任せに振り抜かれた拳はガードもろともトオルの体を吹き飛ばす。

 

「ぐぅ……ッ!」

「トオル!」

 

 吹き飛ばされたトオルへ駆け寄り手を差し出すエルピス。「すまん」と、彼女の手を借りて立ち上がり視線をダインスレイブへと戻す。彼女はすでにベンチから離れた場所に立っており、右手に歪な形の剣を出現させていた。

 彼女の持つ剣はおそらくは西洋の両刃の剣なのだろうが、なぜだか片方の刃がない。赤黒く染まった片刃の剣の切っ先をトオルへと向け、笑みを崩さぬまま赤い双眸で射抜く。

 

「話をつける、だっけか? 甘ぇんだよ。俺がそんなもんで改心するとでも思ったか」

 

 挑発でもしているのだろうか。ダインスレイブは口元をニヤリと歪め、剣の切っ先で円を描くようにくるくると回す。

 

「ほら、お前も獲物を出せよ」

「……」

 

 戦いを望むダインスレイブに対し、トオルは無言で彼女の瞳を見つめ返す。

 約束をした、決して傷つけないと。手を握った、優しい彼女を守ろうと。であるならば、自分がここでとるべき行動は剣を握ることではない。

 

「ファントム……一つ取引をしないか?」

「あぁ? 取引だあ?」

「ああ、これはお前にとっても決して悪い話じゃない」

「ほー……それで? んじゃ聞かせてもらうが、その取引ってのはなんだ?」

 

 悪い話じゃない。その言葉にダインスレイブは興味を惹かれたのかそう問い返す。

 彼女の反応にトオルは内心笑みを浮かべると一度呼吸を整え、そして口を動かす。

 

「お前、俺と一緒に戦う気はないか?」

「へぇ……」

 

 トオルの一言にダインスレイブはわずかに目を見開き驚きを表す。それもそのはずだ、まさかファントムである自分を勧誘してきたのだから。

 

「先の問いかけでお前に戦うなというのは無理だとわかった。だから」

「だから代わりに戦う場所をくれてやると……。矛先を人ではなく同胞ヘ向けろってわけか」

「ああ……お前は相手は人だとかそういうのは関係ないタイプだ。必要なのは『戦えるか』この一点だけ。なら、ファントムに狙われている俺たちと共に戦えば自然と戦う場は増える」

「なるほどな……確かに俺はお前の言う通り戦えれば相手は誰だっていい。その点で言えばお前の取引は実に魅力的だ」

 

 ダインスレイブにとってトオルが持ちかけてきた取引は悪くはない。むしろ人よりも頑丈なファントムを相手にできる分、戦いの質は増すだろう。

 だがダインスレイブは承諾はせず、しかし、と言葉を続ける。

 

「俺は人間を手にかけてきた、その点はどうする? まさかチャラにするってわけじゃねえだろ?」

「もちろんだ。ただ過去はどうやったって覆らない、取り返すなんてことはできやしない」

 

 過去に戻れればと、これまでに何度望んだことだろう。あの日、師と仰いだ人達がこの世から去ってしまった日から何度も、何度も……。

 だがいくら望もうと時間が戻るなんてことは叶わなかった。失ったものが戻ることなどなかった。

 

「だったらこの未来(さき)は善く生きろ。お前には戦うことこそが正義なんだろうが、ならせめて苦しむ人を助けてみろ」

「ハッ、俺に正義の味方(ヒーロー)になれってか?」

「別にそこまで求めちゃいないさ。ただ『悪の敵』になってくれればそれでいい」

「悪の敵、か……ハハッ──ハハハハハッ!」

 

 腹を抱え爆笑するダインスレイブ。腹が捩じ切れるほどツボにはまったらしく、地面を右へ左へ転げ回り笑い続ける。

 そして約1分後、ようやく笑いが収まったらしく、だがまだ余韻が残っているのか口元を綻ばせながら立ち上がる。

 

「悪の敵……敵、か。いいね、俺にぴったりな言葉だ。俺の好きに暴れられるという点もベスト」

「なら……」

「ああ、応じてやるよお前の取引に!」

 

 取引成立。これで彼女との約束は果たされた。彼女を傷つけることなく、剣を握ることなく。

 無事にことを終えられたことにトオルは安堵し、ふぅ、と重い息を吐く。

 

『お疲れ様です、トオル』

『ああ、一か八かの策だったけどどうにかうまくいってくれてよかった』

『まさかトオルの考えていた策があの様なものだとは思いませんでした。正直言ってびっくりです』

『俺の勝手で決めちまったが、お前はいいのか?』

『ええ、トオルが決めたことです。私からは何も言うことはありません』

 

 自分の独断で決めた取引だったが、どうやらエルピスも納得してくれている様だ。仲間内で揉める様なことにならなくてよかったと、もう一度安堵で息を吐くトオル。

 

「それでお前さんの仲間になったわけだが……」

「ああ自己紹介がまだだったな。俺はトオル・ミツハネ、そしてこっちが」

「エルピスです、宜しくお願いします!」

「おぅ。知ってるとは思うが、俺はダインスレイブだ、よろしくな」

 

 取引とはいえ仲間になったトオルたちは互いに自己紹介をし合う。しかしこれ以上ここで長話をするのもアレなので、一先ずトオルの自宅へ帰ろうと公園の出入口へ足を向け──その先にいる人物を見て踏み出したそれを止める。

 黒のシャツとジーンズというラフな格好をした厳つい顔の男。トオルは初対面のはずなのだが、なぜかその男はこちらを見てニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか……ナーガ」

 

 そんなトオルの疑問を解決したのは、自身の隣で睨みを効かせるダインスレイブだった。

 

「知り合い……てことはあいつは」

「ご察しの通りファントムだよ」

 

 やはりファントム。トオルが視線を男──ナーガへ戻すと、彼は一層下卑た笑みを深め

 

「よぉ会いたかったぜ魔法使い……と、それに半端モン」

「俺は別に会いたくなかったけどな。にしてもおかしいな、なんでテメェがこんな場所にいる。お前の出番はまだだっただろ」

「はて、何のことかしらねぇな。俺はただ散歩してただけで、そしたら偶然、魔法使いを見つけたってだけだ」

 

 嘘だ。偶然なんかではない、このファントムは明らかに狙ってこの場所に訪れた。未だ口元に浮かべた笑みがそれを物語っている。

 

「そしたらどうだ、魔法使いから賢者の石の在り処を聞き出すために送られた同胞が、まさか魔法使いと肩並べて歩いてるとはよ! これはあれだ、裏切りってやつだな! 悲しいぜ、まさか寝返るなんてよぉ!」

「にしては随分と嬉しそうじゃねぇか。正直に言ったらどうだ、『これで心置きなく魔法使い諸共 俺をぶっ潰せる』ってよ」

「……前々からお前のその態度がムカついてんだよ俺は。半端モンのくせして上から俺を見て……半端モンは半端モンらしく黙って隅っこで震えてりゃいいのによ!」

 

 激昂しその姿を変化させるナーガ。蛇を模した異形へと変わった彼は、その手に鞭を構え襲いかかる。

 

「来た……エルピス!」

「はい!」

 《ドラバーオン・カモーン‼︎》

 

 《ロード・カモーン! イエス! アドベント‼︎ マイロード‼︎!》

 

 襲いかかってくるナーガを前に、トオルとエルピスは一瞬視線を交差させ変身。銀の装甲を纏った戦士、ロードへと姿を変える。

 

「へーそいつがお前の戦闘フォームか! やっぱ戦いてぇな!」

「んなことより前見ろ、来てるぞ!」

 《コネクト・カモーン!》

 

 初めてロードの姿を目の当たりにしたダインスレイブは瞳を輝かせ、そんな彼女にロードはローブレイドバスターを取り出しつつ注意を促す。

 

「おらぁ!」

 

 ナーガの手から振るわれる鞭。伸縮自在らしく、そこそこある距離も関係なく迫るそれを左右に飛び回避する二人。

 

「まだまだ、分かれな!」

 

 ナーガの叫びとともに鞭の先端が二股に分離。各々がロードとダインスレイブを追尾する。しかもその鞭の先端には蛇の頭があり、噛みつかんと開いた口元からは毒のような液体が滴り落ちていた。

 

「追尾すんのか!」

『あわわわっ、蛇はちょっと苦手なんですよぉ!』

 

 剣でなぎ払い接近を回避するロード。どうやらあちらも無事だったようで、獲物を仕留めきれなかった蛇たちは一度ナーガの元へと戻る。

 その隙に再び合流するロードとダインスレイブ。

 

「ったく、相変わらずネチネチとしつこい野郎だ。武器にまでその性根がにじみ出てやがる」

「にしても厄介だなあの鞭。二つに分かれるし追尾するし、あとなんか毒みたいなもの垂れてるし」

「あの程度、捌くくらいわけねぇ。一気に懐まで潜り込んで叩き切ってやる!」

 

 そう言い、ダインスレイブは剣を構えると単身突撃。目の前から迫る獲物へナーガは再び鞭を振るう。振るわれた鞭は再度二つへ分かれ左右から強襲を仕掛ける。

 だがその程度ではダインスレイブにとっては攻撃と呼ぶには生温い。即座に剣で迫る蛇の双頭を弾き飛ばし、蛇は悲鳴をあげながら宙を舞う。

 

「んな程度で俺に傷つけようなんざ百年(はえ)えんだよ!」

「だから! その上から目線を止めろって言ってんだ!」

 

 怒りの籠った叫び。

 直後、ダインスレイブは背後からの悪寒に、前に向けていた足を止めその場で大きく跳躍。すると先ほどまで彼女がいた場所を弾き飛ばしたはずの鞭の先端が通過する。

 

(あぁ? 確かに弾き飛ばしたはず……こんなすぐに追尾されるわけがねぇ)

 

 いくらなんでも早すぎる。疑問を胸にダインスレイブが視線を背後へ向けると、二つに分かれた鞭、その間から更にもう一つの鞭が伸びていた。

 

「まだ分離すんのか」

「驚いたか? けどまだ早いぜ!」

 

 すると鞭が脈動し、さらに四つ蛇頭がダインスレイブ目掛けて追撃を仕掛ける。

 

「空中じゃ身動きとれねぇだろ!」

「あー確かにこれはかわしきれねーわ……けど」

 

 

 《ロード! ブラストストライク! ガンガンガン!》

 

 

 突如、背後から蛇の頭を撃ち抜く四つの銃弾。消し飛び、胴体である鞭ごと消滅する蛇。

 ナーガが銃弾の発射元へ視線を向けると、そこには銃を構えたロードの姿が。

 

「忘れてるかもしんねーけど、今、二対一だぜ?」

「魔法使いィ!」

 

 憎々しげに叫ぶナーガへ、無事に地面に着地したダインスレイブが肉薄。そしてそのまま右肩から左脇腹にかけて斜め一文字に斬り裂く。

 

「ぐぉあ⁉︎」

「余所見禁物だバーカ」

 

 たたらを踏み後退するナーガ。ダインスレイブはおまけだと言わんばかりにさらに三度、その身に斬撃を浴びせ最後に蹴りで吹き飛ばす。

 

「くそっ、なんで俺がテメェみたいな半端モンに!」

「そりゃ単純な実力不足だ。自分の力のなさを呪いな」

「このっ、なめやがってぇええ!」

 

 鞭を振るい、7つに分かれた蛇頭がダインスレイブへと襲いかかる。ダインスレイブは剣を構え、先ほど同様弾き飛ばそうとするが

 

 《ジェミニ・カモーン!》

 

 その横を二つの影が通過し、七つ全てを一気に吹き飛ばす。見ればそれは二人に増えたロードで、ブレイドモードのローブレイバスターを肩に担ぎながら顔だけを彼女に向ける。

 

「なんだよ、分身もできんのか」

「ん、まーな」

「そこまで長くは保たないけどな」

 

 ジェミニウィザードリングの効果は強力だ。しかしその分その効果の持続時間は約1分と時間制約が付いている。だがそれでも自我を持った分身を出せるのだからかなり便利な魔法と言える。

 

「さて、ここにこれ以上長居するのもアレだし、さっさと決着(ケリ)つけんぞ」

 

 分身の方の自分が消え去るのを確認し、ロードはジェミニのリングを別のリングへと入れ替える。ダインスレイブもまた剣を握る手に力を込めると、刀身と同じ色の赤黒いオーラが彼女の体を包み込む。

 とどめを刺しに来たことを感じ取ったナーガは鞭を振るい七つの蛇頭を仕掛けるも、それはもはやただの気休め程度にしかならない。

 

「道は俺が作る。そのあとは好きにしな」

『うぅ……極力蛇には触りたくありませんけど仕方ありませんね……』

 《ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! オーケー! フルストライク! ドゥーユーノゥ?》

 

 幾重にも重なった銀の魔法陣を通過した蹴り──『ストライクロード』を放ち迫る蛇頭を鞭ごと消滅させるロード。武器を失い無防備な姿を晒すナーガへ、遮るものがなくなったダインスレイブが肉薄し

 

「──あばよ」

 

 赤黒いオーラと共に一閃。確かな手応えを感じた彼女はゆったりとした足取りで横を通り過ぎ、血を払うように剣を薙ぐ。

 

「テメェ……裏切ったこと、後悔すんじゃ……ねぇぞ」

「誰も俺は、一度たりともお前らの仲間だなんて言った覚えはねぇ。俺はただ、俺が楽しめそうな方へ行くだけだ」

「その強がり、が、いつまで続くか……たのしみだ」

 

 そう言い残し、ナーガは爆散。すると立ち上る爆煙の中から魔法陣が現れ、例のごとくロードの胸の中へと消えていった。

 敵を倒し終えたところでロードは変身を解き、その体からエルピスが分離する。

 

「よし、終わったな」

「はぁ〜……蛇、気持ち悪かったです」

「あー結構不完全燃焼だなこりゃ」

 

 戦いも終わり両手を上にあげ伸びをするトオルと、ようやく蛇との戦いから解放され安堵の息を吐くエルピス。そしてダインスレイブは先の戦闘に物足りなさを感じているらしく、やや不満気な表情を浮かべ頭を掻く。

 

「そんじゃ帰るぞお前ら。いろいろ話し合わなきゃならないこともあるしな」

「そうですね。運動したら汗をかいちゃいましたし、帰ったらシャワーを浴びましょう」

「あーもっと戦いてー」

 

 そうして三人は公園をあとにする。

 

 それからしばらくして、爆発音と爆煙を聞きつけた魔導師がこの場へ訪れるのだが、それはまた別のお話で。

 

 

 

 


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