俺がコブラ王やイガラムと知り合ってから数日が経った。コブラ王やイガラムが忙しいからと世話係を数人置いて置いてくれたおかげで不自由もなく過ごせた。さらにこの国の事などを色々聞けた。聞いた話を信じるならやはりここはワンピースの世界のようだ。グランドラインや4つの海。海王類や悪魔の実などの固有名詞だって聞いた。
「おはよう。昨日はよく眠れたかな?」
部屋にいるとコブラ王が入ってきた。一国の王が子供とはいえ所属不明の人間の部屋に護衛をイガラムさんだけしかつけずに会うって相当だよな。度胸があるというかなんというか。
「はい。おかげさまで。すみません。こんな正体不明の子供にこんな……」
「いや、よいのだよ。どうかね? 少しは落ち着いたかね?」
「はい。色々と教えてもらったのでこの国についても色々とわかったので」
俺の答えにコブラ王も満足したのかうなずいている。
「それはよかった。それで君に合わせたい子がいるのだ。入ってきなさい」
コブラ王が部屋の外に向かって声をかける。すると扉が開き小さな女の子が入ってきた。長く青いポニーテールの勝気そうな女の子だ。不機嫌そうにこっちを見ている。
「娘のビビだ。君もビビと同い年くらいだろう? できれば仲良くしてやってくれ」
「は、はい。わかりました」
あの、俺は所属不明で……自分の国さえわからない、とんでもなく怪しい子供なんですよ? 何自分ところの王女を合わせてやがるんですか?
「それでは私はこのあたりで失礼するよ。仕事があるのでね」
そう言ってコブラ王は部屋から出て行こうとする。俺はそれを見送ろうとするがコブラ王が振り返って爆弾発言を放っていった。
「あ、君の国はアラバスタになったから」
「え? はあああああ!?」
俺が驚いて叫ぶと王様は楽しそうにクスリと笑って部屋から出て行った。
「マジで何考えてるんだあのおっさん」
都合が良いんだけど良すぎじゃないか?
「ま、いっか。それで君の名前は?」
「ビビ」
俺の問いかけにお姫様は不機嫌そうに答えた。
「よろしく」
俺はビビと握手するために手を差し伸べたが払われた。
「ふん!」
鼻を鳴らしてビビはそっぽを向いてしまう。どうしたものか。原作でビビはコーザと喧嘩をして仲良くなったけど訳もなく喧嘩は出来ないしな。スポーツだってこの世界にあるかどうか。う~ん、はっ!
「何を考えているんだ俺は。俺の本質はオタク。喧嘩やスポーツなんて似合わない事をしようとしてしまった」
「……何言ってんの? あんた?」
「良いだろう! その喧嘩、買った!」
「はあ?」
俺の言葉にビビは眉を寄せる。
「貴様には俺の知っている物語を聞かせてやろう! 話を思い出すからまた明日来るがいい! お世話係の人書く物を持ってくるのだ!」
「ちょ、ちょっとあんた!」
ビビを無視して俺は物語を思い出して書き始める。
次の日
「なんなのよあいつ。私を無視して明日来いだなんて」
パパに連れてこられて会ったあの男の子。名前は……なんて言ったっけ? パパが教えてくれた気がするんだけど忘れちゃった。
パパは何で私じゃなくてあんなやつの面倒を見るんだろう?
私だってパパにかまってもらいたいのにあんなやつがなんで。そう思ってムカついてつい意地悪しちゃった。
あいつの部屋の前に来た。ノックをする。
ムカつくけどもしやらなかったらテラコッタさんとかに怒られちゃうからね
「どうぞ!」
中から返事が聞こえてくる。私はそのまま部屋に入る。
「お、ビビか! 良かろう! 俺が知っている物語を……教えてやろう! 涙を拭く紙の用意は十分か?」
い、意味がわからない。こいつやっぱりどこか変!
「では話そう! ある所に俺たちと同じ年頃の男の子とその家族がいました」
そう言ってこいつは話し始めた。
数時間後
「えぐ……ひっく!」
私は泣いていた。いじめられたわけじゃない。男の子の話に涙を流していた。
「そして侍のシンボルに似ている雲を見つけた男の子は侍にもらった刀を持ってこう言いました。「きんちょう」」
「う、うわああああああん! 侍さんがああああああ!」
「うむうむ。やっぱり感性はこっちでも同じか」
男の子が満足そうに頷いている。その時、部屋の扉が開いて外から人が入ってきた。
「ビビ様。こちらに……ビ、ビビ様!? おぬし! ビビ様に何をした!」
部屋に入ってきたのはイガラムだった。イガラムは私を見て驚いた後男の子をにらんだ。
「え? いやこれはその……俺はただ」
「問答無用! だから私は王に申し上げたのだ! 怪しい子供をビビ様に会わせるなど何をされるかわからないと!」
男の子が何かを言おうとしたけどイガラムが言わせてあげなかった。よく分からないけど、私のせいで男の子が怒られているのは分かった。
「やめてイガラム!」
私は男の子の前に立つ。
「ビ、ビビ様?」
「私が勝手に泣いちゃったの! この子は何も悪い事してない!」
私の言葉にイガラムがあわてている。
「しかしビビ様」
「この子にひどい事するイガラムなんて、嫌い!」
「がーん」
イガラムがショックを受けたみたい。でも知らないもん!
「大丈夫?」
男の子に話しかける。
「俺は大丈夫だけど、イガラムさんが」
男の子がイガラムを指差す。イガラムはとぼとぼと外に出て行ってしまった。
「良いのよ。あなたにひどい事しようとしたんだもん」
「そ、そう? なら良いんだけど」
男の子は少しひきつった笑顔で言う。
「……そういえば、あなた、名前は?」
そう言うと男の子はキョトンとした後、笑顔になった。
「そういえば忘れてた。俺の名前は進藤遼。こっち風に言うとシンドウ・リョウだね。よろしくビビ」
それが私。ネフェルタリ・ビビとシンドウ・リョウの出会いだった。
数ヵ月後
俺がビビと知り合って数ヶ月が経った。俺はビビとある程度仲良くなり、ビビも笑顔が増えて王宮で楽しくすごせるようになってきた。
そんなある日ある村が枯れてしまったということで生活が出来なくなった村人が王宮にやってきた。自然災害だけは残念だけどどうする事も出来ないよな。残された人々は王に助けを求めたらしい。今、コブラ王と村の人間が謁見している。数ヶ月見てきたけどあの人はやさしすぎる。他の人に任せれば良いものを自分で被害者と会っちゃうんだもんな。俺も身寄りが無いからって王宮に住まわせてくれているし。
謁見の間の方を見ると男の子が泣きながら走ってきた。たぶんコーザだよな? 子供だからな。理性じゃなくて感情で動いちゃうよな。分かる分かる。
「何よ泣き虫!」
俺の隣にいたビビがコーザに喧嘩を売る。
「何だチビお前」
そこから口喧嘩になりそして喧嘩が始まってしまった。一応言っておくと先に手を出したのはビビだったりする。
「うわあああん! リョウーー!」
ビビが泣きながら俺の方に来る。泣くような子じゃなかったと思ったけどまけた直後だしな。当然か。
「ああ、はいはい。駄目だぞーそんな簡単に喧嘩売ったら」
「何だお前」
コーザが俺にガンを飛ばしてきた。
「あ~一応兄貴分?」
「お前もやるか!?」
素直に答えたら喧嘩を売られた。
「無理無理。やめとけ勝負にならないよ」
「なんだと!?」
コーザが今にも襲い掛かってきそうになる。
「すぅ……わっ!」
「うわあ!?」
俺が叫ぶと衝撃が発生してコーザをよろめかせる。
「俺は悪魔の実の能力者だ。知ってるだろ?」
どうやら俺がこの前食べた梨は本当に悪魔の実だったようだ。調べてないから名前は分からないけど声が衝撃波がつくからたぶんコエコエの実だろう。
「くそっ!」
捨て台詞を残してコーザは走り去っていってしまった。
その後、イガラムがコーザをとっちめようとしたりコーザの父親のトトが切腹しようとしたり、それをコブラ王がキングチョップで止めたりと大変な騒ぎになっていた。
その数日後、ビビとコーザが決闘しビビが砂砂団の副リーダーになった。その際コーザは俺にも決闘を仕掛けてきた。あまりにもうるさいので相撲形式でやってやった。悪魔の実の力で押し切り余裕でした。卑怯? 何を言うのか。本気でやったらコーザ死んじゃうよ。ばら肉一丁だよ。俺も砂砂団のメンバーにされてしまった。実力的には俺が強いんだろうけど皆があまり納得しなかったから平団員として落ち着いた。
その日から俺とビビはコーザ達、砂砂団と一緒に遊ぶようになった。そしてある日、いつものように砂砂団の集合場所に行くと男が二人立っていた。そいつらは明らかに友好的ではない笑みを浮かべてこっちを見ていた。
「やあ、お嬢ちゃん」
「お出かけだね、送ろうか?」
そう言ってきた。これはビビを狙いにきている。そう思った俺はビビを背中に隠す。男達が襲い掛かってこようとしたその瞬間、隠れていた砂砂団の皆が男達に襲いかかった。
「ビビ逃げろ! こいつらお前を狙ってるんだ!」
コーザがビビに言う。
「逃げろ! 殺されちまうぞ!」
「殺しゃしねえよ。誘拐するだけさ。さあ、こっちへおいで!」
男がそう言う。
「渡すもんか! 死んでも守れ砂砂団!」
「おお!」
皆がビビを守ろうとしていた。恥ずかしい事だが俺はこの時、背後にいたもう一人の男の存在に気がつかなかった。
「ぐあっ!?」
後ろからの衝撃に吹っ飛ばされる。
「ハハッ! 間抜けなガードだな!」
男が勝ち誇った声を上げるが、ビビが隙をついて逃げ出す。
「しまった!」
「すぅ……ああああああああ!」
「な、ぐああ!?」
俺の声で男が沈黙した。
「な!? 悪魔の実の能力者か! まずそのガキからやれ!」
その後、俺達は善戦したが全員倒されてしまった。ビビはイガラム達が助けてくれたらしい。本当に情けない話だ。妹分も満足に守ってやれないなんて。
アラバスタ宮殿 病室
俺と砂砂団はそこで治療を受けていた。
「うぅ……ひっく」
ビビが泣いている。
「どうしたんだ? ビビ」
俺はビビに聞く。
「だって……怖かった」
「そりゃあ、俺だって怖かったさ。あいつら刃物なんかもってやがるから」
「違うの! リーダーが死んでも守れって……ひっく……死んでもなんて言わないでよリーダー!」
本気で言っている。ビビは本当にいい子だな。この世界のアラバスタに何で来ちゃったのか分からない。もしかしたら何者かの意思が働いているのかも知れないけど、その意思がなんだろうと俺はビビを守りたいと思った。この小さく強く優しい女の子を。
5年後
あの事件の後、コーザはお父さんと一緒にユバに町を開くために行ってしまった。頑張っているようだ。俺も体を鍛えている。基本的には声による攻撃力を上げるためにランニングを中心に鍛えている。おかげで体力が無茶苦茶ついた。カルーの全力と並走とまでは行かないけど軽くだったらついていけるようになった。
おかげでビビには人外認定されているが。その足を活かして俺は今、配達業をしている。といっても手紙くらいの大きさしか受け付けていない。
そして、俺は……あいつと出会った。
珍しくアラバスタに雨が降った日だった。俺は今日も配達の仕事をしていた。砂漠のど真ん中。そんな場所にそいつはいた。乗っていた馬車が壊れてしまったのか立ち往生している。
「っ! あんた……は」
巨大な体。鉤爪の左手。黒い髪をオールバックにした顔に横一文字に傷がある男。
「サー・クロコダイル」
このアラバスタに内乱を引き起こしてビビやコーザを悲しませる男!
名前を呼んだからこちらを一瞥したがすぐに興味を失ったのかすぐに別の方向を見る。よくよく見ると髪の毛が濡れている。チャンスだ!
この男を今倒せば。やれる! 雨はもう上がっちまったが天候は俺に味方している。この五年間の修行で声の威力も上がった! 人一人くらいなら……殺れる!
「すぅううううう! うわああああああああああああああああああ!」
俺の声と共に衝撃波が発生してクロコダイルを飲み込もうと迫る。だが……
「避けられた!?」
クロコダイルは俺の攻撃を察して声の射線から逃れる。
馬鹿な!?
「何者だ? てめえは?」
まだだ! たかが一回外したくらいで諦めてたまるか!
「ああああああああああ!」
もう一発! だけどこれも避けられる。
「何者だか知らねえが殺しにきてるんだ。殺されても文句はねえな?」
声は効かない。なら、ぶん殴る!
「おらぁ!」
「クハハッ! 遅ぇな!」
「ぐっ!」
クロコダイルは俺の攻撃を避けながら鉤爪で俺を殴る。それだけで俺はかなりのダメージを負うことになった。重い……こいつ本当にクロコダイルか!?
「く、くそ……」
「クハハッ! どうした小僧? 少し撫でただけだぞ?」
「なめるなあ!」
もう一度殴るがまたも避けられて殴り返される。
「はっ、もう少し年を食ってから出直すんだな」
クロコダイルが俺をあざ笑うように言う。
くそっ! 悔しい!
この世界に来て体を鍛えて自惚れていた。前の世界より全然早く走れるようになったから調子に乗っていた。その上、よく考えればクロコダイルがいつ七武海になったのかは知らないけど、アラバスタでバロック・ワークスを組織していた時よりは七武海になる前のほうが命を狙われる危険だってあったはずだ。その警戒心が強い時に俺は奇襲を仕掛けちまったわけだ。
「まだ……だ」
ダメージが足にきている。生まれたての小鹿のような足を何とか立ち上がらせる。
「クロコ……ダイル!」
まだクロコダイルは近くにいる。もう戦う力があんまり残ってない俺をあざ笑っている。
「おらああああ!」
拳を繰り出す。
「クハハハッ! その程度の攻撃は……ぐっ!?」
クロコダイルは後ろに一歩下がり避けたはずだが苦しそうに胸を押さえる。
当たった? いや、完全に避けたはずだ。分からないけど効いたなら何度でもやってやる!
「おらおらおらおら!」
「クッ!」
何度も拳を振るう。クロコダイルは大きく横に跳んだ。それと同時にクロコダイルがいた後ろの砂が声で攻撃したように大きく弾けた。まるで拳で発生した衝撃を飛ばしたように。
「そうか! 俺の食った悪魔の実はコエコエの実じゃない! ショウショウ……いや、ゲキゲキの実! そうゲキゲキの実だ!」
声に威力をつける実じゃなくて発生した衝撃を操る能力だったのか!なら!
「銃……撃!」
クロコダイルに向けて衝撃を放つ。イメージはルフィのゴムゴムのピストル。
「ちっ!」
だがこれは避けられる。ならこれならどうだ!
「蹴……撃!」
蹴りの衝撃を飛ばす範囲攻撃!
「くぅ!」
クロコダイルもさすがに濡れていると避けられないのか攻撃に当たる。これなら……いける!
「なめるな小僧!」
クロコダイルが一瞬で俺に近づき殴ってきた。
「うぐっ!」
俺は攻撃に反応できずに吹っ飛ばされる。
「手間を取らせやがって……これで吹き飛んで死ね。砂嵐!」
クロコダイルの掌に小さな砂嵐が発生する。
「少し砂に渇きが足りねえがそれでも子供を吹き飛ばすには十分だ」
「う、うあ」
俺の体が砂嵐に吸い寄せられる。
「何処まで吹き飛ぶか、見物じゃねえか」
「うわあああああああ!」
俺は吹き飛ばされ、意識を失った。
アラバスタ王国付近の海の上に船が一隻とまっていた。旗を見る限り海軍のようだ。甲板には若い海兵と年老い髭を生やした海兵がいた。
「いやー今日も快晴ですね。って、アラバスタの近くなんだし当然ですね」
若い海兵が上司に話しかける。
「そうだな。だがアラバスタ王国では雨が降ったり砂嵐が起こったりしたらしいぞ」
「本当ですか? よかった~国の中にいなくて」
老兵の言葉にほっとする海兵。
「それにしても本当にいい天気ですね! ほら見てくださいよ。人が落っこちて……人!? こっちに落ちてきます!」
「なんだと!?」
部下が上司に報告し上司が落ちてきている人影を捕らえたが人影はもうすでに避けられない所まで来ていた。人影が落ち、船に普通じゃない揺れがおきる。
「うわあっ!?」
「ぬぅ! くぅ!」
さすがの海兵たちも立っていられずに膝をつく。少しすると揺れが収まった。
「被害状況を報告しろ! 甲板に穴が開きました! 揺れや衝撃から見ても沈まなかったのが奇跡としか言いようがありません!」
「原因はなんだ!」
「そ、それが……こ、子供が……」
聞かれた海兵は言いよどむ。
「はっきり言わんか!」
「も、申し訳ありません! 子供が落ちてきました!」
「……何と言った?」
「空から子供が落ちてきました! 甲板に開いた穴を調べたところ、見知らぬ子供が倒れていました! 子供は体中を骨折しており現在は治療を受けております」
「何が起こっているのだ……」
老兵は誰に聞くことなく一人呟いた。