思いつきのネタを書いていくかもしれない集(予定) 作:カラナシ
バスターゴリラ突破しました。息切れしました。
最近朝日と共に寝る自分がいます。
──奔る閃光。
紫の線を引くと、それに触れた物は悉く離される。
自然の緑は突風に煽られたように。
木々は鎌鼬に刈られるように。
砂煙は線に沿って青い空を見せ、
立ち塞がる者は……断ち切られた。
軽く勢いをつけて槍を回転させ、血糊を払い掴み直す。
点々と地面に散った赤はそれより大きな赤に塗り潰される。
時間が経てば魔力の残り香に引き寄せられて有象無象が増えるだろうとは思っていた。
……にしても妙に集まっている。
比較対象は無い。
いや、あるにはあるが血に引き寄せられたハイエナでもここまでだろうか。
そういえば確かハイエナが狩った物をライオンがぶんどるって話も聞いたような。
そこまで考えて『知識』に引っ掛かりを覚えた。
──無意識に進めた足で散らばる骨をいくつか踏んだか、軽い音が鳴る。
その音で現実にかえり、何を考えてるんだかと鼻を鳴らす。
にちゃり、粘質のある音に漸く足元を見ると、
ちょうど消えていく血痕を目にした。
荒れた大地。
緑が点在する森の途中でふと出現した空き地。
その中で異様な色がぽつりと一つ。
……俺はバーサーカーが集まったあの場に戻った。
消えた血痕と肉片。
いくらか残る『素材』。
それほどの魔力を残した獲物がそんなに居たか、と見渡したところで気づいた。
「───残り香、か」
トン、と軽く槍を払う。薄らぐ熱の名残を込めた。
“フェオ”のルーン。この場にとっての財産を提示。
続けて“イス”。散らばりを安定、静止。
それにより吹いた小さなつむじ風。
風が止む頃には、足元にパラパラと赤い糸筋が地面に落ちた。
………成る程。
たしかに
「跡も残せねえとは、難儀なモンだ」
マスターと呼ばれた少女。その髪の毛の束。
……魔術を使う者にとって、髪の毛は蓄えるには適したモノだ。
それは殆ど魔術に触れなかった者であれども。
あの時俺の槍は、寸前で軌道を変え本体には当たらなかった。……掠めたのは髪の端、幾らか。
地面の底や大気、漂うマナはある。
それでも其れを吸うだけでは
あの唯一のマスターは、カルデアという機関の残された人理……持てる技術全てで援助されているのだ。
……それはもう、身体のどの部位であれ。
彷徨う奴等には極上の獲物だろう。
周りにいるのもこの条件では悪い。
なにせ英霊、エーテルの塊だ。
長時間共に行動し、魔力に晒される素人魔術師。
危機感というものも働かない木っ端では、本能のままに引き寄せられるというものだろう。
薄らと指の動きが鈍る──成る程、これも
時間をかけて描いた“カノ”のルーン。シンプルに焼く。
留まる物が無くなれば勝手に散らばるモノだ。
──これで少しは時間も稼げるだろう。
煙も出ずに赤が焼け消えるのを見届け、目的のものに目を移す。
黒。
青い空に照らされても、何を照らしても変わらない色。
少しだけ意識し、見る「もの」を変える。
大地の下には脈打つマナが奔る。
空気の中を昇り立つマナ。……これは先に屠った敵の残滓だろう。
しかし、その中で黒い箇所だけ。
ぽかりと空いていた。
地面から僅かでも揺れ立ち昇るマナ。
それが無かった。
俺が此処に戻った理由。
それは『知識』に
ならば聖杯に関する知識ではない、か……もしくは「新たに生まれた現象」なのか。
──気づいた事があった。
自身の魂についてだ。
記憶がこぼれ落ちている事はわかっていた。
それこそ、この思考の仕方もこの姿になった当初から既に変質している事も理解している。
『知識』も既に辛うじて別の物としているが、引っ張り出すでなく
しかし、何故か未だ自身の物として
それは、『
記憶は様々だ。
落ちているのは人の名前だとか顔もあるし、
住んでいた部屋も実家か一人暮らしか。
配偶者もいたのかどうかも零れたようだ。
自分の前の声も最初の頃は容易く再生出来た。
今ではもう他人の声に思える程度になっている。
性別も覚えてはいるが、この分だとその内感覚で推察するくらいにでもなる気もする。
……自身の生涯の記憶を忘れて、やっていたゲーム
無いだろう。
それこそまだ覚えていた限り自分は成人していた。酒を飲んだ覚えがあったから間違いは無いだろう。
……未成年で嗜むような気概を持っていたなら話は別だろうが。無かっただろうよ。
……ともかく。
十数年以上付き合いのあるモノより数年付き合っただけのモノの方を忘れない、なんて普通ではない。
それこそ反復する回数を増やさねばすぐに消えるはずだ。
しかし、もしも。
もしも……
前提が違ったとしたら?
そこらの石を拾い──手の中で砕けた。
またか、と手近な岩を蹴り砕き転がした。
大きすぎた塊はヒールの様な踵部分で軽く突き、割った。
地面に片膝をつき、黒い大地に触れる。
──サーヴァントはエーテルの塊。
そう、集合体だ。
もしもだが。
もしも──
現界維持だけで定期的に魔力補給を必要とするこの体。
魔力を全て奪い取り、小規模とはいえ大地を
黒い土を一掴みしてみると掴んだ側からボロリと砕け、
指の隙間からきめ細かい砂のように零れ落ちていく。
どう見ても、生きた要素の無い土だった。
記憶は、反復すればする程残る物だ。
この記憶も集合体ならば、だが──いや、疑問すら間違いだ。
俺は『知識』と「記憶」とを分けていた。
なら単体でなく集合体であることは既に──証明されている。
であるならば。
槍を握り直し、二箇所ある内の比較的大きく広がっている黒い土の上に座り込む。
まあ、今しがた使った所ではあるが。急拵えで吸った前の分に比べ、時間をかけてより吸った今の方が規模が広い。
とはいえ然程広くない面積。
胡座をかいて長い尾の鎧を横からぐるりと自分の前に回す。
槍を胡座の間から地面に突き立てた。
さながら、獣が木のウロに体を入れ込むような。
それだけで、黒い大地はほぼ隠れる。
大地の上でルーンを使うと空気中のマナを吸着するようだ。
──ならばこの黒い土の上ならば絶縁体の役目を果たすかもしれない。
違ったとしても試して成功すれば儲け物だ。
先程散りばめた大小様々な石は目論見通り散らばった。
手のひらに収まる石を拾……うとまた砕きかねない、
届く範囲の石にルーンを刻む。
槍を使い、手を使い。鎧も使った。
何が効くかは考えず、拡散するような意味合い以外は書き連ね。
抑えた魔力─あれだけやれば学ぶ─を素早く込める。
一瞬ルーンが輝く。
自分に集中するように、内側に発動させる。
いくつもの燐光が目の中に飛び込んだ。
そう認識した瞬間、視界に土が広がり。
────ふと、思考が浮く。
俺は今なにをしていた?
一つ一つ、認識、確認。
……サーヴァント、英霊、聖杯戦争……
そうだ、俺はクー・フーリンに……
………「俺は」?
……そうだった。
自分の内部を調べようとした。
体ではなく、精神、魂。
途端にそこから何も覚えていない。
意識を失った? ……何故。
……周囲の邪魔をする気配は消していた。
ならば原因は…………内側?
自己防衛、か?
──自己だと?
自分にリミッターをかけた覚えなんぞ無い。
解析をかけた程度で意識を失う器でも無い。
魂は知らん。
それでも器の影響なのか、今まで
しかし現にこうして意識を失っている。
魂が解析に耐えられなかった? 否、それならば俺は今迄のどこかで霧散している。
ならば解析を遮断? 意識を遮断した?
……いや、意識を失ったならこの状態は何だ。
サーヴァントは夢を見ないんだったか。
では夢ではないならばこの状態は。
体を動かす感覚は無い。
しかし色は認識した。
黒。
ならば意識はある。
光は感じない。
目を閉じている?
いや、外気に触れる感触が無い。
触覚を感じない、匂いも……他の五感はどうだ。
触角と嗅覚は除外。
視覚、無し。
味覚、無し。
聴覚、無し………?
何か引っかかった。
遠雷の音を小さく聞いているような。
何かを見ているのに脳が認識を拒否して見えていないような。
この状況で脳がというのもおかしいが。
……無意識だというなら気づきもしないはずだ。
では一体これは何なのか?
意識を向けてみれば何かわかるのか。
……………意識……
………………どう、やる?
なんだ、この感覚は。
息をするようにしていたコトが出来ない。
……いや、これは前の俺だったら当たり前の事だ。
……
では「今の俺」ならば出来る事だと判断している?
一体
途端。
何かに押される感覚。
まるで何かに急き立てられるように押し上げられる。
もがくなんて事は四肢があって出来る事だ。
有無を言わせずその感覚は、たちまち俺の意識を覚醒に放り込んだ。
………どぷり。
───音がする。
粘着質な音。
ごぷり。
まるで泥の溢れるような。
後ろ頭に、体に広がる地面の感触。
地面に倒れた覚えはなかった。
ならば要因があったのだろう。
目を開ける。
日差しがあるはずだった。
日に当たり、鈍く反射する表面。
青い空と黒のソレとでは、まるでちぐはぐな。
──何かが、自分の上に覆いかぶさっている。
咄嗟に、足を曲げ踵で地面を蹴る。
跳んで抜け出た直後、自分の顔があった位置にぼたりと液状で粘性のある物が落ちた。
何も生まないはずの地の上で、蹲るモノ。
ああ、つまり
「……テメエもオレも、死んだ身ならそうもなるか」
象ったが、固定されず這いずるカタマリ。
時折見える白もすぐさま黒ずみ、不定形と化す。
中途半端に呼ばれ、中途半端に引っかかった物。
─シャドウとすら呼べない、ただのなり損ない。
数メートル離れた場所に着地。
まだ動きは無い。
あえて空気を切る音を立てて、槍に僅かに付着した土を払う。
這いずったそばから溢れるソレの、恐らく頭であろう部位がコチラを向く。
一応聴覚があるかのような動きをするのは、元にしたナリが人型であるが故だろうか。
ずる、ぐちゃり。
途端。足に見立てた箇所が隆起し、手をつこうとしたように地面に……一度溶けかけ、しかし一応芯はあるようで。
ソレはまるで人のように、立ち上がった。
すると多少定義されたのか、足にあたる箇所が二本に別れ。
交互にすり足の様に、崩れながら再度構築を続ける様は。
膝が曲がるように、新しく地面に下ろした片方が崩れかけては構築し高さを保つその無様は。
ゆっくりではあるが先程より速く、こちらに向かってくる人の形。
「─失せろ」
無感動に、無情に。
─無常であるように槍を突き立てる。
人の形と定義した瞬間に、その核たりえる場所に。
他人が定義したのではなくソレ自身が自分で定義したのだから、当然のようにソコにある。
少し狙いがズレた事に頭の隅でこれも都合が悪いコトか、と自分の体に向けて呟く。
槍の棘に砕かれるあまりに脆い核。
魔力をわずかに散らしながら急速に崩れていくカタチ。
「…………」
それでも。
槍が刺さっていても、伸ばす腕。
数歩分、槍がより深く刺さり砕けていくのにも構わず近づく。
少しのズレが、致命傷の延命にでもなったか。
地面に触れ消えていく欠片。地面が影響無く、空気中のマナも乱されない事を見るに触られたところで有害性も無いようだ。
攻撃性も見られない、というよりも既に発揮できる程の余剰も失せているようだ。
──では何故こちらにその
伸ばされる腕、細く脆い指。
黒い泥が滴り落ちても、ふと覗くその下の白は眩く。
不思議と、するりと赤い紋様のある頰を撫ぜた手。
感触だけはその白い装束のように滑らかで。
顔に当たる場所も、何もかもが泥塗れ。
ソレがごぽり、と穴が開き─
全て跡形も無く崩れた。
「……………」
泥にも似た何か──途端に端から消え失せた。
なんの感触も欠片も無い。
ただ、槍を突き出した腕がそこに何かがあった事を証明するのみ。
──何もせずとも消えただろうに。
自分の内から出る問い。槍を突き出したのは、何故だったのか。
「……………どうでもいい事だ」
そう。
どうでもいい事だ。
収穫もほとんどなかった。
精々、自身に何かしらこの身
──そしてソレが俺を保っているということも。
見回すと、ルーンを刻んだ石は消えていた。
僅かな魔力に反応して、恐らくあの
アレが
思考を遮断し、背を向ける。
ここはもう無意味だ。
────おう──さ─
あの泥が求めたものも、何もかもが無いのだから。
そうして戻った先で。
俺は、人の消えたテントの山を目にした。
描写しないんで明かしちゃうと主人公の体前面の紋様はゲームのオルタ通りではないです。
ゲームの中で居た存在が主人公にはいないので。
どんな紋様なのかは各自妄想願いたい所存。ちなみに今後の展開に影響はしません(断言)