思いつきのネタを書いていくかもしれない集(予定)   作:カラナシ

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なお即解決する模様。


召喚されたのは賢者でした (オリジナル)
とある賢者の異世界転移。


 

 

 

 

 

テンプレに巻き込まれたのだと思う。

それも異界の。

いや何を言っているのか以下略。

 

前方の数歩先で恐らく術を行使した女の子が叫んで……いや強めの口調で恐らく年長であろう壮年の男性に話しかけている。

二人は同じ種族に見えるから、見た目は違えど年齢は同じ……という事は無いはずだ。種類はともかく魔力質は似ているし。

態度を見る限り同等もしくはって感じに見えるのは、何かあるかな。身分とか。

それ以外に私の周囲の数歩分の距離で生物はいない。

数十歩離れれば居るが、まあそれはあとにしよう。

 

ココに来る直前を思い出してみる。

 

たしか、城下の街中を歩いていた。

 

目の前で轢かれそうになったデンプシーキャットを助けに走った男の子。

それを目と鼻の先で見つけた。

 

私には助ける手段がある。

悪人でも無い親が叫ぶ未来を感じ取り、ああこの子は愛されている民だと判断して……

転移の術で親の元に移動させた。そこで何かの術式が引っかかったのを感知したのだ。

 

自惚れでなく国一番の腕を持つ自分。その術に茶々を入れる奴がまだ居たのかと解析を起動させた。

 

そして自分の力の遠くで似た力を感じた次の瞬間、引っ張られ。

 

 

 

それでこの状況。

 

 

下を見ると、黒い石の床。薄く切られた石を貼り付けた床にも見えるが、白い線が自分を中心に描かれていて途切れもしていない。

凹凸の少なさから削り出した物ではない。しかも磨いたようでもないからおそらく何か液体状にして固めた物だろうと推測。

 

うーん。

周囲からこちらに殺意が向いている気配は無し。

敵意もまあ放っておいて大丈夫。ならもう少し移動せず様子見ても良い。

視線は向いてるけれど……魔眼も無いな、なら観察を続けよう。

 

足元に広がる線は明らかに意味を持たせた形状で、術式の一種と容易に理解ができる。

筆記具で幾度も描かれたのか、先ほどまで光っていた白い線の周囲は白い粉が付着し白く濁っている。

消しては描いて、を繰り返している辺り一度使えば効力を失くす術なのだろう。

いや、もしくは書いた者しか発動しない術式の可能性もあるか?

この白い粉……軽石、じゃ無いな。もっと目が細かい?

あ、ふむ。あの転がっている白の棒、筆記用具か? 何か固形を一度粉状にして固めた物、だろうか。

形状を持ちやすく出来るし作った際に使えない部分も出にくくなる……なるほど。

何かつなぎにして固めるか圧縮すればいけるか?

筆記用の液を持ち運ぶよりも良いな、今度提案しよう。

 

線は途切れてはいないが、線が少しブレている。僅かに楕円……この箇所、術式粗いな。

意味を理解して描いているとしたらもう少し丁寧に……おや、ココは書式がバラバラだ。

お手本ありきの写しだろうか。

自分で編み出したならもっと改良するだろう。

この粗さに気づけないレベルで編み出せる陣ではなさそうだしな、コレ。

 

 

辺りを改めて見回すと、少し薄暗い。

女の子以外にも人影がたくさん見えたが、顔の作りまでは把握しきれない程度の距離。

同じ年頃に見える複数の少年少女。

どうやら少年少女たちと女の子の服装が揃いである事を見るに、共通の組織に属しているか共通の職についているのだろう。

 

集団の後ろに広いが等間隔にいくつかの明かりを確認、室内は確定だ。

天井が高く少し光量が足りないようだし松明……じゃないな、弱い術を利用したものだろうか。

天井は高く、柱が少ない。

建築技術は割と進んでいるのか、それとも術の……いや、これはないかな。

文明はそこそこありそうだ。術はともかく。

あまり重要視されていない文明?

いや、ならこの集団の感じはありえないか。

術が進歩せずに技術が発達した文明……?

いや、これは確定には早いな。

 

……で、ええと?

女の子の言葉は……うん、少し形式は違うが古代イマルギカ語に似てる。

にしては、ちょっと略式も混ざってるかな?

うーん、試練、する、と、否に?

魔、無い、えっと……まあ単語は合ってるみたいだし、効くか?

 

手持ち無沙汰を装って後ろ手に手を組み、右手の指輪の一つの石を回転させる。

カチリと微かな感触を指先に感じた直後、雑音だったソレが意味を持つ音に変わった。

一番に耳に届いたのは、やはりというか前方で怒鳴りつけ……いや、話し込んでいる二人の声。

 

『マシュゾクでもないただのヒンペイが間違いで召喚された事例はありますでしょう?!』

『たしかにありました。が、それは数例のみですからまずは……』

 

……ううん。

前者が女の子、後者が恐らく壮年の男性。

翻訳魔術は起動した。それは意味ある文面に聞こえるのだからわかる。

でも、余計にわからない言葉が増えた。

なんとなく察せるのだけれど。

 

……とりあえず今の二言から推測できるのは、私は本来召喚されないはずが召喚されてしまった……とかかこれは?

間違いとか言ってるから、確定だろう。

大人が数例、とか例をあげてるならこの何かを召喚する術は今回が初の使用ではない。

さて、聞き取りづらくなった箇所は固有名詞か用語だと仮定して。

ヒンペイ、マシュゾク。

……ひんぺい。ただの、と言うなら平民的な位置を意味する身分の単語か、この場合。

そしてあの女の子はそのヒンペイでは無い。多分周囲も同じ。

学生より身分の差を感じさせる言い方だから予想通り貴族にあたる何かだろうか。

お互いに敬語ではあるから、身分と立場でそれぞれの上が逆転している? いや、性分や癖もありえるから決定とはいえないけれども。

 

一塊に待機してる少年少女たち。

……と同じ服装たる女の子が身分であろう何かを気にしている所を見るに、貴族の子息達又はご学友とか?

……あ、よく見たら何人か守護隊形らしき陣形をとっている。

護衛役もいるなら数人は確実に貴族のような上の身分だな。

うん、これならひとまず確定と見ていい。

一定の文化はある国、又は機関の存在があるならとりあえず一定の力を見せ屈服するのは下策かな。

もう少し様子を見ておく。

さて、ましゅぞくとは何か。 魔族と似た意味であるとは予測がつくが。

種族と魔、で言葉が別れるならだけれど。

ん、いや魔種と族も可能だな。

マ・シュゾ・クーとかだったら違うけれどとりあえず暫定で良さそう。

……いや、分類に少し偏りもあるようだしうちの国とは価値観が大分違う可能性もあるな。

 

後ろの方の少年少女達はこちらを見たり見なかったり。

 

肩にピクシーめいた精を乗せた少年が頬を突かれている。

その隣では少女に擦り寄る長い尾……あ、龍か。

へえ結構強い個体の幼体だね。

 

うんごめんねー怯えなくても何もしないよ今のところ。

あ、ごめん君の主の首締まりそうだからやめてあげな。

 

魔力渦巻くこの空間だからこそ、思念を伝える事も容易い。

龍はぴたりと止まり、おずおずと主人の首に絡めた尾を緩めた。

よしよし。

 

 

一対で繋がる子供と獣達。

私と同じように召喚されているならば、懐いたり側にいる時点で何がしかの契約が結ばれている。

……どうやら順番に召喚契約して何かの資格を得る儀式でもしていたようだ。

そしてまだ言い争ってる(?)女の子が私を召喚した、と。

 

まあ事故だったようだが。

 

多分魔力が無いからこの儀式は無効だーとか言ってる辺り、

やり直しは普通はきかない儀式なのか。

……いや、一回のみにする事で召喚された魔獣や幻獣、妖獣の強さで力量を証明しているのか。

魔力の感じられない固体を召喚したから自分の力量が低くみられてしまう、とかそんなところだろうか?

多分着いた瞬間に無意識に繋がりを切ってしまってるんだけれど、もしやマズイだろうか。

 

視線をまた足元に戻して解析をかける。

っと。

バレないように周囲の魔力でごまかし、と。

 

ふーむ。思ったより術式が古い。いや、程度が低い?

教本が古いのか、ここのレベルがこの程度なのか。

……お手本がこの程度?

まさかとは思うけれど、誰かが編み出した術式改良前にメモっといたの写したとかでは無いよなまさか。

 

……にしても、魔力を感じられない、ねえ。

 

そりゃあ、魔力を表に出したらダメだろうもったいない。

内側で完全制御出来てなかったら魔法制御の腕がポンコツだと認識されるんだから、内に秘めて出さない奴ほど腕が立つと相場が決まって……ん、やっぱり価値観の違い?

 

威嚇行動や攻撃体制を取っている方が良いのか?

この世界、もしくは国は私の居た所とは随分違う可能性が更に大きくなったな。

……ああ、そうか。うちの国近辺では服装で職を証明しているから、魔力を出す出さないの意味が変わるか。

……にしても精霊は見えないし、この場にはいないのか?

魔獣も姿を現してる奴以外はいない……。

ふむ、いやこの状況だとあそこの水妖とかも魔獣と違う可能性もあるな。

それこそマシュゾクの一端として数えられている可能性が高いか。

マシュゾク、は広義的な用語かな? それこそ、ヒト・ケモノ・セイレイくらいの。

もしかして3通りくらいかなマシュゾク・ヒンペイ・あともう一つくらい? ヒンペイならあの塊の中に居られないようだし。

ふむ? いや、女の子がマシュゾクだったとしても、男性をヒンペイと扱っているようでは無いからもう少し分類されそうだな。

少し置いておくか。

 

さて、術式は……空間系も混じってるな、移動も兼ねて……もしかしなくても次元にもかかってる。

ああ、転移の術にひっかかったのはコレか。

解析した事で行使中の力が私に引き寄せられて誤認した……という感じかな?

次元か。ならこれはココにうちの国の影響が一つも見られないのは予想の一つが当たりそうかな。

やはり国や時代が違うのじゃなく……世界規模かな、これは。

ああ、それならやりようはあるね。

 

 

その時、まるで布を引っ張りちぎるような音が響いた。

ん?

音の発生源は……あれ、私を召喚した? 女の子からか。

膝をついてへたり込んだ体勢で、こちらを見ている。突然だったようで、隣の男性が慌てたように女の子の片腕を持っている。

支えようとはしたようだ、やはりこの場の保護者の立ち位置はあの男性のようだね。

 

そして感じたのは引きちぎられ漂う魔力の名残。

引きちぎられたという事は何かに無理やり干渉して弾かれた、という状況かな?

……ああ、女の子がこちらに何か力を向けたんだな。薄らぐ魔力の質はこれは──解析の下位互換に似ているな。

能力は隠していたから見られて問題は無かったけれど……

考え事をしたせいで私が干渉を無意識に遮断してしまったという所だろうか。

……ん?

そうか、しまった。力量の差があり過ぎて弾かれた……では次に来るのは……

あっ。

 

ボロリ、とへたり込む女の子の両目から流れる涙。

呆然としたままこちらを見つめる目の焦点は合っていない。そして薄く開かれたままの口。弛緩したまま力の込められない体。

 

しまった。反動だ。

魔力と一緒に意識の糸までほつれてる。

長く放置しなければ害はさほどないが……大人が解析していない、これは気づいていないか。

事故とはいえこれは……

少しだけ力を入れて"視る"──よし、見え……。

うんまずいな女の子は悪人では無い。

 

ええと、言葉がまだ解析しきれてないか。仕方ない代用は……意味が通じれば些細な事だろう。

今回限りだし記録の必要は無いだろう、即興で大丈夫だ。

指に殊更ゆったりめに体内魔力循環。燐光。よし、干渉は効く。

ささっと空中に陣を書い──

 

目の前に着弾する雷撃。陣の余剰魔力に散らされ辺りを火花にも似た光がパチリと弾ける。

うんそうだね、唯一動ける大人で保護する立場なら。何をするかわからない者が動けばそうなるか。

威力より邪魔出来る速さ優先。

陣の魔力に散らされてしまうくらいだから急ぎ過ぎではあるけれど、着眼点は悪くない。

よし出来た。

とりあえずそうだな、魔力の差がある相手に力を向けると危ないと忠告を……

 

『……そこの童、我を阻害なぞ身の程を弁えよ』

 

あっダメだ。

これ古語が歪んで作用した。

術式は基本命令形だよね皆固まってるなマズイ

 

『ふむ……謝辞を述べよう。我の言葉にのった力のみで動けなくなる程に次元の違う存在であったとは思わなんだぞ』

 

あ、ほんとにダメださっきの散った魔力と反応して余計にこじれる意訳されてる。

 

まあ……これ以上ココにいてもお互い不利益だし女の子さっさと治して国に帰ろう。

別次元なら外交問題どうたらも無いだろう!

一足飛びに近づいて女の子の頭に触れ──よし治ったかーえろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元の世界に戻った瞬間捜索隊の頭上に落ちたのは不可抗力だよ。

座標高度と時間軸が数度ズレたんだ、だからそんなに怒らないでくれよ。十日も留守にした……わかった、わかった北の龍との和平交渉の橋渡しやるから。

あー外交面倒くさい。よく君はその冠つけてられるねえ。

先生っておだててももうやらないからね、役職なんて面倒極まる。だいたい皆伝して何十年経ったと思ってるんだい君は。

 

……わかった、わかったごめんよ心配かけたって。え?彼女にも謝れって……あー、わかったわかった。後で訪問するよ、仕方ない。

 

頼むから歓迎式典はもうしないでくれよ?

したら国を出るからな?

 

しないなら出ないよ、出ないから抱きつくな暑苦しい!

 

 

 

 

……この後。

再度自らあの世界に飛ぶことになるとは私は予想もしていなかった。

 

ん? 予知は普段からはしないよ、使いすぎると諸々から心配という名の突貫受けるし。

 

 

って言ってるそばから、ちょっと待って待って気が早いな君も相変わらず!

ほら五体満足! え、次元?

ああそうそうちょっと越えたよ、すぐ戻ったから問題はないだろう?

……いや、私は何もないってば。

まったく君もか!

君にも立場があるんなら職権濫用はやめろと言っているだろう?

友人と仕事を天秤にかけない、ほら復唱。

というかあちらの事に手を出したら私が後始末を手伝う事になるのわかってるだろう!

 

こら! 一緒にやる事が出来るからって理由なら絶交するよ君!

 

おいそこの神!

 

 

 

 

 

 

 

 

 







※どうでもいい追記
デンプシーキャット
見た目は普通のネコ。毛並みや模様は様々な為に見分ける特徴は瞳の瞳孔と尾の太さ。人に対して敵意を特に持たない魔物。(ゲーム的に言うとノンアクティブ)
唯一ネコ型魔物の中でギルドに登録せずに愛玩動物として飼われる事を許可されている。
(※魔物として登録する場合、いざという時戦力に数えられる為に一般家庭のペットとしてなら登録を免除扱い)
攻撃手段は魔法ではなく、その脚力を活かした立体機動を用いる肉弾戦。壁などを蹴って死角から高速で攻撃が飛んでくる可能性が高い。
威嚇行動は主にほかのネコ型と変わらない。
発達した尾を使い後ろ足で立ち上がり、構えをとって上半身を揺らしだした際はこちらを敵と認識している証なので要注意。
猫型魔物の中でも唯一、背を向け逃げた物を追う習性を持たない。
敵とされたら即座にその場を離れる事を推奨されている。

名前の由来は諸説あるが、どこかの国で誰かが「デンプシーロールをする猫だ」と言ったとされる説がある。

ちなみに冒頭のデンプシーキャットは馬車の車輪を蹴り無事回避して飼い主と家に帰った。

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