神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第20話 備えあれば

「さて、久々だな諸君。充実した夏休みを送れたか?」

 

 いつもの白いジャージを着た織斑先生は腕を後ろに組み、私たちに向かって意味深長にこう言い始めた。

 

 

 雲ははるか上空に浮かび、不思議な模様を描きながら地上に吹く風なんて気にしないでその場に漂っていた。夏から変わらない強い日差しが着ているISスーツに直接当たり、密着している肌をさらに蒸らす。

 

 

 未だに夏の抜けきれない9月の頭。第四アリーナにて、一組と二組による合同実戦練習が行われていた。

 

 いきなり本題に入らない、といういつもとは違うパターンでの導入に生徒達は少々困惑する。その問いに皆はそれなりにと曖昧な答えで答える者や、実家に帰りました!と元気よく具体的に答える者と様々であった。

 

「そうか…」

 

 ある程度聞き終わった織斑先生は目を閉じる。

 

「十分に休養をしたのならばこれからの厳しい訓練に精一杯励むことが出来るな、諸君?」

 

 顔を上げ、冷笑し鋭い眼光で見つめる織斑先生に生徒達は我に返る。

 

 ああ、やっぱりそうなるか。

 この人はやはりブリュンヒルデだった。

 鬼だ。

 悪魔だ。

 騙されるところだった。

 女王様に蔑まされた。

 

 それぞれの顔に思った言葉が浮かび、そして消えていった。

 

「貴様たちが何を思おうが勝手だが、これからは本格的にIS戦闘を行ってもらうつもりだ。勿論、訓練機の数には限りがある。授業時間内でISに触れられる時間は限られてくるだろう。だが、その少ない実戦訓練の中で我々が貴様らを評価しなければならない。無論、そのまま成績に反映する」

 

 ふん、と鼻を鳴らし、腕を組みながら大きな通る声で説明をしていく。

 

「しかし、何も授業内でしかISに触れられるとは限らない。訓練機をレンタルすれば授業外で練習が出来る。ちょっとは口添えをしてあるから多少はお前たちの力になるだろう。この意味がわかるか?せいぜい、私たちを満足させるほどの腕前にまで磨いてくることに期待している」

 

 そう言い切ると、織斑先生はジャージの袖をめくりちらりと腕時計を確認する。

 

「さて、前置きが長くなったな。改めて授業を開始する。久々の実戦訓練という事もあるから、ここは一つ専用機持ちに一戦交えてもらおうか。織斑!凰!」

 

 名前が呼ばれるや否や、二人は声を上げて返事をする。

 

「ISの準備をしろ、クラス代表同士での前哨戦だ」

 

 

 

 

 

 2人の前哨戦を観戦するため、二人以外の私たちはシールドが張られているアリーナの観客席へと移動した。

 

 アリーナの中心では、甲龍を身につけた鈴と以前よりも比べて装備がゴツくなっている白式を身につけた一夏が対峙する。

 

『それでは試合を開始して下さい』

 

 無機質な声のアナウンスが鳴り響き、前哨戦が始まった。双方ともに格闘武器をコールすると敵へ向かって一目散に突撃し、激突した。

 

 

 

 

「あれ?何か織斑君のIS、前見た時よりも変わったね。なんというか、ゴテゴテしているような…。新しい装備にでも変えたのかな?」

 

 隣で見ていた玲奈がふと、そんな事をぼやく。

 一夏が操る白式は確かに以前と比べると大きく違いがあった。全身を染める白はより煌々と輝きを増し、白銀に近い色へと変貌していた。また、肩部の高出力ウイング・スラスターは大型化しておりこれによって白式が大きくなっているように印象付ける。

 

「ああ、それは…」

「それは一夏のISが第二次移行(セカンドシフト)をしたからだ」

 

 ふと声のした後ろを向く。そこには通路の手すりに体を預け、じっと試合を観戦している篠ノ之箒がいた。

 

「隣はいいか?」

 

「うん、大丈夫だよー!」

 

 一言申し入れした箒は玲菜の隣の席へと座る。

 丁度アリーナ内では射撃戦が繰り広げられており鈴が肩部にある龍砲で、一夏は新たに左腕に追加された多用途武装『雪羅(せつら)』の一つ、遠距離攻撃モードの荷電粒子砲『月穿(つきうがち)』で互いに相手のシールドエネルギーを削ろうと攻撃をしていた。

 

「第二次移行?何それ?」

 

 玲奈は頭をひねり、むむむっと箒から出てきた言葉を脳内から手繰り寄せようとするが一向に出てこなかった。

 

「そうか、玲菜は知らなかったか。実はだな、7月の臨海学校であった騒動の時に白式が第二次移行したのだ」

 

「へぇ、いつの間にそんなことが…。ってその前にさ“せかんどしふと”って何?」

 

 腕を組み、どこか嬉しそうに説明をする箒先生に玲奈生徒はビシッと手を上げる。

 

「まずそこからか。ごほん。まず第二次移行というのはだな、ISと操縦者の相性が最高潮に達した際に起きる現象だ。単に見た目が変わるだけでなく、新たに単一仕様能力(ワンオフアビリティ)が出現する可能性もあるんだ」

 

「そっかー。臨海学校の時にそんなことがあったんだね。だから、今織斑君が見慣れない射撃武器を使ってるんだ」

 

 玲菜は行われている試合を見ながらふむふむと感心する。

 

 アリーナでは、鈴が両手に持った双天牙月で唐竹割りしてきたところを一夏は右手の雪片Ⅱ型で応戦した。このまま力任せに押し切ろうとする鈴であったが一夏は空いている左手の射撃武器でカウンター攻撃をしていた。

 

「いえ、あの射撃武器はそうではありません。彼のISが特殊な現象を起こしただけですよ。彼が今使っている左手は射撃武器の他にも近接格闘として手刀状態にしたブレードモードやクローモード。さらにはシールドにも変化できるらしいです」

 

「へぇ…ってなんでクリスタがそんなことを知っているのさ!」

 

 同じく臨海学校では待機組の一人であったはずの私がなぜ詳しいのかと彼女は食ってかかった。

 

「実は夏休みの間に彼と会う機会がありまして、その時に。ついでに模擬戦もしたので性能とかを知っているのです」

 

「ふーん、なるほどねぇ…。いいなぁ織斑君と一緒に訓練できて!全くこれだから専用機持ちは!」

 

 夏休み中になかなか一夏と会えなかったという彼女はなかなか訓練機での訓練ができなかった事を含めてお怒りにようだ。

 

「まあ、落ち着け玲奈。訓練機がなかなか借りられないという気持ちは分かる。こればかりはどうしようもない」

 

「確かにそうだけどさぁ…」

 

 肘を膝につけて顎を手に乗せながら、観念したように大きなため息をつく。

 

「あれ?それにしても今まで見てきた模擬戦より織斑君、結構優勢じゃない?」

 

 カウンター攻撃を成功させ、鈴を雪羅で追い詰める一夏を見て、玲菜はそう言った。

 

「確かに新たな武装が追加されてISの能力は向上し、 今や死角となる射程はなくなりました。ですが…今の彼は少々飛ばし過ぎかと」

 

「ああ、あいつは何も考えずに飛ばしている…。全く、何も考えないでバカすか撃ち過ぎだ」

 

 前にも言ったはずなのにとムスッとした表情で箒は試合の様子を見ながら腕を組む。

 

「それってどういう事?」

 

「彼のISのシールドエネルギーの消費量がとてもではないですが非効率極まりありません。普通のISだと防御に使う分のシールドエネルギーを攻撃には転用しません。しかし、爆発的な威力を発揮するためにそれを犠牲にするのですがただでさえ消費の激しい零落白夜に加え、新たに追加された雪羅の武装の全てにもシールドエネルギーを消費する仕様になっています」

 

「え?じゃあ…」

 

「あれだけ雪羅を使ったのなら既にシールドエネルギーはもう満足には残っていないだろう。燃費が悪いのだからシールドエネルギー残量をこまめに確認するようにとあれほど言っていたが…」

 

 

 接近戦へと移った両者は互いの武器をぶつけ合い、鍔迫り合いになる。すると、一夏の雪片Ⅱ型から展開されていた零落白夜の輝きが突如として失われる。通常の物理刀へと変形したことに驚いた一夏の隙を付き、鈴は蹴りをお見舞し彼を突き飛ばす。

 

 たじろぐ彼へ鈴は双天牙月を投擲する。

 高速回転してやってくるそれを雪片Ⅱ型で弾き飛ばした彼の目の前には両肩の龍砲を発射準備の段階にしていた鈴が待ち構えていた。

 

 目に見えない衝撃砲を受け、彼は土煙を上げて地面へとぶつかる。その直後、アリーナには試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、黛さんは生徒会長とお知り合いだったのですね」

 

「まあねー。たっちゃんとは一年の時のクラスと一緒だったし、よく生徒会には取材に行っていたから!」

 

「さすが先輩!顔が広いだけはありますね!」

 

「ま、この私にかかってみれば生徒会にアポを取るなんておちゃのこさいさいよ!」

 

 

 

 

 いつもの新聞部三人組が向かっている場所は生徒会室。何をするかというと、今月に行われる学校祭についての取材だ。なにせ、今回の学校祭はいつになく特別なイベントが行われるからだ。

 

 

 

 

 遡ること四日前。

 SHR(ショートホームルーム)と一限目の半分ほどの時間を使って全校集会が行われた。普段はあまり利用しない暗幕で覆われた薄暗い体育館へ私たちが集められた理由は9月中旬に行われる学校祭についての説明だそうだ。

 

 整列させられしばらく隣の子と立ち話をしていると、壇上脇で眼鏡をかけた生徒がマイクを手に持ち、始まりのあいさつを行う。

 

『それでは、生徒会長から説明をさせていただきます』

 

 司会の告げたその声を境に、ガヤガヤとしていた私語がだんだんとなくなる。

 そして、唯一天井の明かりによって照らされた壇上へ上がっていく一人の生徒がいた。

 

 黄色いネクタイをしているところからその生徒は二年生であるとすぐにわかった。髪はショートカットで癖っ毛のある淡い水色をしている。制服の上から薄い黄緑色のベストを身に着け、右手に青い扇子を持ちながら優雅に中央に位置するマイクへと歩いて行った。

 

『さてさて、今年度は色々と立て込んできちんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たちの長よ。以後よろしく♪』

 

 可愛らしく言い切った後に生徒会長は生徒に向かってウインクをする。

 

 

 通常、生徒会長と言えば全生徒の中から立候補者を選挙で決めるのが一般的だ。だが、ここIS学園ではそのような決まりごとはない。生徒会長になる資格を有する者は全生徒であることには変わりはない。ただし一つだけ条件が付け加えられている。

『生徒会長、即ちすべての生徒の長たる存在は”最強であれ”』

 つまりはこの学園で誰よりも強い人物が生徒会長を務めるのだ。確認できていないものの二年生から生徒会長を務める所から、その実力は計り知れない。

 さらに彼女、更識楯無は自由国籍を持ち、日本人であるにも関わらずロシアの国家代表であり異色の代表者だと有名だ。

 

 

 

『では今度の学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。それは…』

 

 生徒会長は、手に持つ扇子を上に掲げると手首だけを使い右へ傾ける。

 すると、後ろに校章だけが映っていた空中投影ディスプレイの画面が切り替わり、織斑一夏の写真が映された。

 背景からして食堂で撮られたものだろう。余計な部分はトリミングされ、おそらく正面にいるだろう専用機持ちの誰かに向け笑顔になっている一夏を見て思わず既視感を覚えた。そうこれは以前に玲奈が撮影して"市場”に出回っている写真だった。だが、この盗撮写真を見て思わず首をかしげる。なぜ市場に出回っているこの写真が使われているかという事は問題ではない。どうして学校祭での説明に彼の写真が必要かである。だが、その疑問はすぐに解消された。

 

『名付けて、”各部対抗織斑一夏争奪戦”!』

 

 ぱん、と小意気の良い音を立てて扇子が開かれ、一夏の写真の前方にでかでかと「各部対抗一夏争奪戦」という派手なフォントの文字が表示された。

 

 それを見た生徒たちはその視覚情報を脳へ送り、脳がその内容を理解するまでに5秒ほど要した。

 そして、体育館内には割れんばかりの大きな歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん。新聞部でーす!取材をしに来ましたー!」

 

 生徒会室へと到着し、黛さんが部屋のドアをノックする。すぐさま、はいという返事が返ってきてドアが開け放たれた。

 

「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。どうぞ、中へ」

 

 出迎えたのは、青いリボンを付けた生徒…三年生だった。ヘアバンドに三つ編み、眼鏡をかけたその姿を見て、全校集会の時に司会を務めていた人物であるとすぐに分かった。

 その三年生に倣い、私たちは生徒会室へと入っていった。

 

 部屋の中は思っていたよりも広く、そして綺麗であった。

 部屋の中央には長テーブルを二つ合わせて置いてあり、近くにあるホワイトボードには学校祭についての書き込みがびっしりと埋められていた。壁際にある棚には分厚いファイルやら書類やらが隙間なく入れられていた。その隣には小さな冷蔵庫や食器棚があって中にはティーカップが陳列する。

 

 そして、生徒会室には三年生の人以外にももう一人がいた。

 

「あ、さくらんにハゼたんだ~やっほ~」

 

 眠たそうな顔に、袖だけがかなり余りダボダボとしている制服を着る人物はのほほんとした雰囲気を醸しながら生徒会室に入って来た私たちへ手を振る。

 前者は玲菜の事だろうが、後者は私の事を言っているのだろうか?

 

「あー!のほほんちゃんだー!えー生徒会の役員だったのだ、私知らなかったよー」

 

「えへへ、まあねぇ~」

 

 のほほんさんはダボダボの袖を頭に当て、照れながら微笑む。

 

「あら、二人ともあの生徒会の子と知り合いだったのね」

 

「ええ。主には玲菜との繋がりではあるのですが。それにお互いに一組二組なので授業を受ける時によく」

 

 ぼそっとぼやいた先輩に私は補足説明をした。

 確か最初に会ったのは、あの無人機の事件で箒を探すのを頼まれた時だっただろうか。あれからは教室が近く授業でよく合同授業を行うという事もあり、一組の子たちとは何人かは知り合っている。

 

 

「本音、これからここで取材をするから、机の上の物を片付けて」

 

 眼鏡をかけた三年生がのほほんさんへそう指示を出す。

 

「わかったよー、お姉ちゃん~」

 

 指示を受けたのほほんさんはゆっくりとした動作で机の上に広がっている何かの書類を束ねたり、まとめたりしていく。

 

「え?お姉ちゃん?」

 

 思わぬワードに玲菜は首をかしげる。

 

「挨拶がまだでしたね。私は三年整備科の布仏虚(のほとけうつほ)と言います。生徒会では会計を担当させていただいています。あちらは私の妹の布仏本音(のほとけほんね)です」

 

 眼鏡をかけた三年生…布仏虚さんはぺこりと綺麗なお辞儀をする。その後ろでのほほんさんは笑顔で袖を私たちに向かって大きく振る。同じ姉妹なのにこれほど違うのかと、私は少しだけ衝撃を受けた。

 

 さて、相手からの挨拶を返さない訳にもいかないため、私たちも彼女らへ改めて自己紹介をすることにした。

 

「黛さんに、桜田さん。そしてハーゼンバインさんね。今日はよろしくお願いします。会長は今、別の用事で席を外しています。もう少ししたらここへ戻ってくるのでそれまではゆっくりしていて下さい」

 

「なるほど、わかりました。それじゃあ二人とも今のうちに準備をしちゃってね」

 

 虚さんに促されて長テーブルの席に座った私たちは取材の準備をしていく。

 黛さんはインタビュアーを、私は書記を、そして玲奈はインタビュー中の写真を撮る役を務める。

 私は肩掛けカバンから録音機と筆記用具、メモ帳を取り出しいつでも始められる用意をした。今お茶をお出ししますね、と言い虚さんは食器棚のある方へ向かっていった。

 

 虚さんがお茶の準備をしている間に妹ののほほんさんは、先程までしていた机の上の物を取っ払う作業を終え、冷蔵庫から何か包装された箱を手にゆっくりした足取りでこちらへ向かってきた。

 

「ちょお美味しいケーキがあったけどそれはおりむーと一緒に食べたから、今回はちょお美味しいこちらを用意しました~」

 

 箱から取り出されたのは、食べやすい大きさに切られたバウムクーヘンだった。

 そのお菓子はまるで木の年輪のように茶色と黒そして白の層が何層も重ねられ、外側はチョコレートとホワイトチョコレートでコーティングされていた。

 

「わー美味しそうだね」

 

「そりゃーもうーちょおちょお美味しいよー」

 

 目の前に出てきたお菓子に玲菜は目を輝かせてまじまじとそのお菓子を見る。そんな様子を見てのほほんさんは自慢げに言い、六人分の皿とカップ、フォークを並べていく。

 

 丁度、皿類を並べ終わった頃に虚さんがこちらへやって来て五人分のカップへ紅茶を注いでいく。香りからして良いところの茶葉を使っているのだとわかった。

 

「わぁ、ちょっとしたお茶会ね」

 

 思わず黛さんはそう呟く。

 生徒会室はバウムクーヘンの甘い香りと紅茶の香りが混じり合い、より部屋を華やかに染め上げた。

 

 

「もうそろそろかしら」

 

 のほほんさんがバウムクーヘンを取り分けていると、虚さんは腕時計を見ながらそう言った。まさかとは思いつつ、生徒会室の扉へと視線を移すと丁度良く、扉が音を立てて開かれた。

 

「みんなお待たせ!じゃあ、今日はよろしくね♪」

 

 学園最強の名を持つ生徒会長、更識楯無はにんまりと微笑み、右手に持つ扇子を広げる。そこには『定刻通り』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりは……原因は織斑君自身にあったっていう…?」

 

「ええそうね。つまりはそういうことよ」

 

 更識さんはさも当たり前のことを言うように淡々としていた。

 一夏争奪戦が起きた原因を聞いていくうちに、更識さんの話をメモしながら私は彼がとてもではないけれど可哀想に思えてきた。

 

 

 さてIS学園の学園祭は毎年、各クラスだけでなく各部活動も催し物を出す。そして、各部活動の催し物については人気投票を行い、上位組には部費に特別助成金が上乗せされるという仕組みをしていた。ちなみに、私たち新聞部はたい焼きという日本のお菓子を作るらしい。

 特別助成金がもらえるという事で毎年、各部がしのぎを削って頑張るらしいのだが今回その部活動の人たちから()()()()がかなりの数が寄せられていたようだ。その苦情の内容というのは織斑一夏が部活動に参加していないという事だ。

 

 新学期と比べては大きな行動を起こす程の熱は収まったものの未だに彼への人気は健在だ。部活動といえば数少ない青春の一ページで、彼と一緒にその時間を共にしたいと思う者は少なくない。というわけで彼へ各部活動が何度も彼へ部活勧誘を行ってきたそうだが、効果はいま一つ。現在彼はどこの部活動にも所属していない、日本でいう帰宅部というものに属している。

 IS学園には必ず部活動に参加しなければならないという決まりごとはなく、生徒はどこかへ所属するかは自由だ。現に私の知っている専用機持ちは箒を除けばみんなどこにも所属をしていない。だが、そんな事は許されることはないそうで毎日のように生徒会へは苦情が寄せられていたそうだ。その問題を解決するべく生徒会が、全校集会で発表したような一夏争奪戦を開催するのだ。

 

 傍から見れば織斑一夏という人物は誰からも愛される人物なのだ、と思われてしまうだろう。だが、裏を返せば彼は他人の願望を押し付けられているのである。ここは一つ彼の自由を尊重してあげればよいものの、誰もが憧れる彼を自分の手中に収めたいと思って各部活動はまるで織斑一夏という人形を取り合うかのように争っている。それには彼の考えなどは全く考慮されていない。女尊男卑の影響と言えばよいのだろうか。男の意見などを考えずに彼女たちが自己中心的な考えで好き勝手に思い描いた理想を掲げているだけだ。温厚な性格を持つ彼はきっと、そのような事には怒りを露わにせずにいいよいいよと淡々に受け入れるであろう。結局のところ、彼には自由などなく未だに都合の良い客寄せパンダのままなのだ。

 

「なるほど…これが先日に発表した”一夏争奪戦”の真相ということね~」

 

「ええ。彼には申し訳ないけれども学園祭のイベントの一つとしてこの問題解決のために利用させてもらったわ」

 

 紅茶を飲みながら更識さんは黛さんの質問へと答えた。

 それからというもの今回の学園祭準備に伴っての裏話などをちょこちょこと聞き出していった。黛さんからの質問に時には虚さんからの説明も挟みつつ、更識さんが一度もうろたえることなく答えていった。

 

 

「あ、そうだ薫子。ちょっと宣伝しちゃっていい?」

 

「ん?いいよいいよ!ささ、白状しちゃって!」

 

「それなら遠慮なく。今回は異例のイベントを行うというわけで私たち生徒会も催し物を出そうと思っているの」

 

「ほうほう生徒会自ら…。これはまた随分と珍しいことをするわね。んで、どんな事をするの?出店?」

 

「いいえ、出店ではないわ。せっかく外からもお客様が来るわけだし、観客参加型の大きなイベントをやろうと思ってね」

 

「ほうほう…。ちなみにどのようなものをするかは…?」

 

「詳しくは伏せるけれども第四アリーナ全部を使ってそれをやろうと企画している所。後の事は、当日までのお楽しみよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虚。今日の予定はもう終わった?」

 

「はい、本日の予定はこれ以上ありません。ですが、5日ほど溜まっているあの(書類の)山の処理をするという予定がございます」

 

「うげ…。それは予定と言えないと思うな…」

 

 取材が終わって新聞部の面々が帰り楯無はいつもの席で紅茶を飲みながらのんびりしていた。だが、ファイルのが並べられている棚に隣接する棚の中に貯められている書類を虚に指さされて窓に視線を移す。

 

「今日は新聞部との予定に合わせるためにいつもより早めに織斑一夏との特訓を切り上げたのです。たまにはこちらに手を付けることをおすすめいたします」

 

「…まあ少しは進めようかな」

 

 視線を合わせずに話をする彼女に内心ため息をつきながら虚は新聞部へ出した皿類を片付けていく。

 

「そうそう、本音ちゃん。彼女の部屋には何か変化はあったかしら?」

 

 ふと楯無は余ったバウムクーヘンをもそもそと目を細めて美味しそうに食べている本音へと話しかける。

 

「いいえ、特に変わったことは起きていませんよおじょーさま。ハゼたんはいつものように企業への定期報告や家族へメールを送っているだけでしたー。それと、撮った写真の綺麗に加工をしているとかですねー」

 

「そっかぁ。それは残念」

 

 いつもののんびりとした口調を聞き、楯無は気の抜けた返事をする。

 

「お嬢様。やはり彼女は…クリスタ・ハーゼンバインは黒と見ているのですか?」

 

「そうねぇ…やっぱり黒に近いかなー。彼女のISはわざわざ国際IS委員会に懇願してまで利用可能にさせたっていうサンドロック(骨董品)に疑問が残るのよ。ちゃっちゃと初期化してレーゲン型の試作機として再構成させればこんな手間のかかることはしなくて済むのに。それにVT事件といい、最近各国で起きているIS襲撃事件で目撃されている”幻のIS”といいどうもきな臭くてさ、あのメッゾフォルテ研究所って所が。いや、あそこの所長のクラウスだかっていう人がかな?ま、薄々何かを感じ取っているからこそ私の所に委員会の人が来たしね。しばらくは監視の目を怠らないようにしておかないと」

 

 片づけを終え、椅子に座った虚に視線を移す。

 

「どちらにせよ、学園祭が始まればすぐにわかることね。餌は十分に撒いたわ。後は()()が現れるのを待つだけよ」

 

 

 

 

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