9月の下旬。
後期が始まり早一ヶ月弱が経つこの時期。来週にテストが控えているという事もない日曜日の寮は、授業のある日と比べたらいたって静かであった。生徒はわざわざ朝早くに起きる必要もないため、自室でぐっすり寝ていたり、学園と内地とを繋ぐモノレールに乗って買い物をしに行ったりしているのだろう。特に午前中は静かであった。
このように休日には平日と比べて生徒の賑わいが少ないIS学園であるが、寮の食堂は何時ものように営業をしていた。よく、寮や下宿では休日には昼の食事は出さないという事があるらしい。弾の友人の話なので嘘なんてことはないだろう。しかし、ここは残念ながらIS学園。色々と特殊なためなのか年中無休、通常営業をしていた。食券を受け取る食堂のおばちゃんたちが嫌な顔をせずに働いている様子を見ていると、これが当たり前の事だと信じていた俺にとって弾の発言には驚かされるものだった。
だからなのかもしれない。いつも食べている食事が美味しく感じるのは。
「うん…アジのフライってこんなに美味いものなんだな…」
「…?どうしたのだ、嫁よ。そんなに感動して」
「少佐、彼はこの食堂で一位二位を争うほどの美味しい揚げ物にやっと気づいたのです。そのことに感動していただけなので気にしないで下さい」
「そ、そうか。私も…その揚げ物が気になるな…」
カリッと揚げられたアジのフライの衣は綺麗なきつね色に染め上げられ、備え付けのソースが香りを引き立てる。一緒についてきた千切りキャベツのみずみずしさがまだ残っており一口、それら口に入れればシャキシャキとした感触が揚げ物の残る口の中を癒す。未だに温かさを保つ白いご飯や、味噌と出汁の香りが湯気とともに鼻腔をくすぐる味噌汁。
どれもが、俺の体を、空腹であると何度も警告を流し続けていた胃袋を満たし疲れを忘れさせてくれた。
「やっぱ動いた後の飯はうまいなぁ…。ほれラウラ、アジのフライ食っていいぞ」
「そうか…いただくとしよう」
箸で切り分けたアジのフライをラウラは可愛らしくパクリと俺の差し出した箸ごとかぶりつく。
「どうよ?」
「うむ…クリスタが推すだけはあるな、美味い」
「だろう?クリスタはどうだ?美味いぞ」
「いえ、私にはこの和風キノコパスタとハムカツサンドがあるので大丈夫です」
正面の席には何故か頬を赤らめながら、もぐもぐと口を動かすラウラと怪我人にもかかわらず、何時ものように平然とした顔でぱくぱくと口の中へ食べ物を放り込んでいくクリスタが座っていた。
なぜこのメンツで食堂にいるのかというと話は遡ること4時間前になる。
「対人訓練?」
「ああ、そうだ」
今日の日替わり訓練の担当者がラウラであり、ISスーツに着替えて彼女に連れていかれた場所はいつものアリーナ…ではなく武道場だった。
「先日の学園祭で分かっているように嫁を狙う輩はいることは確かだ。今後、そのような輩が白式を狙うかもしれんし、もしかしたら嫁の命を狙うような者もいるかもしれない。とにかく、そんな奴らから身を守る術を教えようと思う」
「なるほどなぁ…。確かに今後そんなことは起きる可能性はあるから気をつけないといけないのか。道理でアリーナでやらないわけだ。んで、なんでクリスタまでいるんだ?怪我しているだろ…」
「ああ、私は二人の見学をしに来たのでお構いなく。私もいずれあなたにいろいろ教える予定だから今は、あなたの実力チェックをねー」
そう、武道場には俺とラウラの他に入り口近くの椅子に座り、右手を振るクリスタがいた。床には先程まで使われていた松葉杖が置かれ、左腕と左足には包帯をぐるぐる巻かれている。学園祭での騒動の一件で彼女は天井の下敷きになり、幸いにもISを装備していたため重症には至らなかったが左腕と左足の骨、そして肋骨数本にひびが入っているそうだ。
「私からは体術と銃の対処、そしてクリスタからは刃物の対処について教え込む。何、呑み込みの早いお前ならすぐに出来るさ」
「お…お手柔らかに…お願いしますね…」
その時のラウラの顔はまるでドイツ軍の軍人のように凛々しく、そして少しだけ本気の目をしていた。
こうして俺は昼になるまで、こっぴどく絞られたわけなのであった。
いつぞやの楯無さんの時のように、俺はとにかく投げ飛ばされ、吹っ飛ばされ続けた。
「ラウラとの訓練があれだと、クリスタとの訓練はどうなることやら…」
将来起こりうるだろう見るも無残な自分の姿にため息をつき、俺は味噌汁の入ったお椀を持ってのどに流し込む。
うむ、ワカメと豆腐の味噌汁は鉄板だよな。
「私の場合は相手が武器を持っていた場合の時だし、少佐の時に覚えた対処法を使えばいいよ。それに加えて部分展開の展開速度を速める訓練をさせるつもり。といってもこの体じゃ、出来ないのだけれどね」
なるほど…。応用というわけか。
だが、今日したことをとても生かすことが出来るビジョンが全く見えなかった。
正面・側面・背面からの対処に相手の転ばせ方、体格の大きい人への対応、複数の場合等々。どれも一般男子高校生が教わるようなラインナップではない。確かに対人訓練をすれば、多少の自衛を行えるだろうが、さすがに気絶のさせ方や腕の締め上げ方までやり過ぎだと感じてしまった。
「と言われてもなぁ…」
「む?私が教えていたことは基本中の基本のことだ。あれが対処できないと軍人に負けるぞ」
「おいおい、一体俺を何にさせるつもりだよ…」
「それはもちろん、立派なIS操縦者にさせるためだ。何を言っている」
フォークの先にマカロニサラダのマカロニを集めながらラウラは、さも太陽が東から昇ってくるぐらい当たり前のことだと言わんばかりの顔をして俺に言う。
「軍人にも負けない立派なIS操縦者って第一、軍人とIS操縦者はあんま関係ないだろ…」
「といってもIS操縦者は大抵軍属だから関係なくはいないよ」
げんなりとしていると、8切れも皿に置かれているサンドイッチの一つをモグモグと食べているクリスタが割り込んできた。
正直頼み過ぎだと思う。
「IS操縦者が行きつきたい先は当然……モンドグロッソの
まるでリスのように猛スピードでサンドイッチを食べながらもクリスタは話を続ける。
話すか食べるかのどっちかに集中しようぜ?
「だけど、企業の場合は……テストパイロットとして登用されるから基本的に企業の試作品を試してデータを……集めるのが目的であって最新鋭のISが使えるとは限らない。そうなってくると結局は国家代表、もしくは代表候補生になるのが手っ取り早い。ISの保持は国が……ひいては軍隊がISを多く所持しているし、軍隊だから最新の技術が盛られしっかり整備されたISを使うことが出来る。つまりはISを持っている人たちは大抵、軍属なの。少佐はもちろん、セシリアも鈴も軍に所属しているね。まあ、一夏や織斑先生の場合は例外で企業が、一夏の場合だと倉持技研がスポンサーになっているから軍属っていう訳ではないね」
千冬姉ってスポンサーがついていたのか…。よくスポーツ選手とかにスポンサーがついていると聞いたことはあるが、さも千冬姉がISを持っていることは当たり前のことだと思っていた。
「そっか…。言われてみれば」
「それに大抵、反IS主義を掲げて襲い掛かり、ISを奪うような輩の中には軍人かぶれの人たちがいるという話はよく聞く。ISが登場してからというものの、それまでいた軍人を上層部が首を切っていったそうだ。他の所に再就職すればよかったものを、首を切られた奴らの中にはISを憎み、反ISの勢力へ加担する者がいるという。現にこれまで起きているISに関わるテロや事件には元軍人がいた。そのような野蛮なやつらがいつ嫁を襲うとも限らない。今回は女だったから良かったものを、いつ戦闘に慣れた屈強な元軍人に襲われてもおかしくはないのだぞ」
「…ISを快く思わない人も居るんだよな」
「ああ。いずれにせよ嫁が誰かに襲われても自力で対処できるようになって損はないのだ」
「茶菓子の差し入れありがとうございます、中井先生」
「いえとんでもないです。わざわざ時間の都合をつけてくださりありがとうございます」
畳や掛け軸などのある和室風の用務室には二人の人物がいた。
襖から漏れ出る光は黄昏に染まり、日が傾いていることがすぐにわかった。
「所で、私だけで良いのですか?当初は織斑先生もお呼びしたいとおっしゃっていましたが…」
IS学園の用務員であり、真の学園理事長である轡木十蔵は差し入れの煎餅をほおばりながら言う。
「はい、織斑先生と一緒に話をしたかったのですが、彼女はどうしても外せない用事があるらしくて日程が合いませんでした。せめて、轡木さんだけでも話を通しておきたくて…」
中井佳那は敷かれた座布団の上で正座をし、表情を崩さずに正面にいる轡木へと話す。
「どうしても外せない用事…そういえば弟さんの誕生日でしたかね、今日は。山田先生がそんなことをぽろっと言っていましたなぁ。なるほどなるほど。弟思いの織斑先生らしいですね。外出届も出しておられましたし、今頃は実家の方にでも行っている頃でしょうねぇ」
「はい、ですので彼女には私から話そうと思っています。最も轡木さんの判断によっては2人だけの秘密にしておく必要もありますが…」
「ふむ、それほど公にしたくはない…ということですかな?」
「そういうことです。これは私たち
彼女はお願いします、と短く一言言うと轡木は近くにあった部屋の柱を触る。
すると先程まで夕陽で明るかった部屋が何かに覆われ、部屋の中が暗くなり、掛け軸のあった所には大きなモニターが天井から降りてきた。
「それで、話というのは委員会へ提出した報告書にあった、データベースにも載っていないというあの赤いISの事だね?」
「はい、あれは私たち調査チームが追い求めていたもの。そして、世の中にあってはならないISです」
「あの赤いISの名前は『エピオン』。ドイツ人の技術者によって作られた第2世代の初期頃に開発されたISです」
目の前のモニターにはISの設計図と思われる図が表示され、佳那は話を続ける。
「ふむ…。話を聞く限りでは、至って普通のISのように見えますがねえ…」
「はい、見た目が
「その施設が噂の…」
『爆発事件』という言葉に反応した十蔵は視線をモニターから佳那の方へ動かす。
「はい、その施設では
「なるほど、そのようなことが…」
彼は噂程度にはこの話を聞いたことがあった。何せ、委員会が違法とされる研究・開発を行なっていたとして摘発する中で比較的初期の、そしてきちんとIS運用協定が法整備される前に起きた出来事なのだ。詳しくは覚えてはいなかったものの男性でもISを使えるようにさせ、非人道的な事を行なっていたとだけ覚えていた。そして、この事件をきっかけに倫理に反する研究の罰則強化が図られるようになった前例でもある。
「それにしてもその事件とこのエピオンとかいうISとどう関係してくるのかね?」
再びモニターに映し出されるISをじっと見ながら十蔵は言う。すると、佳那は空中に浮かび上がっているコンソールを操作し新たな画面を開いた。
「この事件を起こした施設には確認出来た限り三機のISが使われていました。エピオン、ウイングゼロ、そしてサンドロックという名前の三機です。違法な研究をしていたとして、我々委員会はこれらのISを回収、調査をしようとしていました。ですが事件後、残されていたISはサンドロック一機しかありませんでした。一度は研究所が保持していると疑い、一斉調査を行ったのですが全く痕跡はありませんでした」
「…何とも不思議な出来事ですなぁ。ISがなくなるとは」
十蔵は画面に並べられた見知らぬISのスペックデータを見ながら答える。
「はい、私もそう思います。実はこのISの消失以外にもこの事件には不可解な出来事があるのです。研究所を襲撃した犯人の身元不明に始まり、防犯カメラやレーダーに残されていない記録、そして研究所にいた関係者の一時的な記憶喪失。これらの奇々怪界な事から我々調査チームは、犯人を篠ノ之束と推測しました」
「なるほど、あの天災とも呼ばれたことのある篠ノ之博士ならこの不可解な出来事の再現も出来なくもないから、という所ですかね。何せ、地球上の誰よりも二、三歩先を行く人ですから…。おそらくISの概念を揺るがす研究、ということに嫌悪を覚えた彼女が研究所に目をつけられて襲撃。そして見つからなかったISは彼女が回収した、とでも考えたところでしょうね」
「おっしゃる通りです。この事を受けて我々はISのデータベースからエピオン、及びウイングゼロのデータを非公開データとし、これら二機のISコアはあくまでアメリカで使われる研究用ISであると偽造しました。ISを作られた篠ノ之束博士の怒りを買い、大切なISコア2つが無くなったという事実を公表したくなかったのです」
「だがその失われたはずのISの内一機を亡国機業が持っており、さらにそれを
十蔵の言った紛れも無い事実に佳那は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「…。どうしてテロリストの手にエピオンが渡ったのかは不明ですが、居場所が分かったのでその問題はとりあえず置いておきましょう。それよりも問題なのはテロリストが
「なるほど、あなた方の状況は理解できました。ただ、この赤いISの情報は私たちIS学園にも提供していただきたいですな」
「…理由をお聞かせ願いたいです」
「今回、亡国機業は我々が保持していた無人機のコアと白式を狙っていました。白式の方は未遂に終わったものの、まだ亡国機業の脅威が去ったとは私はそうは思いません。今後、必ず彼らはもう一度白式を奪いに来るでしょう。そうなってくると我々もそれを手厚く歓迎するためのそれ相応の準備をしないといけません。もちろん委員会の言い分はよく理解出来ます。ですが、学園が標的にされた以上生徒たちの身を守るためにもこのデータベースから消え去った赤いISの情報は我々には必要です。未知なる敵と戦うこと程恐ろしいものはありませんからね。生徒たちのためにも協力してくださいますかな、
十蔵は目線を合わせようとせずにいる佳那を見てにっこりと微笑んだ。
少し肌寒い夜。
雲ひとつない空には月が浮かび、星々をかき消すほどの強い光を放っていた。
月光の下、俺は自宅からそう遠くない所にある自動販売機の場所に向かって歩いていた。IS学園ではなく、何故俺の家の近くにいるのかというと、家では俺の特別な日______俺の誕生日を皆が祝ってくれているからだ。
話を遡れば一週間程前、学園祭が終わった直後の頃になる。
食堂で何時もの専用機持ちたちと夕食を食べていた時に誕生日の話題が上がった。その話題が俺に振られ、そういえば今月が俺の誕生日だなあと言ったらそれを聞いたダブル幼馴染以外がものすごい剣幕で俺に迫ってきた。
彼女たち曰く、何故そのような大事な日をもっと早く言わないんだということらしい。正直俺にとってはあまり重要視していないことであったためその言い振りには驚かされた。何はともあれ急遽、今日の9月27日に俺の家で誕生日会をする事になったという訳だ。
誕生日会には箒にセシリア、鈴、シャル、ラウラが参加。そして何故か山田先生に千冬姉までもが俺の家にやって来たのだ。箒たちが言うには、サプライズゲストという事らしい。山田先生による説得のおかげもあり千冬姉が来てくれたようだ。
当の本人はあまり嬉しそうな表情ではなかったが、今日のためにわざわざ仕事を早めに切り上げ、箒たちのために食事の材料やバースディケーキを奮発し、俺へのプレゼントを一週間前から考えて用意していたということを山田先生がポロっと言ってしまった所を見るに満更でもなさそうだった。
自分の教え子の前では素直に喜べないのも仕方ないのかなと思いつつも、そんな千冬姉を見られて俺は何だか嬉しかった。何せ誕生日の日に千冬姉と一緒にいるのは久しぶりだからだ。誕生日会を企画した箒たちや説得してくれた山田先生には感謝しきれない。
「お、あったあった」
気がつくと既に目的地である公園近くに到着していた。この公園の中には、嬉しいことに公衆トイレの近くに自販機が置かれているのだ。
「やっぱりまだあったか。懐かしいなあ」
ここは俺が小学生くらいの頃にお世話になった公園だ。よく遊んだ後にここの自販機でジュースを買ったけ…。
昔懐かしい思い出に浸りつつも、本来の目的であるジュースの購入を忘れてはいけない。主役である俺に買い出しに行かせるわけには行かないとシャルから言われたものの今日は何もしていないので、こうして自ら買い出しに志願したのだ。
前よりもまあ新しく小綺麗になった自販機で、皆が頼んでいたジュースを思い出しながらボタンを押していく。
ビール缶を開ける千冬姉以外の人数分のジュースを買い終え、それらを両腕に抱えながら俺は見覚えのある遊具や木の配置、そして古ぼけた街灯を横目に自宅へと歩いていく。
その時だった。
正面の公園の出入り口に一人の人影があった。街灯の当たらないそこは暗く、誰なのか判別がつかなかったもののまるで俺の行く道を塞ぐようにその人物は立っていた。
時刻は午後9時を過ぎており、俺みたいな物好きな奴以外はまずこの公園には来ないだろう。何とも不思議な人だな、と思いつつそのまま俺はその出入り口を目指す。俺が一歩足を踏み出したそうとすると、その人影もこちらへ向かって歩き始めた。近くの街灯にその人影が近づくにつれて段々とその容姿がはっきりとしたものになってきた。
それは少女だった。背は低く、鈴くらいはあるだろう。髪は長く肩の辺りまで伸びていた。そして、彼女の容姿は俺にとって見覚えのある顔であった。いや、知らないはずのない顔であった。
「…千冬姉?」
その少女は、まるで千冬姉を幼くしたような顔つきをしていた。目つきや鼻の形、髪型に至るまでどれも千冬姉が中学生くらいの時と同じ風貌であった。ただ違うといえばその服装だ。全身黒ずくめで、 更に黒いコートを羽織っていた。
千冬姉っぽい少女は俺に気づいたのか前方5mくらいの所で歩くのをやめる。そして、口を開いた。
「いや、
「何…?」
彼女の言葉をすぐさま理解することは出来なかった。あいつが俺?一体何を言っているのだ?
「この間は世話になったな、白式のパイロット」
「その声…。お前…もしかしてあの蝶のISの…」
妄言を言っていた彼女だがこの言葉にはすぐにわかった。どこかで聞いたことがあったと思えば学園祭の時に襲撃してきたやつだった。
「そうだ…私の名前は織斑マドカ」
織斑……?
俺と同じ名字…?
「私が私たるために、お前の命をもらう」
気づいた時には、そいつは右手に黒く光る銃が握られて______
甲高い発砲音が俺の耳に聞こえてきた。
銃口が俺に向けられた瞬間に抱えていたジュースの缶を離して、右腕を部分展開し、体の前に掲げてそいつの攻撃を防ごうとした。
しかし衝撃に耐えようと目を瞑るも一向に銃弾による衝撃は右腕にやって来なかった。瞑っていた目を開けて、俺は正面にいる少女を見やる。
すると…
少女の右手には既に銃が握られておらず左手で右腕を庇うように握っていた。地面には彼女が持っていた銃が転がっており、どうやら彼女はこちらへ撃っていなかった。じゃあ誰なのか?
憎悪のこもった目で彼女は右側の林の方を見ていた。それにつられて俺もその方向を見ると、草を擦れ合う音を立てながら新たな人影こちらへ歩いてきていた。
「無駄な接触はしないようにと言われていたはずですが、あなたは何をやっていらっしゃるのですか?お立場を考えて下さい」
それは男性であった。黒いスーツを着ている男性は左手には拳銃を持ち、公園の舗装された道に出るとそれを少女に近づく。
「誰かと思えば、私の後をついて来たのか!邪魔をするな!この木偶の坊!」
彼女の罵倒も気にせずに彼は地面に落ちた銃を拾い、懐にしまう。
「第一、こんな街中で銃声を出したら誰かに気づかれて…」
「一夏、伏せろ!」
聞き覚えのある声に俺は言われるがまま地面に伏せると頭上を何かが通り過ぎる音が聞こえてきた。
「こんな風になるのですよ」
俺の前には、後ろ姿のラウラがナイフを持ちながら立っていた。再び正面を見ると、少女を庇うように男性が前に立ち、右手にはラウラが投げたナイフが突き刺さり刃を伝って血が流れ落ちていた。
「ラウラ!」
「貴様、私の嫁に手を出すとはいい度胸だ」
ラウラは再び、左腕でナイフを投擲する。
だが男性は右手に刺さっていたナイフを抜き、それを投げ返してナイフ同士を当てる事で攻撃を防いだ。
「何!?」
「さすが良いナイフを使っていますね、ドイツ軍の黒うさぎさん。いや、
右手から出血をしているにも関わらず、変わらぬ表情でラウラに挑発する男性にラウラは不機嫌になる。
「ちっ、馬鹿にして…!」
ラウラは太ももから別のナイフを握り、男性へと近づこうとする。
しかし、それは上空からの攻撃によって阻まれた。
「面倒だ」
上空には、あの時の蝶野郎__サイレント・ゼフィルスを展開していた少女はビットをこちらに向けて攻撃をしていた。その攻撃は味方であろう男をも巻き込むほどだ。俺は左腕も部分展開して防御特化の
正面にいた男は攻撃を避けようと後ろに飛び退くと
そのISは赤く、
そして、あの時天井を斬り裂いたあのISだ。
攻撃が止んだ頃には上空にサイレント・ゼフィルスはもういなく、そしてあの赤いISもいなくなっていた。
「逃げたか…」
「大丈夫か、ラウラ」
「ああ…私は、大丈夫だ。…お前は?」
「いや俺は何とも…。それよりもさっきのって…」
「ああ、私も見たぞ。あれはIS…だよな」
「多分…。そうだと思う」
俺たちは互いに先程起きた事をたどたどしく確認し合う。
それはあまりにも衝撃的で、そして非現実的であったからだ。何せ、