神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

30 / 51
第28話 常備不懈

 天気は快晴だった。

 先程まで雨が降っていたと感じさせないくらいに青空が広がり、足早に白く細い雲が流れていく。

 午前中に降った雨で、地面の至る所に大きな水たまりが張ってある第三アリーナで、一機の赤いISが空を自由自在に飛び回っていた。

 そのISは瞬時加速や旋回を行い、アリーナ内を縦横無尽に飛ぶ。ただ、IS操縦者の目には必ずアリーナの至る所に設置されている”ターゲット”が写っていた。

 次々とランダムに現れ、システムにより自動生成されるターゲットをそのISは、時には両手に持つ大きな青龍刀で横に斬り裂き、またある時は両肩に浮かんでいる非固定浮遊部位(アンロックユニット)からエネルギー弾を発し、撃ち抜いていく。

 

 赤いISは地面に降り立つと、次なるターゲットを求め探し出す。すると、頭上に現れた複数のターゲットを見てIS操縦者は思わず笑みをこぼす。

 ISの右肩に浮かぶ非固定浮遊部位から光が漏れ出し、飛び上がると同時にエネルギー弾を発射した。拡散するエネルギー弾により、狙い定めたターゲットが、まるでガラスが割れたかのように散る中をそのISは突っ切って、上空へ浮上した。

 雨上がりの湿った空気が鼻を突き、強い日差しが体に煌々と照らした。太陽の光に思わず操縦者は目を細めると、すぐにハイパーセンサーが自動で視野に入る光の調整が行われた。

 アリーナの天井付近まで飛び上がったISは、地上に見えるターゲットを見つけると、PICを切り自由落下で地面へと落ちていった。そして、両手に持つ青龍刀を連結させ、両腕を大きく振りかぶった。

 

「これで、終わり!」

 

 八重歯を見せて、ニヤリと笑った操縦者は青龍刀をターゲット目掛けて大胆に投げつけた。投げた青龍刀が人型のターゲットの首辺りで真っ二つに切り取ると、その勢いのまま、硬い地面に突き刺さる。

 人型のターゲットはその場で、ガラスの壊れたようなエフェクトを発生させ、光とともに消えていった。アリーナ観客席中央にある液晶には、先程の訓練の得点と、総合評価を表した『A』という表記が示された。

 

 

「どう?甲龍の調子は?」

 

 地面に突き刺さった青龍刀を抜いていた操縦者の耳に若い女性の声が聞こえてきた。甲龍の操縦者は青龍刀をしまうと、Bピットの方を向き、腰に手を当て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「悪くはないね。でも、もう少しブースター性能を高めてもいいんじゃないかなぁ」

 

「データを見る限りは結構無理をしていたように見えるけど本当に大丈夫?」

 

 最初に聞こえてきた声が心配そうに言う。

 

「私はまだ大丈夫よ。もっと旋回性能を高めないと、特に()()になって勝てないわ」

 

 甲龍の操縦者、凰鈴音は特に『一夏』の部分を強調させて言った。

 

 

 

 

「稼働データは見る?」

 

「いや、いいわ。さっきの飛行で大体分かったし」

 

 私がピットに戻ってきた鈴にタオルと飲料を渡すと、彼女はそれを受け取り、私の問いをきっぱりと断った。

 タッグマッチを控えている我々専用機持ちは準備に追われていた。今は、私のタッグマッチのパートナーである鈴のISの調整を行っていた。本来であれば、このような推進力を増やしたり、感度を調整したりすることはそのISを持つ国の技術者が行う作業である。

 だが今回のイベントの趣旨上、この作業を進めていくのは、生徒同士という決まりが設けられていた。このような調整は実を言うとさほど難しいことでもなく、IS学園での授業を受けていれば、さっさとパーソナライズすることが出来る。

 まあ、このような知識は二年生にならないと分からないものだが。企業の技術屋に教えてもらったことがここにきて役に立っており、自分自身のISの調整に加えて鈴の甲龍も弄っていたというわけだ。

 

 大会間際ということもあり、今いる整備室にはいつも以上に賑わいを見せていた。上級生らしき二人組が彼女らのISの前であーだこーだと、何かの議論を繰り広げ、少し遠くにいるセシリアが、上級生の代表候補生と蒼雫の調整を行っていた。

 

「にしても、びっくりよねー」

 

「びっくりって何が?」

 

 要望通り、甲龍の旋回性を高める調整をしていた私に、近くの機械に腰掛けている鈴が話しかける。話の主語を語ろうとしない彼女に私は聞き返した。

 

「ん?何ってそりゃ、イギリスのIS開発の早さにさー」

 

 彼女はセシリアたちのいる方向に顎をしゃくりながら、気だるそうに言った。

 

「だってもう三つ目の試作機を作っているのよ?なかなかの進み具合よねぇ」

 

「…確かにそうね」

 

 汗を拭く彼女を横目に私は、甲龍の調整をしながら生返事がちに受け答えた。

 

 

 鈴が気になっていたISは、セシリアのパートナーである二学年のイギリス代表候補生、サラ・ウェルキンが現在所持しているものだ。それは、AME社製ティアーズ型三号機の『ダイブ・トゥ・ブルー』。

 これまで射撃型のみしか発表されていなかったティアーズ型だが、このISは格闘性能を有するBT兵器を搭載する、新たなコンセプトのISのようだ。

 体を覆うほどの大きな物理シールドに、一振りの剣。まるで中世の騎士を思わせるようなISである。最近に学園へ送られてきたばかりの出来立てのISであり、今回のイベントの終了後にはすぐさまイギリスへ戻ってしまうらしい。

 

「あんたのところも大変よね。なんだっけ、イグニッション・プラン?それに準備をしていてさ」

 

「イタリアもテンペスタ型をようやく開発し終えるらしいし、そろそろ選考が始まりそうだからね。フランスが入るかはわからないけど」

 

 ふーん、と私に問いかけた彼女はなんとも言いがたい、曖昧な返答をして飲料水を飲む。興味を失ったのか、はたまた私の言葉を理解したのか定かではないが、いつもの彼女なので気にしないでおいた。

 鈴から渡された分厚い整備書を読みながら作業を進めていると、一人の声が整備室内に聞こえてきた。

 

「おーい!」

 

 それは若い男の声だった。IS学園にいる若い男は一人しかいない。その声に反応して、近くにいた鈴が体をビクつかせ、声のした方向へと見た。遠くに見えるセシリアも鈴と同じ様な反応をしながら、その方向を向いていた。私も彼女らにつられて、整備室の入り口を見る。

 

「お、いたいた」

 

 見慣れた制服姿の一夏は、何かに気がつくとこちらへと歩いてきた。その様子を見ていた鈴は、しばらく一夏を見ていたが、ふと我に帰り一夏からそっぽを向いた。

 

「へー、アリーナに行ってきたのか鈴?」

 

「そうよ、悪い?用がないならさっさとどっか行きなさい」

 

「何で怒っているんだよ…。別にいいだろ、俺がどこに居ようと」

 

 鈴がISスーツを着ていたから、アリーナに行ったと思ったのだろう。普段通りに鈴に話しかけた一夏は、自分を見向きとしようとしない鈴からの罵倒を軽く受け流す。

 更識簪へのアプローチ以降、彼は一部専用機持ちたちの塩対応を受けていた。ある時は顔を見ないで挨拶をし、またある時は名前でなく、苗字呼びをする。本人はトーナメント前だから皆ナーバスになっている、と思っているようだが、どこからそのように感じるのかを、何度も問いただしたい気分である。

 しかし、彼は筋金入りの唐変木。幼馴染からの言葉もあり、その治らない性格は私がどうこう出来る問題ではないだろう。

 

 一夏は、プンスカと頬を膨らませてそっぽを向く鈴を無視し、私の方を向いた。

 

「なあ、クリスタ。明日の放課後って時間あるか?」

 

「明日?明日なら、部活動の後なら大丈夫だよ」

 

「そっか、じゃあ大丈夫かな。前のISを見てもらうやつだけど…」

 

「うん、いいよ。そういう約束だからね」

 

「よし、助かるぜ!んじゃ、明日よろしくな!」

 

 彼は帰り際にこちらへ手を振り、その場を後にした。爽やかな笑顔も忘れない。

 

「…何?あんた、あいつのISも弄るの?」

 

 一夏が整備室からいなくなり、少しして鈴が話しかけてきた。

 一夏と遭遇して、すっかりご機嫌斜めになってしまった鈴がジト目で私を見る。

 

「うん、ちょっと手伝って欲しいって頼まれてね」

 

 事情を知らない彼女にとってみれば、虫の居所が悪いものだろう。詳しく話したら、話がややこしくなりそうなので多少説明は省く。単純に、頼まれごとをしただけと言えば分かってくれるだろう。

 

「というか、いつからあいつと仲良くなったの?約束なんてしちゃってさ」

 

「仲良くも何も、元からこんな感じだったと思うけれどね。互いに助け合っているだけのことだよ」

 

 

 同じ専用機持ちのよしみでIS整備を約束した、と説明をしたら彼女は渋々理解をしてくれたようだ。

 最も彼女が気にしている事、男女関係に発展している…といったような心配は更々ない。そもそも、私の約束で見るISは、彼のISではない。彼の()()()()()のISだ。

 

 

 

 

「織斑君、こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて!」

 

「ああ、はい!」

 

「データスキャナーと電波装置を〜」

 

「はい、こちらをどうぞ!」

 

 日曜日の整備室の一区画。

 天井から光が灯された台座には、脚を折りたたむように置かれたISの周りに人が集まっていた。

 巨大な非固定浮遊部位が左右にあるのが特徴のこのISは打鉄弐式。一夏のタッグマッチのパートナーでもある更識簪の専用機だ。

 

 

 打鉄弐式。

 その名の通り、打鉄を制作した倉持技研が手がけていた打鉄の後継機にあたる第三世代ISだ。前作の打鉄は防御重視のコンセプトであったが、この打鉄弐式は、機動を重視した設計となっている。

 最大の特徴だったとも言える、日本のサムライのような特徴的な肩部シールドは撤廃され、その代わりに非固定浮遊部位の大型ウイングスラスターが二基搭載されている。全体ともに、鎧で覆われたシルエットから一変、上半身がとてもスマートな風貌へと変化していた。

 また、第三世代へなるとともに、武装面も強化が施されている。以前はアサルトライフル一丁と刀が一振り、というなんとも第二世代らしい後付武装を想定した内容だったが、荷電粒子砲が二基、そして薙刀。さらに目玉といえるマルチロックオンシステムによる誘導ミサイル。どれも次世代を見据えた武装となっていた。

 もちろん、扱いやすいOSと定評のある打鉄に引けも劣らず、この打鉄弐式にも同様のOSが使用され、打鉄のパッケージも使うことが出来る優れものとなっている。

 

 …とまあ、話を聞けば第三世代ISとして充分通用するISなのである。話を聞く限りでは。じゃあ、実際どうなっているか、と現物を見てみれば目も当てられない状況である。

 先程のように、ISのコンセプトは出来ているのだが、いかんせんそれは机上の卓論にしかすぎていなかった。

 噂通り、途中で開発が止められているので装甲、武装ともに見た目だけは用意されていた。

 しかし肝心なシステム面は、仮組みされているだけで中身はすっからかんであり、とても動かせられるような状態ではなかった。PICなどのISが動く基礎の部分はほぼ搭載者である楯無簪が作り上げたようなものだった。

 

 

「よし、これで…。そっちはどうかな?」

 

「……まだかかる。ちょっと待って」

 

 私の言葉に反応した簪さんは、私に返事をするものの作業する手を休める間も無く、画面を見続ける。彼女の第一印象は大人しく、暗いという感じだった。

 

 癖毛のあるセミロングに、簡易ディスプレイの眼鏡。そして、弐式のものだというまるで、動物のタレ耳のようなヘッドギアを頭の左右に付けている。少なくとも、学園で名の知られている『更識』の関係者と気づかなければ、単なる専用機を持つ日本の代表候補生だ。

 

 あの日、私が一夏と楯無会長から事情を聞いた数日後に、一夏は更識簪とタッグマッチのパートナーになった。

 彼らの間にどういう経緯があり、了承を得たかは分からない。ただ、彼があれだけ自信がないと言っておきながら、知り合いにもなっていない彼女を()()()()()その様はまさに天賦の才能といっても過言ではないかと密かに思っている。

 そして、現在のパートナーのISの状況を知った一夏の提案により、この弐式の整備の話が持ち上がった。タッグマッチまで後数日。1週間もないくらいだ。この短い時間の中で、どうにか動かせられるようにするべく、整備が出来る人たちが集められた。

 一夏へ貸しを作れる!といち早く飛びついた黛さんは知り合いの整備科の人たち2学年を召集。IS整備をしない、というか出来ない一夏を利用しつつ、問題があったというISのPICのシステム周りを重点的にチェックしていた。

 簪さんは彼女なりにシステムを構築し、飛行テストを行ったらしいのだが、上手く行かなかったようだ。そもそも、動く事が出来なければ試合どころの話ではない。数多くの問題を抱える打鉄弐式だが、まず問題なく動く事が出来る事を目標としてここ連日、我々は整備に取り掛かった。

 上級生に肝心なPICを任せる一方、私を含めた1学年チームは全く手を付けていなかった武装の構築をしていた。

 

「どうかな?一夏からもらったデータを参考にして荷電粒子砲(春雷)をいじって見たんだけど…」

 

 私が担当していたのは荷電粒子砲の春雷。いわゆるメインに扱うであろう武装だ。

 今第三世代ISの中で流行りの、と言っても過言ではない非実弾系のカートリッジ交換をしない武装で、倉持技研は荷電粒子砲のデータを簪さんへ渡していなかったものの、同じ倉持製の白式からデータを代用する事で実装が可能になった。

 

「……ジェネレーターの出力、エネルギー供給量共に安定領域に達している。試し撃ちをしないといけないけど、このデータを見る限りでは……多分大丈夫」

 

 私が先程仕上げた春雷のデータを簪さんは、まじまじと目を丸くして見ていた。

 受け取る前までは期待していなかったのか、それとも彼女の担当している事で頭がいっぱいだったのか定かではないが、これまで見ていた中で無表情な簪さんが一番表情を崩した所だった。

 

「そっか、久々の武器作りで腕が鈍ってそうで心配していたけど良かった!」

 

「……貴女は何者なの?一年生で荷電粒子砲を……たった2日で」

 

「私の叔父さんが武器製作専門の技術屋でね、良く教えてもらったんだ。それに参考にしたデータもあるんだし、ざっとこんなもんよ」

 

 簪さんはある意味疑惑の目で私を見る。

 そりゃそうだ。余程の天才でない限り、下積みもなしにISの武装を作ることは容易ではない。しかも一年だ。普通に1人でせっせと武装を作り上げるのは私でも異常ともいえる。そもそも、こうして彼女の春雷を作り上げられたのは、私の叔父たちに教えられたことを学べたからでもあるし、私の()()繋がりでもある。疑い深いのか、私の説明でも納得のいかない表情をしている彼女にどう説明しようか考えていた時だった。

 

「かんちゃーん!ハゼたーん!見て見て~」

 

 そんな時だった。

 とってもゆっくりボイスで私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。このような呼び方をするのは一人しかいない。もう一人の協力者である、のほほんさんを見ると、彼女の足元にはとても大きな薙刀が横たわっていた。オブジェクト化された『夢現』だ。

 

「私も頑張って薙刀作ってみたよーどうかなー?よいっしょ…」

 

「……本音、危ないから持たないで」

 

 余った袖に隠されているだろう小さな手で、頑張って持ち上げようとする彼女を簪さんは止めに入る。

 

 のほほんさんが担当していたのは、近接攻撃用の薙刀である『夢現』。薙刀、いわゆる日本伝統の武器で槍みたいなものだ。リーチが長く、初心者でも扱いやすい武器らしい。次世代の量産型に向けての布石なのだろうか。

 それはともかく、この夢現は単なる槍ではなく、刀身部分を振動させることができる代物だ。先程、先輩方が使っていた高周波カッターと原理は同じで、なんともえげつない装備である。

 

「……うん。ちゃんと夢現も出来ているみたい。ありがとう、本音」

 

「えへへっ、かんちゃんに褒められた~」

 

 のほほんさんとは幼馴染同士だという簪さんは、少しだけ表情を崩して答える。礼を言われたのほほんさんはというと、いつも通りの笑顔で照れながら頭を掻く。

 夢現は白式の荷電粒子砲のように既存のデータはないようで、その代わりに一夏が用意したというデータを元に作られた。…彼に武装のデータを集めるほどの収集力があったとは知らず、私は正直驚きもしていた。

 

「かんちゃん、そろそろお部屋がしまっちゃうけど終わりそー?」

 

「……ちょっと難しいかもね。終わりそうにないかな」

 

 簪さんはこちらに表情を見せないように、体の向きを変えて、整備されている打鉄弐式を見た。

 彼女が担当しているのは、誘導八連装ミサイル『山嵐』。打鉄弐式の中では肝とも言える武装だ。山嵐には、『マルチロックオンシステム』という新しいシステムが搭載される予定であった。

 これは、発射されるミサイル一つ一つに独自の稼働をさせるもので、通常のロックオンシステムよりも遥かな高命中、高火力を実現させるためのものだった。

 

 だが、これも机上の卓論。そんなものの基礎なんてないに等しいものだった。これまた一夏が集めたというミサイルシステムのデータを元に、簪さんは実現に向けて製作していたようだが、間に合いそうにないようだ。

 

「今はどこまで出来るようになっています?」

 

「……マルチロックオンシステムが上手く行かないから、普通のロックオンシステムに置き換えて……今は誤魔化すつもり」

 

「やはり簡単にはいかないか…」

 

「で、でも……手動でならマルチロックオンシステムは出来たから……大会後には完成させられるはず」

 

「おぉ〜さすがかんちゃん!」

 

 簪さんの成果にのほほんさんが喜んでいると、黛さんから片付けの指示が飛んできた。

 

 

 

 

「どうだい、ISの調子は?」

 

「だ、大丈夫…です」

 

 時刻は9時を回り、もう少しで整備室が閉められてしまうだろう。

 私たちは、二年生達が作り上げたシステムの動作チェックの為にISを装備している簪さんの周りに集まっていた。黛さんの問いに対して、簪さんは、たどたどしく答える。

 

「武器の方はどうなんだ?」

 

「ミサイルの方は完成までとはいかなかったけど、タッグマッチに十分出られるようには調整したよ」

 

「いいねいいね!私たちの仕事も無事に間に合って良かったよ!」

 

 一夏の問いに私が答えると、2学年の先輩達は互いに顔を見合わせて喜んだ。彼女たちには誰一人として疲れたような表情を浮かべる者はいなかった。皆が皆、やり遂げたという達成感に満ち溢れた顔をしていた。自分たちが試合に出場するわけでもないのに。

 後輩のISのために彼女たちは時間を割いてまで打鉄弐式を整備し続けたのだ。きっと私のようにIS弄りが本当に好きな、そんな人たちなのだろう、そう私は読み取れた。

 

 

 整備室の貸し出し時間まであと少しとなり、皆で手分けして片づけを始めようとした時だった。

 

「あ、ありがとうございました。私一人じゃできなくて……本当にありがとうございました!」

 

 簪さんは片づけをする皆に向かっていつも以上に、整備室にいる人全員に聞こえるぐらいの大きな声で礼を言った。

 どこか涙ぐんだようにも聞こえるその声に

 

「気にしないでよ、私たちは同じ学園の仲間じゃない」

「そうそう、困っていたら助ける。先輩として当たり前のことをしただけだよ」

「いい?私達が整備したISで絶対に勝ち進みなさいよね!」

 

 黛さんを始め先輩達は彼女を逆に励ましていた。

 

 

 

 

 きっと彼女はこのような結末を予想だにしなかっただろう。

 姉というコンプレックスを抱え、彼女は一人ぼっちで必死に努力してきたに違いない、目標である姉を超えるために。例え他の事を犠牲にしてまで。きっと(一夏)がいなかったらタッグマッチへ出られず、ISは未完成のまま。そして、教員たちの目の敵にされ何かしらの処分を受けていたはず。彼が彼女の心を開いたおかげで整備科の人たちの協力を得られ、IS開発が進展。タッグマッチにも出場でき、ひとまずの体裁を保つだろう。

 人は助け合って生きていく生き物。どこかでそのような言葉を聞いたことがある。独りよがりで物事を進めていくのはよっぽどの天才出ない限り、事をなせない。目標であった姉でさえ、ほぼ完成されたISで、さらに友人の助言をもらいながらISを作り上げたのだ。それは、ジグソーパズルを複数人で組み立てるのと目隠しをして一人で組み立てていくのとでは訳が違う。それほど彼女たちには差があった。

 

 

 だからこそ私は、確信したのだ。

 

 行き詰まり、一人で閉じこもっていた彼女(更識簪)の、

 ドイツの冷氷と呼ばれた少佐(ラウラ・ボーデヴィッヒ)の、運命を変え、導いてこられたのは、織斑一夏の才能があってこそだと。

 

 姉譲りのISを使いこなす少年。唐変木で朴念仁な少年。誰にでも手を差し伸べるほどの優しさを持ち、実践のみに対してだけ物覚えに秀でている少年。

 

 彼を、一夏をもっと知りたいと興味を抱いてしまっていることに。

 

 でも、そんな風に思ってしまうことが悪くないと思っている私に。

 




気付いたら2か月……。


間延びしてしまい、本当に申し訳ないです!!!m(__)m

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。