神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第29話 空にはいつも

 

 

 目の前に広がるのは、白い天井だった。

 電気の灯っていない蛍光灯が等間隔に並べられていた。

 学生寮の自室で目が覚めた私は、ベッドから体を起こし、寝ぼけ眼で時刻を確認する。うっすらと青白い部屋の奥にある壁掛け時計を見ると、短針が4時を回り、もうすぐで5時になりかかろうとしていた。

 いつもの時間帯だと心の中で思った私は、暖かな布団から肌寒い部屋へと降り立った。体をさすりながら窓へ近づき、カーテンを開けると薄っすらとした淡い光が顔に照らされた。

 街灯の光はまだありIS学園の敷地を照らしていた。遠くに見える海と本土との区別は付くものの、まだ辺りは暗く日の出にはなっていなかった。

 ちらりともう一つの使われているベッドを見る。厚みのある暖かそうな布団には、同居している鈴が小さな寝息をたてて眠っていた。いつものツインテールは解かれ、サイドに髪をまとめている彼女を横目に、私は彼女を起こさないように静かにジャージに着替えて部屋を後にした。

 

 

 寮から外に出ると、少し霧が立ち込めておりぼんやりと街灯の光が道に沿ってポツポツと地面を照らしていた。軽く体を伸ばすなどのストレッチをして、私は朝のジョギングをするべく霧の中へと走っていく。別にこれは、今日行われるタッグマッチに緊張して早めに目が覚めたという訳ではない。いつもの習慣だ。

 

 生まれながらなのか定かではないが、私はいつも夜明けと共に目を覚ましていた。いや、朝5時前後に起きると言った方が正しいだろうか。何せ、こうした冬や春の季節には、朝日が昇る前に起きてしまうからだ。例え、いつもより遅くても、どんなに疲れようと疲れていまいとほぼ毎日、必ずと言っていいほど朝早く目覚めてしまう。この習慣はIS学園に来ても変わらず、朝の時間を持て余してしまう事を防ぐためにこうして運動を行うことにしている。

 誰もいない早朝程、心が休まる時間はないだろう。普段の任務や周りへの警戒心を感じつつ日々生活をしていることもあり、常に精神的に来るものがある。誰にもばれないで、なおかつ隠密に情報収集をするのは楽ではない。これも今後のために、と思ってはいるもののやはり苦痛なものは苦痛だ。こうして何にも考える必要のない時間を作り、心と体をリフレッシュするというのは大事なのかもしれない。

 

 自分自身の呼吸で走るペースを維持してきた、ただぼんやりと何も考えていなかったころ。ふと私はある大事なことを思い出した。

 これはそう、心の奥深くに沈み込み、忘れ去られていたことが、ふと息を吹き返したかのように浮かび上がってきた。そんな感覚だった。

 思い出した事とは、最近一夏への訓練をしていなかったことだ。あのタッグマッチが発表されて以降、少佐を含めた専用機持ち組が一夏への態度を改めたことや、彼自身が更識簪との接触を図るようになってから彼への指導は出来なくなっていたのだ。最近感じていた妙にもどかしかった感覚はこれだった。ナイフを握っていないからだ。

 一夏はきちんと私の教えた動きをするだろうか。唐突にそんな心配事が私の脳内を駆け巡る。

 

 彼は座学や練習といった事では伸びず、本番で伸びるという何とも不思議なタイプだ。だから私は基本的な部分、持ち方やナイフで狙う所を教えて以降、常に実戦ばかりを繰り返した。流石に本物の刃物を使うのは言語道断であるから、ゴムナイフを使ってだ。彼にしてみれば、よく日本刀やらサバイバルナイフやらで襲われるために刃物には慣れているだろう。だが、練習で怪我をさせる訳にはいかないから仕方ない事だ。

 そして、憶測通り彼は運動神経が良いこともあって、当初は手も足も出ない状態から今ではたった数回の練習で私へ反撃できるようにまで成長していた。きっと今の彼ならISなしでも、チンピラ相手には負けることはないだろう。

 それにしても、誰かにナイフを用いた格闘戦術を教えたりするのは久々な気がしてきた。昔はよく

 

 

「君はもう大丈夫だ。安全だよ」

 

 男の声。迫ってくる大きな手の平。

 

 それは一気に噴き出した。見たこともない光景が音が私の脳裏に浮かぶ。一回ではない。何度でも頭の中に響いた。このイメージは一体何だ?

 足を止めた。

 知らないビジョン。聞き覚えのない声。ただただ気味が悪かった。何も口にしていないのに吐き気がする。

 頭は内側から硬い物でガンガンと殴られたように痛み、体全身には悪寒が走る。息を吸う度に胸が締め付けられるように苦しい。口の中に冷たい空気が流れ込む。

 手にはべたりとした汗が浮き上がる。私の目の前には固いコンクリートがあった。

 心ではなく、頭にくる苦しさ。

 辛かった。声をあげてでもこの苦しみを紛らわしたかった。でも喉から出てくるのは掠れた空気だけ。

 

 その光景はただただ、私の見たくない嫌いな光景だった。やめて欲しかった。知らないものを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も見せつけ、それを記憶の糧にでもするかのように。

 

 こんな記憶なんて、私は欲しくない。

 こんなものなんて…いらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は海岸線沿いに一定間隔に置かれたベンチに座っていた。

 それにしても私はこんなところで何で休憩をしているのだろうか?先ほどまで走っていたはずなのに。

 

 …ああそうだ。さっき靴紐が解けて転びそうになったんだった。それでベンチに座っているのだ。結んだ靴紐を確認して、私は再び走り出した。

 それにしても、誰かにナイフを用いた格闘戦術を教えたりするのは久々な気がしてきた。

 昔はよくドイツ軍の教官から教わったりしていた。軍が関わってくるのは何でも、国のお偉いさんたちのご意向でISを扱う以外にも、武術や銃の扱いを覚えさせるという決まりがあったそうな。当時代表候補生選抜組だった私が日夜訓練させられたっけ。

 タッグマッチが終わったら、一夏に訓練のタイムテーブルを聞かないと。彼は一体どんな表情を見せてくれるのだろうか。きっと今の彼なら、訓練なんて銀河の果てくらいに遠い話に聞こえるだろう。そんな一夏の驚く表情を想像しながら走り続ける。

 気づくと周りの霧は晴れて明るく、海からは白く眩しい朝日が昇り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、皆さーん!紹介に預かりました、更識楯無です!今日は専用機持ちたちのタッグマッチトーナメントが行われます!」

 

 壇上に立つ楯無会長は、眼下に見える大勢の生徒たちへ向けてラフな挨拶を述べた。

 

 コンサートでも行えそうな、高い天井と中心を囲むようにある客席を備えた多目的ホールの中心に私たち生徒は集められていた。

 先程までガヤガヤと私語が聞こえていたものの、彼女の登場により、辺りは水を打ったようにしんと静まり返っていた。さすがのカリスマ性、といったところか。少々アクの強い人物であるが彼女の人気と実力が確かなものだと再認識してしまう。その中で私はじっと、楯無会長の言葉に耳を傾ける。

 今日行う1日限りのタッグマッチトーナメントは結構ハードだ。

 

 まず、この開会式終了後10時から午前中いっぱい各予選が行われ、休憩を挟んだ後にそれぞれ準決勝、決勝が行われる。今回の出場は6組。当日に組み合わせが決まるため、シード権を得られるかはわからないものの、最大で3組のペアと試合を行うことになる。

 またこのトーナメント戦では2勝先勝方式がとられ、3戦を行う間に先に2勝した方が次の試合に臨めるというルールになっている。元々出場組が少ないこともあってか、見ている生徒へより専用機持ちの力を存分に見てほしいという考えからこのようになったそうだ。

 つまりは、最大で9試合を1日で終えようとすることになる。きっとタッグマッチが終わる頃には私たちはヘトヘトになってベッドに飛び込んでいるだろう。

 

「それでは、実りのある時間になるよう、期待を込めて開会のあいさつとさせていただきます」

 

 いつになく、タッグマッチについて真面目な話をしていた会長は一瞬、マイクから離れ、目を閉じて一呼吸を置く。そして、再び目を開けた会長は、いつもの何かを企んでいるようなしたり顔に戻っていた。

 

「とまぁ、堅苦しいのはこの辺にして、お待ちかねの対戦表を発表しまーす!」

 

 注目!と会長の右手に持っている扇子で真後ろのスクリーンを指した。先程からずっとくるくると回っていた校章がどこかへ消え、そこには今日の対戦トーナメントが現れた。

 

 

 

 

 

 人っ子ひとりいない廊下を私は歩いていた。

 残念ながら、シード権を得られなかった私と鈴の組はオープン戦に出場する。今向かっているアリーナは第三アリーナで、もう一つの初戦は第四アリーナで行われる。そちらは、一夏と更識簪ペア、そして箒と楯無会長のペアが争うという。何とも仕組まれたというか、因縁の対決というか…。とにかく色々と考えてしまうような組み合わせだ。

 以前の学年トーナメントもそうだし、一夏って本当に持っている男だなあと感心してしまう。悪い意味で。

 さて、こうして他人の心配をしている私だが、まず今自分の身におかれた状況について心配しなければならない。何せ、オープン戦の相手は上級生なのだから。

 

 アリーナの更衣室前に着くと、何やら話し声が中から聞こえてきた。

 既に来ているか、と思いつつ私は更衣室の自動ドアに手を触れる。プシュっと気の抜けた空気音が聞こえ、ドアが開く。目の前には、4、5人が横に寝転がれる程の広い空間と見慣れたロッカーがずらりと立ち並んでいた。更衣室内に入ると先程聞こえていた会話がより一層はっきりと聞こえてくる。どうやら私が入室した事に気づいていないようだ。

 その声に導かれるようにロッカーとロッカーの間の道を進むと、声の主たちがいた。

 

「あん?誰だ…ってお前もしかして…」

 

 見かけるなり私に睨みをきかせようと、前屈みになり威圧しようとしたのは背の高く、金髪をポニーテールのように後頭部に束ねている生徒だ。

 既にISスーツには着替えており、スーツの上からでも分かるような、セシリアや箒に勝つとも劣らずの抜群のプロポーションだ。…私の理想的な体型でもある。

 

「こんにちは、ケイシー先輩。サファイア先輩。私は今日この後戦う相手のハーゼンバインです」

 

「あー…確かそんな名前だったな…」

 

 私が挨拶をすると右手を顎に当て、目を細めながら私の全身をくまなく、まじまじと見る彼女、ダリル・ケイシーさんは何とも微妙な反応をする。

 

「先輩、さすがに対戦相手を確認してないのは失礼っスよ」

 

「いやー、どうせ戦うんなら相手が誰であろうと変わらないじゃん?それに勝つのはオレらだし?」

 

 制服をロッカーにしまい込みながら、ジト目で見るフォルテ・サファイアさんにケイシーさんは腕組みをしながら自信ありげに勝利宣言をする。

 

「初対面の相手にそこまで言っちゃう先輩の神経は未だに分からないっスよぉ…。あっ、いっつも先輩ってこんな感じだから気にしないでもらいたいっス」

 

 ケイシーさんの発言にフォローをしたサファイアさんも既にISスーツに着替えていた。

 長い黒髪を三つ編みにし、肩にかけている彼女は隣にいるケイシーさんと比べたら小柄で、彼女が猫背になっていることがより、そのシルエットを小さくしていた。私や鈴と同じくらいの体格だろうか。

 

「あれ?」

 

「ん?どうしたんだよ、フォルテ」

 

「いやーこの子、どっかで見覚えがあるんスよねぇ」

 

「何だお前もか。そりゃぁ、対戦表で名前見たんだろ?」

 

「そりゃそうっスけど…」

 

 何か引っかかるのか、今度はサファイアさんがむむむっと唸りながら私の方へ近づきじっと見つめる。

 …そんなに私の格好が珍しいのだろうか?

 

「君ってもしかして、新聞部に所属していたりするんスか?」

 

「ええ、まあ…そうですが」

 

 私が新聞部だということを伝えると、彼女は何かを思い出したのか目を見開く。

 

「ああ!思い出しちゃったっス!」

 

「ほう。んで、何を思い出しちゃったんだ?」

 

 後ろで興味なさそうにロッカーに寄りかかっていたケイシーさんが尋ねると、サファイアさんは彼女のいる方へ振り向いて興奮気味に話し始める。

 

「先輩!よく私が噂のデザート屋とか評判の良い食事処に行きたいって言っていたじゃないっスか!」

 

「…ああ、お前が本に書いているからってオレをよく連れ回すけど、それがどうしたんだ?」

 

「そう!まさにその本!『インフィニット・ストライプス』の食事レビューコラム担当が何とこの子なんスよ!」

 

 そっか、と他人事のように言うケイシーさんにサファイアさんは、彼女に噛み付くような勢いでインフィニット・ストライプスの話をし始めた。

 

 

 サファイアさんの愛読しているであろうインフィニット・ストライプスとはIS関連の情報を取り扱っている雑誌だ。その中で、IS学園の新聞部とのコラボとして一つのコラムを頂いている。

 そもそも、何故雑誌とコラボができたかというと、新聞部の黛さんの姉から依頼があったのだ。黛さんの姉はIS関連の雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長を務めるほどすごい人で、新たな企画としてこの話が上がったようだ。

 IS学園は世間ではいわゆる高嶺の花のようなもので、誰もが知る有名な教育機関だ。その倍率は万を優に超える中で選ばれた少女たちは、ただの高等部の学生でも箔がつき、それを言い表すかのようにIS学園の生徒が登場する号だと出ない時と比べて売り上げが伸びたらしい。

 現に、よく先生からの指導で街中を歩く際にはキャッチなどの声かけには注意するように言われるほど学生への声かけが後を絶たないという。どこで顔が知られているのか定かではないが、よくナンパされた、という話はたびたび耳にする。一種のアイドルのような熱狂的なファンがいるらしく、あくまで噂なので本当かどうかは知る由もないのだが。

 なので、このようなことはまずする人はいないだろうが、IS学園の制服で街を闊歩するという行為は極めて危険とされている。だから、このことをいち早く少佐へ教えていただいたシャルロットにはとても感謝しきれない。

 さてこうして大人の事情によって頂いたコラムで、我々新聞部が総力を挙げて数々の話を書いてきた。IS学園の現状について話や学生目線でのお店、ファッションの話。数々のコーナーが単発で終わっていく中、なぜか生き残ってしまったのが食事レビューのコーナーだった。

 

 

「いいっスか?まずこの子が書くお店のレビューが正確な所がすごいんス!良くも悪くもお店の雰囲気から料理に至るまで事細かに書いてあってとっても分かりやすいのがまずポイント!」

 

「うわぁ、変なスイッチ入っちまった…」

 

 ケイシーさんが若干引き気味に後ろへ下がる。

 先程までやる気のなさそうにしていたサファイアさんを見れば誰でもこうなるだろう。

 

「さらに、というかここが一番コラムの読み所なんスけど、何と!この子がお店の全メニューを食べてレビューする所が何とも豪快なんスよ!」

 

「…それほんとかよ?」

 

「いや、まじっス!毎回きちんと全メニューが書かれたレシートが写真に載せられているのがこのコラムの定番なんス!」

 

「にしても、そんなにこいつが大飯食らいってイメージ湧かねぇなぁ。体ちっこいし、太ってないし。ホントに食っているのか?」

 

「きちんと食べていますよ」

 

「ふーん…。だったらもうちょい体つきとか成長してもいい気がするんだけどなぁ…。その栄養どこ行っているんだ?」

 

 私だってどうして成長したいのか知りたいくらいなのだが…。

 

「それで!この子のことをプロフィール名から『ゴーグルちゃん』とか『無限の胃袋(インフィニット・ストマック)』っていう愛称がつくくらいにインフィニットストライプスファンの間で言われているんスよ!」

 

 うわぁ…センスの欠片もない名前。まだ黛さん命名の方がマシである。

 

「いやーこうしてタッグマッチで対戦するっていうのもなんだか運命感じちゃうっス!というか色々とハーゼンバインちゃんに聞きたいことがあるんスけど…」

 

 ケイシーさんから離れ、息を荒くしているサファイアさんは私の方へとじりじりと詰め寄る。その時だった。

 

『それでは入場を開始します。一般生徒は指示に従い…』

 

 入場の指示のアナウンスが天井にあるスピーカーから流れ出した。入場の開始。つまりは、試合開始の1時間前という意味を示す。

 

「んじゃ、オレらも行くか」

 

「ちょっ…先輩!?私はまだ…」

 

 同じく放送に気がついたケイシーさんは、サファイアさんの手首を掴み半ば無理やり更衣室の出口へと引っ張っていった。

 

「んじゃ対戦楽しみにしているぜ、ゴーグルちゃん?」

 

 サファイアさんの抗議を無視しつつ、ケイシーさんはこちらへ手をひらひらと振り、二人はその場を後にした。

 プシュという気の抜けた空気音をして閉じる扉に私はふと我に返る。

 嵐の後の静けさとも呼ぶべきか、いやいつもの雰囲気に戻った更衣室で私はいそいそと身支度を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、予定通り玲菜ちゃんは第四アリーナの取材をお願いね!私は第三アリーナで織斑くんたちの一言をもらってくるから!」

 

「了解です!黛先輩!この私にお任せあれ!」

 

 私は自分の一眼レフを手に持って自信たっぷりに答えた。

 

 いつもの、というか学園側から依頼されて、新聞部は急遽執り行われる専用機のみのタッグマッチの模様を取材している。いつもだったら、一年生組の私とクリスタが各出場生徒の一言コメントをもらってくるけれども、クリスタはタッグマッチの出場生徒。残念だけど一緒に回ることが出来なかった。なので代わりに黛先輩が一言コメントをもらう訳に回ってくれていた。

 私自身、こういった取材は好きだと思っている。学年が上がるとアリーナにある機材をいじくるらしいけれども、あんまりそっちはやりたくないかなって思う。だって、まじかで専用機持ちと会話をするなんて体験まず一般生徒の私が出来ないんだもん!試合前の緊迫した中で答えてくれるみんなを見て、私も皆みたいにいつかISを持ったりするのが夢だし、そのためにIS操縦頑張ろうって思えるからね!それじゃあ、まずは上級生から取材をしちゃおうっと!

 

 久々の取材に、軽やかな足取りになる私は、まず上級生たちがいるピットに向かった。

 

 

 

「うーん…一言か。こういうのは昔から苦手でなぁ…」

 

「先輩、そんなおっさん臭いこと言ってないでしっかりするっス」

 

「苦手なのはしょうがないだろ!うーん…ならこれだな。オレのヘル・ハウンドとフォルテのコンビに勝てる奴はいないんだ、覚悟しておけよ?」

 

「おおー、何とも強気な発言頂きましたぁ!」

 

「ま、一言言うくらいこれくらい大口叩いておかないとな」

 

 スタイルの良いケイシー先輩はめんどくさがりながらも白い歯を見せる百点満点の笑顔で一言コメントをしてくれた。

 

「バッチグーです!それじゃあ次にサファイア先輩どうぞ!」

 

 ケイシー先輩に向けていた録音機をパートナーであるサファイア先輩に向ける。

 

「えー、おほん。先輩が言っていることは間違いないっスよ。私のコールド・ブラッドの手にかかれば手も足も出せなくなるから、覚悟しておくといいっス!」

 

 三つ編みのサファイア先輩は事前に準備をしていたのか、すらすらとコメントを言ってくれた。

 

「はい、おっけーです!先輩方インタビューに答えてくれてありがとうございましたー!」

 

 二人にお礼を言うと、ピット内に聞きなれた予鈴が鳴り響いた。

 

「おっと試合30分前か。オレたちの対戦相手に取材するなら急いだほうがいいんじゃないか?」

 

「あ、ほんとだ!そうですね。私はこれで失礼します!」

 

 私は一礼すると、その場を後にした。

 次は鈴ちゃんとクリスタへのインタビューだ。

 

 それにしてもかっこよかったなぁ…。

 ふと、鈴ちゃんたちのいるピットへの移動中にふとケイシー先輩の事を思い返した。

 三学年唯一の専用機持ちである彼女の人気が高いのは重々承知している。あのさばさばとした性格に、スタイル抜群の体つき。誰しもが夢見るであろう、姉御肌そのものだった。おまけにIS操縦がうまいときたもんだ、一目置かれないはずがない。それに、その人気を表すかのように彼女には、サファイア先輩という恋人がいる。別に女の子同士がくっつくということは今のご時世、当たり前のことになっているし、あのケイシー先輩のことだから、さぞ他の生徒からも告白されていたのだろう。

 そんな学園内での恋愛事情で顔が熱くなってしまった私はぶんぶんと顔を振り、次の取材へと切り替える。

 ちらりと今歩いている廊下を見て、誰もいないことを確認する。だって一人で顔を真っ赤にしているところを見られるなんて恥ずかしいもん!ここに誰も居なくてよかったと思わず安堵した。

 

 

 

 

 鈴ちゃんたちのいるピットに着くと、ISスーツを着ている二人はすぐに見つかった。何かの備品が入っているであろう、銀色の箱の上に二人は座り込み、気難しそうな表情で手元にある画面をじっくり見ていた。きっとこの後の試合の作戦を立てていたのだろう。鈴ちゃんたちに近づくと、私が声をかける前にクリスタが私のことに気づいたみたい。

 

「鈴、新聞部の取材が来ているよ」

 

「やっほー二人とも!試合前のインタビューに来たよ!」

 

 私はひらひらと手を振り、一枚写真を撮る。

 

「なんだ、玲菜じゃない。いっつも大変ね」

 

「まあまあ、こうやってみんなのとこに取材に行くのが好きなわけだし?楽しいから別にいいの!」

 

 もうすぐ試合が始まっちゃうからと私は早速録音機をポーチから取り出した。

 

「またコメント?前回のコメント流用できないの?どうせお蔵入りになっていたでしょ」

 

「何言っているのさ!こういうのは新鮮さが大事なの!ささ、コメント頂戴!」

 

 情報は魚のように新鮮さが大事だと黛先輩は言っていた。さすがにこれだけは譲るわけにはいかない!

 

「うーん、そうねぇ…。最近練習試合ばっかりだったし、ここらで私の本気をみんなに見せつけないとね!」

 

「おお、いいコメントありがとー!我らがクラス代表!先輩方を倒しちゃってください!」

 

「当たり前じゃない。相手が誰であれ、私の華麗なる技術を見せつけるだけよ!」

 

 ふん、と鈴ちゃんは胸を張って高らかに宣言する。ここで一枚写真をパシャリ。いいどや顔である。

 

「さてと次は…」

 

 クリスタの番だね、と言おうとした時だった。突然、大きな機械音が右側から聞こえてきたのだ。その機械というのは、遠くに見えるISの出入り口であるピットの扉で、それは大きな音を立てて上に上昇していた。外からの風がピット内に吹かれ、地面にあった砂が巻き上がり、私の制服にぶつかる。

 

「あれ?もう試合なの!?」

 

 私はひどく後悔した。

 10分前には取材を終えようとしていたが20分前にはピット内には入ってはいけなかったようだ。私の見積もりの甘さが露呈してしまった。だが、クリスタは私の発言をフォローしてくれた。

 

「いえ、普通は教員からの指示があった後に扉は開くはず。指示なしで勝手に開くのはこれまでないよ」

 

 ピット内に大きな音が響き渡る中、クリスタは巻き上がる砂を腕で防ぎながら大きめの声で叫んだ。

 つまりは誤作動なのだろうか?どちらにせよ、試合はもう少しで始まってしまうのだから、急いでクリスタのコメントをもらわないと。

 

 がこん、と音を立てて扉の開ききりアリーナが一望できるようになった。アリーナから見える空はあいにくの曇り空。濃い鼠色の雲たちが空を覆いつくしていた。秋の肌寒さに身震いするも、録音機の録音ボタンを押す。とにかく今は取材を終えることを優先させないと。

 焦る気持ちを抑え、クリスタの向くと彼女はこちらではなく、開かれた扉の方をじっと見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「何…あれ」

 

 クリスタは独り言をつぶやく。鈴も同様に扉の方を見つめ、そして身構えていた。

 その時、ふと再び風が巻き起こるのを感じた。ただ、それは先程とは違う、メリハリのある風。まるで、自然ではなく人工的に作られたような。そんな感じだった。

 私も二人と同様に扉の方を見てみる。

 

 すると、そこには人型の機械が上空から舞い降りてきていた。

 両手を横に広げ、足を綺麗に揃えている機械はまるで天使のように優雅に羽を広げながらピットの地面に着地した。その機械は赤く、体のあちこちにはいくつもの大小様々な丸が造形されており、右手には鋭利な刃物があった。

 

「これって先輩方のIS…?」

 

「いいや、こんなISじゃないね。先輩たちのは」

 

 私のつぶやきにクリスタは自身のIS、サンドロックを展開しながら応えた。ちらりと鈴も見ると同様に甲龍を展開していた。

 

「じゃあ…」

 

 誰のISなのだろうか。そう言い切る前に、赤いISのようなものはこちらへ歩み寄りながら左手をこちらに突き出した。

 羊のような角状の突起物のある顔は描かれた線に沿って黄色く光るだけで何も答えなかった。その代わりに。

 

 その代わりにそれは、左手から音を発していた。4つある細い爪を目一杯に広げ、その手の平にある小さな4つの丸から緑色の光を発することで答えていた。でもそれが、私にはコミュニケーションを取るためのものだとは全く思わなかった。そしてそれはすぐに、聞き慣れない音を発しながらこちらに撃ってきた。

 

 

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