俺は一つ疑問に思うことがある。
俺に与えられている役割は、システム内に囚われた箒たち専用機持ちの救出だ。最初は何分、初めてやることだったのもあり戸惑うことがあった。だが今となってはもう救出する要領が分かり始めてきた。だから、あいつらを救うために俺が一体何をするべきなのかがはっきりとしだしてきた。それは、あいつらを捕らえている
確かに、やり方は分かった。実際に鈴やセシリア、シャルも救出している。
でも、何故偽物の俺が出現しているのかがわからない。俺の中での一番の疑問だ。
これまで会ってきたもう一人の俺は、自分が言うのもあれだが、とても似ていた。身長も大体同じだし、髪型も声も俺そっくりだ。
しかしながら、こうして会ってきたもう一人の俺は誰もがヤバい奴らだった。半裸で襲う変態に、ダサい水着を着た覗き魔。さらに着替えを堂々と見るやばい奴。そして極め付けは、変な棒を持ちながらラウラの身体にベタベタと触る変態だ。
どうしてどいつもこいつも変態しかいないんだ?
再びあの宇宙空間みたいな場所へと戻ってきた俺は、これまで会ってきたもう一人の俺の異常性に落胆していた。もはや俺への当てつけとしか言いようがなかった。
一回だけならまだしも何度も救出に向かい、もう一人の変態な俺と会うたびに俺への精神的ダメージが蓄積していった。声は俺だけれども、しゃべり方や仕草がなんとも卑猥だし、気持ち悪いしで俺の気分はどん底にまで突き落とされた。確かに見た目とかはそっくりかもしれないが、やっていることは俺がするようなことではない。
そうだ、俺は今まで遭ってきたような偽物の俺のような行為は大嫌いだ。今のご時世、男が女に襲い掛かるとどうなるかは火を見るよりも明らかだ。昔よりも法律とかが強化されたらしいが、不審者というのは後を絶たない。たまに、テレビでもよくそのような事件は報道されていた。そんな社会的な非難を浴びるようなことを誰が進んでするものか。ただでさえ、IS学園は女の園。男の俺の人権はほとんどないっていうのに…。第一、あいつらはIS学園の仲間であって、IS操縦を教えてくれる先生でもあって…。
いや、何を考えているんだ俺は。今はそんなことを考えている暇ではない。いらぬ空想に入り浸っていた俺は頭を振り、その空想を取り払った。
「簪、いるか?」
俺はその場で簪を呼ぶ。すると、どこからともなく聞き慣れた声が聞こえてくる。
『…いるよ』
「さっきラウラを救出した。そっちに連れ戻してもらえないか?」
俺の目の前に簪の姿が映っている映像が現われる。俺の言葉に彼女はうなずくと何かを操作し始める。その様子を見た俺は腕に抱いているラウラに視線を下げた。
一定のリズムでゆっくりした呼吸をするラウラは、目を閉じて俺の腕に抱かれていた。こうして見ると可愛いもんだな。思わず、空いている手でラウラのほっぺたをぷにぷにする。弾力のある白い肌がなんとも触り心地のいい感触だった。
ラウラをエプロン以外着させないで辱めていた変態な俺を倒していたら、気づけばラウラは気を失っていた。最初は例のウイルスに感染してしまったのかと焦ってしまったが、そんなことはなかった。
身体に異常はなく、何事もなくこの宇宙空間へと戻ってこられた事に俺は一安心した。ちなみに今ラウラはきちんとIS学園の制服を着ていた。
『…いいなぁ』
俺の姿を見ていた簪が何かをつぶやく。
「何か言ったか?」
『いや、何でもない』
簪は俺から視線を外し、否定する。
何でもないならいいんだが…。
そしてすぐに、ラウラの身体が光始めると跡形もなく俺の腕の中から消え去っていった。…ラウラってほんと軽いよな。
「さてっと。残るは二人か」
その場で立ち上がった俺は目の前にある二つの煌々と眩しく光っている扉に目を向けた。未だシステムに囚われているのは、箒とクリスタの二人だけである。
「どうせ、また俺が出て来るんだろうけど…」
俺にとっては残念である未来を見通してしまったことに思わずため息をこぼす。まあ今となっては、変態な俺に遭うことには慣れてしまったからそれほど心にくることはあまりなくなってしまった。…慣れって怖いな。
まばゆい光から解放され、目を開けると俺は瓦屋根の付いた大きな門の前に立っていた。その両脇には白い壁が敷地内を囲むように立ち並び、ふと後ろを振り返れば辺り一帯木々で生い茂っていた。
どこからか聞こえてくる鳥のさえずりを聞きながら、なんとも和風な家だなと俺は思った。暖かな日差しや木の葉を揺らす風の音がまたさらにゆったりとした時間を感じさせる。
…にしてもなんで俺は剣道防具を着ているんだ?
先程までIS学園の制服を着ていたはずだったのに、なぜか俺の服装が変更されていた。白く塗られた防具となぜか持たされていた竹刀をまじまじと観察していると、目の前の門から大きな声が聞こえてきた。その声は、俺にとっては聞きなれていた声で、そして懐かしい声だった。
門の扉をゆっくりと開け、敷地内へと入る。舗装されている開けた場所の先には大きな建物が、篠ノ之道場がそこにはあった。
門のから正面にあたる扉が少し開いており、中で試合をしている姿がちらりと見えた。俺は道場まで素早くかけ、身を隠し中の様子を確認した。道場内には試合をしている人物以外に人影はなく、”気”の溢れる両者の声で響き渡っていた。やがて、その試合は面への鋭い一閃によって終わりを告げた。
「「ありがとうございました」」
竹刀を収め、試合をしていた両者は礼をする。その姿を、俺は昔の小学生の頃の記憶をたどりながら見ていた。
俺とあいつが知り合ったきっかけでもある剣道。守られる立場ではなく、守る立場でありたいという幼いころの願いを叶えるために、千冬姉のように強くなるために、俺は千冬姉の伝手もあって篠ノ之道場へと通い始めた。
「だいぶいい感じになってきたな」
勝利をもぎ取った偽物の俺が防具の面を脱ぎ、額の汗を拭く。
「ああ、一夏もな」
そして、その相手をしていた箒も防具の面を脱いで爽やかな笑顔で答えた。そして両者はやれこれから掃除をするだの、やれ朝食は箒の好物を作るだの、と何とも仲睦まじい姿を見せていた。
おかしい…。
俺は二人のやり取りを聞いて、並ならぬ違和感を覚えた。確かに、今の箒の様子はおかしい。今までの彼女では考えられないくらいに落ち着いた雰囲気を出していた。それにむすっとしたいつもの仏頂面ではなく、頬の筋肉がほぐれた笑顔で偽物の俺と楽しげに会話をしているのだ。
いっつもあんなにニコニコとしてないのに…。なんだよ…。
箒もそうなのだが、偽物の俺の様子もおかしい。
これまで遭遇してきた偽物たちは、どちらかといえば犯罪行為をしている危険な奴らだった。鈴をはじめとしてみんなに何のためらいもなく危害を加える、そんな奴らだった。しかし、今俺の目の前にいる偽物はそうではない。あいつは箒に対して優しく接しており、今までの奴らとは全く別行動をしていたのだ。二人で仲良くモップで道場の掃除をしている様子を見て、眉間にしわが寄る。
どうしてだよ。どうして、お前は俺と話すときにそんな顔をしてくれないんだ?俺が何をしたっていうんだよ。俺の何がいけないんだ?どうして、なんであんなに優しそうに…幸せそうに話すんだよ、これじゃあまるで偽物のほうが…。
_____まるで夫婦みたいね。
頬をなでるような優しく吹く風の音に俺は我に返る。
何を考えているんだ、俺は。あの偽物のせいで箒は今、このシステム内に囚われているんだ。俺の視線の先には、笑顔を振りまいている偽物が映っていた。
_____じゃあどうする?
決まっている。
俺が俺であることを証明するまでだ!
「ん、誰だ?本日の道場は休みだが」
軽く開けられていた道場の扉を大胆に開けると、箒が掃除をする手を止めてこちらを向く。
「あー、えっと。道場破りだ!」
「何?」
「ここに俺…じゃない織斑一夏がいると聞いている。ぜひ手合わせ願いたい」
目的はただ一つ。偽物の俺をぶちのめす。ただそれだけだ。
「ほう…」
箒の近くにいた偽物が偉そうに上から目線で感心する。
「言っておくが、一夏は師範代である私と同等の実力者だ。貴様のような道場破りなどに負けるはずがない」
「それはやってみないと分からないぜ、箒」
そしてすぐに、偽物の俺と剣道による試合を行うことになった。
「一本!」
私は右手を上げ、試合が終わったことを宣言した。
一夏は挑戦者に対しての鋭い突きを放った。さすがと言ってもいい。本当に腕を上げたものだ。私は心の中で感心した。
「くぅ…もう一回だ!」
地面にへこたれていた見知らぬ挑戦者は、またも負けじともう一戦申し込む。
「どうする一夏?もう…」
正直に言えば、今私はお腹が空いていた。朝早くに起きて、朝練を行ってからしばらく経つ。まだ少し肌寒かったにも関わらず、気づけば既に外では日光が強さを増し、気温を上げつつあった。一体何戦しただろうか?一夏が連勝を続けて、かなりの時間が経過していた。
「うーん…。確かにそうだな、箒もお腹空いているだろうし、朝食にするか」
一夏は私の考えを読み取ったかのように同調すると、面を脱ぎ始める。
「おい待てよ!まだ…」
「君、朝食は食べたかい?」
「はあ?」
一夏が優しく問いかけると、地面にへばっていた挑戦者は苛立ち始めた。
「その様子なら朝食は食べてないようだね。ダメだよ、朝食を抜いては。いくら道場破りとはいえ、それなら万全の体制で挑めないじゃないか、違うかい?」
「何を勝手に…」
「すまない箒、悪いけど簡単な朝食を作ってくるよ。この挑戦者くんも含めて三人分」
立ち上がり、嚙みつくように吠える挑戦者を無視した一夏は防具を全て脱ぐ。
「ああ、了解した」
一夏はとんだお人よしだな。
彼の提案に思わず笑みをこぼす。いくら道場が休みとはいえ訪れた人物が、ただでさえ道場破りと称するやつの分の朝食を作るなんて。普通ならこんな非常識な奴を追い返していただろうが、私は一夏を見習わなければならないだろう。これがきっと剣道を嗜む者としての、道場を切り盛りしていく者としての器の大きさなのだろう。
一夏が道場から出ていき、この場には私とあの挑戦者が残っていた。こいつが開け放った扉から暖かな日の光とともに、そよ風が道場に吹いてくる。
一夏の行動を唖然と見ていた挑戦者は、ぶつくさと調子がどうのこうのとぼやき、その場に胡坐をかいてしゃがみこんだ。そして、考え込むように何かを思念し始める。
私も彼に倣い、とりあえずその場で正座をする。
道場内には草木がこすれ合う音が聞こえるだけで、それ以外の音は何一つ聞こえなかった。
気まずい。それが私の本心だった。私は目のやりどころに困っていた。
私はあいにく、一夏ほど社交性は高くない。見知らぬやつと道場で二人きり。この何もしない時間がきつくてたまらなかった。声をかけようにも、道場破りと称する見知らぬやつになど…。
それにしても、一体こいつは何なんだ…?
ふとそんな疑問が浮かぶ。いきなり休み中の道場に現れたかと思えば、こいつは道場破りだと声高に叫ぶものの、実力は一夏には程遠い。いや、足元にも及ばないだろう。この程度の実力で一夏に勝とうなどと。
しかし、私はどこかこの挑戦者に対して懐かしさを感じていた。忘れられた記憶の中に眠る何かが私に訴えかける。負けても向っていくこの姿は誰だったろうか…。
挑戦者に興味を持った私は、こいつに話しかけることにした。
「…少しいいか?」
白い面を被った奴はそのままこちらを向く。日の光によって面の中の様子は見えなかった。
「なぜ一夏に挑戦しようとする?」
そいつは頭を下げて、考え込む。
そして、ぽつりとつぶやく。
「助けたい人がいるんだ」
「助けたい人…?」
そいつは肯定しつつ、言葉を続ける。
「本人は今の状況に気づいていないんだ。多分、今この瞬間に満足しちまっていると思う。ずっとそのままであり続けたいと思っている。けど、それじゃあダメなんだ。これはきっと本人が望んでいないことだ」
「望んでいないこと…」
「いや、もしかしたら望んでいると思う。こうでありたい。こうなりたいって。でもそれはそいつじゃない。あいつはもっと、ずっと心の芯が強いやつだ。自分や他人に厳しく、常に前を見続ける。日々努力し続けるやつだ。ぬるま湯につかって満足するような、心の弱いやつじゃない。だから俺はそいつを助けたい。いや、助けなきゃいけないんだ。それが、俺の役目。俺がなすべきことだ」
「ならなぜ…」
「だから、俺も俺を、織斑一夏を倒さなければならない。俺が俺であるために、前に進むために」
助けたい人がいる。白いやつはそう言った。私はこいつの言葉にどこか引っかかるところがあった。なんだろう、こいつとは昔どこかであったようなそんな気がする。懐かしい感情が私の中で芽生え始めていた。
「どうしたんだ、箒?ぼうっとして」
一夏はおにぎりを頬張りながら私の顔を覗き込む。
「い、いや何でも…ない…」
一夏の顔をそらしながら、塩味のきいた一夏のおにぎりにかぶりついた。中身の具は鮭だった。ほどよく味付けされた鮭と香りを引き立たせる海苔が私の鼻腔をつく。簡単に作ったといっても手の込まれた美味しい朝食だった。
「にしても、頑固だな。あの人も」
一夏は道場の入口にいる白いやつに目線を向ける。そいつは渋々一夏からおにぎりとペットボトルのお茶を受け取ると、こちらに背を向けるように入口付近まで移動していった。一緒に朝食を食べようと気軽に誘うも、白いやつはそれを拒んだのだった。
一夏の作ったおにぎりはしっかりと食べているようで、面だけを外して外の景色を見ながらおにぎりを食べていた。
「せっかくだからあの人のことを知りたかったのに、残念だ」
「ああ、そうだな…」
私の耳には全くと言っていいほど一夏の言葉が入ってこなかった。なぜだろう。今の一夏の声が透けて聞こえてくる。
あの白いやつは助けたい人がいる。そう言った。その人物が一体誰のことなのかは私にはわからない。けど、彼のその姿勢はどこか私に深く突き刺さる言葉だった。
私はあの白いやつのような人物に会ったことがある。そんな気がした。自分より強い相手でもめげずに立ち向かい、果敢に挑戦する。たとえそれが無謀だったとしても、変わらないその姿。どこかで…。
私の視線は、竹刀を持って何か考え込む彼の後姿を誰かに重ねていた。
「はじめっ!」
気づけば再び一夏への挑戦が始まっていた。
私の頭の中は、この白いやつのことでいっぱいだった。なぜそこまで一夏に挑むのか、なぜめげないのか、なぜ…。
白いやつは、一夏の放った一閃に対応できずに胴に一本もらう。
「…一本!」
ふと我に返り、忘れかけていた審判としての役割を全うする。
「まだだ!」
白いやつは再び立ち上がり、竹刀を一夏に向ける。
「ああ、何度でも俺に向かってくるといい。俺は君の挑戦を何度でも受けてやる」
一夏は腰に手を当てて、どこか楽しそうに話す。
「俺は、お前を倒すまで諦めないからな!」
白いやつが吠える。敵いもしない相手に何度でも。
『箒、行ってくる』
あの時もそうだった。セシリアに勝てる見込みが少なかったのにも関わらず、試合までの期間が限られていたものであったのに、あいつは自信満々に私にそう言った。
『やります!俺がやってみせます!』
未知なる敵に一夏は戸惑っていた。初めての環境だった。周りで一つ浮いていたあいつは、皆の期待に応えるべく立ち向かっていた。
『じゃあ、行ってくる。まだ、終わっていないもんな』
皆の危機に一夏はめげなかった。朝日に照らされた岸壁の上で、私は泣いていた。一夏が無事だったことに安堵していた。一度は負けた福音にも、あいつは再び福音を止めるべく、挑んでいった。その姿を見て私は嬉しかった。どんなことにもあきらめずに立ち向かう。一夏はそんなやつだ。実力は確かに乏しい。きっとあいつもそのことを理解しているだろう。でも一夏は挑み続けるんだ、そして戦い続ける一夏とともに私も一緒に戦いたかった。
私の知っている一夏はあんなに強くもない。それに、今の自分に慢心しているうぬぼれたやつでもない。
私の、私の知っている一夏は負けず嫌いで、馬鹿みたいにお人好しで、諦めの悪いどうしようもないやつだ。そんな一夏が、私の憧れで、私の大好きな一夏だ。
「はあぁぁぁ!!」
一夏の放った一撃が、動きが鈍ったもう一人の一夏の面へと放たれる。
「一夏…」
私は無意識に彼の名前を呼んでいた。
「んん…」
私は目を開け、体を起こした。すると、私を囲むようにみんなが私を見ていた。
「箒!」
シャルロットが私の名前を呼ぶ。そして鈴やセシリア、ラウラが笑顔で私のことを心配そうに話しかける。
「箒…戻ってこられたのね!」
「お体に何か変なところはありませんこと?」
「無事に戻ってこられたのだな」
「みんな…」
そして、私は今まで何をしていたのかを思い出した。IS学園のシステムを取り戻すべく、電脳ダイブというやつをして、そして…。
その時、私はあることを思い出した。
「い、一夏は!?」
そうだ、私と電脳世界の中であったというならば、あいつは…。
「一夏は、まだ電脳ダイブ中よ、クリスタを助けるためにね」
鈴の言葉に私は我に返る。
ベッドから立ち上がり、左側にあるはずのベッドへと視線を向ける。そこには、いまだに眠り続けるクリスタの姿と、その隣に寝そべる一夏の姿があった。
「うう…」
俺は目を開け、その場から体を起こす。
周りを見渡すと、そこはアクセスルームだった。
アクセスルーム。IS学園の地下にある施設。そこで俺は、電脳ダイブをさせられて、そして…。
そうだ。さっきは箒を助け出したのだ。試合を重ねるうちに、動きの鈍ってきた偽物の隙を付いてどうにか倒すことができた。
今までとは異なる俺だったことに戸惑っていたが今はそんなことどうでもいい。これでどうにか
なんだよ、皆を助けていたのに俺は置いてけぼりなのかよ…。
あ、でもきっと楯無さんの見舞いに行っているのかもしれない。銃でお腹を撃たれていたから…。大丈夫だろうか。とりあえず、保健室へと向かおう。
考えを切り替えた俺は、ベッドから立ち上がり自動ドアへと目指す。確か、白式のデータに地図情報があったよな…。左手にある白式に触ろうとする。
あれ?
俺の左手には白式の待機状態であるガントレットはなく、俺の右手は何もない左腕をこすっているだけだった。おかしいな?まあなくても大丈夫か。
センサーに反応して自動ドアが開かれる。
明かりの付いた廊下に出た俺は左右の道を見渡す。すると、左側の道に見知っている人物が歩いていた。綺麗なプラチナブロンドをしているその人物はゆっくりと道の真ん中を歩いていた。
俺は思わず、彼女を追いかけようと後をつける。
「おーい、クリスタ!」
俺は彼女の名前を呼んだ。
しかし、クリスタはこちらを向かずそのまま歩き続ける。この人気のない、しかも静かな場所で聞こえないはずはない。
「なんで無視するんだよ!」
俺はその場で立ち止まり、叫ぶ。そして、もう一度彼女の名前を呼ぼうとした。
しかし、俺は名前を呼ぶことができなかった。
俺は胸に強い衝撃が、胸を強く叩かれたような衝撃を受けた。同時にクリスタがこちらを振り向いて、右手を真っ直ぐに伸ばしている。その手には、黒く光る銃が握られていた。
え?
視界がぐらついた。ぐにゃりと目の前の風景が混ぜ合わさり、次から次へと新たな模様を作り出す。前に歩こうにも俺は前に進めなかった。
俺は天井を向いていた。
一体何が…?
天井の光を覆い隠すように何かが現れた。
はっきりとしない視界が一瞬、焦点を合わせる。プラチナブロンドの幼い女の子が俺をみつめる。
その子は口を開き、呟く。だが、何を言っているかわからない。わかっているとすれば、右手には黒いものが、左手には白く光る何かがあって。
そして、黄金に光るものが俺の視界に入って。
次の瞬間、視界が真っ暗になった。
お いな の
あ
ぬ?
「うう…」
俺は目を開け、体を起こす。
周りを見渡すと、俺は床に寝そべられていた。硬く、何かでコーティングされた床に寝ていたせいか、背中がキリキリと痛む。
俺はどこかの管制室っぽいところにいた。右側には、ガラス張りの窓が大きくあり、何かを操作する機械が多くあった。そして、部屋の中央にはよくSFとかで見る司令官の座るような豪華な椅子があり、その傍らにある広いテーブルには湯気を立てているコーヒーメーカーと白い二つのコーヒーカップが置かれていた。
「おや、お目覚めかい?」
豪華な椅子に座っていた白衣を着ている人物が椅子から立ち上がる。そして、こちらを振り返った。
「こんにちは、もう一人の僕」
白衣を着ている人物、もう一つの俺。いや、偽物の俺が偉そうにニコニコと語りかけてきた。