神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第38話 もう一人の俺

「はあ?」

 

 俺はあまりにも信じられず、聞き返した。

 

「あれ?聞こえなかったかい?君は一回死んだんだよ。命が断たれたの。ああ、でも大丈夫!ここだと君は厳密には死なないから安心して」

 

 俺の目の前にいるもう一人の俺、いや俺の姿を真似ただけの偽物の俺が軽々しく俺が死んだといい始めた。

 そもそも、俺はこの見知らぬ場所に来る前にどこにいただろうか。たしか俺は箒を助け出した後…。

 

「思い出したかい?」

 

 偽物の俺は白い歯を見せ、胸に手を当てている俺にヘラヘラと笑いかけてくる。正直、こういう馴れ馴れしいパターンの俺もうざったく見えてくる。

 

「君は銃で撃たれたんだ。そして、殺された」

 

 正直に言えば、俺が死んだときのことの感覚は曖昧にしか覚えていない。何せ一瞬のことだったんだ。

 だがあの時の記憶を思い出すことはあまりやりたくない。体が熱くなり、言葉で言い合わらすことができないような激痛、平衡感覚がなくなりごちゃ混ぜになる視界。なぜか胸が締め付けられるように苦しい。息が上がり、足に力が入らない。あんな思いは二度も体験したくない。あれが死ぬっていうことなのか?

 

「クリスタ・ハーゼンバインに」

 

 

 

 

 

「いやー、君は記憶がないだろうけどあの後すごかったからね!心臓に二発撃っているにもかかわらず、そのあと容赦なく頭を…」

 

「おい」

 

 偽物の俺は俺の死を楽しげに話していた。正直気味が悪い。

 

「ここはどこだよ?というか、()()()()は誰だ?何が目的だ?」

 

 気づけば謎の動悸は収まっていた。ゆっくりとその場に立ち上がり、偽物の話を遮るように質問をすると、そいつは口を開けたまま俺を見て固まる。そして、ゆっくりとそいつは目と口を閉じて、鼻からおもいっきり息を吸い込み始めた。

 

「すまない。ついつい興奮してしまうのは僕の悪い癖で…。互いに落ち着こう。そうだ、コーヒー飲む?」

 

 偽物の俺は、近くに置いてあったコーヒーメーカーとコーヒーカップを指さした。

 

 

 

 

 

 この部屋には、それといった設備はなさそうだった。強いて言えば、何も映っていないモニターに、ガラス張りの窓があるくらいだ。まあ窓は何かのコーティングがされているようで、外の様子は全く見えないのだが。俺の記憶の中では、アリーナにある管制室の内装と酷似していた。

 

「誰が敵の言うことに従うんだよ」

 

 そもそも、偽物の俺を倒すのが電脳ダイブをした俺の目的だ。なんでそんな敵と一緒にコーヒーを飲んで休まないといけない。

 

「そうか、確かに君の言う通りだ…」

 

 偽物の俺は考え込むように腕を組み、顎に手をあてる。

 

「先に言っておくけど、僕は君の敵じゃない」

 

「…はあ?」

 

「どちらかと言えば、僕は君の味方に近い」

 

 何を言っているんだこいつは?

 

「確かに君はこれまで、数多くの僕と会ってきた。そして何度も争ってきた。でも、いまの僕は君へ攻撃しようとは思わない。実際に襲いかかっていないだろう?」

 

 

 こいつの言う通り俺は箒の時を除けば、偽物の俺は俺の姿を見た瞬間襲いかかってきた。そう考えると今目の前にいる偽物の俺は、少しは知性があるように見える。というか結構なおしゃべりだ。

 

「まだ疑っているの?…仕方ないなぁ。よし、これを君にあげよう」

 

 偽物の俺は指を鳴らすとそのまま右腕を伸ばし、手のひらを上にした。すると、その手のひらにはゆっくりと回転し、青く光る立方体が出現した。

 

「…なんだそれ?」

 

「これにはね、僕が調べ上げたものなんだけど…。今回の君のところの友人をこの世界に招き入れた人物の詳細な情報が詰まったデータマテリアルだ」

 

「なに!?」

 

 犯人を調べ上げた!?いったい何者なんだ、こいつは。

 

「お前、それどうやって…」

 

「まあまあいいじゃない、細かい事は。それよりも、証拠にこのサンプルデータを君にあげよう」

 

 偽物の俺は左手で立方体を操作し始める。今までよりも強く光り始めた立方体は形を変化させると、細胞分裂のように自分自身の体が二つに分かれ、小さなオブジェクトを作り出した。同じく青い、ひし形のオブジェクトが生き生きとその場で回転し始めた。

 

 

「左手を出してもらっていい?」

 

 仕方なく、俺は言われたとおりにあいつと同じように手のひらを上にして左腕を伸ばす。偽物の俺は俺の方へ指で送る動作をすると、そのオブジェクトはゆっくりと滑るように俺の左手へと移動し、手のひらに綺麗に収まった。偽物の俺へと視線を送ると、そいつはうなずき指で触るようなジェスチャーをした。

 渋々、手の上にあるオブジェクトに触るとISに乗っているときのように目の前に画面が表示された。

 

「黒…鍵?」

 

 それはISのデータだった。全くもって見たことも聞いたこともないISだ。装甲の材質や装備などのよく見るスペックデータが表示されている。そして、そのISのデータには奇妙なワードが表示されていた。

 

「ワールド・パージ?」

 

 武装の項目には、そう表示されていた。これは読み仮名を読んだだけで、実際には漢字で『分離解体の世界』と書かれていた。

 

「ああ、そのことは後で説明するよ」

 

 偽物の俺は青く光る立方体をしまいながら言う。しまうと言っても、手で握りつぶすことで青い結晶は跡形もなく消え去っていた。

 

「ちなみに、このデータマテリアルにはこの世界を作り出した人物の位置情報やら数時間後の行動予測もふんだんに盛り込んでいるからね。結構な大特価だと思うよ」

 

 もはや言葉にならない。それが今の俺の心境だ。なぜそこまでできるのか…。

 しかし、俺は少し疑問に思ったことがある。

 

「この情報とやらの信ぴょう性はあるのかよ?」

 

 結局はそうなってくる。確かに偽物の俺が言っていることが本当ならば、俺たちIS学園側にとって重要な情報になるだろう。だが、今俺の手元にあるこの情報が本当の情報だと俺はイマイチ信じられない。嘘だっていう可能性もある。

 

「はあ…。ほんと、つくづく説得というものの難しさを痛感するよ」

 

 偽物の俺は両手を広げ、ため息を吐く。そして、そいつは白衣の内ポケットから何かを取り出す。手には黒い拳銃があった。

 

「ああ、安心して。御覧の通り、弾倉は抜いている」

 

 偽物の俺は右手には銃を、左手には弾倉が握られていた。

 

「君の目的はこの世界の織斑一夏を倒すことなのは知っている。現に僕も君に何度も殺されているからね。目的を果たせられれば僕はきっちりと死ぬから」

 

 そして、偽物の俺は弾倉を銃へと装填し、ガラス窓の方へと向ける。次の瞬間、部屋全体を震わせるような大きな発砲音が聞こえてきた。

 銃から放たれた弾丸はガラス窓へと直撃し、ガラスに亀裂を作り出した。偽物の俺は慣れた手つきで、再び弾倉を取り外す。

 

「もし君が僕を信用して、僕の条件を呑んでくれるならこれらを渡そうと思う。もし僕が君に危害を加えるようなことをしたら遠慮なくこれをぶっ放してくれ」

 

 偽物の俺は銃を指で突っつきながら、落ち着いた様子で話し始める。

 

「条件ってなんだよ?」

 

「僕は君とお話がしたいんだ。ただそれだけだ」

 

「それだけ…?」

 

 意味がわからない。

 俺の気持ちを端的に表現するならば、この一言に尽きる。全く相手の意図がつかめない。これまで俺に襲いかかってきたくせに何を言い出すかと思えば。

 

「ああ。それだけだ」

 

 偽物の俺は自信ありげにうなずく。

 

「…。なんで、そこまでして俺を信用しようとする?もし俺がお前からその拳銃を受け取った時に、お前を撃ち殺してしまうかもしれないんだぞ?」

 

 偽物の俺はそうだね、と顎に手を当てて考え始める。

 

「そんなことはしないよ。だって君も織斑一夏なんだから。僕の知っている織斑一夏は狡猾で人をだますようなことをしない。それに、君はこの世界を知りたがっている。この世界がどんな場所で、なぜ織斑一夏が目の前に現れているのか」

 

 そいつの顔は真剣そのものだった。落ち着いた雰囲気で偽物の俺は、俺と同じ声を発する。

 

 確かに俺はこの世界のことが気になっている。これまでの話しぶりから、こいつから何か知っているのだろう。この世界のことや犯人、そしておかしな行動をしているクリスタのことを。

 相手のペースに乗せられている感覚を覚えつつも俺は渋々、このおしゃべりの条件を呑むことにした。

 

 

 

 

 

 

「君はブラック飲めるかい?」

 

「え?え、ええ…まあそれなりに」

 

 おしゃべりはどこからともなく、カフェテリアセットを取り出した。目の前にある白いテーブルや今座っている白い椅子。どこか、お店によくある洒落ているものだった。とりあえず、おしゃべりから受け取った銃はテーブルの上に置いておくことにした。…まあ銃の使い方はラウラから教わっていたから撃てないことはない。

 ちなみに、黒鍵とやらの情報は俺の手元にはなかった。どうも、俺の白式本体にその情報が送られたらしく、千冬姉たちに伝達される仕組みになっているようだ。

 

「はい、どうぞ」

 

「…どうも」

 

 おしゃべりは俺の目の前にコーヒーを置く。きちんとコーヒーカップの下にはソーサーが置かれていた。これも気品のあるというか、高価なものっぽいやつだ。

 

「残念ながら菓子は用意できないんだ、ごめんね」

 

 おしゃべりは苦笑いしながら俺の向かいの席に座る。俺は渋々、おしゃべりが淹れたコーヒーカップを手に取る。…ブラックって飲んだことないんだよなぁ。思い切ってそれを口に含むと、口の中全体に苦みが広がる。正直言って慣れない味だ。よく香りを楽しむとかって聞くが、俺にとっては全然楽しめない。だが、我慢してそれを飲み込んだ。

 俺がコーヒーを飲んだ様子を見てから、おしゃべりは満足げな表情を浮かべて優雅にコーヒーを飲み始めた。

 

「僕の淹れたコーヒーを飲むのがそんなに不満かい?」

 

「…何でこの世界で、しかも俺そっくりなやつとコーヒーを飲み合わないといけないんだよ」

 

「まあまあ、そうカッカしないで。こういうのは雰囲気を楽しむものだよ」

 

「一方的に楽しさを押し付けられても困る」

 

「そうか…それは残念だ」

 

 おしゃべりは苦笑いをして、コーヒーカップをソーサーに置いた。

 

「さて、本題に入るか」

 

 おしゃべりは手を組んで俺の瞳をじっと見つめる。

 何というか、不思議な感覚だった。まるで、鏡の前で一人だけで話をしているように見えるのだ。

 

「そうだね、まず今いるこの世界についての話を始めようか」

 

 おしゃべりはとても楽しげに、笑みを浮かべながら話し始めた。

 

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

「どうしたんだい?」

 

「その前に教えてくれ。…お前は誰だ?何者だ?」

 

 そいつは一呼吸おいて、口を開いた。

 

「僕は織斑一夏だよ」

 

「…はあ」

 

「見てわからないかい?君も織斑一夏なら、僕も織斑一夏だって理解しているはずだよ」

 

 確かにみてくれは俺そっくりなのは理解している。だが、それは俺ではない。

 

「そうだね、こんな話はどうだろう。僕がよく遊んでいたゲームの『IS/VS』ではテンペスタがお気に入りだ。使いやすいチャージ射撃や一定の体力まで減った時に発動するハイパーモードで一掃するのが楽しいんだよね。それにしても、弾が頑なに玄人向けの打鉄を使い続けているのに、一向に上手くならないのは不思議に思うよ」

 

「なっ、なんでそんなことを…」

 

 目の前にいるこいつの言葉に俺は動揺させられた。

『インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ』のことはIS学園にいる連中には一言も話していない。そもそも、なんで弾のことまで…。

 

「まだ不満かい?なら千冬姉について話すか。千冬姉は相変わらずだから実家に帰省したらよく身の回りの世話をしているよ。だからか、千冬姉の下着のサイズはどれくらいかよく覚えてしまっていてね。学園で再会した以前よりもサイズが増えていたことには驚いたな。今のサイズは上が88で…」

 

「ふんっ!」

 

 もうこれ以上、俺の秘密をえぐられたくなかった。

 俺は恥ずかしさのあまり、頭をテーブルに打ちつける。がたんと大きな音が鳴り、テーブルの上に置かれていたコーヒーカップが揺れる音も聞こえてきた。

 

「…。どうしたんだい?」

 

「もうそれ以上はいい。というか言うな!」

 

 改めて思った。やはり偽物の俺は俺の精神を抉ってくる。それも大胆に。俺は見上げるようにおしゃべりの顔を見て、にらみつける。

 

「それと、勝手に千冬姉って呼ぶんじゃねぇ」

 

 なにより俺以外が千冬姉呼びをすることが癪に障る。

 

「…とまあこんな感じで僕は織斑一夏だ。理解してもらえたかい?」

 

「理解できるか!」

 

 何勝手に俺だけが知っている記憶を言いふらして、俺になろうとするんだよ。

 

「仮にお前が織斑一夏だとして、誰がそれを証明するんだよ。何より周りの皆がお前は織斑一夏だと言わねえ」

 

 こんなやつが織斑一夏だと皆は絶対に言わない。

 

「そうだ、それだよ!」

 

「はあ?」

 

 急におしゃべりは息を荒げる。

 

「結局、自分という存在を確立させるには他者の存在が必要なんだ」

 

「何言っているんだ、お前」

 

「確かに僕は織斑一夏であっても織斑一夏ではない。君の言う通り、現実世界に戻ったら君が織斑一夏となる。だって僕には、君のような僕が織斑一夏だと証言してくれる他者の存在が現実世界にはいない」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 とりあえずおしゃべりの言うことを肯定しておく。こいつの話している姿はなんとも嬉しそうに見えた。よく息継ぎなしでこんなにペラペラ喋れるもんだ。

 

「他の自我を持ち合わせている者が自分という存在を認めることで、社会が、周りの環境がそれを認めることで初めて、自分という存在が確立すると思うんだ」

 

「別にそんなことわざわざ言わなくても…」

 

「じゃあ、例え話をしようか。僕が君をこの場で殺めて、現実世界の存在もろとも抹消したとしよう。まあ、ここは電脳世界だし君の存在は消えないけどね」

 

「ああ、仮の話な」

 

「僕は君の姿そのままだし、記憶も持ち合わせている。性格も行動パターンも把握している。そんな僕が現実世界でいなくなった君の代わりに現れたとしよう。そしたらどうなると思う?」

 

「みんなとそのまま生活をするってか?」

 

「その通り。周りの他者は僕という織斑一夏の存在を認め、そのまま現実世界に溶け込むだろう」

 

「そんなの机上の空論にすぎねぇだろ。きっと誰かが違和感を覚えるはずだ」

 

「そうだね、大部分の他者は気づかずに生き続けるだろうけど、君の親しい人物ならば小さな変化に気づくだろうね」

 

「結局何が言いたい?」

 

「つまりは、自分という存在は自分自身しかわからないっていうことだよ」

 

 結局こいつの言いたいことは何一つとして理解できなかった。聞いているだけで疲れる。

 

 

 

 

 

「そろそろ俺の質問に答えてほしいんだが」

 

「おっとすまない。つい別の話に夢中になってしまったね」

 

 おしゃべりはありがとうと礼を言うと、優雅にコーヒーを飲む。

 

「僕がだれかっていう話だよね」

 

「ああ、そうだ」

 

「僕はいわば、監視役のような存在だよ」

 

「はあ、答えになってないぞ」

 

 監視役?一体どういうことだ?

 

「僕はさっき君に渡したデータにあった“黒鍵”によって作られた存在だ。現実世界に肉体を持たない仮初めの存在、このIS学園のネットワーク上にしか存在できない悲しい存在だ」

 

 おしゃべりはコーヒーがなくなったのか、コーヒーメーカーのある所まで歩いていく。

 

「僕の存在を君に説明するには、先にこの世界の説明をした方が良い。そのほうが理解しやすいと思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 カップに新たにコーヒーが注がれたことで、部屋中に匂いが充満する。その時俺は、ふとIS学園の職員室のことを思い出してしまった。あの時と似ていたのだ。

 

「さて、いきなりだけれど君はこの世界はどんな場所だと思う?」

 

 偽物の俺は向かいの席に腰かけると、俺に問いかけてくる。

 

「さあ…電脳世界としか」

 

「なるほどね。んで、この世界の正体なのだけれども…この世界はクリスタ・ハーゼンバインが作り出した世界だ」

 

「はあ、クリスタがか?」

 

 ますます意味が分からない。そんなことできるわけないだろう。

 

「正確に言えば、黒鍵が発端となって出来上がった世界だよ」

 

 黒鍵…箒たちをシステム内に閉じ込めたっていうあいつか。

 

「その黒鍵ってやつは何をしたんだ?」

 

「IS学園のシステム内に侵入した黒鍵は、自身を排除する動きに出ていた電脳ダイブを行った彼女らの精神に直接アクセスしたんだ」

 

「はあ?なんだそれ」

 

 どういうことだ?精神にアクセス?

 

「そして、心の奥底に秘めていた願望や渇望する夢を見せることで、黒鍵と接触させないようにしたんだ。いわば、この世界はクリスタ・ハーゼンバインが見ている夢といっても過言ではない」

 

「ここが、夢の世界…?」

 

「そう、ここが電脳世界であることもあって、彼女たちは自分たちが自由に思い描く夢を見続けていたんだよ。正確には彼女たちが電脳ダイブを行なったことによって形成された、個人データを媒体として夢をIS学園のシステム内に形成させたんだ。黒鍵と接触されないようにね」

 

 IS学園のシステム内に夢を作り出した?そんなことが可能なのかよ!

 

「さて黒鍵は、ISネットワークを通して彼女たちIS操縦者へ精神に直接アクセスし、このような出来事が起きてしまったわけだが」

 

 偽物の俺は白い歯を見せて、にやりと笑う。

 

「なんで、ISネットワークと操縦者との間にこのような道筋が作られていると思う?」

 

「なんでって。知るかよそんなこと」

 

 急にISの仕組みについて聞かれても俺は答えられない。

 

「僕はね、これは操縦者とISとがコミュニケーションをとるためだと思っているんだ」

 

「コミュニケーション?」

 

「ああ、そうだ。君も一度は聞いたことがあるんじゃない?ISにも意思があるって」

 

 俺はこいつの言葉を聞いたときに、ふと頭の中に言葉がよぎる。

 

 

 

 

 

『雪羅を持っちゃっているあたり少しは、デレてくれたのかな?君に感化されたのかも』

 

『いいですか!もう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話___つまり、一緒に過ごした時間で分かり合うというか…』

 

 

 

 

 

「ISも操縦者と一緒に成長していくんだ。より一緒にいるだけ、より長い時間過ごすだけ操縦者が技術を身に着けていくみたいに、ISも操縦者の気持ちに応えようとする、分かり合おうとする。ISはモノじゃない、人とは対等な立場だ。使う、使われるという単純な関係ではないんだよ」

 

「ISが分かり合おうと…」

 

「そう。ISは機械であっても機械ではない。あの子らだって生きているんだ。たとえそれが訓練機でようが、実験機でようが同じこと。あの子らなりに、パートナーを理解しようとしているんだ。君にだってそういう経験はあるんじゃないかな?」

 

 偽物の俺は手を組みなおし、にやけ面で俺を見つめる。

 

「だからこそ、白式は第二次移行(セカンドシフト)したはずだ。君に応えようとしてね」

 

「…わかんねえよ、そんなこと」

 

「君には実感がないだろうけども、白式は君の想いに応えたくてそうなったはずだ。じゃないと、白式が新たな力を君に与えないわけがない」

 

 

 

 

 

 白式が第二次移行した時の事は、今となっては記憶の薄れたものになってしまっていた。だが、曖昧だからこそより印象強くあの時の出来事はより抽象化されて、思い出される。

 

 銀の福音に敗れたあの日。

 戦闘区域内にいた漁船を守ろうとして、そして箒を守ろうとして俺はあいつに負けた。意識を失って、目を覚ました時には白式は既に新たな力を得ていた。

 あのままでは終われない。みんなを守りたい。そんな気持ちで溢れていた。

 

 俺の気持ちに応えたっていうのか…白式?

 

 

 

「さて、話を戻そう。…こうして夢の世界を引きずり込ませると、黒鍵は次のステップへと進んだ」

 

「次のステップ?」

 

「そう。黒鍵はより作り出した夢の世界に彼女たちを居続けさせるために、彼女たちがより夢の世界を楽しんでもらうために、一人監視役を作り出した」

 

「それがお前らだってことか?」

 

 偽物の俺は俺の問いにうなずく。

 

「そして、その監視役は素晴らしいことに彼女たちが特に強い願望を抱いていた織斑一夏、君が選ばれたってわけ」

 

 え?

 一瞬俺の思考が停止する。

 

「おいおい、そんなに驚くことかい?ここの電脳世界にやってきた彼女たちが君にあれこれしてもらいたいと思っていたから、僕たち織斑一夏が君の前に現れたんだよ」

 

 つまり、俺がこれまで救ってきた世界っていうのがあいつらの願望だったのか。…ていうことは。

 

「おい、そしたらあいつらは俺にあの変な行為をされたいって思っていたのかよ!」

 

「…つまりはそういうことだね。だからこそ、凰鈴音は織斑一夏に襲いかかってもらいたかったわけで、シャルロット・デュノアも君との主従関係を望んでいた。それに…」

 

 俺は再び頭をテーブルに打ちつけた。

 

「嘘だろ…。そんな冗談はよしてくれ…」

 

「なぜそれほど落ち込んでいるんだい?君がこれほどまでに()()()()()()ってことじゃないか。むしろ喜ぶ…」

 

「いや喜べねぇよ!」

 

 

 

 待て待て!

 おかしいじゃないか!だって鈴やセシリア、シャルはあれほど怒っていたわけで…。

 

「彼女たちの考えていることは彼女たちにしかわからない。現実世界に戻った時にでも聞いてみてはどうかな?」

 

「聞けるか!そんなこと!」

 

 顔を上げた俺は、今度は両手をテーブルに打ちつけて抗議する。あいつらなりにいろいろと思うことはあるはずだ。…ほらそこはプライベートな部分だし。

 

 

「ならよ。クリスタは、あいつは、どう思っていたんだよ」

 

 ふとそんな疑問が浮かぶ。

 あいつはあんまり俺と関わりが少なく方だ。そもそも、クラスが違う。俺のことをどう思っているのだろうか?しかし、あいつの夢の中でも、偽物の俺がいた。

 

「彼女の場合は今までのパターンとちょっと違うかな?」

 

 夏はコーヒーカップを持つとじっくりとその香りを楽しみだした。とても満足げに笑みを浮かべているその表情は、俺からしてみれば憎たらしく見えてくる。

 

「彼女の場合は、誰彼構わず人を殺したいだけだね」

 

 

 

 

 

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