神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第42話 私は正しいことをしている

 なぜ俺はあのまま見送ったのだろうか。

 無理にでも引き止めるべきだったのだろうか。俺には分からない。

 気付けば、IS学園行きのモノレールは終点に到着していた。

 

 明らかにあの時の楯無さんは無理をしていた。無理に笑顔を作っていたのだ。しかし、彼女は更識の問題だと言った。無関係な俺がしゃしゃり出る所ではなかったのは自覚している。何か手伝えることがあったんじゃないか?そんな想いが俺の中でぐるぐると巡る。

 しかしそれ以上に、そんな彼女に対して何もせず、ただ彼女の背中を見ることしか出来なかった俺自身の不甲斐なさに憤りを感じていた。

 

「あら織斑くんじゃない」

 

 聞き覚えのある声に俺は我に返る。

 気付けば俺は生徒会室に足を踏み入れていた。目の前の机には、虚さんと簪が何かの資料を前に話をしていたようだ。

 

「一夏…その荷物どうしたの?」

 

「あ、ああ。ちょっと楯無さんと買い物に行っていて。それでこの荷物を…」

 

 そうだ。俺は楯無さんが買った荷物を持っていってもらおうと虚さんに…。

 

 

 

 

『これは、私の…いえ更識の問題なの。だから、あなたを巻き込むわけにはいかないわ』

 

 

 

 ふとあの時の光景が再び頭に浮かぶ。

 そうだ。何も更識の関係者は楯無さんだけじゃない。他にもいるんだ!

 俺の中で何かが掻き立てられる衝動が起きた。絡まった糸がほぐれたように頭が冴え、居ても立っても居られなかった。両手に持っていた荷物を放り投げ、テーブルへと近づく。

 

「虚さん!」

 

 テーブルを強く叩き、二人は一瞬体をビクつかせる。そして、互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

「楯無さんは今、どこで何をしているんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楯無は違和感を覚えていた。

 進めど進めど聞こえてくるのは彼女自身の足音だけだった。鋼鉄の床から鳴り響く重々しい足音は、通路中にこだましていた。だがそれ以外の物音は何一つとして、彼女の耳やハイパーセンサーから聞き取れなかった。

 

 おかしい…なんで誰もいないの。

 

 楯無は秘匿艦に潜入してからそのことが頭から離れなかった。秘匿艦と言えど、彼女のいる船はただの艦ではないのだ。

 彼女がいるのは米軍特務部隊『地図にない基地(イレイズド)』が所有する秘匿艦。米軍屈指の技術力や実力を兼ね備えたIS専門の部隊と言われるあのイレイズドだ。その部隊の持つ船が意味もなく、日本付近の海に停泊しているわけがない。

 

 もしかしたら、何らかの事情があり寄港出来ずにいるという可能性もあった。この船は数十年ほど前まで、艦載機が豊富に搭載されていた空母として活躍していた。だがISの登場以降戦闘機などの既存の兵器よりも、ISに注力されるようになり、この船は空母としてではなくISの研究や実験、さらには実践訓練や輸送を行うための秘匿艦へと姿を変えている。そのISに関することで日本へやってきているとも考えられるのだ。

 

 だが、それでも今の状況を説明できる理由にはならなかった。なぜなら、彼女はこの秘匿艦内で人の姿を誰一人として目撃していないのだ。彼女が確認したどの部屋にも鍵は掛けられておらず、勤務している人や休んでいる人、談笑している人は誰一人としていなかった。しかしながら、どの部屋もライトだけは煌々と部屋全体を明るく照らしていた。それに物は荒らされておらず、壁や床に付着した血しぶきもない。

 まるで急に人が消え去ってしまったかのような、そんな不気味な雰囲気が漂っていたのである。

 

 

 これらの状況から考えられることはただ一つだった。

 

 ____この艦は、もう既にイレイズドのもの(秘匿艦)ではないと。

 

 長時間も停泊し、艦内に乗組員を残さない事に米軍のメリットは皆無であったからだ。なんらかの事情により、他の勢力がここ船を掌握している可能性があった。

 米国に敵対する勢力による仕業?元米軍人による蜂起?情報を握られていた亡国機業が手を回した?いくつかの可能性が彼女の頭によぎる。

 

 仮にどちらかの理由であったにせよ、尚更早くデータを回収せねばならなかった。それらにとって自分自身の存在は邪魔者でしかない。排除されるのは目に見えていた。

 

 改めて今の状況を飲み込んだ楯無は、より一層神経を尖らせながら彼女の頭の中で描いていた地図と照らし合わせて進む。その行く先々で彼女は何度も周囲の警戒を怠らなかった。突き当りでの分かれ道。扉のない開かれた部屋の前。左右に大きな謎の機械がある道。例えそれが人気のない異様な雰囲気の中でも、私は狙われていると自分自身に言い聞かせる。

 さらに、もしかしたら後をつけられているかもしれないと、いつでも対応できるようにと心の中に留めていた。仮に襲いかかってこられたとしても、自分の体に深く染みついた()が、自分の手が、足が、体が、脳裏に眠る本能が守ってくれることを信じていた。

 

 一歩また一歩と足を進めていくたびに彼女の鼓動は早まるばかりだった。まるで任務をさっさと終わらせて、この空間からすぐにでも脱したいと思っているかのように。普段行ってきた任務では、これまでこのようなことは考えもしなかった。仕事に責任を持ち、尚且つ完璧にこなしてきたからこそ今の()()があり、そして今の彼女がいた。だが、この秘匿艦へと潜り込んだ時に感じた違和感が彼女のこれまでのリズムを乱していた。別に何かに追われているという危機感も誰かの命が失われようとしているという焦りはない。並々ならぬ違和感と誰もいないにも関わらず感じる重苦しい空気が任務をしっかりと遂行させるよりも、事が大きくなる前にさっさと終わらせようという一種の焦燥感に心が大きく傾いていた。

 

 一体どれだけの時間が過ぎたのか、彼女にはわからなかった。彼女が誰もいない道を進んでいた間の時間というのはとても重く長く感じられていたはずだが、今はその感覚はすぐに一瞬のことであったと錯覚してしまうほどに安心しきっていた。

 

 楯無は念のためにと、ハイパーセンサーを展開させて、秘匿艦の地図を確認する。だが、すぐにISの不具合があるという表示で目の前を埋め尽くす。

 

 こんな時に故障なんて…。

 

 帰ったら修理をしようと心に決めて、故障しているという蛇腹剣(ラスティー・ネイル)の部分などを読み流し、地図を表示させた。そして目の前に現れた地図を触り、動かしながら今いる位置のずれがないか確認した。そしてすぐに、さっと左手を振り下ろして地図を閉じ、扉をじっと見つめた。彼女はこの秘匿艦の中枢に位置する、軍人の個人情報が眠るセントラルルームへとやってきたのだ。

 

 楯無は恐る恐る、目の前にある灰色に染まる扉のくぼみへと触れる。辺りが通路灯で淡く光り続けている所から、電気が通っているのは確かだった。

 扉へのハッキングの必要があるのか、もしくは無理矢理こじ開けなければならないか、と二つの可能性があると彼女は考えていた。だが彼女の手が触れるや否や、その扉は情けない擦れた空気音を立てて彼女を中へと招き入れた。セキュリティがかけられていない事に、不思議に思いつつも無駄な手間が省けたという幸運に感謝をし、彼女はすぐに中へと入った。

 

 やはりとも言うべきか、セントラルルーム内にも人はおらず、そして相変わらず光で明るく照らされていた。決して人を多く入れるためではないためか、それほど部屋の中は広くなかった。地面に固定された丸椅子が数個と、その椅子の目の前に置かれた青白い画面を表示し続けているモニターが各々用意されているだけだった。

 

 楯無は部屋の奥側に設置されたモニターの前にある椅子に座り、そのコンピュータへとハッキングをかける。この手の作業には慣れていた彼女はハッキングを手早く終え、データの吸出しをするために、少しだけ小細工をかけた霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)を部分展開し、コンピュータとリンクさせた。

 全ての準備を終えた彼女は一息をついてから、目的である亡国機業の関係者と思われる名前を検索する。

 

『スコール・ミューゼル』

 

 亡国機業の実働部隊と呼ばれる、要はISを扱う部隊の人物である。全く信ぴょう性がないとも言えるその情報を確かめるべく、霧纒の淑女はその人物の名前を自動的に探索する。モニターに表示される何百人ものアルファベットが高速に流していく様を彼女は見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いけませんね。部外者は立ち入り禁止ですよ?」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「あなたのような国家代表ともあろうお方が、こんな場所におられては国際問題になりかねません」

 

 楯無がセントラルルームの入口を見ると、そこには白い軍服を着た男がいた。白い帽子のからはみ出た髪や髭には白髪が混じり、顔に彫られた皺から年配であることがうかがえた。だがその男は老いを感じさせないくらいにピシッと背筋を伸ばして、カラフルな勲章が飾られている胸を張り、振り向いた楯無を見ていた。

 

「あなたが背負っているのは、家柄やIS学園の学生だけではないはず。あなたは国を、全国民の代表として立たれているのですよ。更識楯無。それを理解しての…」

 

「だから、こんなことはやめなさいって?」

 

 楯無は自身の左腕に部分展開しているISを流し目で見ながら指を指す。彼女の左腕からはいくつかの細い管がコンピュータへと延びていた。

 彼女は直感的にこの男は普通の軍人ではないことを悟った。彼女とて、ただ情報を収集するのをぼーっと待っているだけではない。ISのハイパーセンサーを使い、セントラルルームに近づく人物を調べるために熱感知センサーを発動させていた。普通ならば、誰かが近づくことでセンサーに反応があったはずだった、普通ならば。だが、今彼女の目の前にいる男は熱にも反応せず、そして音もなく彼女に近づいたのだ。最新鋭のシステムが組み込まれているこのISでさえも感知できずに、後をつけられたとなると、手慣れであるのは確かなことだった。

 

「悪いけどそんなお願いは聞けないわ。これは世の中のための大義よ」

 

「世の中のため…」

 

「そう。ただ純粋にISを学びたいと思っている学生が集まるIS学園に危害を加え、尚且つISを用いて世界中を混乱に貶めようとしている連中を放っておくわけにはいかない。例えどんなに汚くて、卑怯者だと罵られようとも、これは誰かが自分の手を汚さないといけない」

 

 日夜行われている国家間や反社会的勢力による裏工作。国力を蓄えようと、他国よりも優位に立とうと、利益を追求しようと…。様々な思惑から国を守り、そして国民を守ってきた。それが更識家であり対暗部用暗部であった。

 この世に更識家の人間として生を受けたからには避けられない道のり。何度も彼女は人間の汚い部分を見てきた。健全であったはずの世界の裏側に広がる醜穢(しゅうわい)で私利私欲にまみれた世界を知った。それを彼女は自分一人で受け入れ、そして今の地位にまで上り詰めた。それを他人から非難される筋合いはなかった。

 

 

 軍服を着た男は返事もせず、ただ楯無をじっと見つめていた。急な任務であったために彼女には護身する武器を持っていない。だが、今の彼女にはI()S()があった。それは彼女の左腕を見れば明らかなことだった。

 

 

「なら……あなたにとってのISは何ですか?」

 

「IS…?」

 

 楯無は、男の質問に思わず聞き返す。

 

「なぜ、あなたはロシアを利用してまで、ISを必要としていたのですか?富のため?名誉のため?それとも、今のように便利な道具として使うため?」

 

 男は彼女の左腕を見ながら話をした。

 何を言い出すかと思えば、真面目な顔でISとは何かと言いだしたものだ。突拍子もない発言に彼女は緊張の糸が切れ、笑いが込み上げてきた。

 

「ふふ…あははは!急に何を言い出したかと思えば、変なことを聞くのね。んくくく…あーおっかしい」

 

 楯無は腹を抱えて笑い声を立てる。思わず流れ出た涙を袖で拭き、呼吸を落ち着かせた。

 

「そんなの決まっているじゃない。あなたのような、ろくでもない人間たちから国を守るためよ」

 

 男が彼女を油断させようとしているのか、はたまた別の狙いがあるのか定かではなかった。だが、優位な立場にいるのは自分だと彼女は確信していた。

 

「ISは()よ。力を持たない国が他の国に屈するなんて当たり前じゃない。だからこそ諸外国は日本が持っていたIS技術の情報開示を求めた。そりゃあ、あんな『白騎士事件』なんて見せられたら当然よね」

 

 検索には時間が掛かっていた。

 膨大な量のデータベースから一人の人間の情報を探し出しているのだ。似たような柄の石ころがゴロゴロと転がる川辺の中から一つだけ目的の石を見つけ出すようなもの。それをこなすには、果たしない労力と時間が必要であった。

 丁度良いと彼女は目の前にいる男の話に乗ることにした。

 

「ISはアラスカ条約で軍事利用の禁止されている。とはいっても、この船で研究されていた『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は軍用として開発されていたIS。軍事利用は禁止していても、()()使()()ISにはなーんにも規制はされいていないわ。だからみーんな血眼になって研究しているじゃない。力を得るために。じゃあ聞くけど、何であなたはこんな事をしている私をそんな所でただ見ているだけなの?口だけでしか止めようとしないの?」

 

 男は何も答えなかった。

 口が糸で縫い付けられているかのように口元をぎゅっと結び、じっと彼女を見ていた。

 

「これが現実よ。あなたはISを恐れているから、私に何もしてこない。あなたもISは力だって知っているじゃない」

 

 しばらく表情を変えなかった男だが、彼女の言葉に口を歪ませる。

 そして何かを諦めたかのようにため息をつき、せわしなく思考を続けるコンピュータの吐息と唸り声に混じりながら閉じていた口を開いた。

 

 

 

 

 すると突然、けたたましい非常ベルが部屋全体に鳴り響く。

 

『現在、コノ艦ハ自沈装置ヲ作動サセテイマス。乗員ハ、タダチニ避難シテクダサイ。繰リ返シマス。…』

 

 甲高い警報音と繰り返される抑揚のない機械的な言葉に楯無は思わず、心臓をドキリとさせる。

 誰がこのようなバカげたことをしているのかは、明白であった。彼女は入り口にずっと立ち尽くしている男を睨みつけた。

 

「あなた、いったい何を…」

 

 彼女が言葉を発する間もなく、セントラルルームに強い衝撃が走った。艦に何かが強くぶつかったような、外部からの衝撃だった。部屋全体から軋む音が聞こえ、天井から埃が舞い散る。

 

 椅子に座る楯無は左右に揺さぶられる艦内で地面に固定されたコンピュータにしがみつく事で精一杯だった。

 

 

 

 

「了解、作戦を継続します」

 

 

 

 

『大型の熱源を感知』

 楯無のハイパーセンサーにそのような警告文が表示された。船の外壁が壊されたのかと一瞬考えがよぎる。だが、ここは艦の中枢。外からの攻撃がここまでやってきていたのだとしたら、既にこの艦は沈んでいるのだ。

 ならばこの警告は何を意味しているのか。熱源の位置を確認すると、それはすぐに見つかった。

 

 

「やはり、もう既に結論付けられていたのです」

 

 

 軍服を着る男は艦の揺れに動じず、石像のように立ち尽くしていた。そして、その男の体は眩い光を放ち、周囲の空気を取り込むかのように風が起きる。その風は楯無の近くをも巻き込み、塵や埃を巻き上げる。彼女は光で目がつぶされないようにと、右腕で両目を覆った。

 

 そして、それは一瞬にして静まり返り、男が立っていた位置には一機のISがいた。全身装甲(フルスキン)により顔は覆われ、エメラルド色の瞳がじっと彼女を見ていた。赤黒い装甲に左腕に装着された鱗のような鞭。どれも彼女が一度目を通していたISと一致していた。

 

 

()こそが全てだと!」

 

 

 赤黒いISは楯無の方へとゆっくりと歩み寄る。一歩進む度に地面の鋼鉄が凹み、左腕にある鞭をじんわりと赤く光らせていく。

 

 

 第二世代型IS『エピオン』

 6年前に起きた研究所の爆発事故により、消息を絶ったISであり、そしてIS学園を襲撃し無人用のIS二機を鹵獲した張本人。

 

 エピオンを男が操縦している。その事実を彼女は知っていた。IS学園で残されていた防犯カメラから顔を割り出し、その操縦者の捜索を行っていた。だが、その男性操縦者があのような壮年の男であるとは、全く知らされていない事実であった。

 

 

 

 エピオンは途中で歩みを止めると、その刹那にそれはその場から浮かび上がる。床がひしゃげ、足跡を残すほどの勢いで飛び上がったエピオンは左腕を振るい、それを力いっぱいに右から左へ薙ぎ払う。

 

 赤く熱を帯びた鞭は、コンピュータや椅子だったものの破片を周囲に撒き散らしながら楯無へと襲いかかる。

 彼女は霧纒の淑女を全身に展開させて、右腕でその攻撃を受け止めようとする。だが、エピオンの鞭は対応しようとした楯無ごと後ろの壁へと吹き飛ばした。

 

 

 ISによる不意打ち。

 想定外の動きに彼女は驚きを隠せなかった。だが、既に考えを切り替えていた。既にコンピュータからのデータは抜き出してある。

 後はこの秘匿艦から脱出するだけであった。清き熱情(クリア・パッション)による爆発でこの場を切り抜ける。

 彼女の思考は冷静であった。すぐにアクア・ナノマシンを散布させるためにアクア・クリスタルを作動させる。

 

 

 だが、それは動かなかった。

 

 

 

『アクア・クリスタルから過剰な数値を検出しました。Excessive numerical value was detected from Aqua Crystal 』

『ナノマシンの構成中に異常が発生しました。 An abnormality occurred while configuring the nanomachine』

『ナノマシンの散布を正しく行うことができません。 Scattering of nanomachines cannot be done correctly』

『ISスーツから電気信号を読み取ることができません。 Electrical signals cannot be read from the IS suit』

『ISスーツとの同期に失敗しました。 (エラーコード:UX00002800)Failed to synchronize with IS suit (Error Code: UX00002800)』

『問題が発生したため正しく同期を行うことができませんでした。 Synchronization could not be done correctly as a problem occurred』

 

 

「え…?」

 

 彼女は立ち上がろうとした。

 だが、脚を動かすことはできなかった。

 

 彼女は腕を上げようとした。

 だが、腕を上げることはできなかった。

 

 彼女は近づいてくるISの方を向こうとした。

 彼女の首は上を向くことはなかった。

 だが、彼女の目線は段々と上へと上昇していった。

 彼女の目には、エメラルドグリーンに光る二対の双眸が写っていた。

 

 その時、初めて彼女は自身の首を掴まれている事に気がついた。

 

 血のように赤く染まったV字アンテナと顎。そして、白い肌に黒く覆われた頭部の装甲。その顔を覆うISの全身装甲(フルスキン)に、彼女はどこか既視感を覚えた。

 

 

「悪く思わないでくれ、()()()()()()()()()()

 

 

 

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