神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

49 / 51
Q生きていますか?

A生きています。





第47話 小さな嘘

 時は放課後。

 新聞部室内では今月の校内新聞の、あるいは広報の記事の作成の為に、皆それぞれの作業を行っていた。特に今月は、外部からの依頼があるためにいつもより忙しい。

 だが、こうして脇目も振らず、働き詰めては良くない。そんなことを私の知る母国の知り合いの軍人が言っていた。時には手を止め、軽く雑談やお菓子を食べながら、和やかな雰囲気で皆作業をしていた。

 そんな部員たちのつかの間の小話は、ある一つの話題で持ちきりであった。

 

「それにしてもいいよねえ、専用機持ちたちが視察旅行に行くなんて」

 

 私の親友である桜田玲奈も、周りで聞く話から、そのようなことをぼやく。

 

 その話題とは、1年生の修学旅行の行き先である京都へ、教員と専用機持ちの生徒が視察旅行に行くというもの。

 本来ならば視察旅行は、数名の教員のみで行われる。たかだか視察。どのようなルートで回るか、どこに泊まりどこで食事をするか等々。確認のために行うだけであって、大勢で行くというのは類を見なかった。現に、前回1年生が行った臨海学校では、大勢での視察は行なっていなかった。

 

「最近物騒な事件が起きているからって、やり過ぎている措置だと思うけれどね」

 

「ええー、でもいいじゃないクリスタ。二回も京都に行けるんだよ?」

 

「……原稿の締め切りが短くならないって言われたら、嬉しかったんだけれど」

 

 私はパソコンの画面を見ながら、玲奈に答える。インフィニット・ストライプスの原稿を視察旅行前までに、編集部に出さないといけないため、少しだけ切羽詰まっていた。本来なら、余裕を持って出そうとしていたのに、突然決まった視察旅行によって予定が狂ってしまった。予定の優先順位を自分で決められないのは、誠に遺憾である。

 

「あはは……。とにかく、専用機持ち全員が参加って絶対何かあると思うんだよね、私は」

 

 玲奈はいつになく、怪訝な表情を浮かべて考え込む。

 

 最近の行事では物騒な事件が起きており、大勢での視察旅行は、安全確認のための措置だという更識会長の説明に、生徒たちは納得する他なかった。

 実際に起きてしまっているものを防ぐために、必要なことだから仕方ない。でも旅行に行くなんて羨ましい。そのような反応を生徒たちは見せていた。

 

 でも玲奈は納得出来なかった。どこか引っかかったのである。更識会長の説明は、道理にかなっていた。安全確認を行うのは、学園側としての、生徒が事件に巻き込まれないようにするための当然の措置である。

 しかし何か引っかかると彼女は言う。あの会長の話だ、学園祭の時のように、隠し事があると推測していた。

 

「ってそんなことを考えるのは後にして、私も作業に戻らないと……」

 

 だが、彼女は自身の作業へと戻り、その話題は収束した。彼女も彼女でやることが多い。不確実な疑惑よりも、今目の前にある課題に注力を向けたようだ。

 

 

 

 

 彼女の言う通り、視察旅行に何かがあるといえば()()と私は答えるだろう。何せ、私たちは京都へ旅行に行くのではなく、()()()()を掃討するために行くのだから。

 

 

 

 

 私が愛機のサンドロックの修復を終え、IS学園へ戻った早々に、更識会長から呼び出しを受けた。

 指定された空き教室に行くと、いつも専用機組の面々だけでなく、上級生の専用機持ちたちと生徒会のメンバー。更にはブリュンヒルデ、山田先生、そして私のクラスの担当を務める中井先生がその場に集まった。

 

 無造作に並べられている椅子に座っていると、中井先生が古めかしい教壇の上に立った。

 

「皆さん、今日は忙しい中集まっていただいてありがとう。……端的に言うわ。今ここにいるメンバーで、京都にいるテロ組織「亡国機業」の掃討作戦を行います」

 

 

 中井先生の説明はこうだった。

 最近になり、活動を活発化させる亡国機業。この存在には、国際IS委員会でも問題視されていた。ISを狙って何かを企んでいるという憶測のみが飛び交い、そもそもどのような組織なのか実態は未だ掴めきれていないそうだ。国際IS委員会では、単に危険な組織であるという共通の認識が生まれていた。

 

 国際IS委員会でも、これ以上彼らの活動を野放し にしておくわけにはいかず、IS学園へ直接依頼があったということだ。

 軍を用いるよりも、その特色から使い勝手の良いIS学園の生徒たちで対処することが適切だと判断をしたらしい。何より最新鋭の技術を持つ専用機のISのデータ収集が行えるから一石二鳥であるとのこと。

 

「よって本作戦では、国際的テロ組織と認定した()()()()の拠点があるとされる京都で、拠点の破壊並びに情報収集を行う事が主な目的となります」

 

「なァるほどね。それで、 専用機持ちなら見境なくオレとフォルテも召集されたってわけか」

 

 張り詰めた空気の中で発言をした、三年の専用機持ちである、ダリル・ケイシーが机の縁に座り、ニヤリと白い歯を見せる。

 

 テロ、掃討戦。

 もはや、私たちのような学生の身分が聞く言葉の重さではない。代表候補生でさえ聞き慣れないはずであり、一夏や箒はより一層、縁のない言葉であった。もちろん一企業の人間である私も同然である。

 二人はこのような場に慣れ始めているものの、まだ顔つきは、堅くなっている。余裕のない表れだ。そんな二人が驚いた表情をして、発言者に視線を向けている先輩の表情は余裕があった。

 

「おかしいと思ったんだよ。1年が行く修学旅行にオレら上級生が行くわけねーもん。な、フォルテ?」

 

「そうっスね、やっと謎が解けたことはいいっスけど……。せっかくISが治って落ち着けるかと思ったのに、すぐ呼び出されるなんて偉い人は人使いが荒いっス」

 

 流し目で見られた、二年の専用機持ちであるフォルテ・サファイアは、自身の毛先をいじりながら気だるそうに答える。慣れているのか、無関心なのか、もしくは両方か。

 すると、中井先生が補足をするけれど、と付け足して説明をし始めた。

 

「専用機持ちだから集めた、という認識は誤解しているわ。きちんと皆の技術を評価して、ここに呼んでいるつもりよ。特にケイシーさんとサファイアさんの評価は高いわ。何せ以前に襲ってきた無人機を2機も倒しているのだから」

 

「ああ、あの時は正直ギリギリだったんだぜ? 他の専用機持ちの奴らと変わらねェよ。にしても、あの襲撃が昔のように感じるな」

 

「そうっスか? 私はISの修理があったからそんな感じはしないっスね」

 

 二人が雑談をし始めていたところで、中井先生が咳払いをして、話を中断させる。

 

「また、本作戦における情報に関しては主に生徒会のメンバーにお任せしているわ。詳しい作戦の内容は現地についてから伝えるつもりよ」

 

 生徒会……というよりも暗部の人たちに任せているという意味である。今回の件では、彼女らも一枚噛んでいるのだろう。ようやく、国際IS委員会も本腰を入れてきたということだろうか。

 

 その後は、京都へ移動する日時やその日の行動について軽く説明が行われて、解散となった。

 

 こうしてテロ組織の掃討作戦についての情報を聞いた私にできることは、サンドロックの整備と調整を行うのみ。戦闘に向けて万全の準備をしていくだけだ。

 

 けれども、何故だろう。

 やるべきことがあるのに、ぽっかりと空いてしまった心の隙間を埋めてくれることはなかった。

 

 仕事でも、学園での生活でも満足感を得られないわだかまりが一体何なのか、私にはそれを導き出すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 あの作戦の説明を聞いてから数日後。

 IS学園から離れた場所に、東京駅に私たちはいた。

 日本の新幹線という乗り物に乗るのは初めてであり、少しだけワクワクしていたのはここだけの秘密である。ブリュンヒルデから受け取ったチケットに書かれている指定席に座り、撮りまくっていた新幹線の写真を眺めながら、発車を待っていると黒い影が私を覆い隠した。見上げると、席の通路には、鈴の姿があった。

 

「鈴お帰り。何か収穫でもあった?」

 

「ちょっと飲み物を買ってきただけよ。別にあんたみたいにお腹空いてないし」

 

 彼女の右手には、ジャスミン茶と書かれたペットボトルが握られていた。

 

「にしても……その量本気で食べる気なの?」

 

 鈴が不安そうな顔で見つめる先には、私の膝の上に置かれている、袋に入れられた4箱が重なる弁当箱があった。

 

「ああ、これくらい大丈夫だよ鈴。新幹線に乗るならば、駅弁っていうお弁当を食べるのが鉄則って雑誌で見たわ。せっかく乗るんですから、これくらいの量を楽しまないとね!」

 

「はあ。だから朝は、やけにこぢんまりとした食事をしていたのね。あの時びっくりしたのだから。あんたの体調が悪くなったんじゃないかってね」

 

 鈴はため息をつきながら、私の隣の席に座る。

 ちなみに私が食べた朝食は、サンドイッチが二切れとスープのみだ。鈴が驚いてしまうのも無理はない。全ては今日、この京都への移動を存分に堪能するため。一日目は移動と形だけの視察旅行を行うだけ。ゆっくりと羽を伸ばして京都を見て回ることができるのだ。記事の原稿も出して、一つの重荷が消えた私を止められはしない。

 

「……胃袋が化物みたい」

 

「だよねぇ。ハゼたんはすごいよ~。まさにブラックホールって感じー」

 

 そんな様子を見ていた、向かい側に座る生徒会の1年幼馴染組(簪さんとのほほんさん)は唖然とするばかりだ。

 ふと外を覗けば、新幹線に向かって大急ぎで走ってくる一夏と少佐の姿があった。きっと迷子か何かになっていた少佐を一夏が連れてきたのだろう。

 

「そろそろ発車かなあ、早くこのお弁当を開けちゃいたいなあ」

 

 楽しい時間を待てば待つほど、長く感じてしまう。誕生日プレゼントを待ちわびる子供のように、私は新幹線が発車するその時を待っていた。

 

 

 

 

 東京から京都までは3時間程の時間がかかる。数字にしてみれば、長い時間のように思えてしまうが、実際のところはそれほど長い移動時間だとは思わなかった。

 4種類の駅弁を堪能し、車窓から見える富士山に感動し、近くの席にいた簪さんとISについて語り合った。そして、のほほんさんと東京土産である「ひよこ」と呼ばれる名前の通りのひよこの姿をしたお菓子に満足し、ひよこの存在を知った少佐が愛くるしいそのお菓子の姿を見て惚けている姿を撮ったりした。

 

 そのひと時だけは、作戦なんか忘れて、観光客として過ごしていた。

 

 

 

 

 

「よーし、京都に到着。京都と言えば宇治抹茶! 抹茶スイーツを堪能しよう!」

 

「あんたまだ食うの? ……ほんと化け物ね」

 

 新幹線から駅のホームに降り、私の言った一言に鈴が少しだけ引いてしまう。今日この日のために、体の調子を整えてきたと言っても過言ではない。

 荷物を持って改札を出た時、ふと一夏が言葉を漏らす。

 

「ここで集合写真を撮ったらすごく良さそうだな……」

 

 一夏の視線の先には、階段の下の部分が小さく見えてしまうほどの、大きな階段があった。昇るとなると気が遠くなるほどで、平日の昼間ということもあり、この長い階段を利用している人はほぼいなかった。

 その言葉を聞いたブリュンヒルデが反応する。

 

「ああ、そうだな。記念に一枚写真を撮っておこう」

 

「え、いいんですか、織斑先生……」

 

「何、これは()()()()だ。行ったという証拠くらい残していいだろう。そうだろう、中井先生?」

 

「ええ、そうですね。織斑先生。良いと思います。写真でしたら手短に伝えられますからね」

 

「はい、でしたら……」

 

 きっと山田先生は、これから起きる事を考えての発言であったのだろう。しかし、他の二人の先生に押し切られて、どうにか納得をしたようだ。

 

「写真なら……おい、織斑。カメラ持っているだろう。それを貸せ。私が撮る」

 

「はい、ありますよ」

 

 そう言うと、一夏はカバンから古めかしいカメラを取り出す。そのカメラはアナログカメラだった。デジタルとは違い、フィルムを使うタイプ。黒いボディには、所々傷がついているものの、大事に扱われているようだった。

 

「一夏ってカメラ持っていたんだ。でもなんでアナログ……?」

 

「……あれは一夏の大切なものよ」

 

「鈴……?」

 

 鈴は一夏がブリュンヒルデにカメラを渡すその姿を、慈しむような眼差しで見つめていた。

 

「私も詳しくは知らないんだけれどね、あいつと織斑先生の大切な……絆みたいなものなんだって。あいつが前に言っていたの。あのカメラで、みんなとの時間を残しておきたいんだって」

 

 絆。そう一夏は表現したそうだ。その言葉の意味は正直、これっぽっちも伝わらなかった。だが、あのカメラで写真を残すことが、一夏が、いや織斑家での大切な行事なのかもしれない。

 

「ほら、二人とも、突っ立ってないで階段を降りるぞ」

 

 いつの間にか、戻ってきていた一夏に声を掛けられ、階段へと降りる。写真は、結局映るのが苦手という中井先生が撮影をすることとなり、私たちは泊まる旅館へと移動していった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、皆さんお待ちかねの京都観光の時間でーす!」

 

 荷物を旅館に預け、入口付近に集まった我々を楯無会長が出迎えてくれた。

 待ちに待った京都旅行。既に下調べは済んでおり、どのようなルートで何を食べるかは把握済みである。抜かりはない。

 他のメンバー___主に1年生の専用機持ちたちが待っていましたと言わんばかりに皆拳を握り締めていた。

 

「それじゃあ、皆さんにこれを渡しまーす」

 

 そう言うと、楯無会長は集まった私たちに何かの紙を配っていく。私の所にも紙が配られ、そこに書かれている文字を見たとき、私は唖然とした。

 

「前に、初日は移動と視察旅行として京都を見回ると伝えたわね。でも、一つ言い忘れた事があるの。実は()()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

 

 ルートが決められている。すなわち、自由に行動ができない。ということを意味する。

 

「一応、表向きは視察旅行。生徒皆で回れる最適な距離や、場所、お店といったところを実際に調査しないといけないのよね。そのことを教員の人たちに報告しないといけないから、変な期待させてごめんね☆てへっ」

 

 宇治抹茶、きな粉スイーツ、わらびもち……。決められたルートを回らなければいけないということは、行くお店が決められているということ。すなわち、堪能できる料理やスイーツが減ってしまうことになる。私の身体に力が入らず、膝から崩れ落ちる。

 

「ちょっとあんたどうしたのよ!」

 

「湯豆腐……どんぶり……湯葉……食べたかったなぁ……」

 

「……そのことね。ならいいわ」

 

 ふと鈴が私の視線に合わせるように背を低くして近づき、心配してくれるも、すぐに立ち上がる。……少し冷たい気がする。

 

「ごめんねクリスタちゃん。でも心配しないで! 私とペアだし、美味しいスイーツのお店に連れてってあげるから」

 

 その言葉を聞くなり、不思議と身体から活力が湧いてきた。すっと立ち上がり、いつの間にか近くにいた楯無会長の手を握る。

 

「ほんとですね!? 絶対ですね!?」

 

「ええ、お姉さんの言葉に他言はないわ」

 

 楯無会長の手をギュッと握りしめ、悦に浸っていると、ふと後方から箒が質問を投げかけてきた。

 

「会長。先程、()()とおっしゃいましたよね? それは一体……」

 

「ごめんごめん、もう一つ言い忘れていたことがあるの。このルートを回るときには、必ず二人一組のペアで回ってもらうことが条件。もちろん、組み合わせは既に決めているわ! 配った紙の下の方にペアを書いているから確認してね」

 

 皆が……主に一年の専用機持ちたちが、一斉に紙特有のがさがさとした音を立てて、ペアの書かれている場所を見る。私も楯無会長からもらった紙を見てみた。ペアの組み合わせとして、三年生と二年生のペアに始まり、肝心な一夏のペア相手であろう場所を確認すると、なんと一夏は誰とも組まない事になっていた。

 

「一夏君には、カメラを持って撮影係になってもらいまーす。皆の進むルートには、一夏君を必ず巡回するようにしているから心配しないでね!」

 

「やっぱりそうなるよねぇ。会長のことだし」

「浮かれてしまった私が情けないですわ……」

「くっ……嫁との神社参りが行えないだと……」

 

 一年の専用機持ちたちが悔しがる中、上級生組だけが、楽しそうに紙を覗き込んでいた。

 

 

 

 

「どう、クリスタちゃん、美味しい?」

 

「はい、とっても美味です!」

 

 あれから私たちは各自解散し、それぞれのルートを回っていた。今私は楯無会長に連れられて、宇治抹茶が堪能できるというお店へと足を運んでいた。

 

「先程食べたティラミスも良かったのですが、このパフェも中々たまりませんねぇ。ほっぺたが落ちてしまいそうです」

 

「そう……なら良かったわ」

 

 味にも驚くべきだが、今いるお店は予約必須なくらいに人気なお店だ。さすがは更識家。これくらいの予約は容易いのだろう。……私もその力を行使してみたいものだ。こうしてお店の外に用意された長椅子に座り、パフェを食べているのがどれほど苦労しなければならないか、と考えてしまうとキリがない。さっさと食べてしまおう。

 

「それにしても……いいのですか? このお店、もらった紙には記載されていないルートですよ。いくら会長だからと言っても……」

 

 それに次の目的地への移動時間や滞在時間にも曖昧な部分がある。

 

「いいのよ、それくらい会長だから多めに見てもらえるのよ」

 

「そんなものですかねぇ」

 

 気になる部分もあるが、パフェが解けてしまうために私は素早くアイスと白玉を口へと運ぶ。

 

「それに、こうしないと誰かに見られるからね」

 

「はあ……それでお話ってなんですか?」

 

 なんとなくではあったが、楯無会長の言いたいことは分かった。以前にも同じように食べ物で釣られたことがある。私とて馬鹿ではない。こうして食べ物で釣る時には必ずと言っていいほど、頼み事があるのだ。こうして周りに、特に学園側の人に聞かれたくないという話題なのだろう。

 

「もしかして、今回の作戦に関わることですよね、()()()()の。実は、一夏が狙われているってそれは当たり前の話でしたね、はは……」

 

「いえ、今回の作戦とは関係ないわ」

 

 だとしたら、何の話だろうか。

 

「では……」

 

「少し……話しづらいかもしれないけれども。あなたの叔父さんについてのことよ」

 

 叔父? なぜ私の叔父の話になるのだろうか。まあ、叔父はISの武装開発に携わる人物。楯無会長も知らなくもない人だ。しかしなぜだろう。彼女は少し言葉には躊躇いがあった。迷い、後悔。後ろめたい気持ちが彼女から伝わってきた。

 

「私の叔父が、どうかしましたか?」

 

「ええ。今私はあなたの叔父さん……()()()()()クラウス・ハーゼンバインが亡国機業とどのような関わりを持っていたか、ということについて調査を進めているの。そこで……」

 

「何を言っているんですか。叔父さんは」

 

 叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。

 叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。叔父さんは。

 

『なんで所長は亡くなったんだ!? 誰が殺したんだよ!?』

 

『今屋敷に行ける状況ではないだ、詳しい調査は……』

 

『辛いだろうな、せっかく戻ってきたところなのに』

 

『これは所長があんたへ遺した強化パターンだ』

 

『泣いちゃだめよ。こういう時は、笑って見送ってあげなきゃ彼も救われないわ』

 

『…………は………………が………………け………………』

 

『このサンドロックがきっと、クリスタの力になってくれるはずだ』

 

 

 …………。

 ……。

 ……。

 

 叔父さんは、私の叔父さんは、もういなかったんだ。

 なんで忘れていたのだろう。こんな大事なことを。私の大切な人がいなくなっていたのに。

 なんで思い出したのだろう。こんなにも辛くなるのに、記憶の奥底に眠ってほしかったのに。

 

 私の頭の中には、幾多の感情の渦が混ざり合い、かき乱していた。そして、気付けば、私は何故か彼女に伝えるべき言葉が思い浮かび、笑って答えていた。

 

「いいえ、クラウス・ハーゼンバインは普通の研究者ですよ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。