それではどうぞ
セカンド少女
四月も下旬になり徐々に新入生の入学した時の熱も冷め始めた頃。
この前千冬と飲みに行った際にノエルが遅刻したため全額ノエルが負担する事になったせいで四月は気温のように財布の中身も暖かくふっくらと余裕ができる筈だがノエルの財布は、まるでクリスマスに1人で街中を歩いたり、1人でケーキを食べる、など冬空の風よりも寒く、切ないものとなっていた。
(はぁ、次の給料日まで持つかどうか……)
なんとも最近の世の中は辛いものである。
現在午前中の授業真っ只中である、ノエルも教師なので出来るだけ自分の私情の事を顔に出さないようにしているがやはりそれでも少し元気がないように見える。さて話が逸れたが現在全員がグラウンドに集まり基本的なISの飛行訓練を行うと言ったらものだった。そこには当然ノエルもいた。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」
一夏とセシリアさんが千冬の指示に従いISを起動させる。セシリアさんは展開までに1秒と経たずに展開させる、流石代表候補生と言うだけあって早い。
一夏はまだ展開できていないようで、右腕を突き出し何とかISを展開出来ているようだった。
(一夏はまだ上手くISのイメージが固まっていないようですね、セシリアさんはもう慣れているようで流石ですが、近接ブレードの展開が遅いですね。今度一夏とセシリアさんにイメージの仕方を教えてあげましょうか?)
とことん一夏に甘い兄である。本人には自覚はないようだが…。
「よし、飛べ」
各自の準備が整ったところで千冬が指示を出す。セシリアはすぐに急上昇し地面より遥か彼方で静止していた。
比べて一夏は反応に遅れて飛び立つもののセシリアよりも圧倒的に遅くノロノロと飛んでいた。
「何をやっている。スペック上の出力では白式の方が上だぞ」
千冬が早速通信回線から一夏を叱っている。そもそも一夏は全くの初心者なのですぐには出来ないと思うが…
「一夏、ゆっくり自分のペースでいいので怪我だけはしないようにしてくださいね」
「うぅぅ、ノエル兄だけだよ俺に優しくしてくれる人は」
「織斑、集中しろ」
千冬が甘やかすなと目ですごい語ってくるが、このままでは一夏が壊れてしまう。それにノエルは根っからのお人好しだから仕方ないのだ。
そうこうしているうちに一夏も少しは感覚が掴めてきたのか少しだけ飛行が安定する。ここからは上手く見えないがセシリアが笑っているのが双眼鏡を使って見えたような気がした。
アリーナの決闘以降セシリアはノエルに対してとても優しくお淑やかになっていた。まるで飼い始めた犬が心を許し擦り寄ってくるようだった。それにクラスの子達もやはり何処か男だという理由で一夏やノエルも見下す、軽蔑するなど目線はすっかりと消えしっかりノエルを教師として全員が認め、尊敬していた。
それに、あの時からよく一夏のコーチを買って出るようになった。
ノエルは他人の恋路には鋭いためすぐに気づいた。彼はこれからセシリアの恋を密かに応援するだろう。しかし彼は自分に向けられる恋には一夏並みに鈍感であった……。
「えっ!ほ、箒さん?」
急に山田先生が声を上げたのでそちらを見ると何やら箒さんが凄い形相で山田先生のインカムを奪い取っていたのだ。ちなみに山田先生はあわあわとして小動物みたいだった。
「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」
この瞬間ノエルは気づいた。
(あっ、箒さんもか)
これは面白い事になると思ったノエルはニヤリと笑う。
箒に怒鳴られてこちらに一夏達が気づいた時、箒の後頭部には出席簿が振り上げられていた。
(箒さん安らかに眠れ。南無南無…)
心の中で同情する。きっとクラスのみんなも心の中で同情している事だろう。
「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10センチだ」
千冬の指示の後セシリアはすぐさま地表へと向かって来た。そのスピードは確かに速いが、まだ『ブルーティアーズ』の性能を完璧に引き出せていないようだった。
そして綺麗に完全停止をクリアさせた。
ノエルはセシリアの元へ行き1つアドバイスをする。
「セシリアさん急降下の時ですがもう少し重心を下へ向けた方がスピードが上がりますよ」
「分かりましたわ。ありがとうございますノエル先生」
アリーナの一件以来セシリアはノエルの事をノエル先生と呼んでいる。
さて次は一夏の番だがどうも嫌な予感がする。
一夏は急降下をするそれはいいのだだがスピードがおかしい。先程のセシリアのスピードの比ではなく全力でこちらに向かってきている。
ノエルは素早くISのカスタム・ウィングのみを出し、主翼2枚を生徒達の前に出す。
すると次の瞬間
ズドォォォォォォォォォンン!!!!
案の定一夏が墜落したそれはもう綺麗に。
小石や砂利などが飛んでくるがノエルが出していた主翼がそれら全てを弾いてくれたので生徒達は怪我ひとつなかった。
「ノエル先生ありがとうございます」
「わー、びっくりした!」
「先生のおかげだよー」
「ほんとほんと」
「先生ありがとー」
「どういたしまして」
一夏はまだ地面に埋まっている。
ISに乗っているから大丈夫だと思うが、一応一夏の様子を見に行く。
「一夏、大丈夫ですか?」
「ノ、ノエル兄悪いけど引っ張り上げてくれ」
「はいはい…よいしょ」
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「すみません」
「まぁまぁ、失敗は誰にでもありますから」
「お前は甘すぎる。こいつにはもっと厳しく言ってやる必要がある」
「でもーー」
千冬とノエルが話している時クラスのみんなは
(((((出た、1組名物の飴と鞭)))))
と思っていた。全く仲の良いクラスである。当然千冬が鞭で、ノエルが飴である。
ノエルと千冬がまだ話している最中一夏は箒に小言を言われていた。
「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」
(うう、そうだけど箒の説明って、『ぐっっとする感じだ』『どんっ、という感覚だ』『ずがーん』という具合だ』って言って全然わからないんだよなぁ)
つまり箒は体で覚えるタイプだったので説明が下手だった。
そんな事を一夏が思っているとまた箒の小言が始まりそうだった。
「大体だな一夏、お前というやつは昔からーー」
「大丈夫ですか、一夏さん?お怪我はなくて?」
セシリアが箒の会話に遮るように入ってきた。
一夏と楽しそうに話してセシリアは微笑む。それはまさに淑女のようであった。
一夏と楽しそうに会話をして面白くないのは箒である、それはもうむすっとしていかにも機嫌が悪そうだった。
「……ISを装備していて怪我などするわけがないだろう……」
「あら、篠ノ之さん。他人を気遣うのは当然のこと。それがISを装備していても、ですわ。常識でしてよ?」
「お前が言うか。この化けの皮を被った悪魔め」
「醜い嫉妬の皮を被った鬼よりマシですわ」
バチバチィィッッ!!
2人の視線がぶつかって火花のような優しいものではなく高圧電流のようなものがバチバチッと2人の間で流れているような気がした。
「おい、馬鹿ども。邪魔だ。隅っこでやっていろ」
ノエルとの話し合いを終えた千冬が心底疲れたように箒とセシリアの頭をぐいいっと押しのけて、一夏の前に立つ。
ちなみにノエルは後ろで満足したように満面の笑みで立っている。どうやら先に千冬が折れたようだ。千冬に勝てるなど全世界でノエル位だろう。
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」
「は、はあ」
「返事は『はい』だ」
「は、はいっ」
「よし。では 始めろ」
言われて一夏は突き出した右腕を左手で握り集中する。
しばらくすると手のひらから光が放出され、それが像を結び、形として完成される。
光が収まった頃一夏の手にはしっかりと『雪片弐型』が握られていた。
「遅い…が、よく、やったな」
「えっ!」
一夏は信じられないといった顔で千冬を見る
「次は0.5秒で出せるようになれ」
千冬は顔をこちらに見せないように顔を隠しながら言った
「ああ!」
一夏は嬉しそうに返事をする。
「つ、次セシリア、武装を展開しろ」
「はい」
セシリアは武装の展開は早く1秒と経たずに『スターライトmkIII』を展開していた。だがーー
「…なんだそのポーズは、正面に展開できるようにしろ」
「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要なーー」
「直せ。いいな」
「ーー、……はい」
セシリアはまだ何か言いたそうだったが、千冬相手では一睨みで話が終わる。
「セシリア、近接用の武装を展開しろ」
「えっ。あ、はっ、はいっ」
頭の中で何かを考えていたであろうセシリアは反応に遅れる。
セシリアは急いで近接用の武装を展開しようとするがなかなかうまくいかずヤケクソ気味で武器の名前を叫びやっと展開できた。
「…遅い、何秒かかっている。ノエル手本を見せてやれ」
「了解」
ノエルが手本を見せるために前に出る。
「こい、ゼロ」
ノエルがそう呼びかけるとまるで閃光弾のような光が出る、次の瞬間には純白の熾天使のようなISを纏ったノエルがいた。
ここまで約0.1秒
「ここまで早くやれとは言わないが、やるならこれくらいを目指せ、ノエル武装の展開もやって見せてくれ」
千冬がそう言うとノエルの手に光が一瞬光る。それはまるで風船が割れた時のような一瞬の光だった。
ノエルの手には既にライフルが左右の手に握られていた。
「いいか、これが目標だ。諸君にはこれを目指してもらいたい。ご苦労だったなノエル」
ノエルがISを解除した瞬間に授業終了の合図が鳴る。
「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」
「えっ……」
一夏はあからさまに嫌そうな顔をした後箒をチラッと見ると、フンと顔を逸らされセシリアは既にこの場所にはいなかった。
そうなると頼れるのはもう彼のみだった。
「…………」じー
「…………」
しばらく一夏がノエルに手伝って欲しいという念を込めて じー っと彼の目を見る。
「…………手伝いましょうか?」
「……」こくり
結局ノエルが手伝った。本当に彼はお人好しである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜
「ふぅん、ここがそうなんだ……」
IS学園の正面ゲート前に、小さな体に不釣り合いな大きなボストンバッグを持った少女が立っていた。
やっと2章突入です。