「もうたくさんだおっ!!いくらベテランだって言われても頂点をとることは出来ずみんな僕を追い抜いていくおっ」
ボクはテレビ局の駐車場で追ってきたアイドルの子相手にうずくまりながらそう叫ぶ。違うとアイドルの子は否定するもその声音は弱々しくボクの疑念を晴らす事は敵わず逆にボクの疑念を強くする。
「みんなみんな嘲笑っているんだお。旬の過ぎたおばさんが惨めにしがみついてるって」
それでも必死に励まそうとするアイドルの子に顔を向ける事はなくうつむきながら、捲し立てるように言葉を続ける。アイドルの子はその負の情念が込められた言葉にたじろぎ一歩後ずさる。……これくらいの事で後ずさってちゃ大成しないおと馬鹿にしたようにボクは呟く。そんな時ボク達しかいない地下駐車場に走り込んでくる影がある。小さな体躯は力強く、それでいて意思の籠った目でボクを見つめる。ああ、君は強いね。ボクなんかよりもずっと。だからボクなんか追い抜いてすぐに上にのぼっていくお。綺麗に輝く世界に羽ばたいていくお。その裏側がどんなに汚かろうと。
「もうわかったお。みんなみんな上から下にいる僕を嘲笑っているんだ。……南条ちゃんだってそうだお?」
遅れてきた少女、南条 光に対してボクは首を反らし傾けながら流し目で、某アニメ製作会社が得意なあのポーズで笑いながら、その奥に潜む南条ちゃんのような純白な少女に向けるには黒い内心を表現しながらボクの姿は豹変を始める。
「テトっ!!どうしてそんな事を言うんだ。テトはみんなを笑顔にするアイドルじゃないか。長い間みんなを笑顔にしてきた……ヒーローじゃないか」
「南条ちゃんにはわからないお。追い抜かれる寂しさ、伸び悩む苦しさ、ファンが離れていく恐怖が」
「わからないよ。追い抜かれたら追いかければいい、もう伸びないなんて決まってない、テトを応援してくれるファンは……本当のファンはテトを見てくれる」
南条ちゃんはボクの怨嗟の声に強い声で答えてくれる。ボクの体はそのどす黒い想いのように醜く変化していく。 禍々しい悪魔のような翼が生えて肌は黒く変化し柔らかさの感じられない甲殻質のものへと変わる。人々に夢を与えたアイドルの姿はみる影もなくそこには悪しき力に飲み込まれた哀れな女の姿があった。
「……テト、私はテトがどんなに悩んだか知らない。だけどそれでもダメだよ。人を傷つけたら、どんな理由があったって、ダメなんだよ」
゙変身゙
南条ちゃんがポーズをとってヒーローに変身する。そう、君はヒーローで、正義の味方で、自分の夢を叶えた現代における英雄で
……画面が黒く染まる。って
「今良いところなんだけどデフォ子」
「自分の出てる番組見て悦に浸っているなら暇だね」
「違うお、反省してるんだお」
彼女はデフォ子。UTUプロの職員で一応ボクのPということになっているお。……一応ね。唄音 ウタって名前も本名じゃないしね。まあでも今はUTUプロのスタッフだお。
「邪魔されたくないのだったら自宅で見ればいい」
「自宅にいてもデフォ子なら突入してくるでしょ」
「否定はしないね」
「そうだお。家の物壊されちゃたまらないからね」
ボクの苦笑混じりの皮肉もデフォ子は表情を変えることなく受け流す。昔から代わらないお。
「お客さん。テトに用らしいよ」
「誰だお?」
「小さな英雄。」
そう言ってデフォ子は部屋から出ていく。……やっぱり少し変わったかお。
◇◇◇
「テトさん、お邪魔します」
「いらっしゃいだお。この前は一緒に仕事できて楽しかったお」
「光もテトさんと仕事できてよかったよ」
そう言いながらボクの用意したおやつを頬張るのはさっきボクが見てた特撮ドラマで主人公の一人、ジャスティスイエローを演じる南条 光ちゃんだ。
特撮ヒーローが大好きでヒーローものに出るためにアイドルになる事を決意した子だお。ヒーローものに対する知識もすごく、なによりとてもまっすぐですなおなとてもいい子である。ちょっと身長が小さいがそれでも件の特撮ではそんなことが気にならないような堂に入った演技っぷりである。また件の特撮では主題歌も一部歌っている。
ちなみに件の特撮ではボクは何年もアイドルをやっているが芽が一向に出ない先輩アイドルでその焦りにつけこまれ怪人になるアイテムを使ってしまうという役どころだお。まあ南条ちゃんが主役の回のゲストキャラだお。……ちゃんと変身は特殊メイクだお。素でできなくもないけど。ボクとしても少しなつかしいような複雑な感じだけれども。
「それで南条ちゃんはボクに何の用だお」
「テトさんはなんでそんなに悪役が上手いんだ?ドラマでも戦闘中とかすごかったし」
そりゃアイドルになる前はリアル悪の組織の兵器やってたからだお。……なんて言えるはずもなく
「昔採った杵柄だお」
「ふーん。そうなんだ。それでテトさん」
悪役ってどうやったらいいの?
なるほど。南条ちゃんは今度やる346プロの舞台公演で悪役をやらなければならなくなったわけかお。まあたしかに独り善がりな英雄はあまりよくないお。……ボクは独り善がりな英雄に救われたのだけれど。それに悪役をやることで南条ちゃんの演技に幅が出てくるだろうし。346のプロデュースはよく考えられてるお。
「んでどんな悪役なんだお?」
「お宝を狙う怪盗って役なんだ」
「怪物強盗?」
「怪物強盗って?新しい怪人か」
あながち間違ってないけど通じなかったか。まあでもそういう感じではないならあんまりハードな悪役というわけではなさそうだ。……怪物強盗だったらスプラッター待ったなしだけど。あっ怪物強盗役なら自信あるお。
「悪には悪の理由があるんだお。怪盗を主人公にした物語もあるし」
猫の目三姉妹とか。世紀末の奇術師とか。古くは鼠小僧とか。
「でも人のものをとったらダメだ」
「うん。それは南条ちゃんが正しいお。でも例えばそれが盗られたものだったら?」
ボクの問いにしばらく考えたあと南条ちゃんはそれでも盗んじゃダメだと答えた。おばさんには眩しすぎるまっすぐさである。
「じゃあどうしたらいいお?」
「ちゃんと話し合うべきだ」
「応じて貰えなかったら?」
「ヒーローの出番じゃないか……あっ」
何か気づいたかお。……なんかヒーローを悪堕ちさせてるようなシチュのような気がするけど気のせいだ。
「向こうからしたら盗られたってなるお。まあ物事善悪の二つで測れないことが多いお」
「だからさ、正当化しちゃうんだお。こうだから自分は悪事をするんだって。それが悪役のコツだお」
なんか戦争のやり方説いてる気がしてきたお。そういうとしぶしぶながら南条ちゃんは考える。
「理由があれば……いやダメなものはダメだろ。」
……先は長そうだお。まあヒーローに葛藤は付き物だお。じっくりとなやんで欲しいお。悩んだ時間は信念の強さにつながるから。
南条ちゃん
ヒーローアイドルってことで元悪の組織の兵器であるキメラさんとからんでもらった。第三回のお相手。ヒーローオタクでアイドル世界特有の超いい子。ピュア。
デフォ子さん
本名唄音 ウタさん。でも本名じゃない。キメラさんと同じく後ろ暗い事情のあるアンドロイドさん。なぜか重火器の扱いが上手い。お気に入りはRPG(ロケラン)。一応キメラさんのプロデューサー。