《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
「――――――花陽!?」
玄関のチャイムが鳴ったので、扉を開けてみるとそこに立っていたのは、全身ずぶ濡れ状態の花陽が、だた一人鞄を下げて家の前に立っていたのだ。
「………
「何をやっているんだ! そんなところにいちゃ、風邪を引くじゃないか!!!」
雨の中でじっとたたずむ花陽を見て居ても立ってもいられなくなった俺は、玄関を飛び出て花陽の手を握った。 そして、そのまま家の中へと入り、これ以上雨粒に晒されることが無いようにした。
しかし、もう十分に雨粒は花陽の体にびっしりと付いてしまっていた。
ふわっとした柔らかさを保っていた髪は、水を含ませたことで重さを増し、頭の形に合わさるようにペタンとしていた。 また、髪との間に入りこんでしまった水滴が髪の先からポタポタと一定のテンポを保ちながら下へと落下していた。
上半身を覆っていた白の半袖のYシャツは、こちらも雨で濡れたために体のラインに合わせてピタッとくっ付いてしまっている。 おかげで、花陽の特徴的なふくよかなボディラインが普段見ている時よりも俄然ハッキリと目につくようになる。 また、水を含ませると布が透けてしまうようで、花陽が胸元に付けている下着の色がシャツの色と合わさりながらも確認できる。 少し大人の感じを醸し出されそうな濃い色の下着に思わず心を揺るがす。 また、下着で覆われた花陽の胸の肌の色も透けて見えてしまっていたので、いつも以上に強調されたその魅力的な姿に目を逸らしてしまう。
俺は視線を他のものへと向けるが如く、体を拭くことが出来るタオルを探しにいくと、2、3枚くらいのバスタオルを取り出してきては、花陽の体を頭から拭き始めた。
「大丈夫か? 体は冷えていないか?」
俺がそう尋ねると、花陽はこくりと頭を縦に揺らして大丈夫であると示した。
とは言うものの、実際に体を拭いてみると、そんなに時間が経たないでタオルが1枚、また1枚とびしょ濡れになって使い物に無くなってしまう。 それに肌に触れても、俺の体温よりもかなり低く感じるので、花陽は俺に気遣って我慢しているのではなかろうかと思い込んでしまう。
「今すぐに、風呂の準備をしてやるからちょっとだけ待っててくれな!」
俺はそう言い残して、1人風呂場に行った。
幸いなことに、風呂の中は掃除がされてあり、お湯を入れるだけで済む話だった。
俺は風呂自動のスイッチを押して、お湯を入れ始める。 沸かし終えるのは……そうだな、10分程度ってとこだろうな。 それまでは、ちょっとだけ我慢してもらおうかな。
(ひたっ――――――ひたっ―――――――ひたっ―――――――――)
「!!?」
一瞬、背筋が凍りだすような悪寒にさいなまれる。 心臓の鼓動が急に激しく打ち鳴らし始めた。 同時に、額から一筋の汗が流れ出る。
これまでに経験した中でも稀なことであったため、身を強張らせてしまう。
な、なんだ………?! そう感じながら後ろを振り向く。
するとそこには、タオルで顔を覆っていた花陽の姿が目の前に…………
「な、なんだ………花陽だったのかぁ………脅かさないでくれよ…………」
その正体が何であるのかを知ると、安堵をおぼえはじめようとしていた。 まさか、花陽からこんな感覚を感じてしまうとは。 普段ならば、もっとあたたかくて穏やかな雰囲気を出して周囲を癒してくれるような存在であったために、こうした鋭く凍りつくような感じを身におぼえてしまうのは初めてのことだったからだ。
「………ねぇ、
その弱々しい声を聞くと、耳を傾けてしまう。 細々と何を言っているのかが聞こえ辛かったからだ。 「なんだい?」と応えると、タオルで顔を覆い被さったままこっちに向かって話し始める。
「…………
ん?と一瞬、何を言っているのかが分からず疑問の声を出してしまう。 何でそんなことを言うのだろうかと思いながらも、「俺は花陽の味方だぞ?」と言ってあげた。 「そう………」と二言返事をすると、またその口を開く。
「
「………!!」
その言葉を耳にした時、わずかにイヤな予感が過り始めた。 花陽がどんな意図をもってその質問を投げかけているのか、まだ少しだけ脳内整理が出来ていない俺には、まともな判断が出来てはいなかった。 ただ今日は、何だか不気味な気持ちに陥ってしまっているような気がしてならなかった。
花陽に対して、何らかの違和感を抱いていたからだ。
だが、それがどんな意味を果たしているのかを突きとめることなく、「何も隠し事はしていない」と後ろを向きながら応えてしまった。
―――――それが悲惨な結果を及ぼすことになるとは思わずに――――――
(バヂッ!!)
「あがっ?!!」
その刹那、強力な痛みと痺れが背中を通じて全身に行き渡る!
痛みは一瞬だったが、その後に続くこの強い痺れは俺の全神経、全筋肉に強い衝撃を与え、機能を停止し始める。 足にまったく力が入らなくなってくる………。 俺は勢いよく床に倒れそうになるものの、ほんの僅かに残った気力を駆使して、何とか倒れることなく壁に寄り掛かるような感じで座り込む。
一体何があったのか………?
その原因を見定めるべく、後ろだった方に目を向けると…………花陽が立っていた。
いや、そうじゃない。 見た目は花陽なのだ、さっきまで居た花陽なのだが………この感じは一体何だ? やわらかくふんわりとしたやさしさにあふれた雰囲気を出していたはずの花陽は、今、背筋を凍らし尽してしまいそうな憎しみを抱いた瘴気を放っているのだ!
その光景に、思わず息を詰まらせてしまう。
「………酷いよ、
ゆらりゆらりと体を左右に揺らしながら彼女はそう言った。 首も同じように大きく揺らしており、顔を覆っているタオルもゆらゆらと揺れて落ちそうになる。
実に弱々しい声………いや、力がこもっていないようにも捉えられるか。 いつぞやの自分に自信が無かった頃の喋りとは似て異なるものだった。
いずれにせよ、いつもの花陽ではないということは確かだった。
「………うそ………って……なん……だ…………?」
花陽の言葉に返すようにこちらも応える。 が、どうやら先程の痺れは神経や筋肉のみならず、俺の舌までも痺れさせていたようだ。 おかげでまともに話すことすら出来やしない。 思っていたことの30%くらいしか口にすることが出来ないのは、現状では厄介なことだ。
「
「ッ――――!?」
花陽の口からまさかの言葉に全身が硬直する。
どうしてそのことを知っているんだ……?! あれは俺と真姫しか知らないことだったはず………
いや、ちょっと待て………よくよく考えたらおかしいところがあったじゃないか。
学校からこっちに来ようとした時に、希が意味ありげな言葉を発していた――――つまり、希はこのことを認知していた――――? ということは、他のメンバーにも知れ渡っている可能性があるということ………だとしたら―――――――
ハッ―――――! そういえば、さっき真姫はなんて言ってた!? 何か重要なことを言っていたはずだ―――――――
『――――――花陽には首を絞められて殺されかけた――――――』
「ッ――――――!!!!」
その言葉を思い出した時、全身に強烈な衝撃が走りまわる!
ま、まさか………そんなばかな…………! は、花陽がそんなことを………?! あの自分の血を吸いに来た蚊ですら殺さないようなやさしい花陽が、どうしてそんなことをしていたんだ?!
ありえない………そんなの絶対にあり得ない…………!!
俺の抱く常識や認識をはるかに超えた何かが俺を震え上がらせる。
しかし、そうしたあらゆるモノが一瞬で吹き飛んでしまいそうな言葉を耳にする。
「ねえ、
「ぐっ……! は、はな……よ…………!!」
「だから、私は決めたの――――――こうやって、真姫ちゃんを消すことをね―――――♪」
顔を覆い隠していたタオルが床に落ち、その表情が露わになる。
濁り淀んだ瞳を見開かせて、こちらに焦点を向ける。 光をまったく受け付けないような瞳に俺自身が吸い込まれてしまいそうになる。
そして、せせら笑うかのように口元が薄らと開き、白い歯を見せる。 そんな口から、狂気の言葉が軽々しく漏れ出すのだ。
憎しみと言うよりも、愉しみを抱いた子供のような表情だった――――――だが、そこに無邪気さなど、一寸たりとも感じられることは無かった。
それこそまさに、憎悪の満ち満ちたものだった。
そして、今まで気が付かなかったが―――――その手には、黒光りしたスタンガンの姿も―――――俺はアレによってこの状態にさせられたというわけか―――――!!
そんな花陽から、意とも簡単に真姫を排除しようという意思の詰まった言葉を口にしたのだ。 ありえないことだ………だが、今の花陽に俺の常識は伝わらない。 間違いを正そうにも体が言うことを聞いてくれやしない。
俺は黒々と染まっていく花陽を見ていることしかできずにいた――――――
「ねえ、
そう言うと、手に持っていたスタンガンを仕舞い、着ていた服のボタンに手を掛ける。 首元から1つ1つ外していき、ヘソのところまで到達させた。 当然のことながら、胸元を覆い隠している下着は露わになるわけだった。
「な、なにを………しているんだ…………?!」
予測不可能な行動に、またしても不安が募る。
花陽は俺の目の前にしゃがみ込み、自分の胸元に手を置いて俺に見せ付けるように強調させた。
「ねえ、
そう言うと、胸元を強調するようにさらに前のめりになって俺に近づく。
花陽の胸元を覆っているその下着は、あまりにも性欲を掻き立てる魅惑な気配を感じさせる。 ワインレッドの胸当てにその周りを飾り立てる黒の花柄レース、男心をくすぶらせるその2色が俺の感覚を酔わせる。 しかし、その下着は豊満な胸を備え持った花陽にはあまりにも小さすぎた。 胸の大きさに対して、その布の比率はわずか5分の1以下。 胸の先端に付いている固い突起物だけを優先的に覆い隠すことだけを目的としたとしか言いようのないほどの布の少なさ、まるで、手で覆ったかのように思えてしまう。 また、この下着では抑えきれないほどに胸が布からはみ出て、弾けようとする肉々しいその胸が俺の感性を異常なまでに高まらせた。
この時点ですでに理性などがオーバーヒートしそうになるところに、叩きこまれるようなことが起こる。
なんと、スカートをたくし上げて下半身を覆う下着までも見せつけてきたのだ!
胸を覆っていた下着と同色同柄でありながらも、こちらも積極的に攻めてくるような仕様。 女性の陰部をただ隠すだけのような布であるということを、腰に回っている細い紐が強調させているようだ。 それ故なのだろうか、そのあまりにも少なすぎる布の部分に思わず注視してしまう。
思わず目を背けてしまうような光景。 だが、男性の本能がそうしろと言ってくるかのようだ。 俺の視線は、その2つの下着と、顔の真ん中を真っ赤に染め上げた花陽に集中していたのだ。
顔を赤く染めているのは、恥ずかしさからだろうか? それとも、興奮しているからだろうか……?
いずれにしても、今の花陽はとても常軌であるとは言い難い。
通常ならば、誰もがその情景に立たされれば、興奮し、自らの欲求を押さえられずに飛び出してしまうだろう。 致し方ないことだ、それが人間であり、男性なのだから。
だが俺は、現状においてそうした欲求よりも彼女のいやらしさの奥深くに居座っている狂気が、悔しくも俺の理性を保たせてくれていた。 欲求よりも何よりも目の前にある現実に立ち向かわなくてはいけなかったのだ。
自分の中で決意を固める。 全身にありったけの力を込めて、痺れを薙ぎ払う。 体に自由が取り戻ってきたようだ。
「花陽………その格好はいいと思うぜ………さすが、俺の見込んだ義妹だ………何を着せてもよく似合うな…………」
「そうでしょ!!
「だがな………今はそんなことはどうでもいい…………」
「えっ………?」
「花陽………何故、お前は真姫を殺そうとする? 真姫はお前の親友だろうに、何故そんな酷いことが出来るんだ………?」
「………………」
花陽の動きが急に止まった。 先程まで、積極的に押してきた彼女の動きと一変した様子を見ると、何かが交錯し始めていると思われる。 葛藤だろうか? それならば良いのだが…………
すると、花陽の目付きが急に鋭くなった。 隠れていた憎悪が表に出てきたのだ! 邪気が彼女を呑みこもうとしていたのだ! これはまずいと、察したのだが、それよりも早く彼女はそれをぶちまけた!
「酷いこと? 花陽のやったことのどこが酷いことだというの、
「花陽ッ――――!!」
「私たちには良い顔を見せていたようだけど、その裏はあんなに酷いとは思わなかったよ………私たちを騙して、
「やめるんだ、花陽ッ―――!! 邪気に自分の呑みこませるんじゃない!!」
邪気が彼女の中に入りこんで行く。 今までに見たことも聞いたこともないような姿と声を発して、彼女は狂乱した。
そこには、やさしさなど、穏やかさなどあるはずもなかった。 性格そのものが逆転したかのように、その醜態を俺の前で見せていた。
そんな中で、引っかかる言葉を耳にしていた。
花陽の口から俺に向けられた言葉が『おにいちゃん』であったことだ。 『蒼一にぃ』と呼んでいたはずの花陽が何故その言葉を―――――? 狂乱する彼女の口からその手掛かりとなる言葉が出てくるもハッキリとはしない。
ただ、もしやと思うところがあった―――――
「花陽!! そんな姿を見せては、
その言葉にようやく反応を示すように、体を震わせる。 すると、ギロリとこっち見て言ってくる。
「なにを言っているの、
「ッ―――――!?」
その言葉を聞いて合点がいく。 だが、同時に悪寒を感ぜざるを得なかった。
思ってもみなかったことだ………まさか、花陽の最愛の人の姿かたちを消してしまうなんて考えられなかったからだ。 となると、俺はその兄貴の代わりとなっているというのか………? そんなバカな!!
だが、そうとしか考えられないし、そうだとすれば、すべてのことにようやく合点がいくのだ。
なんとしてでも止めなくちゃいけなかった。
「花陽!! おにいちゃんからの頼みだ! 真姫を殺そうとするんじゃない!! 真姫には少し事情があるんだ、分かってくれ! 真姫に悪気があったわけじゃないんだ!!」
「
おにいちゃんとしての言葉として花陽に投げかけると、たちまちその動きは止まり耳を傾ける。 花陽の第一優先は変わってはいなさそうだった。 このままの状態で説得していけば、うまく行くかもしれない!そう信じていた――――――――
「
逆だった――――花陽は、さらに決意を固めてしまった。
その奥底に眠っているモノは、よっぽど強いものなのだということを改めて知ることとなった。
「それじゃあ、
そう言うと、仕舞ってあったスタンガンを取り出して、この場を去ろうとした。
「花陽、待て―――!!」
手を伸ばして留めようと努めたが、生憎、まだ体がちゃんと動こうとしなかった。 そのため、花陽には追い付くことが出来ないのだ。
「こっちからあの女の匂いがする……………」
階段の方に目を向けると、そのまま上がっていこうとする。
「待て!」と言うものの、その歩みは止まることはなかった。 一歩一歩、踏みしめるかのように昇って行こうとするその様子は、死へのカウントダウンが迫っていることを意味していた。
「くっ………くっそぉぉぉぉ!!!!!」
動かない足を引きずりながら前に進んで行く。
だが、到底追いつくことのできない距離だった。
このまま、花陽の手によって真姫が殺されてしまうのか――――――? いや、そんなこと断じてあってはならない! 死ぬこともそうだが、親友の花陽の手で殺めてしまうこと自体あってはならないことなのだ!
止めたい………なんとしてでも止めたい………!!
だが、そんな状況下にあっても俺の体は自由に動くことが出来ないのは、何とも悲しいことなのだろうか………! 1分……いや、10秒だけでもいいんだ! 花陽を止められるだけの時間がほしいんだ……!
だから…………だから…………だから、動いてくれよぉぉぉ!!!!!
そう、体に念じても一向に動こうとはしなかった――――――――
花陽は、もう既に上段部にまで進んでいた。 あと数歩前に出れば、真姫のいる階に到達してしまう!
ダメなのか………もうダメなのか……………!!!
諦めまいとしていた決意の中に、曇りが生じ始めようとしていた――――――――
(バンッ!!!)
玄関の扉が勢いよく開いた―――――!!
その扉を開けた人物を見て、俺は目を見開いた―――――――!!
「ちょぉぉぉっと待つにゃあ、かよちん!!!!!」
【監視番号:27】
【再生▶】
(ピッ!)
『か~よちん! どこなの~?』
『う~ん………こんなに探しているのに見つからないなんて、なんかおかしいにゃぁ………』
『どこに行っちゃったんだろう………?』
『どうしたん、凛ちゃん?』
『わっ!! の、希ちゃん?!………もう、脅かさないでよぉ…………』
『あはは……ごめんなぁ………なんかキョロキョロしとる凛ちゃんがおったから気になったんやで?』
『そうなんだよぉ………今日ね、かよちんと一緒に帰ろうって言ってたのに、急にどこかに行っちゃって…………それで学校中を探していたんだ。 希ちゃんは知らない?』
『う~ん………そうやなぁ………せや! こんな時こそ、カードのお告げの出番や!』
『おお! 希ちゃんのスピリチュアルパワーが発揮されるんだね!』
『まあ、見ててな…………うむむむむ………………むっ! こ、これは………!』
『ど、どうしたの!? 希ちゃん!』
『これは大変なことになっとるなぁ………凛ちゃん、心してよく聞くんよ』
『う、うん………!』
『花陽ちゃん、今、とっても苦しんどるんよ。 心の中ではしたくないのに、今やっとるんよ』
『ええっ?! か、かよちんがそんなことを……!? ど、どうすればいいの?!』
『落ち着いて、凛ちゃん。 今、花陽ちゃんを助けることが出来るんは、凛ちゃんしかおらへん。 だから、今の花陽ちゃんを見ても絶対に負けちゃあかんよ………ええな?』
『う、うん……! わ、わかったよ!』
『それでええんや。 それで行き先はな――――――――――』
(プツン)
【停止▪】
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
新たな訪問者に展開はどう変わるのだろうか………?
次回をお楽しみに。
P.S.
投稿時間が少し遅れてすみません。