《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
「せんせー、一緒に遊びましょうよ~!」
「あそぶ~」
「たはは………」
少し顔を引きつらせながらも俺はこの状況下で2人の子供とじゃれあいをしている。
事の発端は俺がにこに家に行かせてくれと言ったところから始まる。 と言うのも、何故このような台詞を吐いたのには理由がある。
まず、真姫たちから離れさせたかったためだ。 今のにこは必ずと言っていいほど、誰かに襲いかかろうとするに違いなかった。 さっき明弘たちが話していた通りならば、再び襲って来るのは必然のようだったのだ。 そこで、希からの提案として俺がにこの家に行き、何とかするということになった。 そこであれば、さすがのにこも自分の妹たちを攻撃するほどの非道ではないはずだとしてそうしたのである。
次に、にこの心情を探りたかったからだ。 むしろ、こっちが本命であると題打ってもいい。 明弘たちから聞いた話によると、にこに襲われそうになった際に、にこに不可解な様子が見られたのだそうだ。 どうもそれはこれまでのにこの行動事態が本心によるものではないということを意味しているようなのだ。 だとしたら、にこを元に戻す糸口を見つけられるのだと推測している。
それに、にこの心情を探るには一番身近でその様子を見ている者の話も聞いてみたかったからなのだ。
「宗方先生、本日もウチに来て下さりありがとうございます!」
「いやいや、いいんだよ。 俺は好きで来ているんだからさ」
「そう言ってもらえると嬉しいです! 私もここあたちも大喜びです♪」
両手をポンと叩いて嬉しそうな表情を見せてくれるこの少女は、にこの妹のこころちゃんだ。 矢澤家の次女で小学校の高学年になったばかりなのに、その落ち着き様や丁寧な言葉使いを見せるその姿は、大人顔負けにも捉えてしまいそうだ。 多分、にこよりもまともな受け答えが出来るのだろうと、俺の中ではそう確信している。
「そうだ、こころちゃん。 少し聞きたいことがあるんだけど………」
「はい、何でしょうか!」
燦々と輝く太陽のような笑顔で聞いてくると、その眩しさに少し目がくらみそうになる。 と言うより、ここ最近、作意のある表情で俺に迫ってくる輩が多かったために、人に警戒心を払い過ぎていたところがあった。 そのため、こうした純粋無垢な表情を見せつけられてしまうと、何だか申し訳ない気持ちにすらなってしまうのだ。
俺は圧倒されまいとして、体制を整えると改めてこころちゃんに聞いてみる。
「その、実はだな――――――」
ゾッ―――――――――――!!
こうした前置きから話を切り出そうとしたのだが、背後から体を震わせるような悪寒を感じ取ってしまう。 後ろを振り向いてみると、包丁を片手に持ったにこの姿が…………!
「蒼一………何をしているのかしら…………?」
瞳のハイライトが消失した様子で、少々ドスの利いた声で話しかけてくるので、内心オドオドし始める。
マズイ……にこから殺気を感じるぞ……! このままにしておけば間違いなく大惨事決定だ! 何とかしてなだめなくては………!
俺はこころちゃんに向けていたにこやかな表情を1ミリも崩すことなく、そのままにこの方を見つめる。 もし、こちらが動揺しているのを悟られるとにこのペースに乗せられてしまう、そう希が言っていたこと思い出しながら気持ちを整える。
そして、にこに話しかけるのだ。
「あぁ、にこ。 今な、こころちゃんからにこのことを聞こうとしていたところなんだよ」
「にこのこと? 何なら、にこのことをずっと目を離さないでいたら分かるでしょ……? もしかして、蒼一は私じゃなくってこころのことが気になっていたわけじゃないでしょうね………?」
「何を言うんだ、にこ。 俺はにこの事が知りたいって言っただろ? にこのことをたくさん知っているこころちゃんから見て、にこはどんなお姉ちゃんをしているのか聞いてみたかっただけなんだよ」
「ふ~ん…………そうなのかしら………? もし違っていたら…………わかるわよね…………?」
そう黒みを含ませた言葉を吐くと、持っていた包丁を自分の顔近くにまで持って行き、それを俺に見せ付けるかのように晒した。 感じていた殺気も段々と大きく膨らんでいる様子であったので、この後の言葉に一層気を付けなければならなかった。
仕方ない………ここは明弘の言っていたやり方で通して見るか…………
一旦、一呼吸置くように冷静になると、にこの目の前に立つ。 そして、にこの頬をやさしく撫でるように手を掛けると微笑んで話しかける。
「そんなことがあるはずないだろ? 今の俺はにこのことしか考えられないんだよ。 にこと一緒に居たい、にこのことをもっと知りたい………にこのすべてを俺は知りたいんだ………だから俺は、こころちゃんから話を聞くんだ。 こころちゃんたちよりもにこの事をもっと知りたいから………いいだろ?」
「そ、そういち………!」
「それに………今、俺のために料理をつくってくれているんだろ? 嬉しいな、にこの手造りをまた食べられるだなんて、俺は幸せ者だよ。 楽しみにしているよ♪」
「ッ~~~~♪ ええ、そうよ! 蒼一のために私の愛情がたぁ~~~っぷりと詰まった料理を作っているところなのよ♪ 待っててね、すぐ作ってあげるわね♪♪♪」
頬の辺りを真っ赤に染めながら、にこは嬉しそうに笑った。 俺の切り返しがよほど嬉しかったのか、キッチンに戻っていくと陽気にμ’sの曲を口づさんでいたのだ。 まさか、本当に明弘が言っていたとおりに事が運ぶとは、正直想像もしていなかった。
ちなみに、俺は明弘からこんなアドバイスをもらっていたのだ――――――
『いいか兄弟。 不利な状況になった時はな、相手に思いっきり甘えるんだ。 相手を喜ばせられるくらいに、たっぷりと甘えちゃってみろ。 そうすりゃあ、家庭的なにこの母性本能とかがくすぐられて、嬉しくなること間違いなしだぜ!』
―――――と言った感じの言葉を受けてはいたのだが、実際にやってみると、少々窮屈な面があったりもする。 だが、こちらの心情を気取られないように動揺するなとも言われているから何とも………
慣れないことはするもんじゃないよねぇ…………
「はぇ~…………」
呆けたような声が聞こえたと思ったら、こころちゃんが口をポカンと開けたまま俺の方をじぃっと見つめていた。 あぁ! そうだった、今こころちゃんに聞きたいことがあったんだっけ。 にこのことですっかり忘れそうになるところだったな。
すぐに、こころちゃんの方に顔を向けると、話の続きを始めようとした。
「すまんすまん、話の途中だったね?」
「え? あっ、はい! すみません! 少し驚いてしまったので…………」
「いやぁ、話を始め出したのに先に腰を折ってしまったのはこっちなんだから、気にしなくていいんだ」
実際のところは、にこが折ったんだけどな………今は言わないでおくか………
「あの………つかぬ事をお聞きしますが………」
「ん、何だい?」
少し気難しそうな表情を浮かべながらこころちゃんは何か疑問に感じていたことを口にし出した。
「宗方先生とお姉様は付き合っていらっしゃるのでしょうか?」
「ッ―――――――?!」
…………まさか、そんなことをド直球で聞いてくるのかぁ……………
今のにことのやり取りを見ていて不思議に思っちまったんだろうな………実際、変に思わない方が変だと思ってしまうもんだよな。 こころちゃんの目がとても興味津津な輝きを見せてくるのだけど……少しやり難さと心苦しさも感じてしまう。
それに、気のせいだろうか? キッチンの方で作業をしていたにこの鼻歌がまったく聞こえなくなっているのが………多分、そうなんだろう………にこはこの会話をじっくりと聴き耳立てているのだろう。 今のにこならありえなくもない話だ。
しかし、これはある意味マズイ状況だ。 俺の返しによっては一波乱が巻き起こる可能性も無きにしも非ず、解答に迷いが出てしまいそうだ。
だが、これは単純明快なモノを提示するべきだな。 こちらが不利になることも、にこが不快に思わない解答をするのが、ここでの鉄則みたいなものなのだと、明弘も言っている。
俺は1つの結論を提示し始める。
「こころちゃんは、俺とにこがそういう関係に見えるのかい?」
「はい! 私から見てもお似合いですよ! それに、もしそうなのだとしたら、宗方さんのことをお兄様とお呼びすることが出来るので、嬉しいのです!」
「へぇ~、お兄様か………悪くないかもな、そんなら呼ばれるように励まないといけないな」
「はい! 頑張ってくださいね♪」
YesともNoとも捉えることが出来そうな俺の返答に、こころちゃんは気分が向上しているようだ。
その純粋無垢な笑顔を向けて言ってくるこころちゃんを見てると、これは本気にしているようだな。 こころちゃんにとっては、家族が増えることは嬉しい事なのかもしれない。 しかし、頑張って下さいとはどういう意味なのだろうかなぁ~? 様々な捉え方を含ませているようで、こちらからはハッキリとした答えは見いだせない。
ただ、にこの鼻歌がまた聞こえ出した様子を見ると、つまりそう言うことなのだろうと考え込んでしまう。 悪意は無いのかもしれないが、頭を痛ませるには十分な材料となるのだ。
けれど、このことを完全否定すれば何が起こってしまっていたのか…………肝を冷やすようなことになっていたに違いなかったのだ。
「それで、こころちゃん………さっきの続きなんだが―――――――」
焦りを感じてはいたものの、俺は当初の目的を思い出し、こころちゃんからにこのことを聞き出した――――――
―
――
―――
――――
「はぁ~い、ごはんできたわよ~♪」
食卓を取り囲んだ俺を含む矢澤家の前に出されたのは、黒い焦げ目を薄らと敷いたようなハンバーグだ。 実際、こころちゃんら3人はそれを見て目をキラキラと輝かせているのである。 肉独特のいい匂いが部屋中に充満され、深い緊迫感の中に埋めていた俺ですら、空腹であることを思い起こさせ口の中に唾液を溜め込んでしまうほどだ。 お子様向けの定番メニューであり、嫌いである子供はまずいないと言っても過言ではない。
「蒼一は、こっちだからね~♪ ちゃ~んとよく味わってね♪」
こころちゃんたちに向けられた言葉よりも、さらに9割増しされたかのような嬉しそうな声で俺にも
「それじゃあ、いただきます♪」
『いただきます!!!』
全員の掛け声を合図に目の前に料理に箸をつけ始める。 やわらかい――――箸を入れただけですぐに固まった肉がほろほろと割けて口に入れやすい大きさに小分けすることが出来る。 箸に摘まれた肉一切れを口の中に放る。
うん、うまい――――――
肉々しいくらいの肉だ。 しっかりとした肉の旨味と味調整のための塩加減が出来ていて、子供でも気軽に食べられるやさしい味だ。 さすが、にこだな以前来た時と変わらない味なのだなと感心してしまう。 思わず、2度3度と箸が動いてしまうのだ。
初めは何かが含まれていたりするのではないかと、一瞬だけ考え込んでしまいそうになった。 だが、それだとこころちゃんたちにも害を及ぼしてしまう恐れがあるから、それは無いだろうと踏んでいた。 だから、こうして安心して口にすることが出来るのだ。
「どう、蒼一。 おいしくできているかしら?」
「ああ、いい味に仕上がっているぞ、にこ。 さすがとしか言いようがない」
「そう! よかったわ、蒼一のために愛情をたっぷり込めて作ったのよ! たぁ~んと召し上がれ♪」
満面の笑みで食べることを勧めるにこ。 しかし、その笑顔は俺の知っているような顔ではない。 もっと、心のこもったような笑顔を見せてくれるのがにこのいいところだった。 だが、今のにこは何かが覆いかぶさって本来のにこがどこかへ消えてしまったかのように見えるのだ。
傍から見れば、紛れもなくスクールアイドルらしい屈託の無い表情を前面に見せる可愛い女の子であると思って嬉しくなるだろう。 けれど、俺からだと性格が一変し、真姫や明弘を襲った人物としてでしか見ることが出来ないでいる。 そして、どうやって元に戻したらよいのだろうかと模索し続けているのだ。
「ん? にこ、その指…………」
ふと、にこの姿を見ながら食べていると、左人差し指の先に、白くテープのようなもので巻かれたようなのが付いていた。 あれは一体どうしたのだろうかと疑問に思う。
「これ? あぁ、これは蒼一に満足してもらえるように私の愛情を入れたのよ♪ これはそのあとよ♪」
「愛情って………まさか…………!!」
ゾクッとさせられるような緊張が走ると、動かしていた箸が止まってしまった。 一瞬、脳裏に過ったのは想像もしたくもないドロッとした生臭いあの液体だ。
すると、にこはゆっくりと体を近づかせ、俺の耳元に息を吹きかけるように囁く。
「それは……にこのとびっきりの血を入れてあげたわ…………どう? これでにこの一部が蒼一の中に入っていったのよ。 ふふふ……これで私と蒼一は一体となったのよ………もう想像しただけで、ゾクゾクしちゃうわ……♪」
「ッ――――――!!!」
その言葉を聞いた刹那、全身が凍りつくような悪寒を感じずにはいられなかった。 今、口にしていたモノの中に、にこの血が含まれているのだと想像してしまうと吐き気を催してくる。 そのため、胃の中に収まりかけたモノたちが外へ外へと押し戻し始めようとしていた。
というか、こころちゃんたちにも同じようなモノが………!!
「うふふ、安心して。 こころたちには普通のハンバーグをあげているわ。 そ・の・か・わ・り・に♪ 蒼一のには、じっくりと作ったにこの愛情たっぷりのスペシャルにしたのよ♪ しっかりと、にこの愛を味わってね♪」
先ほどと同じように、にこは耳元で囁いて俺にしか聞こえないボリュームで話しかける。
安心だと……? 安心など出来るはずがない。 人の血を口に含んで味わうなど快く思うはずもないだろう。 むしろ、今すぐにここから立ち去りたいくらいだ……!
しかし、状況が状況だ。 今ここで立ち去るような行動をとってしまえば、にこの機嫌は悪くなることだろう。 そうなれば、同じテーブルの上にいるこころちゃんたちにも影響が出てしまうかもしれない……! どの道、俺はここに来た瞬間から多大なリスクを背負ってしまっているのだ、こればかりは苦汁を舐める気持ちで挑まなければならないのだ………!
「あら、蒼一………箸が止まっているわよ………? にこの作った料理……おいしくなかったの………?」
「い、いや……別に何でもないさ………ちょっと、深く味わっているだけなのさ…………」
「いやぁ~ん♪ 蒼一ったら、そんなににこのことを味わってくれるだなんて感激ぃ~♪」
どこからともなく流れ出てくる汗を垂らしつつ、俺はこの料理を凝視する。 どうしたらよいのだろうか……食欲が一気に失われたこの一時、まだ半分以上も残っているこの
一向に収まらない吐き気を抑えることで一杯だった俺に、この重くなった箸を手にして食そうなど出来そうもなかった。
「あ――っ! そうだったわね、これじゃあ、蒼一も食べにくいわよね? 仕方ないわ、私が食べさせてあげるわ♪」
いかにも、待ってました!みたいなわざとらしい表情を浮かべると、自分の箸で俺の皿に置かれた
ぐっ……?! な、何を言い出すかと思えば、にこが直接、俺の口の中にコレを入れ込ませるというのか?! じょ、冗談ではない……!! そんなことをすれば、すぐに吐き出してしまう……!!
体をギリギリと締め付けられるようなこの緊迫した状況の中で、さらに俺を追い込ませるようなことを立て続けにしてくる……!! だめだ、体が拒絶反応を起こし始めているッ………!!
「まさか………にこが直接、蒼一のために御奉仕してあげているのに、それに応えないつもりなのかしら………?」
そんな俺の様子に何かを感じたのか、にこは俺に脅迫を掛けるような勢いで聞いてくる。 徐々に、威圧的な態度が表に出てくるのを感じた俺は、腹をくくってこのおぞましい料理を口にする。
「うふふ………♪ どうかしら、にこの味は………?」
「………あ、あぁ………と、とってもおいしいぞ……………」
「いやぁ~ん!!
さっきから、この料理のことをまるでにこ自身のように段々と言い変えていく様子を見ると、もはや狂気にしか見えない。 にこがそんな恐ろしいことを言うので、俺の口の中に入っている肉が、にこの肉なのではないかと錯覚すら起こしてしまうほど、俺の精神も蝕まれてくる。
「さぁ、まだまだたくさんあるからちゃんと味わってね♡」
それからというモノ、にこは皿に置かれたすべての食材、掛けられていたソース一滴ですらも残さないようにすくい上げて俺の口の中に無理矢理入れ込む。 食物が口の中に入る度に、俺に感想を聞いてきては、それを聞いて発狂するように嬉しそうな声をあげるのだ。
正直、このやり取りは体と共に精神をグチャグチャに壊してしまうかのような拷問のように思えた。 口に入ってくるモノは、それまでおいしいと感じられていたのに、まったく味のしないナニかを口にしているようで嫌だった。
ただ、唯一感じた味は――――――――
血生臭い、腐った鉄のような味だった――――――――――――
それだのに、その様子をずっと見ていたにこの3人の姉妹たちは、目を輝かせてまるで何か美しいものでも見ているかのような視線をこちらに向けていたのだ…………
この子たちには、俺とにこが本当に付き合っているかのように見えたのかもしれない………
この子たちには、真実を伝えるわけにはいかないのだ…………
ただ、そう願うほかなかった……………
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
今回は、にこのことだけしか書くことができませんでした。
ことりは……次回以降に持ち越しです………
次回もよろしくお願いします。