《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
彼と初めて出会った時、私の心は高鳴った―――――――
今までに感じたことの無かったその気持ちは後になってようやく分かった――――――――
『恋』なのだと―――――――――
それからの私は時々、彼のことを思い出すの。あの時に見せたやさしい笑顔がどしても頭から離れられなかった――――――
日ごとに増した悶々とするこの気持ち――――――
また逢えるという希望を抱いて――――――――
それから、数年が経ったあの日、私は彼と再会した――――――――
あの日と変わらないやさしい笑顔をして私の前に現れてくれた―――――――
―――――――とくん―――――――――
彼を見たら、また胸が高鳴り始めたの―――――――
以前と変わらないあの気持ちが膨れ上がろうとしていた―――――――
彼に抱きしめられた時のことを思い出すと、天にまで昇って行きそうだった感覚を思い出す―――――――
そして、彼に私の心を許したあの瞬間のことも―――――――――
私は彼と一緒に居られたことに満足していた―――――――
私がやりたいこと、好きなことを一緒になってやることが出来るこの瞬間が心地良かった――――――――
けど―――――――――
この気持ちに変化が生じてしまった――――――――――
ことりに諭されたあの時から私の中に築かれていた価値観がガラリと変わってしまったようだった―――――――
彼を思う気持ちがより一層高まったと思ったら、彼を独占しようと体が勝手に動いていた―――――――
そして、それを阻もうとするモノを次々と薙ぎ払おうと躍起になっていたのだ―――――――
違う――――――
これは私のしたいことじゃないのに、体が……言うことを聞かない―――――――――
一向に止まらない私の体は、私が大切に思っているモノに襲いかかった――――――――
μ’sのメンバー、特に真姫ちゃんに対して強い気持ちで当たってしまう―――――――
それに、蒼一までにも手を掛けてしまう――――――――――
あぁ、どうしてこんなことになってしまったのだろう?
どうしてこんな結末を見なければいけないのだろう?
私の中に後悔の念が募る――――――――
なのに………なのに、彼は………蒼一は私を赦してくれた………こんな私を赦してくれたのよ―――――――
嬉しかった……ただ嬉しかった…………あなたのそのやさしさに心から感謝したかった――――――
蒼一………私は―――――――!
―
――
―――
――――
自らが犯してしまった過ちに気が付き後悔し続けたにこは、抱えていた多くの思いを吐きだした。
体内から黒となる不純物を取り除き終えた後のにこは、まるで生まれたての赤ん坊のように無垢な表情となって俺の前に戻ってきたのだ。
溢れ出てきた涙跡をなぞるように手で拭きとり、その顔を綺麗に整える。 そして、ようやく強張った表情を綻ばせる姿を見せてくれると、ようやく俺が知っているにことなってくれたことに心が揺れた。 それが当たり前だと思っていたことが、しばらくかけ離れてしまったことで、その尊さを改めて感じることとなったのだ。
そんな些細なこと―――――にこの屈託の無い笑顔が見れたことに感動を覚えた俺は、思わずその姿を見入ってしまった。
目と目が合わさると、その瞳の奥に吸い込まれそうになるほどに、まじまじと見つめたのだ。
しばらく見つめ合った俺たちは、ハッとなって我に帰る。
そして、俺が上半身裸であるということを思い返して焦りを感じ始めると、にこもみるみると赤くさせていく顔を両手で覆い隠す。 けれど、わずかに開いた隙間からこちらをじぃっと覗かせているのだということは明白だったのだが、そうした中でも、俺は服を着直し平静を装うとした。
だが、にこが着替え終えた俺を一目見ると、また顔を赤くして逸らしてしまうので、話は一向に始める気配が無かった。
お互いが向かい合って座り始めて30分が経過した頃――――――――
小さく咳払いをしたにこがようやく顔をこちらに向けてくれたので、口火を切り始めた。
今回の一件――――――
どうやら今回もことりが一枚噛んでいたということをにこの口から聞いてしまう。 これまでの一連の件すべてにことりが絡んでいることを改めて考えされると、主犯はアイツなのだろうと必然的にそう捉えてしまう。
未だに信じ難いことではある―――――だが、それを受け入れなければ、また誰かが傷付き、傷付け合うこととなってしまうということに気が付かなければならなかったのだ。
彼女たちを――――μ’sを護ることは俺の使命であり、為すべき業なのだというこということに俺は受け入れなければならなかった。
そして、俺が相対さなくちゃいけない相手が誰なのか…………それに気が付くことが出来たのだ。
―
――
―――
――――
靴を履き玄関に立つと、俺はここ―――にこの家を出ようと支度した。
にこから聞きたかったことすべてを把握したこともあるが、これ以上俺がここに居るのも良いこととは思わなかった。 今、ウチに居る明弘たちのことを考えれば、早めに戻る必要がある。
ことりが主犯である以上、必然的に、穂乃果と海未がまた俺が知らないところでアイツらに襲いかかって来るかも知れなかったからだ。 それがことりだけなのか、それとも3人全員なのかはわからない………だが、どちらにしても男手が2人もいればしのげることはできるだろうと踏んではいる。
ただそうなると、にこの方が危うくなる危険性も含まれていた。 出来ることならにこもウチに来てもらいたいところだ。 だが、寝かしつけたこころちゃんたちをそのままにしておくのにはリスクが大きすぎた。
結局、にこの強い願いでここに残ることとなる。
にこの心境の変化がまだことりに伝わっていないことを信じてのものなのだが…………
「にこ、本当に1人で大丈夫なのか?」
「平気よ。 それに、あの子たちを護ってやらないとお姉ちゃん失格だもの。 ちゃんとその役割は果たさないと」
胸をトンと叩いて自信有り気に振舞うにこ。
その堂々とした姿は、普段見せる見栄を張るようなモノとはかけ離れていた。
誰かのために護ろうとするその決意の表れが俺に強く伝わってくる。 石のように硬いその決意を汲み取った俺は不思議と安堵する。 にこなら大丈夫なのだと、心がそう働きかけてくれるのだ。
「強いな、にこは」
思わず声に出てしまう。
にこは顔をわずかに引き締めると、自信が溢れ出てきそうな顔を見せつけるのだ。
「当然! 何てったって、にこは宇宙ナンバーワンアイドルのにこにーよ! これくらいのことでめそめそしてなんかいられないんだから!」
いつもの口調に、いつもの言葉―――――それを耳にして、ようやくにこが戻ってきたことを実感するのだ。
「それじゃあ、俺は行くぞ?」
扉のノブに手を掛けると、そのまま外に出ようとする。
「待って、蒼一!」
すると、にこが声を掛けて俺の行動を静止させた。 何事かと、ふと顔を向けると、焦った様子は全く見られない。 それどころか、足に力を込めて堂々と立つ姿が目に入ったのだ。
「どうしたんだ?」と声を掛けると、にこは一歩前に出てきては、「少し屈んで」と言ってくる。 はて、何をするつもりなのだろうか?と思いつつもその通りに行動をする。 「これくらいか?」と膝に手を据えて、半ば中腰にも思える体制を取ると、「そうそう、そのまま目を瞑って」と言う。 「あぁ……」と二言返事をすると、その通りに目を瞑った。
何が起こるのだろうか?と疑問を浮かばせ始めようとしていた直後だった――――――――
「――――――――んっ!」
唇に柔らかい感触が触れる―――――――
その触れられたところから、ほんのりとした甘い味が舌に巻き付いて喉に流れる。 桃のようなみずみずしい味だ。 薄くもしつこくもない丁度良い甘い感じが口の中に広がりをみせていた。 落ち着きすらも抱いてしまいそうにもなる。
だが、そのあまりにも急な出来事に目を開かせる。 すると、目の前にはにこの閉じた瞼が最接近したかたちで現れた。 それに目線を落とすと、俺の唇とにこの唇とが綺麗に重なり合っているではないか。
目を見開かせて驚くほかなかった。
にこはこの行為を止める様子は無かった。 いやむしろ、その小さな唇で俺の唇を覆い被さろうとするほどに、強く押し付ける。 その必死な姿が逆にかわいく見えてしまいそうなのだが、こちらとすると、内心は破裂寸前の風船のような緊張感を抱いていた。
焦燥感を抱き始めると、にこの行為を止めようと腕で跳ね避けようとする。 けれど、その唇を通して溢れ出る、包み込むようなやさしさを感じ取った時、体の動きが止まってしまう。 流れ出てきたそのやさしさが喉を通り抜けると、そのまま心の中に入りこんで行く。 すると、俺の心をふわっと包み込むようで、それが心地良く感じてしまう。
殺伐とした日々が続く中で荒み傷付いた心を癒すように沁み込むので、跳ね退けるようなことをする気になれなかった。 むしろ、嬉しく感じこのままでいたいと思ってしまうほどだったのだ。
時を測る事さえ忘れるくらい時間が過ぎ去る―――――――
ようやく、にこは俺の唇を解放させると、目を開かせてこちらもジッと見つめてくる。 余裕が垣間見えるような表情がすべて物語っているようにも捉えられた。
「これは、にこから蒼一に送る、私の気持ちがたっぷりと詰まった贈り物よ♪」
頬を赤く染めて、少し恥ずかしそうに話してくるにこ。 その言動が先程の我を忘れていた時と変わらないモノだと感じてしまう。
だが俺は知っている。 唇を通して直接感じたにこの本心を――――――
そして感じるのだ、この心からも同じモノがあるのだということを――――――――
甘くて、酸っぱくて、少しだけほろ苦いような口の中に残る印象的な味と、それと一緒に伝わってくる熱い想いが―――――――
じっと見つめていると、にこっと笑みをこぼす。 そのぎこちなさを含んだ笑みを見たのは初めてだった。 にこ自身も慣れてはいないのであろうその表情は、多分、今初めて現わしたものなのだろう。
揺れ動く心境を隠すように一生懸命となって笑ってみせようとするその姿が、俺の心をどきっと揺れ動かし、とても愛おしくも感じてしまった。
それでついついその小さい華奢な体を無理に引き寄せては抱きしめてしまう。 あまりにも咄嗟に出た行動ににこは驚きを示すが、すぐに落ち着きを取り戻すと小さな体を俺に委ねた。 従順すぎるほどに俺の腕の中に身を埋めるので、そうした一連の行動すべてが可愛らしく見えてしまうのだ。
すると、にこは口を俺の耳の近くにまで寄せると、小鳥のように囁く声で話す。
「私は――――蒼一のことが好き―――――たとえあなたが他の子のことを好きになっても、私はずっとあなたのことを好きであり続けるわ――――――」
対照的に交差させる顔をお互いに見ることは無かった。
今の俺の表情を出来ることなら誰にも見せたくは無かった。 綻び過ぎてしまったその顔を見られるのが少し恥ずかしかったからだ。 それはにこも同じなのだろうか、首に力を入れて頭が微塵たりとも動こうとはしなかった。
そして、にこの成長っぷりに感嘆すると、「やっぱり、強くなったな」とこちらも囁いてしまう。 「うふふ♪」と無邪気そうな声が聞こえると、どんな気持ちになっているのかを知ることとなる。
互いに顔を合わせずとも、言葉を交わさずとも、俺たちは感じ合うことでお互いをようやく分かりあえるようになる。
俺の大切な人となったにこを時間が許す限り、その身を感じ合えた。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
にこの話はこれで終わりです。
次回は、数話ぶりのあの子――――――