《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
[ ??? ]
「………………………」
「………………………………………」
「……………うっ……あぁ………こ、ここは…………?」
視界が微かにぼやけて見えてくる………身体の感覚も半ば眠ったままらしく鈍くなっているようだ。 それに、頭もガンガンと打ち付けられるような痛みに見舞われてたまったもんじゃない………
意識も未だに宙空を浮遊しているようで気分が悪い。 吐き気すら催してしまいそうだ。 そんな盤石とは言い難い状態の中で、別の感覚で自らの置かれている状況を把握しようと働き始める。
背中から足に掛けて身体の裏とも呼べる個所全体に、何かやわらかいモノに触れているみたいだ――――――
それに、血行も水平のままで廻っている―――――――
仰向けにされているのだろうか?
十中八九それであると、研ぎ澄まされた俺の触覚がそう断言しているのだから間違いない。
さらに、別の感覚を研ぎ澄ませていくと、様々な情報が取り入れられてくるのだ。
ぼやけた視界から入ってくる情報―――――四方が壁に囲まれ天井も存在しているのだということを読みとる。どうやら、俺は室内にいるらしい。 ただ、ここがどこだか分からない。 分かることと言えば……そう、俺の身体の下にあるやわらかい物体は布団のようで、俺はずっとその上で寝転がっていたようだ。 それに、スッと鼻に抜けるミントに近いような少し辛味あるスッキリとした匂いが部屋全体を覆っている。
女性用の香水だろうか? 特にしつこいような匂いではないため、肌に付けて女性の魅力を引き立たせるにはちょうど良い匂いとも言えるだろう。
ただ、この匂いは初めて嗅いだと言うわけでもなさそうだ。 つい最近、感じていたではないだろうかと思うのだが、歯痒いことに思い出せずにあったのだ………
では他には――――――――
ジャラ――――――――
ジャラ? なんだ、このずっしりと来る金属音は?
ふと、耳についたその音が気になりだしたので、眠っている身体を少し動かしてみる。 やはり、ジャラジャラと重みのある音が聞こえてくる………
しかし、何故かそれは一方向からではないのだ………頭の上と下の両方向から聞こえてくるだと……?
さらに深まる疑問が脳裏に渦巻く。
これでは埒が明かないと考えると、早速身体を起こして見ようとしてみる ―――――――
そんな時だった―――――――
ガチッ――――――――――!
「ッ―――――――――?!!」
突如、頭上近くにあった両腕が後ろに引っ張られるような感触を抱くと、起き上がろうとした身体はピタッと静止してしまった! 一体何が起こっているんだ?! と、瞬間的パニック状態に陥ると、その反動で眠っていた全神経が目を覚ました。 意識がハッキリとした俺は、もう一度、自分が置かれた状況を確認し出すと、とんでもないことが起きていたことにようやく気付いてしまったのだ!
「腕が………鎖で…………?!」
そう、今まで気が付かなかったのだが、両手首には手錠とそれを繋ぐ鎖の二種が混ざった拘束器具が掛けられていたのだ! それに、壁辺りに繋がっているだろう鎖は短く、腕を顔に近づけても視界にギリギリ入る程度に制限されている。
しかも、これだけで終わることは無かった。
頭の下の方でも音がしたのを思い出し、恐る恐る視線を下げると………
「おいおい……冗談だろ………」
………思ったとおりだった。 股開いた両足にそれぞれ、腕に付けられたのと同じものに拘束されていたのだ。
どおりで身動きが取れないと思ったわ。 両手両足の四肢がこんな感じで押さえられてしまっては、こちらからではどうすることもできないだろう。 まったくの最悪の状況だ。
それよりも、どうして俺はこんなところに来ているんだ? 確か、今日は…………朝起きて、穂乃果を見送った後にちょっと散歩がてらに外出していたんだっけな……そしたら、後ろから声を掛けられて、それで……………
うっ………!! あ、頭が……………!!!
ズキッと頭が割れるような痛みが走ったために頭を抱えてしまう。 だが、決して激しいものではなかったため、すぐに痛みを治まったモノの意識が途切れる前後の記憶が何とも言えないほどにあやふやだ。
その時、一体誰に呼び止められたんだ………? 血流がしっかりと回ってきていない頭の中を、手探りするかのように分け行ってみる。
『―――――――――――』
ダメだ……声がぼやけて性別すらも特定できない。 意識がブッ飛んだ際に、当時の状況をしっかりと記憶できずにあったことが何とも口惜しいことだ。 他にどんなことを覚えているだろうか……?
………確か…………そう、匂いが………鼻をスッて抜けていくようなミントのような香りが……………
「ッ―――――――――!!」
そうだ、あの時の匂いとこの部屋の匂いは同じじゃないか! 少し刺激的なこの匂いを忘れるはずがない、間違いなくあの時、俺に何かしたのはこの部屋に住む誰かなんだ!
身体を出来るだけ強引に動かし、この部屋の見取りを行えるように首を回す。
部屋の中は割とシンプルな感じだ。 タンスがあり、引き出しもある。 あとは、勉強机だろうか? その上に、幾つもの書類のようなモノが散らかってあった。 もっと他には!と辺りを見回すと、机の上に白のシュシュを見つける。 髪の毛を束ねるために使うその道具がここにあると言うと、持ち主は女性…………
いや待て! 確か、あのシュシュは…………
「ッ―――――――!! ま、まさか―――――――!!!」
急に呼び起こされる記憶―――――その中に含まれていた日常の一光景の中にそれが映し出されてあった。 それは、いつもシルクのようにやわらかく美しい髪を束ねて、常に俺好みの髪型に変化させてくれていた。 その持ち主も、通りかかる人を振り返させることが出来るくらいに見とれるほどの美貌を持ち、風になびかせる髪と絶妙に合わさるので、その魅力も数段跳ね上がってしまうのだ。
そんな彼女がこの俺を―――――?
ありえない話だが、もしやるとしたらアイツしかいないということは明白だ。
ここに来て、冷汗がダラダラと流れ出てくる。 今日までのアイツらとは違って、今回ばかりは一筋縄では解決できないことが俺の不安をかき立てていたのだ。 もうすでに、アイツと対面することに動悸が激しくなり焦りもピークを迎えようとしていた。
トン――――――――――トン――――――――――――
足音がゆっくりとこちらに向かってくる。
律儀にも一定のリズムとテンポを一寸狂わずに刻むところは、アイツの実に生真面目な性格を物語っているかのようだ。 あんな状態になってまでも……いや、アイツのその性格が、今のアイツをつくりだしているのだろう。
ガチャ―――――――――
扉が軋んだ音を立てながら開いていく―――――――
そこから姿を現したのは、普段では見ることがないだろう髪を降ろしたアイツ――――――
腰にまで垂れ流したその髪は、薄暗い中でもわずかに光るので良く目立つ――――だが、常に目にする髪の色とは異なる妖しげな色の光を放っていたのだ。 見るにおぞましきその姿を一目見て、それがアイツなんだと理解することが容易なことではなかった。
薄く細めた瞳から相手を凍り尽くすような冷酷な視線と、ニタァ…と唇の端と端とが頬にまで到達し、そのまま裂けてしまいそうな口が、アイツの異様な姿をさらに助長させているかのようだった。
だが、最も恐ろしいのはそのような姿と化っしても尚、その美貌は保たれたままだと言うことだ。 美しい華にはトゲがある。 アイツの場合は、誰をも虜にさせる魅惑の美貌と、生命を一瞬にして刺し通し奪う鋭い刃が備わっているのだろう。
それが何よりも恐ろしく目に映ったのだ――――――――
「ハァ~イ、蒼一。 約束通り、あなたに逢いに来たわよ♪」
獰猛な熊さえも籠絡させてしまう蜜のような甘い言葉を発する彼女―――――エリチカは、俺を見るなり愉しそうに笑ったのだ。
「エリチカ……おまえ…………!」
そんな笑うエリチカを見て、反射的に強張った表情をしてしまう。 あの表情を見てしまうと、ことりに対して何かしらの行為をしたことを愉しく語っていた時を思い出してしまうのだ。 あの後、ことりはどうなったのだろうか……それが心配でならない一方で、そうなるように仕向けたエリチカに怒りを感じていたのだ。
「ウフフ……イイ目付き………アナタのその目、まるでことりと一緒ね。 私に対する憎しみを感じさせるその視線は、アノ子とまったく変わらないわ………さすが、幼馴染って言ったところね……♪」
「ッ―――――!! それ以上言うなッ――――――!!」
エリチカの軽々しく零れた言葉が、俺の逆鱗に触れ始めてきやがった。 この視線がッ! この視線をことりに向けながら行ったと言うのかッ―――――!!
怒りと悲しみとが入り混じった感情が急速に湧き上がりだすと、この気持ちをどうしてくれようかと思い悩むも歯ぎしりすることでしか発散させることしかできないことに、苛立ちを感じせざるを得なかった。
奥歯を目一杯かみしめると、パキッと欠けるような音も口から漏れ出た――――――
「ウフフ……憎しみに満ちた目………イイわねぇ、ずっと見ていたいわ~♪ でもね………」
俺の姿を愉しく見物していたエリチカは、急に目の色を変え始め、鋭い表情をし始めて近づいてくる―――――と―――――
ドゴッ――――――――――!!!
「うごっ――――――――!!!?」
強烈な一撃が俺の腹に向かって飛び出したのだ!!
守り構えることが出来なかった状態で、無防備な腹に入っていった拳は、そのまま抉るようにミチミチとエグイ音を立てて、奥に奥にへと沈んでいく。 その度に、俺の口から腹に残っている空気を1ccをも残さず絞り出すような苦しい声が出てきてしまう。
「アハハハハ!!! イイ………イイわよ、その声!! 頂戴! もっと、アナタのその声を聞かせて頂戴!!!」
ノイズのような狂った声で吐き散らすエリチカは、正気の沙汰ではない。 いたぶり付けることを好みとする拷問官か、それとも、狂人か!? どちらにせよ、俺の知るエリチカはいない。 いるのは………他者の苦しみを糧にして悦ぶ者なのだ………
すると、急に拳の力を緩ませると、腕を引いてまた傍観し出す。
俺は過呼吸気味になりながら苦しみから解放されたことの解放感を味わいつつも、また次があるのではないだろうかと身構え出してしまうのだ。 安息など存在しない、あるのは苦痛と、それを与えられるまでの猶予だけなのだ。
一方のエリチカは、依然と愉悦な笑みを浮かばせながら俺のことを舐めるように見ているようだ。
「イイ感じよ、蒼一。 でもね、私はアナタを傷つけ、いたぶり、殺すためにここに連れて来たのではないのよ………すべては、私のため………そして、アナタのためでもあるのよ………?」
「おれの…………だと…………?!」
「ええそうよ。 今日からアナタは私だけの“モノ”となるのよ♪ そして、そんなアナタのことをかしこくかわいいこのエリチカがアナタのためだけに何でもご奉仕してあげちゃうのよ? ウフフッ、想像してみなさいよ、私たちだけの生活を……アナタは何も心配しなくてもいいのよ………すっとそのままでいるだけで、毎日が天国のような時間を楽しめられるのよ♪」
「なんだよ………そりゃぁ…………」
手足を拘束された挙句、行動すらも制限を掛けられてしまうような状態を送らされるなんて一体誰が喜ぶんだよ? そんな変態でマニアックなヤツしか好まないようなことを俺は断固拒否したい。 それに……さっきの態度と行動を振りかえると、どうもアイツが言ってたことだけじゃ収まりきらない気がする。 さっき、アイツは俺のことを“モノ”呼ばわりしたんだ。 決して穏やかに済むようなことではないだろうよ。
ギリッと噛み締め、さらにアイツを睨みつけ始めた。 エリチカの思い通りになんかなるものかと、決意を固めた。
それを見たエリチカは、一瞬眉をひそめると、怪訝な表情となって俺を睨み始めた。 腕を組みながらでかい態度で俺の前に姿を見せると、またドス黒い何かを全身から発し出したのである。
「へぇ~………私がこうもやさしくしてあげているのに、その厚意を無下にする気なのね……? ふぅ~ん……そう………なら仕方ないわね………」
すると、ポケットから何やら小さな小ビンを取り出すと、その蓋を捻ってその口を開けた。 開いた瞬間に漂い始める薬品独特の匂いが鼻につく。 それに加えて、脳に直接伝わるってくる刺激が不安をかき立てさせた。
「おまえ………なにをするきだ…………!」
「なに? ですって……? ウフフフフ……決まっているじゃないの…………」
そう言い放つと、開いた小ビンを口元に近付けさせてくる。 明らかに、それが危険であるということを頭の中で騒がしく警鐘を鳴らしてくるのだ。
そのため、顔を左右に逸らしながら飲まないよう抵抗し始めた。
だが、どうあがいても現状において圧倒的に不利であった。
エリチカによって拘束された身体では、完全に逃れることなど出来なかった。 それに―――――
ドゴッ―――――――――!!!
「ぐあっ―――――――――!!!!」
必要以上の力を込めた拳が俺の鳩尾に入り、その反動で苦しみもがいてしまう。 急所に直接喰らったためか、全身が痺れるように動きが鈍る。 抵抗など出来るような状態ではなかったのだ………
「さあ、蒼一。 たんと、飲みなさい………」
口元を手で抑え付けながら小ビンの中に含まれる液体を口の中に流し込まれる。 コップ一杯にも満たない液体は、喉を通り抜けるとそのまま腹の中にへと収まりだした。
すると―――――――――
「ッ―――――――――!!!!」
すぐに身体に異変が生じ始めたのだ………!
胸を焼き付けるような痛みと、頭を抑え付けられるような圧迫感が襲いかかる! 刃に刺されるような一瞬の痛みであったらどれだけよかっただろうか……これは時間が経つにつれて痛みが段々激しくなり、頭の方から身体を真っ二つに引き裂かれそうになるまで拡大したのだ。 身体を出来るだけ激しく動かし、のたうち回ってもこの痛みは消えることが無い。 事が治まりきるまで続くことになるのだった。
「抵抗なんてしない方が身のためよ。 さあ、身体を自由にさせて受け入れなさい。 今日からアナタは私だけの“モノ”となるのだから、余計なことなんて考えなくてもいいのよ………」
耳元でささやかれる誘惑の言葉が臨む―――――
必死に抵抗を行い続けるものの、限界は近い。 身体よりも精神の蝕みの方が深刻となり、いつ意識がブッ飛んでもおかしく無かったのだ…………
「ハァ――――――――ハァ―――――――ハァ―――――――」
視界がぼやけ始め、頭もぼーっとしてきて意識が遠のいていこうとしていた。
「もう…………だ……………め……………」
霞んでいく視界の中、エリチカのしたり顔が目に焼き付けられると、意識が遠退いていこうとするのであった―――――――――――
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
今回からエリチカ編となります。