《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
「あぁ………ああぁぁ…………い、いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶望を抱いた残響が部屋を包み込む。
何がどうしてこうなってしまったのか、俺にすら分からない。
だが、ことりが何かに怯えだしていることに変わることは無い。
俺は、吐血した身体に力を入れ直しに入る。
しかし、やはり吐血したことで身体に大きな負担をかけてしまったらしく、思うように動くことが出来ないでいる。 視界もかすんで見えてくるし、耳も遠くなってきやがった………またしても、意識がどんどん遠ざかっていく気がして何とも言えない気持ちになる………
あぁ……だめか……身体にかなりの負担をかけちまったからな………ここでようやくツケが回ってきちまったと言うわけか………
情けない話だ……あともう少しだって言うのに……この手のすぐ届く距離に……俺の求めているのがあるっていうのによ………それを拝まずに事切れるってのは………嫌な気分だ……
あぁ……視界が黒くなってきた………色が付いた世界からモノクロに変わるって、何だか変な感じ………これが、終焉の時ってやつか………? あぁ………そう言えば、前にも同じようなことがあったっけなぁ………
でも、2度も助かるわきゃないか………いくらアイツでも赦してくれねぇだろうよ………
ごめんな………約束………守れそうもなかったわ…………
沈んでいく意識の中で、アイツとの約束を思い返していたところだ。 あんなに自信もって言ったのになぁ……それに柄にもなく口付けもしちゃって……ホント、俺ってバカなんだなぁ………
1人の大切な人を助けることが出来なくって…………
『―――――――――――――――』
ぁあ……なんだ………? 何だか、懐かしい感じがするなぁ………
『―――――――――――――――』
これは………あぁ、覚えていますよ………これはあなたの手だ………あんなに細くって力が籠っていないように思えたあの腕で……この手を握り締めてくれた………
『―――――――――――――――』
あの時疑っちゃいましたよ………ホントに病人だったのかって………でも、その後にあなたが亡くなって………ホントに病人だったんだって………
俺も………今からそっちに行ってもいいですか…………?
『―――――――――――――――』
だめ……ですか…………手厳しいですね………もう、俺はクタクタです………生きる気力だって………
『――――それでも、私はキミに託したい。 蒼一くん、私のかわいい1人娘を――――頼む』
ふっ……まったく、強情な人ですね………そっちに行っても親バカは直らないようですね………和幸さん
すみませんが……少しだけ、力を分けてくださいね……
―
――
―――
――――
「ゲホッ――――ゲホッ――――――!!」
うぅ……まだ、意識が朦朧とする………身体の痛みも健在だ……悪い意味でな。
吐血し、気絶し、死の淵にまで行ったはいいモノのそこから追い返されて、ここにいる。 何だか、このわずかな時間の間で、すごい体験をしてしまったような気がしてならなかった。
だが、そんなことすら考えている余裕なんかなさそうだな………
「あぁっ………ああぁぁ………いやっ………うそだよ………そうくんが……あぁ……そうくんが………」
まずは、ことりを何とかしないといけないな………
身体を無理矢理動かしだすと、ギチギチと色んなところが軋んで痛すぎる。 腕を少しあげるだけでも苦痛だ。
それでも、こんな痛みを押し退けてだって目の前にあることに尽力しなくちゃならない。 今持っている力を全部使い果たしたっていい。 その代わりに、ことりを救う事だけは約束して欲しい………
俺の大切な人なんだ………誰にも渡さねぇ……誰にも壊させねぇ………
俺のことりを……この手で救うまで、諦めきれなくなっちまったんだからよぉ!!
この腕を差し伸べる―――――泣きじゃくることりに向かって、この手がどんどん近付いて行く。 あともう少し……あともう少し、と痛みを耐え忍び、授けられた希望とを活力にしていく。
そして、ようやく――――――
その肩に手を置くことが出来た――――――
「ひっ……!! い、いやぁぁぁぁ!!! こないでぇ!! こないでぇ!!」
「ッ―――――!!」
しかし、どういうことだろうか―――――ことりは急に暴れ出して、置いた手を振り払ってしまった。 その顔を見てみると、紅く染まっていた頬が雪のように白くなるほどの恐怖がことりを襲っていたのだ。 それに、その瞳からは光を失い、白く濁っていて、俺の姿など映ってなどいなかったのだ………
狂ったように泣き喚き、暴れ回るあの威圧的にも思える拒絶反応。
あの様子は、まるでいつか見た光景とまったく同じように思えた。
あの時は、何も出来ずに手を止めてしまった。 自分でもどうすればいいのか分からず、立ち止まってしまったんだ…………
けど、今は違う。
あの時を乗り越え、これまでのすべてのことに抗い抜いてきた!
今度は、立ち止まらない。 目指すべき場所、護るべきモノがあるのだから、諦めちゃいけないんだ!
跳ね退けられたその手をもう一度、ことりのほうに向ける。 真っ直ぐに、傾くことなくただひたすら真っ直ぐに、突き進んでいくんだ。 そして、語るんだ。 俺の声でお前の名前を叫ぶんだ――――――
「ことり――――――!!!」
俺は心の奥底から叫んだ!
すると、暴れていたことりの様子に変化が生じた。
「そう………くん…………?」
動きを止め、こちらの方に顔を向けて俺の名前を呼んだ。
けれど、視線がこちらにあっていない。 まさか、俺の姿が見えていないのか? あの白く濁った瞳がことりの視力までもを奪ったというのか?!
「どこ………そうくん…………? どこにいるの………?」
辺りを探るように腕を伸ばして俺を探そうとしていた。 その様子がとても痛ましく、見てもいられない姿で息を呑む。 堪えろ……まだその時じゃない……早く、手を差し伸べなくちゃ…………
「ぅぐぐぐっ…………!」
身体中の痛みを跳ねのけて、脆いこの腕を伸ばす。 あと、もう少しだ……あともう少しで届くんだ………!!
指と指とが触れ合いそうになる感覚が、とてももどかしい。 早く、その手に触れたい……! 感じたい……! そんな気持ちでいっぱいなんだ! それは、ことりも同じなんだろう? あの必死に探し求めようとするあの姿に俺と共通の意識を感じるのだった。
ミチミチ――――――――――
頼む………限界を越えても構わないからさぁ………なあ、いいだろう………?
そして――――――――
「「あっ――――――」」
指と指が触れ合った―――――――――
「見つけた―――――」
その指に触れると、そのままの勢いでその手を握り締めた。
ふわっとしたやわらかな感触が手の平いっぱいに感じとれた。 この手の温もり、このしなやかな細い指……間違いない、ことりだ……!
俺は残る力をすべて出し切る気持ちで、ことりの手を引いて抱き寄せようとする。 もう、いろんな神経やら骨髄やらが限界を訴えてきやがる……いいじゃねぇか、別にどうってことないじゃんかよ………
この一瞬の喜びのためなら………投げ打ってやるさ、この
「蒼くん―――――!!!!」
「ことり―――――!!!!」
片方の手でその手を引き、もう片方の手でその腰に添えて、その身を抱き寄せる。
短くも、長い刻をかけての生まれた本当の廻り合い。 互いの
だってほら、俺のこの手の中にちゃんと納まっているじゃないか……
俺の大切な……大切なことりが……………
「う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! そうくぅぅぅぅぅぅん!!!!!」
圧し止めていた感情が雪崩れ落ちるかのように強く泣き叫んだ。 ボロボロと流れ落ちる熱い涙が俺の肩を濡らしていく。 そんな今にも壊れてしまいそうな華奢な身体にそっと触れ、互いに露出した肌と肌を重ね合わせる。 胸同士が重なり合うことで、互いの鼓動が耳を通さずともよく聞こえる。
どくん、どくん、と一定の速さで打ち立てるその音は、何とも穏やかで心地いいモノだろうか。 傷付いた身体に沁み込む癒しの
「ごめん………な……さい………ごめん………なさい…………!」
未だに抑えられない感情を抱いたままの言葉が俺に届く。 ちゃんと喋ろうとしているが、声を詰まらせながら泣き続けるからハッキリとしたモノとなっていないが、その気持ちはよく伝わっているぞ………
その気持ちに応えるように、その頭に手を添え、髪に沿ってやさしく撫でた。
「わたし……蒼くんを奪われるのがイヤだった………蒼くんの隣はわたしだって言いたかった………なのに、それを取られちゃったみたいで……わたし………わたし………!」
言葉を紡ぐごとに、息苦しくなっていく――――――
「わたし……どうにかしてでも欲しかった………! その隣が………! だから………みんなを……ことりは……みんなに………手をかけちゃった………こうするしかなかったの……! こうするしか、蒼くんの隣にいられないと思ったの………! もう……戻ることが出来なかったの………」
強く、つよく語りかける言葉の1つひとつが重かった―――――
「でも……気が付いたらわたしはひとりぼっちだった………こわかったよぉ………誰もいないところでたった1人になるのが………とってもこわかったよぉ…………」
身体にしがみ付く腕の強さが、ことりの内なる痛みだ―――――
「なのに……そうくんを………そうくんを…………わたし………死んじゃったのかと思った……口から血がいっぱい出て………倒れちゃって……目の前が真っ白になっちゃって………もう……何が何だか分からなくなっちゃって………!」
この痛みは、治さないといけないもんな―――――――
俺はことりの頭を撫でながら「もういいよ……言わなくてもわかるから」と囁く。 言葉で受ける以上に、この身体から伝わってくる感情が多くのことを語ってくれる。
それは、とても辛いこと………言葉では言い表せられないことばかりだ。
そんなことりに俺は囁く――――――
「ことり――――――ごめんな。 こんな辛い目に合わせちゃって、本当にごめんな。 俺がもっと、ことりのことを見てあげることが出来たら、こんな辛い経験をしなくても済んだはずなのに………俺はまた、ことりをこんなに悲しませてしまった………本当に、ごめん………」
「そ、そんな……蒼くんは悪くないよ……全部、ことりが悪いの……! ことりがこんなことをしなければ、みんなが……蒼くんが傷付かなくて済んだんだよ……!」
「違う! 違うんだ、ことり……俺は気付いちまったんだよ……! お前の気持ちと……俺自身の気持ちがよ………だが、俺はそれに気付かないふりばかりしていた……これは、俺の落ち度なんだ……!」
「えっ………」
抱きしめることりの身体から手を離すと、ことりもまた俺の身体から腕を離した。 そして、ようやくお互いが向き合わさった。 あらためて見るその顔は、涙で薄汚れて赤子のように紅い表情を見せていた。
ただ、涙で零れ落ちたのだろうか。 瞳を覆っていた白く濁ったモノがとれて、ハッキリとした視線でこの俺を見つめていたのだ。
あぁ、この目だ………この純粋な目を見せてくれるのが、ことりなんだよ………
お互いの視線が混ざり合わさった―――――――
「最初に言っておかないとな………」
そう言って、俺は一呼吸おくと、もう一度見つめ直す。
心臓がこれまでにないほどの大きく高鳴っていた。 もう自分で抑えきれないほどだ。 けど、もう迷う必要なんかない、逃げる必要もないんだ。 ただ、俺の想いをそのまま伝えるんだ……!
真剣な眼差しが重なり合う―――――――
心臓の鼓動が耳でも聞こえるほどに高鳴った――――――
「ことり―――――――――
――――――大好きだよ」
「ッ~~~~~~~~~!!!!」
これが俺の答えだよ。
俺が本当に伝えたかった言葉を直接伝えたのだ。 迷うことのないこのシンプルで美しいこの言葉で、俺のすべてをことりに伝えたのだ。
それを受け取ったことりは、口元を手で覆い、瞳を煌めかせて滂沱の感涙を流したのだった。
「ほんと……? うそ……だよね………? そんなわけ……ないよね………?」
未だに信じられないような感じだった。 これは夢じゃないのかって思っているのだろう。 けど、それは違うんだ。 俺は……偽ったこと言えるほど、器用な人間じゃないから………
だから、もう一度伝えるんだ――――――
「俺は………ことりのことを、本当に好きだって感じているんだ………この気持ちを受け取ってもらえるか?」
「ッ~~~~!!! いいの………? 本当に、ことりなんかでいいの………?」
「あぁ、ことりでいいんだよ………それで、返事を聞いてもいいかな………?」
「っ~~~~!!! う、うん………蒼くん、わたしもね……蒼くんのことが大好きなの………こんな……こんな何も無いわたしですが………蒼くんへの愛だけは負けないよ……!」
「ふっ、ことりにはちゃんと持っているじゃないか………」
「えっ…………? ことりには何も………」
「いや、ことりには、俺のことを愛してくれるっていうその気持ちがちゃんとあるじゃないか。 その気持ちがあるだけで十分さ」
その言葉を聞くと、ことりの瞳からボロボロと大粒の涙が零れ落ちて行った。 溢れんばかりのその涙は、またことりの綺麗な顔をくしゃくしゃに汚すだった。
「まったく、顔がすごいことになっているぞ? ほら、これで拭かないと」
「だ、だって………ひっぐ………わたし……嬉しくって………ひっぐ………蒼くんから、好きって言葉を聞けるなんて……思ってもみなかったんだもん……!」
瞳から流れ落ちる涙をひと筋ずつ拭い、その素顔を少しずつ見つけ出そうとする。 この涙を拭うことで、ことりが抱く悲しみを取り除けられるのなら、何度だって拭ってやる。 そしてもう、誰も傷付かない、悲しむことのない日々を送れるようにしたいんだ!
嗚咽が鳴り止むと、涙も次第に引いていく。
紅くなった目頭と頬がその後を残すのだが、時期に無くなってしまうのだろう。
ただ、俺はここで起きたこと、見たこと聞いたことすべてを決して忘れることは無い。 善いことだけがすべてじゃない、悪いことも含めてすべてと言えるんだ。 だから俺は、ことりのすべてを知るために、この出来事をすべて心に留めるのだ。
忘れず、そして、いつも思いだすようにするんだ。 これからの道のりで、俺が成すべきことを知る上での大事なヒントとなってくれるはずだから………
「ことり………」
熱を帯びたこの手でその顔に触れる。
「蒼くん………」
ことりもまた、その手で俺の顔に触れる。
俺がその手に触れて、温もりを感じようとすると、ことりもまた同じように俺の手に触れて何かを感じとろうとしていた。
多分、考えていることは同じなのだろう。
肌同士で感じ合うお互いの鼓動が同じ音を出しているのだから。 重なり合うこの胸の高鳴りが2人の様子を表しているかのようだった。
互いの顔が近付き合う―――――――
すれ違いばかりを起こしていた2人の間に、もはや、阻むモノなどどこにもなかった。
これで、直に互いを知ることが出来るのだ。
気付いたら瞳を閉じて、胸の音だけを感じていた―――――――
ドクン――――――ドクン――――――――
切迫する鼓動がすべての音を打ち消してしまう。 雑音の無い真っ暗な世界が何だかむず痒く、今すぐにでも目を開いて目の前にいる彼女の姿を瞳に収めたかった。
けど、今この場で目を開いたら、やわらかい素顔を見せる愛しい彼女に魅了されて、それどころじゃなくなるのが目に見えている。
もどかしい………だが、これでいいんだ。 俺とことりの間なのだから、ここから始めればいいのだから………まずは、素顔のことりを
「「んっ―――――――――」」
自分の唇が彼女の唇にやさしく触れ合った――――――
ことりとの初めての口付け。
いつも俺に見せる執拗に絡むようなモノとはまったく別、やさしく穏やかなでありながらも、暖かく包み込んでくれるような気持ちが口の中に注ぎ込まれていくのだった。
花火のように一瞬にして咲き散るような出来事だった――――けど、彼女が俺に色鮮やかなる愛のかたまりを与えてくれた。 それは、この先もずっと忘れることが出来ない、
「―――――おかえり、ことり――――――遅くなって、ごめんな」
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
次回でことりの話が終わります。