《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
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【序文】
新緑が萌え広がる春の季節が風に吹かれるように過ぎ去り、薄暗い雲が湿気を携えてきました。
どうやら本格的な梅雨のシーズンが訪れそうです。
こういう季節と言うのは、あまり好きではありません。
このジメっとした感触が、何とも肌にまとわり付くようで、振り払おうとしてもビクともしない。 やるだけ無駄であるということを実感させられる、恒例のイヤ~な感じですぅ………
そんな私は、レンズの中に湿気が入らないように工夫しなくてはならないことに必死です。 カメラを持つ者にとっては、これほどイヤな季節は無いでしょう………あとは、海沿いとかもですね………
これでは、陰湿な気持ちになってしまうのは時間の問題ではないでしょうか………?
陰湿と言えば――――そう、最近変な感じを直感的に知るようになっています。
なんと言いましょうか………学校に居る時に“それ”を強く感じるようで、落ち着くことができません。 今現在、部室に居る私ですが、ここに居ても“それ”を感じてしまうのです。
うぅ……早く家に帰りたいですぅ………
(コンコン)
「―――っ!!(ビクッ!!)」
考え事で意識を集中していたので、扉と叩く高く振動した音に思わず体を強張ってしまった。
「な、なんでしょうか………?」
咄嗟に対応するために発した声は、焦っていたことから少し上ずってしまう。
内心の乱れが治まらない中、扉の向こう側から1人の少女の影が見える。 すると、少々雑に扉が開くと、私のよく知る人の姿がありました。
「よ~こちゃ~ん♪」
満面の笑みを浮かばせて中に入ってきたのは、私の友人であります、穂乃果ちゃんです。
な、なぁ~んだ………穂乃果ちゃんでしたかぁ………焦って損した気分ですぅ…………
内心、そう思いながら息を吐き、肩の力を抜こうとしました。
………が、しかし…………
「洋子ちゃん………聞いてるの………?」
「―――っ!!?」
今まで見たことのない不気味な笑みを浮かべる友人の姿に恐怖せざるおえなかったのです………
―
――
―――
――――
「うふふ♪ ありがとね、洋子ちゃん♪」
そう言って、穂乃果ちゃんは私の目の前からいなくなりました。
「な……なんだったんですかぁ………今のは…………」
張り詰めていた風船に穴が空き空気が抜けるように、体中を張っていた筋肉が一気に緩みました。
嵐のような一時――――さっきの状況はまさにそうしたもの言えましょう。
穂乃果ちゃんが、この部屋にやってきた瞬間、すぐさま私に詰め寄り、私の手元にある写真をすべて買い取ると、言い張ったのです。 それも、蒼一さんのをです…………
そんなバカな、ありえないでしょ?!
思わずそんな声を発してしまいました。 何せ、在庫所持していた写真の数は少なくとも5、60ありました。 それをすべて買うとなると、一般学生にとってはかなりの額です。 ましてや、バイトもせず、おこずかいも少ないと言っていた彼女が払えるとは思ってもみなかったのです。
――――ですが、そんなのはただの空想に過ぎませんでした。
私の目の前に置かれてある数枚のお札が……そして、5、60あった写真が手元から無くなったことが鮮明たる現実として存在するのです。
その現実を前に放心してしまいました。
そして、思いました―――あの数多くの写真をどうするつもりなのだろうかと……?
つのる心配と衝動が私を不安にさせるのです………。
「……おや、もうこのような時間に…………」
部屋に掛けられた時計を見て、定時になったことを確認する。
「さぁ~て、確認しますか………」
部室内にある1台のパソコンに電源を入れる。
モニターが白く光り出すと、そこに映し出されているモノに色が付き始めます――――
そこに映し出されたのは、校内にある廊下の様子――――
とある部屋の様子――――
校庭の様子――――
体育館内の様子――――など、校内に設置したカメラからの映像がこのモニターに映しだされています。
そうです、これは一種の監視です。
以前に、お話ししました校内中に設置した小型カメラとマイクからの情報がこちらにすべて来まして、見たり聞いたりすることができるのです。 これによってこれまでに様々な情報を手に入れることができたわけです。
「それでは早速………はい、見つけましたよ~♪」
映像として流れてきたのは、蒼一さんが校内にやって来る姿です。
明弘さんも一緒にいるようですが、途中で別れたようですね。 さて、このまま部室に行くのでしょうか……………おや?
蒼一さんが廊下を歩いている様子を見ていると、蒼一さんの後ろから何かが近づいているような………違った角度から見てみましょう。
少し離れたところから見ると、その正体がわかりました。
「あっ!!」
私がそれに気が付いた瞬間に、2つの影が素早く動き始めました―――ものすごい速さです!! ぶつかってしまいますよ!!
危ない――っ!!!
そう判断した矢先―――蒼一さんが映像から消えました。
「そ、蒼一さん!!?」
一体、何が起こったのか見当もつかないまま、私はあらゆるカメラを通して蒼一さんの姿を確認しようとしました。 ですが、どれにも映ることはありませんでした…………。
「致し方ありませんっ!!」
私はモニターを付けたまま、この部屋から飛び出して行きました。
先程まで、蒼一さんがいた廊下の場所を脳内上に作成された地図で確認すると、その目的地に向かって直行して行きました!
何事も起こらないでくださいよ―――!!
そう祈りながら走っていくと目的の場所が!
ですが、そこには蒼一さんの姿がどこにもありませんでした…………一体どこに………?
「…………っと!! ……………めろっ!!!」
「!!」
近くの教室から蒼一さんの声が……!
私はその声が聞こえる方向に向かって走り出しますと、勢いよく扉を開きました。
するとそこには――――――――――!!
「お、おまえらっ!! ………ちょっ!! ちょっとやめろっ!!!!」
「イヤよ! 蒼一と一緒にいるのは私なんだからね! 誰が何を言おうと退く気は無いわ!」
「それは、穂乃果も同じだよ!! 蒼君と一緒にいたいと思っているのは、穂乃果もなんだよ!! 真姫ちゃんは大人しくしててよね!!!」
「何を言ってるの、穂乃果ちゃん、真姫ちゃん。 蒼くんは~ことりのおやつになるんだよ♪ だ・か・ら、2人には渡せないんだよ♪」
「な、何なんですか………これは…………!!?」
それは想像を超えた光景が目の前にありました。
蒼一さん1人に対して、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、真姫ちゃんが引っ張りあっている……いえ、奪い合おうとしている光景が……!!
初めに、真姫ちゃんが蒼一さんの背中に飛び乗ったようで、まるでおんぶをしているかのようにガッシリと蒼一さんの体に腕と足を絡ませて逃れないようにしています!
穂乃果ちゃんは、そんな真姫ちゃんを蒼一さんから離れさせようと、必死に真姫ちゃんの体を引っ張っています!
ことりちゃんは、正面で蒼一さんの両腕を引っ張り、穂乃果と一緒になって引き離そうとしているのです!
そして、双方から引っ張られて痛そうな表情を浮かべている蒼一さんが…………!!!
「な、何をやっているのですかぁ―――――――――!!!!!!!!!!!」
―
――
―――
――――
「はぁ……はぁ………何をやっているのですか、あなた方は!!!」
「「「だ、だって………」」」
「だってじゃありませんよ!! もう少しで、蒼一さんがダウンするところだったじゃないですか!!」
「「「あっ…………」」」
3人は視線を少し落として見ると、そこには疲れ果てて倒れている蒼一さんの姿がありました。
白目むいちゃってますよコレ……大丈夫なんでしょうか…………
「ごめんね、蒼君………痛くなかった……?」
「蒼くん、ごめんなさい。 私が強く引っ張ったせいでこんなことに………」
「ごめんなさい蒼一……悪気があったわけじゃないのよ………」
みなさん、そのまま蒼一さんの方に駆け寄ると、心配そうな表情を浮かべては声掛けをしています。
どうやら、少しは反省したようですね。 まったく、少しは加減と言うものを学んでもらいたいものですよ!
「でも安心して……蒼君にどんなことがあっても穂乃果が何とかしてあげるからね………」
「蒼くん………ことりが蒼くんのことを大事に大事にしてあげるから……安心してもいいんだよ………」
「この私がいるから蒼一がケガしても病気になっても治してあげるんだからね………」
「だーかーらー!! まったく反省してないじゃないですかぁ――――――!!!!」
それから3人は、蒼一さんが気絶から回復するまでその場を動こうとはせず、その無防備に晒された身体に手を伸ばしては、その一部を我先にと掴み放さないのです。 口で言っても聞こうとしない彼女たちにこちらも実力行使といかせていただきましたが、さすがに3人同時に相手するには分が悪く、いとも容易く振り払われてしまうのです…………
みなさん……意外と力があったのですね…………
穂乃果ちゃんに何故か投げ飛ばされた際に、ふとそのようなことを思ったのでした――――――
―
――
―――
――――
[ アイドル研究部 ]
「――――と言ったようなことがありまして、危うくケガするところでしたよ!!」
「「「ご、ごめんなさい………」」」
「ごめんで済めば警察いりません!!
………ですが、私の友人でありますから事を荒立てるようなことはいたしません………」
「洋子ちゃん……! うわーん! 洋子ちゃーん!!」
「ありがとね、洋子ちゃん!!」
「さすが洋子ね、感謝するわ」
3人とも私の言葉を聞いて安心したのか、緊迫させていたモノを吐き出すかのように、私に迫ってきました。 特に、穂乃果ちゃんなんかは、私に抱き付こうとする始末………ただでさえ蒸し暑い季節なのに、抱きつかれると余計熱くなってしまいます!!
毎日、その相手をしている蒼一さんの苦労が何となくわかったような気がします…………
「ほんと……おめぇらいい加減にしてくれないか………さすがに、今日は疲れたぞ………ああ、気力をすべて失ったかのような倦怠感が…………」
「それじゃあさ、穂乃果が蒼君のその疲れた身体を揉み解してあげるよ♪ あっ、それとも~私の身体を揉んじゃう……?」
「力加減を知らないお前に解してもらったら骨まで砕かれそうで怖いから拒否するぞ……それと、お前を揉む気なんてさらさらないわ!!」
「それじゃぁ~、ことりが癒してあげますよ~。 私の膝はいつでも蒼くんのために空いているんですよ~♪」
「変な顔をして、指をワキワキとしているその姿が異常過ぎて安心なんて出来るわけないじゃんか………」
「もう、2人とも蒼一が困っているでしょ? 大丈夫、蒼一? この私に掛かれば、蒼一がして欲しいと望むモノを何でも叶えてあげちゃうわよ……?」
「お、おう……最後のがなんかめっちゃ怖いんだけど……気持ちだけもらっておくわ………」
頬を引きづらせて青ざめた表情を浮かべる蒼一さんは、その全身から力を失ってしまったかのようにグッタリと肩を落としています。 先程、あのようなことがあったのですから、肉体的にも精神的にも参っているに違いありません。 この後の練習で倒れることがなければいいのですが…………
「まったく、穂乃果たちは何をしているのです! この後、練習がありますのに、このようなふざけたことをしないでください!」
「そうだよ! これじゃあ、蒼くんがかわいそうだよ!」
「3人ともちょっとやり過ぎやで。 少し反省せんとアカンなぁ」
「「「うぅ……ごめんなさい………」」」
蒼一さんの様子を見たからなのでしょうか、海未ちゃん、凛ちゃん、希ちゃんのリリホワメンバーがこぞって、穂乃果ちゃんたちになんとも厳しいお言葉をかけています。
私と同じような考えを持っていてくれたことに、ほっと胸をなでおろします。
「大丈夫、蒼一? よかったら、保健室のベッドで休む? それなら鍵を取って来るけど?」
「それなら、にこも一緒に付いて行ってあげるわ。 1人だけじゃ心許ないでしょ?」
「で、でしたら、私も一緒に行きます! 蒼一にぃが心配ですぅ!」
「いや……そこまでしなくても大丈夫さ………ありがとよ、その気持ちだけで十分だわ」
絵里ちゃんもにこちゃんも花陽ちゃんも蒼一さんのことを気遣ってくれているようで、そうした気持ちを汲み取ったのでしょう、蒼一さんはちょっぴりだけ綻んだ表情を浮かべていました。
「まあいい、穂乃果たちだって悪気があってやったわけじゃないんだ、さっきのことは無かったことにしよう」
「「蒼くん……!」」「蒼一……!」
「お前たちもそれでいいな?」
『う、うん……』
「それじゃあ、気持ちを切り替えるぞ。 今日はあいにくの雨だ、屋上での練習はできない。 そこで今日は、ユニットの新曲作りを行おうと思う。 いいかな?」
「はい!」と蒼一さんからの応答に元気よく返答するメンバーのみなさん。
あの一瞬で、気持ちを変えさせたというのでしょう。 こうやって上手にまとめさせるだなんて、まったく頭が下がりますねぇ~。
そう言えば、明弘さんの姿が見えないような………?
どこに居るのでしょうか?
「あぁ、明弘なら違う部活動の練習を見に行くって言ってたな。 何やら、指導をお願いしたいとかだとよ」
「へぇ~、明弘さんもそんなオファーが来ていたのですか……ふむふむ」
そう言えば以前、蒼一さんたちに自分たちの部活の練習を見てほしいと騒いでいた人たちがいましたねぇ。 ついこの間には、蒼一さんがそうした部活動に顔を出していたんでしたっけ?
こんなお忙しい時に、そこまでしてくれるだなんて、実に頼もしいお方たちですね。
「蒼一さんもまた、そうした部活動に顔を出したりするんですか?」
「多分な、あるとしたらソフトボール部からかもしれないな。 あともう少しで大会があるって言ってたし、先輩思いの後輩たちに華を持たせてやらんとね」
「お優しいですね」
「何、俺だって嫌々やっているわけじゃねえさ。 元々、野球をやっていた身だし、ああいうの見ていると目の保養になるんだよ。 もしかしたら、練習見たさに入り浸りになるやもしれないな」
頬をポリポリとひっかきながら、冗談交じりな言葉にやや苦笑気味のようです。
私もついつい「そんなまさかぁ~w」なんて笑い飛ばして、その冗談に乗っかっていました。 こうして笑っている時が、一番心が落ち着きますね。
ですが、この穏やかな空気に包まれていたこの部室に、良からぬ空気が立ちこめようとしていました―――――――
「そう……くん……………?」
(余談)
【再生▶】
(―――ピッ――――――ジジ―――ジジジ――――――)
―
――
―――
――――
「ねえ……蒼君………さっきの話はホントなの……………?」
「ん? 他の部活動での指導のことか?」
「そうだよ………蒼くんはそっちに行っちゃうの……………?」
「行っちゃうって言ってもな……ただ、指導しに行くだけだぜ? ほら、明弘を同じようにさ」
「ふぅ~ん……そうなの……蒼一は、ただそれだけのために行くの………………?」
「そう頼まれちまったからな、行って見てもいいかと思っているさ」
「「「「「「そんなのだめ(だよ)!!!!!!」」」」」」
「はぇ!!?」
「蒼君がいなくなったら困っちゃうよ!! そしたら穂乃果たちはどうしたらいいの!!?」
「蒼くん……もしかして、ことりたちを見捨てちゃうの?? ねえ、どうなの???」
「今は、次のライブに向けて忙しくなっているのに、そっちに構っている余裕があるの!!?」
「私たちにはやることが山積しているのよ! 蒼一がいないままじゃ、廃校を阻止することができなくなっちゃうじゃないの!!!」
「蒼一は、にこたちと一緒に居るのがいいのよ!! 私たちを見守っていて欲しいのよ!!」
「蒼一にぃ……もしかして……花陽のことがキライになっちゃったの??? 花陽、頑張るから……がんばるからここにいてよ!!!」
「お、お前たち……………………」
「……ったく、そんなことねぇよ。 俺はお前たちのことを見捨てたりするもんかよ」
「俺の第一優先は常にお前たちなんだからよ、そんなバカな話があるもんかよ」
「で、でも……!」
「俺を信じろ。 俺はお前たちを見捨てない、いいな?」
「蒼君………うん! 穂乃果は信じるよ!!」
「そうか、ありがとよ」
「あっ……えへへ♪ 久しぶりに蒼君に撫でてもらっちゃったよ♪♪♪」
「あああ!! ずるーい!! ことりも! ことりにもやってよぉ!!!」
「ちょっと、ことり!! 先にやってもらおうだなんてダメじゃないの!! 私が先よ!!」
「だったら、にこにもやってよ!! 穂乃果たちばかりずるいのよ!!!」
「うぅ~……花陽もしてもらいたいですぅ………!」
「……って! 5人がかりで来るんじゃない!! 倒れる倒れるっ!!? 絵里、何とかしてくれ!!!」
「蒼一……私にも……してほしいな…………私……最後でいいから……待ってるわ………」
「んなっ?! お、おい!! 絵里!? ちょっ!! 見放さないでくれぇぇぇぇ……ああああああ!!!?!?」
「これはヒドイ地獄絵図ですね…………」
「希、凛……私たちは先に参りましょう」
「せやね……ウチらが居っても何にもならんしな………」
「じゃ、じゃあ、先に行ってるね………」
「はい、それで行ってらっしゃいませ~♪」
「……しかし、先程の不穏な感じは一体………イヤな予感がしそうです…………」
【停止▪】
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
この話から本題に入ることになりそうです。
序文と言った感じでしょうか?
次回からドンドン突き進んでいくようにします。