今回も短めです。
僕────ランバート・フォン・リクシスは幸せ真っ只中だ。
僕はリクシス辺境伯家の嫡男として産まれたんだけど、朝早くから毎日毎日父から剣術を叩き込まれ、夜には内政や貴族の顔を覚える勉学の時間。
環境には恵まれているものの父との剣術の修行は地獄の日々だった。
ある日父が王都に行き、修行が中止になる日があった。予定では一週間程だったため、ある晩、母の部屋に置き手紙を残して自分の屋敷を抜け出した。
まず新しい身分証明書を作らないといけなかった。
でないと実家に居場所がバレる危険があったからだ。
僕は近くの街まで馬車で乗り継ぎ冒険者ギルドでギルドカードを作ってもらい、五日間の旅に出た。
その旅は間違いなく僕の人生を変える出来事だったんだ。
毎日クエストを受け、馬車を乗り継ぎ、自分で宿を探して。初めて父から解放された自由時間は凄く充実した日々となり、今も僕の支えとなっている。
そんな旅も終盤に差し掛かり、クレアス領のとある街で夜遅くクエストを終え、ギルドへ向かっていた。
サーチの魔法は常に展開しておかなければ行けない、いつ襲われたりするかわからないからだ。
僕は運が良かった。サーチのおかけで気づけた。
その場に駆けつけるとそこには女の子が男数人に囲われていて、今まさに襲われそうなところだった。
武器が木刀しかないのは目をつぶろう。
今回のクエストは小遣い稼ぎに薬草を取りに行くだけだったので護身用の武器はゴブリン等の雑魚相手にするには充分の木刀だけだったのだ。
身体に身体強化魔法を纏い、木刀に魔力を流し込む。
この木刀は特殊な木材で出来ているので魔力を少し流したくらいでは簡単に壊れない作りになっている。
思えば本番での対人戦は初めてだ。
思ったより弱かったのですぐに倒せたが一発もろに攻撃を腹に食らったので吐きそうだった。
でも僕は男だ。女の子の前ではカッコつけたいさ。
そう思い、余裕の態度を装って女の子を見ると震えていた。
体が恐怖で動かないのだろう、僕も吐きそうだったから人の事言えないけどね。
しかしそんなことよりも僕はその子に見とれた。
真っ赤に燃え上がるような真紅の髪、可愛らしい顔立ち。
一目惚れだった。そして思わず格好付けて話しかけてしまった。
「君、こんな夜遅くまで出歩いてると危ないよ? 僕が来なかったらどうなっていたか分かるよね?」
今思えば格好を付けすぎだろうか。
だが、その時は吐きそうなのを我慢するので精一杯だったんだ。
「じゃあ」
簡単に別れの挨拶を告げ、右手を挙げてギルドへ向かった。
それからギルドで達成報告をし、報酬をもらった後宿泊している宿に戻った。
「よう、兄ちゃん。元気ねーなぁ、女にでもふられたか?」
宿に戻るとダミ声で話しかけてきたのはこの宿の店主。
「違うよ、ただ、真っ赤な綺麗な髪をした女の子を知らないかい?」
ダメ元で聞いてみると店主は慰めるような顔でこう言い放ったんだ。
「あー、そりゃあここの領主様んところの次女のセリアお嬢様だ。お前さんじゃ無理無理、高嶺の花だよ」
確かにこの身分を隠した冒険者の僕なら高嶺の花所か死んでも手が届かないだろう。しかし幸いにも僕の正体は辺境伯家の嫡男だ。
僕はむしろ嬉しかったよ。一応家は辺境伯だから貴族の面子ってものがある。
だから父は見ず知らずの町娘なんか連れてきたらお前ごと叩き切ると言われていたんだ。
向こうは伯爵だから僕が正式にお見合いの話を持っていけば上手くいくかもしれない。
だとしたらこうしちゃいられない。早めに旅を切り上げて実家に帰ろう。
そして実家に帰ったんだけど母が凄い……その、お怒りでね……。
父には言わないでくれたらしいんだけどその日は雷が落ちっぱなしで寝かせてもらえなかったんだ。
今思い出しても寒気がするよ、父より母の方が怖かった。
母の怒りが鎮まってから婚約の件を切り出したんだったな。
そして、王都から父が帰ってきた。クレアス伯爵家の次女と婚約したいと申し出た。
この話はすぐにクレアス家にも行き、向こうのご両親の許可は出た。
後日顔合わせの予定が決まり、その日が待ち遠しくて剣術に身が入らなかったのを覚えている。
そして当日、久しぶりに会うが元気にしているだろうか。
そう思い案内された部屋でソファーに座りクレアス伯爵と閑談を楽しんでいた。
しばらくすると部屋の扉が開き、セリアが目の前に現れた。
嬉しさと感動が相俟って何も言えず、恥ずかしかったため頬を掻きながらとりあえず笑いかけてみたんだ。
セリアと二人きりになると同時にセリアに笑われたのを今でも覚えてる。
何でも旅をしていたのが珍しかったんだとか。
それから恋仲になって、二人で旅や冒険をして、いい経験になったと思う。
この経験は今も活かされているんだ。
そんなこんなで結婚し、息子もできた。
今後は息子に剣術を教えつつ、ゆっくりと家族で暮らしていきたい切に願うよ。