昼食後、母さんの転移魔法で移動した俺達家族はいつも母さんと俺が練習に使っている
「セリア、これはどういう事かな? 確かここには山があったはずなんだけど」
「…………」
母さんは無言でチロっと舌を出し、自分の頭に軽く握った拳をコツンと当て────。
「てへっ、やりすぎちゃった」
────と、全く反省をしていない態度だった。
父さんは何が起こったのかを察して俺の方に顔を向けた。
いやいや、これやったの俺だけどここには元々二つ山があったんだって。
見本を見せてもらった時に一つ山が吹き飛んで、最後に俺が吹き飛ばしただけ。
ね? 俺は全く悪くない。だって母さんにやれって言われたから。
「リオン、何があったのか大体想像はつくけどさ。一応何があったのか聞いておこうか」
「母さんに火属性炎系統の爆裂魔法『ファンタスティックフレア』を
父さんは母さんに向き直ると呆れたような口調で責める。
「セリア……、言ったはずだ。お互いの魔法及び剣技はこの子が入学する二年前、つまり十五歳まで教えてはいけない、と」
「リオンが覚えるのが早いのが悪いんだよ〜、つい教えたくなっちゃって……。ごめん、許して?」
母さんは父さんに甘えるような口調で誤魔化そうとする。
母さん、流石にそれは通じないでしょ……。今回は悪かったって認めなよ……。
「そ、そんなに甘えたと、ところで何も変わらんぞぉ!?」
いやいや、めちゃくちゃ揺らいでるじゃないですか!? しっかりしてくださいよ!?
父さんは俺に向き直ると今度は俺を責め始めた。
「リオンもだぞ、流石に母さんとの約束は知らなかっただろうが山一つ吹き飛ばすなんてやってはいけない事だとお前なら分かったはずだ」
くっ、これを言われるとキツイ……! が、しかし俺には最終手段……
母さん、父さん。悪いがこれを言わせてもらう。俺が悪くないと証明してもらうためには仕方が無いことなんだ。
「これぐらい出来ないと父さんが所持しているいかがわしい本の趣味をリクシス領及び国内全域に広めると脅されたので精一杯努力した結果、こうなりました」
と俺は消し飛んだ山を指さす。父さんは納得がいったような顔で溜息を吐いた。
「リオン、良くやった。お前のおかげで俺の威厳が保たれた。何か褒美を与えたいくらいだ」
うわぉ、凄い手のひら返し。
ま、父さんの拳骨という危険が免れたのならいいとするか……。
「は、話も終わったところだし、リオン。魔法の修行を始めましょうか」
いや、母さん。最後まで誤魔化すのを諦めないその心は尊敬するけどさ……。
「まずは何時もの第六位魔法から始めなさい、その後は第七位魔法のおさらいね」
母さんは魔法師から「魔導師」と呼ばれる天才で、呼ばれるきっかけは文献に乗っていることが原因とされている。まだその文献を見たことがないからよく分からないけどね。
魔法師が魔導師と呼ばれるためには本当に血の滲むような努力と、才能が必要となる。
毎日幼少期から魔力枯渇による吐血と嘔吐、気絶や頭痛等に耐え、その他様々な苦痛に耐えた結果の末、ある一つの成果を残さなくてはならないらしい。
ある成果、それは固有魔法である。
そもそも魔法には種類がある。通常、魔法は魔法師なら誰でも使えるとされているが、それは固有魔法を除いた場合のことである。
魔導師と呼ばれるには「
固有魔法と認められる条件は、
・威力
・使い勝手のよさ
・広範囲魔法
・使用魔力量
・三属性以上
で、五つの内三つ以上を規定より超えなければならない。さらに固有魔法には著作権のようなものが発生し、それは国が管理しているため似ていると判断された魔法は固有魔法として扱われない。
母さんの所有している固有魔法は二つ。
一つ所有しているだけでも伝説上の人物として扱われるのに、二つも所有している。
俺はそれを聞いた時に母さんを本気で怒らせるのはやめようと、別の意味で改めて実感した。
正直魔力枯渇は慣れたし、固有魔法を使える日もそう遠くないかもしれないな。
最近俺はそんなに魔力枯渇をしなくなってきていたので、全く魔力枯渇による体調不良は心配していなかった。
「第六位魔法だね、わかったよ母さん」
第六位魔法とは通常魔法、つまり固有魔法ではなく誰でも使える魔法のことである。
ま、昼食の時に説明したとおり第八位魔法には威力は劣るけどね。その代わり汎用性が高い速攻魔法が多いのが特徴なんだ。
「ライトニングスピアー!」
これは風魔法雷系統の速射魔法だ。内容は細い雷を纏った電撃が対象物を撃ち抜く速攻攻撃魔法だ。
「第六位魔法を詠唱省略出来るのか……」
父さん、そんなに落胆しないで欲しいんだけど……。そりゃあ母さんは全部の位階の魔法を詠唱省略できるけど、俺にはまだ無理なんだよ。
「ごめんなさい、父さん。僕にはまだまだ魔法が上達してなくて……、まだ第六位魔法までしか詠唱省略は出来ないんだ……」
すると父さんは驚愕の笑みを浮かべて俺を撫で回した。
「本当か!? いやいや、第五位魔法までしか宮廷魔法師でも詠唱省略はできないよ? 凄いじゃないか!」
え、そうなの? 俺は母さんから「そんなの誰でも出来るわ。もっと励みなさい」って言われてたんだけど……。
「大方セリアに騙されていたんだよ。これぐらいじゃまだまだだ、みたいに言われたんでしょ? 魔導師級のファンタスティックフレアも継承の儀を終わらせてほぼ完成まで近づいているし」
何それ母さん俺それ聞いてません。ちょ、父さんそんなに笑うことですか? しかも魔導師級の継承の儀ってことはファンタスティックフレアって固有魔法!? あるぇ? 継承の儀を終わらせるだけじゃ固有魔法って使えなかったような……?
「セリア、ちゃんと説明してあげなよ、アハハハ!」
すると母さんはいじけたような顔になり俺に説明をしてくれた。
「リオン、貴方は魔法を覚えるのも早いし、魔力の量も物凄く多いの。天狗になってその辺にいるような親の権力を振りかざすようなボンボンになって欲しくなかったの。だから今まで厳しくしてました。…………ちょっと嫉妬もあったけどね」
前半凄い感動する母さんの愛で嬉しさでいっぱいだったのに最後の本音が漏れたような一言で台無しだよ!? 全く……、母さんは優しいのか何なのかいまいち掴めないな。
「大丈夫だよ、母さん。ただ、固有魔法の習得をする時は教えて欲しかったけどね。じゃあ次は昨日教えてもらった第七位魔法のおさらいかな」
第七位魔法は広範囲魔法が多いのでその分魔力制御が甘いと暴走して消えてしまう。まだ魔力制御が少し甘い気がするので緊張するな……。
「舞えし剣の風よ、風の精霊が御霊、我の言霊を聞き届けよ!
俺が唱えたのは第七位魔法、剣風裂斬。これは広範囲型攻撃魔法の一つで、風属性で出来た剣を第五位魔法の
最近は練習不足気味だった風魔法を中心に修行を行っている。
本当は第七位までの詠唱省略が出来て、第六位魔法までは無詠唱で発動できるんだけど……、母さんから王都の学園に通う許可をもらうための試験まで秘密にするつもりだ。
母さん曰く、「今どきの子は入学する時に第四位魔法くらいの無詠唱が出来るのは当たり前よ」という事なので死ぬ気で頑張った結果、第六位魔法まで無詠唱で発動出来るようになった。
また母さんの嘘とかじゃなければ良いんだけど……。だって嘘だったら俺の努力は何だったのってなるじゃん。
「リオン、今日の修行はこれで終わりよ。よく頑張ったわ。こっちにおいで、魔力分けてあげるから」
母さんは修行終わりに毎回膝枕をして魔力を分けてくれる。
この世界では魔力を相手に渡すことが可能らしい。
本当は小さい頃に寝る前とかよく気絶するまで魔力枯渇させていたから魔力量には自信があるんだけど……、母さんの魔力は暖かいからいつも貰ってしまう。
はあ、今日も落ち着くなぁ、この感じ。
父さんはそれを見て羨ましそうにしていた。
「おいおい、リオン。父さんを出し抜いて母さんを独り占めなんてずるいじゃないか」
「父さんも魔法の修行をしてみては如何ですか? そうすれば魔力を分けてもらえるかも知れませんよ?」
魔力を分けてもらった俺は立ち上がる。
「さて、修行も終わった事だし、今日は帰ろうか」
母さんはそういうと俺と父さんの手を繋ぐと転移魔法で家に帰った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
家に帰った俺は早速普段着に着替えると、屋敷を抜け出すために抜け穴へ向かった。
多分この抜け穴は俺以外では父さんしか知らないと思う。
当人の父さんは俺がこの抜け道を知ってるとは思ってないだろうけどね。
「ここの壁に魔力を流して……と、よしっ、開いた!」
屋敷の一部の壁についた俺は魔力を流して捻るように抜け穴を抉じ開ける。
「さてさて、今日はあそこで待ち合わせだったな……」
抜け穴から屋敷を抜け出した俺はとある人物と待ち合わせている。
待ち合わせまであと半刻程(地球で言う三十分)だ。
急いで向かわなければ! あいつは自分が遅れるのはいいけど相手が遅れるのは許さないという面倒くさいやつだからな……。
俺は走って待ち合わせの場所まで辿り着いた。
少し早めに着きすぎたかな?
そろそろ待ち合わせ時間の夕方くらいになる頃だが……、お、来たきた。
「おーい、リオンー! ごめんごめん、間に合った?」
やって来たのは青髪の女の子────リゼットだ。
「いや、待ってないよ。じゃあ剣の打ち合い、始めようか?」
俺たちが待ち合わせていたのは山の中────母さんとの俺が消し飛ばしたのとは別の────だ。
ここでは俺が屋敷の抜け穴を見つけてから秘密の特訓をしている場所だったんだが……、屋敷から抜け出して特訓している時に山の
こうして俺がリクシス領の領主の息子だと出会った瞬間にバレた結果、抜け出していることを秘密にする代わりに剣の打ち合いをするという取引(?)をしたのだった。
いやー、俺がその時魔法使ってなくてよかったよね。そしたら剣の打ち合いより面倒くさい魔法の特訓までしなくちゃいけない所だったよ。
「始めようか……、リオン! 今日こそは君から一本とってみせる!」
リゼットは木剣を手に俺目掛けて振りかざして来た。
主人公すごいサラブレッドな家系に生まれちゃいましたね。(*´ω`*)