あらすじでも書いてありますが、本作品はゲーム「PROTOTYPE」の設定を少しばかり引用しております。
主な物は主人公の能力として表現していきますので、なるべく分かりやすいかと思われます。
とりあえず、短めのプロローグの後に一話と投稿させていただきますので、併せて読んでくださると嬉しいです。
暗い、闇のように深い空間に一つの扉がある。
その扉に肉を食いながら近づいていく太った男がいた。
その扉はいくつもの錠と並大抵の衝撃では傷一つ付かないであろう閂で閉じられていた。
太った男は肉を放って捨てると、懐から無造作にいくつかの鍵を取り出すと、錠を一つ一つ開けていき、
最後に閂を抜くと、ゆっくりと扉を開けた。
扉の中の部屋は比較的明るく、最奥にいる人物もはっきりと見る事ができた。
その男は長く、堅そうな鎖が体中に打ち込まれ、体が自由に動けない様になっており、
極めつけは四肢、そして腹に突き刺さった杭であった。
ここまで惨い状態でありながら、その男は呼吸をしており、生きているようであった。
太った男が部屋に入ってくるのに気付いた鎖の男はゆったりとではあるが、顔を上げた。
「おやおや、今日は顔を上げてこちらを見据えるとは。元気が良さそうですね。
何かいい事でもありましたかな?」
太った男はニタニタといやらしい笑みを浮かべながら鎖の男に近づいて行く。
しかし、その歩みはどこか鎖の男を警戒しており、不用意には近づかない足の動きであった。
「……さっきまでは気分が良かったが、お前が来たお陰で気分が悪くなったよ――オネスト」
皮肉を利かせながら鎖の男は薄らと笑いながら答えた。
「ほっほっほ。相変わらずの減らず口で安心しましたよ。
それで、如何ですかな。そろそろ私に協力していただけませんかね?」
皮肉を受け流しながら、オネストはここに来た理由――鎖の男に自分への協力を問う。
「はっ、いい加減にお前も諦めたらどうなんだ?
ここまでしてもお前に対して俺は協力なんぞしない、
知恵も貸さん。理由も無いしな。大体、ここまで自分にやった男に協力すると思ってるなら、
相当お目出度い頭してるぞ」
そう言って鎖の男は少し体を揺らし、じゃらじゃらと鎖のぶつかる音がし、
杭が打ち込まれた部分からは血が滲みでる。
だが、男は鎖を打ち込まれた事も、杭を打たれた事も気にしていない様子である。
一つ、オネストへ協力するというのが気にくわなさそうな顔をしている。
実際、男の状態は酷い有様ではあるが、呼吸は落ち着いており、
顔色も大して酷くはなく、平常のようであった。
「むぅ…やはり私の頼みごとは聞いてもらえないようですねぇ」
「もう何度この問答を繰り返す。意味もない。いい加減飽きた。
さっさと殺すなり、解放するなりしろ。お前のその額の“モノ”は飾りじゃないだろう」
そう言われたオネストはくつくつと笑った。
「フフフ…そうはいかないのですよ。駒は多い方が良い、それに貴方は殺すにも逃がすにも惜し過ぎる」
しかし――とオネストは続け、
「貴方は何にも興味も示さないし、どんな物にも屈しない。
はっきり言って異常ですよ。本当に人間ですか?
痛み、薬、洗脳行為、金、食い物、女、知識――
どれを提示、実行しても貴方は首を縦に振らない。一体何が望みなのです――ソープ」
「お前と一緒にするな、苦痛には慣れているし、洗脳も薬物にも耐性がある。欲望もそうだ。
それと、人間じゃないよ…俺は」
「貴方は……いえ、これこそ意味のない問いかけですな。ではこうしましょう。
私に協力していただけるなら、その後は自由にしてもらって構いません。
私に貴方の望みは予測できない。
ゆえに、貴方の好きにさせます。私に提示する依頼さえこなして貰えれば
それで構いません。どうです?」
ソープは少し、考える素振りを見せ、
「…」
無言で鎖を引き千切り、無理やりに杭を抜く。
「ホッ!?」
その行動にオネストは焦り、一歩どころか何十歩も後ろへと退き、構えをとる。
「はぁ…オネスト、お前こんなちっぽけな拘束で俺をここに止められると思ってたのか?」
その問いには答えずオネストは汗を垂らしながらソープの挙動を無言で伺っている。
「いつでもこんな所からは抜け出せた、お前との問答もただの暇潰しにしか過ぎないんだよ。
……さてと、その協力依頼――受けようじゃねえか」
「な、なんですと?」
ソープの言葉を一瞬理解できなかったオネストは聞き返してしまう。
「だから、お前のその提示した依頼を受けると言ったんだよ、さっき言ったが飽きた。
お前の勝ちだ、根負けだよ。クハハ…」
薄ら笑いながらソープはオネストへ協力すると言った。
「ほ、ホホホホ! なるほど、ついに決心がつきましたか…いやはや長かったですな。
ですが、これで帝国はより強固となりますよ」
「…」
「ん? どうかしましたか?」
無言のソープにオネストはどうしたと言葉を投げかける。
「いや…流石、と言ったところなのか。お前が警戒を解かないからな。
もし少しでも警戒を解く素振りでも見せたなら顎を引き裂いてそのまま内臓を引きずり出そうと思ったんだが。うん…協力しようじゃないか」
その言葉にオネストはまた汗を垂らす。元々警戒を解く事を考えていなかったが、
もし警戒を解いた時の事を考えると汗が止まらない。
「まあ、貴方ですからな。例え協力関係になろうが、この場で警戒を解くなどという愚かな真似はしませんよ。伊達に政界を生き抜いてきたわけではありません」
そういったオネストを興味無さ気に見ながら、ソープは調子を確かめるように肩の関節を回す。
元々返答にも期待していなかったのか、そのままオネストは言葉を続け、
「では、さっそく準備いたしましょう。まずは服と…風呂ですかな」
「いや、服はいらん」
「と、言いますと?」
その瞬間、ソープの体がブレたかと思うと一瞬にしてジーンズに似た素材のズボンに、
少しよれたシャツ、その上にパーカーを着込み、更に上にジャケットを着ていた。
「いやはや、便利なものですな――その帝具は」
落ち着きを取り戻したのか、最初と同じようにニタニタと笑みを浮かべながらソープの早着替えを見ていた。
オネスト自身はソープの帝具についてある程度知っているのか、驚いた様子はなく寧ろ、その有用性に喜びを隠せないようだ。
「じゃあお前が受け継ぐか」
「あ、それは遠慮しておきます」
即答するオネストだった。
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