原型が壊す   作:ファイエル

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プロローグから続けて、どうぞ


No1

「三獣士が倒された?」

 

「ええ、これは少し予想外と言ったところですかな」

宮殿の中庭でオネストとソープが歩きながら会話をしている。

ソープは変わらずシャツにパーカー、ジャケットと見た目が暑苦しい服装をしている。

対してオネストも骨付き肉を頬張っており、どちらも平常運転と言ったところであった。

「ハッ、その割には顔がニヤけ過ぎだ。それほど重要でもなかったか」

 

「いえいえ、これでも驚いているのですよ? フフ…しかし、これでエスデスへの帝具使いの異動がほぼ確定ですな」

 

「ああ、そんな事も言っていたな…」

 

■■

 

エスデス――実力派の若い将軍だったか…。

オネストが言うには政治、権力への興味関心はなく、

闘い、蹂躙の限りを尽くす最高の手札の一つだとか言っていたが。

 

「さて…私は帝具使い6名の見繕いがまだ甘いので少し詰め直しますが、貴方はどうしますか」

エスデスの新しい部下の異動、そうだな――丁度いいかもな。

「オネスト」

 

「はい?」

 

「帝具使いの異動人数を6名から7名に変更しておけ」

そう言うと少しオネストは渋い顔をした。

まあ、そうだろうな。俺はオネスト直属の部下、 羅刹四鬼も含めても自分が自由に動かせる駒は多い方が良いのだろう。

「安心しろ。最初の依頼通りにお前の命令には即座に対応する。補欠要員でもいい」

 

「何か、エスデス将軍に気になる点でも?」

 

「個人的な事だ、別にお前に不利益になるような事は無いさ」

どちらにしろ、オネストからの命令が無い限りは俺の自由だ。

そういう契約だし、オネストもそこを反故にする事は確実にない。

それこそ自分の命が脅かされない限りは。

「そう言う事でしたら、良いですよ。では、その様に人事異動を行っておきます」

 

「ああ、頼んだ」

 

■■

 

(ここか…)

 

エスデスの新しい部隊の集合場所。

6名の帝具使い、資料じゃ濃い面子だったが。

(確か、ウェイブ、クロメ、ボルス、Dr.スタイリッシュ、セリュー・ユビキタス、ランだったか)

色物ばっかだな、異動前の部隊と言い、経歴と言い。

 

「結構面白そうな面子だから俺は楽しみだが」

とにかくここでメンバーについて考えても仕方ない。

さっさと入るとしよう。

 

ドアノブを回し、扉を押して開けると――

 

「……」

 

「……」

 

謎の覆面と目があった。

(焼却部隊の、ボルス…か?)

初対面のインパクトはかなり抜群だ。

これは印象に残るだろうし、ボルスのその覆面は正解ではあるだろう。

ただ、あまりメンバーを威圧するのもどうなのだろうか。

そして、何故無言なんだ。

 

とりあえず、ボルスの対面の席へと座る。

「……」

 

「……」

ひたすらこちらを見つめ続けている。

何かの威圧か、コミュニケーションの一種なのか…?

「あの…」

 

「うん?」

やっと声を掛けてきたと思えば、

「……」

 

「……」

会話が途切れる。

(もしかすると挨拶無しなのが気になるのか)

確かに入ってきて挨拶も無しというのは失礼だ。

「すまなかった。挨拶が無いのはかなり失礼だったな。俺はソープ、

 元はオネスト大臣の直属の部下で、この度エスデス将軍の部隊へ異動となった。

 よろしく頼むよ」

そう挨拶すると、ボルスも、

「ああ、こちらこそごめんなさい。いきなり見つめて、ちょっと緊張しちゃって。

 人見知りってヤツで…。焼却部隊から来たボルスです。帝具使い同士仲良くしましょう」

緊張が解ければ意外と喋るタイプなのか、スラスラと言葉が出てきている。

「その、フードって何か前の所にいた名残なの?」

早速質問してきたボルスに対して俺は気軽に答えた。

「いや、ただの個人的な服装だよ。顔合わせって事だから少し正装でもしようかと思ったけど、

 固すぎると思って普段通りの服装でな」

 

「そうだよね~、私も少し整った服でも着てこようかと思ったんだけど、奥さんはいつも通りでいいって言うからいつも通り焼却部隊の服で来たんだ。良かった、固い服着てこなくて」

まあ、その覆面はどうかと思うがな。

妻……そういえば資料にも載っていたな。

「そろそろ、他の人も来る頃かな…」

 

「そうだな、集合時間も近いし――」

と、言いかけた瞬間、扉が開く。

扉が開く音に反応して、ボルスと俺がそっちへ顔を向けると、

 

「こんにちは! 帝国海軍から来まし―ーた…」

         ・

         ・

         ・

「し、失礼しました~…」

パタンと、扉が閉じられた。

帝国海軍、ウェイブだな。

しかし、何故いきなり扉を閉めたのか。

 

■■

 

扉を閉じたウェイブはと言うと、

「えっと…集合場所間違えたかな…?」

集合場所が記載された用紙を確認し、

部屋名と照らし合わせるが、

「あ、合ってる…」

 

(マ、マジか…、あれが同僚かよ! 流石帝都、あんな覆面といい、フード被った厚着の目つき悪い男なんぞ海賊だってもっと普通の恰好しているわ!!)

(とりあえず、平静を装って、刺激しないように振る舞おう…)

 

■■

 

「こ、こんにちは…」

そう言って再び入ってきたウェイブ。

スーッと俺達の席から離れたところにちょこんと座ったが、

ボルスは相変わらず人見知りをしているのかひたすらにウェイブを見つめたまま、

ウェイブは下を向いて少し震えている。

声を、かけるべきなのか。

 

そう思って声をかけようとすると、新たにメンバーが入ってきた。

(ありゃ、確かクロメだったか)

これまたクロメも俺とボルスからは離れた席、

ウェイブの対面に座った。

(もしかすると、俺とボルスは同程度の威圧感があるのだろうか)

すこし心配になる。なるべく威圧しないようにしたんだが。

「よぉ」

 

「?」

少し考えに耽っていると、ウェイブがクロメに声をかけていた。

「君も召集された帝具使いなんだろ?」

「俺は、ウェイブって言うんだが――」

 

「このお菓子はあげない」

 

……オネストの言うとおり色物だな、こりゃ。

しょんぼりとしながらウェイブはお邪魔しました、と言って自分の席に戻った。

 

その後、どんどんとメンバーが集合していき、

セリュー、スタイリッシュ、ランの順で部屋に入ってくると――

 

「お前達見ない顔だ! ここで何をしている!!!」

 

最後に仮面を被った長身長髪の女が入ってきた。

(……そういう趣向か、エスデス将軍らしいと言えばらしいのか)

まず最初にその言葉に反応したウェイブが蹴り飛ばされ、

ランはその攻撃に反応して、最小限の動きで避け、

セリューは背後からの攻撃を行うが、背負い投げられ、

最後にクロメの剣で仮面が剥がされた。

 

「エ、エスデス将軍!!」

 

「面白そうな部隊だな」

そう小声で呟いた。

 

■■

 

皇帝陛下へのいきなりの謁見を終え、

部隊名も既にエスデス将軍から言われている。

 

≪イェーガーズ≫

 

それが俺達の部隊名だそうだ。

今は部隊結成の祝いと自己紹介を兼ねて部屋で談笑しており、

ウェイブ、ボルスが調理、ランは給仕をしていてスタイリッシュはランを見つめている。

セリューとエスデスは最初の通り談笑していて、クロメはコロと遊んでる……

いやコロが遊ばれてるのかアレ…。

 

各々やりたいこと、できる事をしており、その中で俺は――

 

「それにしてもいいんすか? ソープさんだけ自分で料理して自分で食うとか」

 

「こっちの都合だ、気にすることないさ」

自分用の料理をしていた。

流石に人の料理は食えない、というか俺が“口に付けた”スプーンやフォークで料理をつつけない。

それにあんまりしっかりした料理を食う習慣がないし丁度良かった。

「変わってますよね、菓子が主食なんて――あ、いや別に悪い意味じゃないんですけど」

 

「別にいいよ、おじさんになると甘い物が欲しくなるのさ」

正確には糖分が必要になる。さて、最後に苺乗っけて完成。

「とっても上手なんだね、ソープさん」

完成したケーキモドキを見てボルスが褒めてくれる。

その言葉は善意そのもので、お世辞でもなく本心からの言葉だと分かる。

「そりゃあ、今まで自分で作ってきたからなぁ。少しは上手くなって貰わないと俺も困っちゃうよ」

苦笑しながら返し、メンバーが座って談笑しているテーブルへと置く。

ふと、フォークを忘れていた事に気づいて調理場に戻ろうとした時、

「美味しそう…」

と、クロメがケーキモドキをつまみ食いしようとしており、

流石に拙いと思い、その手を掴んだ。

「――ッ!?」

 

「やめとけ、食ったら後悔するぞ」

俺の動きに驚いたのか、つまみ食いがバレて驚いたのかは知らないが少し驚いているクロメ。

確かに完全に向こうを向いていたからバレるはずも無ければ、瞬時に手を掴んだことにも驚くか。

「……どうして? 美味しくないの?」

何故かケーキモドキ――もうケーキでいいか、を食わせまいとする俺に疑問を抱いたのかそんな事を言ってくる。

「そういう訳じゃないんだが、まあやめとけ――って言ってもクロメの嬢ちゃんは食い意地張ってそうだしな」

その言葉にむっとしているが、事実なのか反論はしない。

クロメの手を離し、懐から一匹のネズミを取り出す。

「あら、小汚いネズミね。美しくないわ」

そのネズミを見て悪態をつくが、気にすることはない。

元々食用か実験用に使おうとしていた奴だし、ペットじゃない。

「ドブネズミなんだから美しかったら困る」

ウェイブとボルスも調理場から料理を持ってこっちに来たし、

メンバーが全員いるならタイミングも良いか。

「皆よく見とけ。なんで俺が料理を作らず、誰かの料理も食わないで自分で作って食うかの理由を」

そう宣言して全員の視線が集まるのを確認してからネズミにケーキの、特に俺が直に触った部分を食わせた。

「ネズミに食わせて何かあるんですか?」

セリューの言葉を無視しながら、ネズミを部屋の隅の方へ軽く投げると…

 

――ビシャ

 

と、ネズミが破裂した。

その光景を見ていた全員は驚いているようだ。

確かに俺が作ったケーキを食ったネズミがいきなり破裂したら驚くよなぁ。

「どういうことだ?」

 

「どういうこともなにも、あの通りだよ将軍」

「俺の帝具、その帝具ってのが少し厄介でな。握手とか俺と同じ空間に居る程度じゃ問題ないんだが、

 粘膜接触、触ったものを食べるとか、とにかく俺の細胞組織を体内に入れるとああなる」

その言葉にエスデスは興味深そうに笑みを浮かべた。

「ほお、そう言えばソープ。お前は大臣直属の部下で、急遽私の部隊にねじ込まれていたな。

 帝具使いが増えるのは私も歓迎だったので特に気にしなかったが、お前の帝具は一体なんだ?」

 

「名前とかは特にない、ウィルス型の帝具でな。誰にでも適合するが、誰にでも拒絶反応が出る。

 その拒絶反応を乗り越えれば晴れて帝具使いになるんだよ。だからあのネズミも拒絶反応を乗り越えれば

 人語を理解する可愛いネズミの部下になったんだがな。んで、ここからが厄介でな」

一拍置いて――飛びかかってきたデカいネズミを掴む。

「こんな感じに拒絶反応が出て死んだ奴は意思のない、本能のまま肉を貪る化け物になるんだよ」

言ってからメンバーを見渡すと、全員臨戦態勢を取っていた。

だが、少し遅いような気もする。あのネズミの速度からするに俺以外を狙ってれば確実に一人は食い殺されてたかもなぁ…。

「興味深いわ。そのネズミ、アタシに渡してくれない?」

 

「あー、やめとけやめとけ。手に負えないよ。実はコイツ不死身でな」

軽く力を込めて掴んでいる頭を握り潰してみるが、グチャグチャと不快な音を立てながら肉が盛り上がっており、

顔半分ほどは既に再生されている。

「ますます興味深いわ! 一体どういう原理なのかしら。ああッ――解剖して研究したい」

 

「クハハッ、物好きだなドクター。でもまあコイツはやめとけ。まだ人間の方が研究しやすい」

 

「それでどうするのだその危険種モドキになったネズミは。不死で殺すこともできず、かと言って調教できる程の思考も存在しないようだが」

エスデスはどうやらコイツの処分が気になるらしい。

「食う」

 

『えー―ええッ!?』

「食うのか? それを」

「好みじゃないわね」

 

まあ、あんまり気分のいいものじゃないが。やったのは俺だしな。後始末は自分でつけるのが常識だ。

「仕方ないだろ、それ以外はあんまりいい方法じゃない。エスデス将軍の帝具で氷漬けにしてもコイツは死なない。それこそ完全に処分するには

 俺が取り込むのが一番いい」

 

「どう食うんだ、例え一度殺しても再生されてはキリがないだろう」

もっともな意見だ。と言うかエスデスは冷静だな。

もう少し、こうなんつーか女らしい意見も欲しいところだが。

「普通に食う訳じゃない、こうするんだ」

ネズミを両手で掴み、そのまま引き裂くと……、

俺の体から大量の触手のような物が出てくるが、先端は口の様になっておりそのままネズミへと食らいつく。

非常にこの触手達は元気がよろしいな。

 

「うわ!? なんだそりゃ!」

「凄いね…なんだか普通の帝具じゃなさそうだ」

「文献には記載されていない帝具…といったところでしょうか」

 

普通に考えて女子が取るであろう反応を男達が取っている辺り、この部隊の女連中はどっかズレてるんだろうな。

「見ていて気分がいいもんじゃない、見なくていいぞ」

人の体から触手出てきてデカいネズミを食っちまうなんてのは滅多にお目にかかれない光景だ。

サクッと言うより、グチャッとネズミを綺麗に食ったあと、飛び散った血も全て触手が舐め取り消していく。

ある意味暗殺向きな帝具だ、血も死体も残さず食える。

「ああ、それとネズミが飛ばした唾液とか、血も感染するから注意しろよ」

そう皆に警告をして、エスデスへと視線を向ける。

「フッ、なるほど、お前の事についてはある程度分かった。まだ――底が見えない部分もあるが」

 

「そういう将軍について俺達はあまり知らないんだが、何かしたいことでもあるのか?」

底が見えないと言われ、少し驚いた。

意外と人を見る目もあるらしい。てっきり闘って殺して、蹂躙するだけの戦闘民族かと思っていたが。

うん、面白い。やはりここに来て正解だった。

「そうだな、狩りをしたり、拷問したり――そういうのはいつでもしたいな」

……やっぱりただの戦闘民族なのかも知れない。

 

 

「ただ今は――恋をしてみたいと思っている」

 

■■

 

「恋ねぇ…クロメの嬢ちゃんはどう思うよ」

 

「別になんとも」

現在クロメと都民武芸試合の受付をしている。

あの恋をしてみたいとエスデスが言った後に、

賊――≪ナイトレイド≫の一員から回収した帝具の話になり、

適合者を見つける為の大会の様な物を開いていた。

その受付に俺とクロメ、その他イェーガーズのメンバーも大会での役割を与えられていた。

「なんだ、クロメの嬢ちゃんはそっち系の話にはあんまり興味ないのか」

 

「ない…それとずっと思ってたんだけど、その嬢ちゃんって何?」

ジト目でこっちを見ながらそう言ってくる。

あんまりお気に召さないようだ、嬢ちゃん呼びは。

「ノリだノリ。気にすんなよ、嫌なら嫌って言えばいいさ。俺もいじわるで呼んでる訳じゃない」

子ども扱いしてるって事じゃない、実力ならかなりのものだと見ていて分かる。

ただ、なんとなく嬢ちゃんって呼んでるだけだ。

「そう……そういえばソープはずっとフード被ってると思ったけど」

今はいつも被ってるフードを取っている。

まあウェイブに、『ソープさん、フード被ってると目つきが悪いですね』なんて言われて少し考えた結果だが。

「ん…まあ受付だしな。ウェイブにも言われたが、どうやらフード被ってると目つきが悪くなるらしい。第一印象ってのは大切だからな。受付が印象悪いとダメだろ?」

フードにこだわりがあるって事はない、落ち着くから被ってるだけだ。

顔を見にくくするっていう効果もあるが。

「そうなんだ、意外と考えてるんだね」

 

「それ暗に俺が考えなしの阿呆って言ってるぞ」

そんな言葉にクロメはクスリと笑い、俺も苦笑しつつ談笑していた。

「んで、話を戻すが…好きな人とか好みのタイプなんてのはいないのか」

 

「いない…かな。お姉ちゃんは好きだよ。大好き」

ふと、空気が少し冷たくなる。地雷でも踏んでしまったかと思ったが。

クロメの表情は嬉しそうだった。

なんだ、根深そうな事情でもあるのだろうか。

「それは家族愛って奴だろ? 恋愛感情的なさ、例えばランとかウェイブ。大穴狙ってボルスとか見ててなんか良いなぁとか思わないか?」

ドクターはまず無いだろう。お姉ちゃんと言っていたが、

特にそっちの気がある様な素振りも無い。

普通に男が好きな筈だ。多分な。

「ウェイブは磯臭いからあんまり、ランはそういうの興味なさそう。ボルスさんは…どうだろ、優しいと思うよ」

ふーん、と自分から聞いておきながら適当な返しをしていたが、クロメも意外と人を見ているようだ。

ウェイブが磯臭いはともかく、ランがあまり女に対して興味関心を抱いていないのは分かる。

それよりも何か目的の様なものがありそうだった。別に男色ってわけではなさそうだから、

今はそんなことより目的が大切と言った感じか。

「ソープはいいなって思うよ?」

これは意外だ、あまり絡んでもいないし、会話もしていない。

今回がほぼ初めての会話と言っていいだろう。だからこそ適当な話題を振りつつ話をしている。

「ほお、そりゃなんでだ」

 

「だって、私がケーキ食べようとした時止めてくれた」

確かに止めた。流石にあそこで怪物なんぞ生まれたら厄介にしかならない。

もし仮にクロメが適合したとしても色々面倒なことになったと思う。

「そりゃ、止めるだろ。食った相手が死んじまうって分かってるんだから尚更」

 

「あの時点、まあ今でもなんだけど…そこまで仲が良いわけじゃないでしょ? なのにソープは止めてくれた」

……クロメは結構仲間意識、というのを重要視するのかもしれん。

「だから、ソープは好きだよ? もし死にそうになっても、私が殺して(すくって)あげるよ」

惚れ惚れするような笑顔をしてそう言ってくるクロメ。

クロメの帝具は≪八房≫だったな。もし死にかけたら八房の能力で俺の死体を人形にするって事か。

中々のぶっ飛び具合だ、それほど今の帝都が歪んでいるのか。暗殺部隊も良い話は聞いたことが無い。

強化人間、クロメが食ってるあの菓子もドーピングの薬なんだろうな。

それに常に食ってなきゃ苦痛になるほど薬漬け、救いようがない。

まあ、ドクターの帝具があれば救う事はできるが―ー心まではな。

しかし、自分で適当に振った話題だが恋ってのも心を正常に戻すのに良いかもな。

まあとりあえずはクロメに念押ししとくか、俺が――

「死ぬわけないだろ、こんな歳まで生きてるんだよ? クロメの嬢ちゃんや他のメンバーよりも生き抜く知恵ってのがあるさ」

そう言いながら頭を撫でる。

クロメは心地よさそうに撫でられ、目を細めている。

こうしてみれば普通の女の子って感じがするが。

そう言えば、そろそろ受付も終了だな。

「よし、クロメの嬢ちゃん。そろそろ受付も引き上げよう。これ以上待っても来ないだろうし、試合時間も来てる」

 

「そうだね、じゃあ私この受付用紙ランに渡してくる」

そう言いながら走って行こうとするクロメに、

「おい! 撫でた頭しっかり洗っとけよ!」

そう忠告しておいた。

 

■■

 

「で? 受付していた感じで良さそうな奴はいたか」

いきなりそんな事を言ってくるエスデス。

部下を労わる的な事はしないのか。まだ俺が信用されてないからか?

「いい感じの奴ねぇ、まあ多少やるなってのは何人かいたが」

エスデスのこの感じだと、帝具に適合するとは別口の様な聞き方だと思う。

オネストから聞いていた恋をしたい相手の条件だったか。それだな。

「例えば、少年とか将来将軍になれそうな器の持ち主とか…後は良い笑顔しているとか」

 

「いや……そんなの一目で分かるわけないだろ。実際この試合で確かめるのが目的なんだろ?」

 

「まあそうなんだが、お前の観察眼は侮れないからな。しっかり見ているだろう。

 私が最初、イェーガーズのメンバーと会った時だって、

 仮面を付けていたにも関わらず、私だと見抜いていたしな?」

ニヤリと笑いながらそう言われ、やはりこの将軍の目は確かだと判断する。

(どこまでも抜け目ないというか、よく見ているというか)

そこで、ふと――受付に来た一人の少年を思い出した。

(少年で、将軍になれそうかどうかはともかくかなりの実力者だと思われ、まあ笑えばいい笑顔しそうな奴…かな、あの少年)

多分、エスデスの要望に当てはまりそうな子だったと思う。

「そう言えば、一人いたよ。将軍――いや隊長の恋の相手の条件に合致しそうな子」

 

「本当か! 何故お前が私の提示した条件を知っているのかはこの際いい、誰だ?」

確かにお前の提示した条件知っているよとは言ってなかったが…でも大臣直属の部下だしそれくらい知っててもおかしくはないだろう?

「ああ、確か……鍛冶屋のタツミだったな」

 

■■

 

あの後、案の定?というか予測できたというか――、

鍛冶屋のタツミは見事エスデスの条件に合致してしまい、あえなく首輪を付けられ宮殿へと連行された。

試合での動き、中々の物と言っていいだろう。相手の奴も結構実力はあった。

身軽さもそうだが、何より落ち着いて相手を見ていた。

よい師が鍛えてくれたのもあるが、元々の才能もあるのだろう。

で、現状は――、

 

「イェーガーズの補欠となった、タツミだ」

 

いつの間にやらイェーガーズの補欠扱いになっていた。

しかし、なんだか首輪が良く似合う少年だ。

それにしてもメンバーの補欠扱いなのに、鎖で縛られて椅子に固定されていると、ただの犯罪者に見える。

「市民をそのまま連れて来ちゃったんですか?」

 

「暮らしに不自由はさせない、それに部隊の補欠だけじゃないさ」

 

「感じたんだ――タツミは私の恋の相手にもなるとな」

では何故首輪なのだろうと思ったら、

「それでなんで首輪付けたんですか?」

「愛しくなったから、ついカチャリと」

「ペットではなく、正式な恋人にしたいのであれば、違いを出すために外されては?」

 

………

 

「それは確かに…外そう」

カチャカチャと首輪を外し、自由になった少年タツミ。

その後、エスデスが結婚、もしくは恋人がいる者がいないか確認した時にボルスが手を上げ、

その話題で盛り上がっていたところで、タツミが異議を申し立てたが、話が全く通じず撃沈。

だが、その後だ……気になる点があった。

セリューはどうやらタツミと初対面ではないようで、少し親しそうに頭を撫でた時だ。

タツミの態度に違和感があった。まるで、仇敵のような、それを目の前にして我慢しているような。

(少し、いやかなり気になる。タツミ――もしかするとだが…)

かなり面白くなってきた。

そう思い、後でタツミと少し話そうと思っていると、

「失礼します!」

「エスデス様、ご命令にあったギョガン湖周辺の調査が完了いたしました」

 

「このタイミング…ちょうどいいな」

 

――お前達、初の大きな仕事だぞ――

 

 

俺的にはなんと悪いタイミングなのだろうと思わずにはいられなかった。




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