原型が壊す   作:ファイエル

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三話です


No3

 賊狩りの帰り、タツミに少し声を掛けた。

 なにやら決心した様子だったが、まあそれは気にしなくてもいい。

 今はエスデスも近くに居ない。ボルスになにやら聞いている。

 メモまで取ってるし、多分タツミ関連だろう。

 

「なあ、タツミ」

「うぇ!? あ、ああ…確かソープ――さんだったっけ?」

「そうそう」

 

 何故か驚かれた。どうにもこの顔は印象が良くないみたいだ。

 けど今はもう変えられないしなぁ…。

 

「で、何か用ですか?」

「いや、ちょっとな。それにしてもなんで驚いたんだ?」

「あ、いえ…それは…」

 

 少し談笑して本題を切り出すべきだろうと判断し、とりあえず何故驚いたのか聞いてみると、

 

「ソープさんって、なんつーか俺様! みたいな感じがして…取っつき難そうで…」

「なるほどねぇ、まあこんな顔してるからな。そう思われたって仕方ない」

 

 確かに柄が悪いとはよく言われる。目付きも悪いそうだ。

 

「けど、少し会話して分かりましたよ。親しみやすい人だなって。やっぱり顔じゃないんですかね」

「いやタツミの感覚も結構いい線だと思うよ、おじさんは」

「おじさん? 若そうに見えるんですけど…」

「クハハ、これでもイェーガーズじゃ最年長だぜ、多分」

 

 マジっすか、と半信半疑で驚いてはいるが、事実だ。

 この帝具は老いすらも遠ざける。

 まさに不老不死の体現。誰もが喉から手が出るほどの物だ。

 しかし、この帝具は欠陥品だと俺は思ってる。

 確かに強力な力、何にも脅かされない不死、

 そして常に最善の肉体で居れるこの帝具は素晴らしい。

 だが、心はどうだ。殺し、喰らい、周りは老いて死に、

 老いが無いこの体を気味悪く思い去っていく人。

 そんな状態が常に続けば、常人の心は摩耗し、欠落が生じる。

 老いが無いのもその現象を加速させる要因となる。

 人とは老いて死ぬまでの間に何かを成し遂げようとして懸命に生きる生物だ。

 老いがあるからこそ焦りが生まれ、死があるからこそ恐怖がある。

 その感情が原動力となり、様々な現象、物が生み出される。

 この帝具はそれを全て強制的に捨てることになる。

 老いが迫ることは無い、死がつきつけられることも無い。

 だから焦りも、恐怖も生まれず。停滞だけが存在する。

 止まれば周囲は進んでいき、己は置いて行かれる。

 そんな状態に絶望し、渇いて摩耗していく心。

 それに気づけば、後は――、

 

「――さん、ソープさん?」

「…すまん、少し考え込んでた」

「大丈夫ですか? なんか調子悪そうだけど」

「いやいや、大丈夫だ」

 

 ま、結論は強力な帝具にはそれ相応の対価があるってことだ。

 強ければ強いほど代償は大きくなる。

 だからこの帝具は欠陥品。

 それは適合しなきゃ分からないことだ。

 

「なあ、タツミ。少し聞きたいことがあるんだ」

「なんすか?」

 

 一拍置いて、間を作る。

 

「お前、なんでセリューに頭撫でられたとき我慢した?」

 

「――ッ」

 

 息を呑むのが分かる。

 図星、かな。結構分かりやすい態度だった。

 それこそ他の奴がエスデスへ注意を向けてなきゃ気付いただろう程だ。

 セリューに関しては、あれはズレてるところあるからな。

 気付いてても、別の事だと思い込むだろう。

 

「ど、どういう事…ですかね」

「いやさ、気になったんだよ。頭撫でられてた時の反応が」

「……」

「お前はセリューを見た時、まず目を見開いた。その後頭を撫でられて俯いたな。ここまでは、気になることはない。知り合いにあって驚いて、頭撫でられたから下向いたってだけだ。でも、ここからだ」

 

 再度、間を作る。間と言うのは大切だ。

 会話でこちらの土俵に引きずり込むのに最適な手。

 

「雰囲気が変わった、そしてぎゅっと手を握り締めた。どうにも知り合いと会った時の態度じゃない。まるで……そうだな」

 

 ――仇に会ったみたいな

 

「そ、それは――」

 

 タツミの動揺が激しくなる。

 こんなもんか…。いじめるのが目的じゃない。

 ガッとタツミの肩を掴み、引き寄せる。

 

「落ち着け、俺は別にお前が何者だろうと気にしないさ」

「……え?」

「いいか、よく聞け。お前の現状は酷く不安定な物だ。それこそ一つのミスが確実に軋轢を生む」

「あ、ああ」

「だからこそ、だ。余計な事はするな。お前の身の安全だけ考えとけ」

 

 タツミは鍵だ、なるべく余計な事はさせたくない。

 だからこそ、警告する。

 タツミには俺という存在を植え込ませる。

 いつか、遠くない時にそれが芽を出すように。

 

「なんで、あんたはそんな事を」

「おじさんのお節介だよ。俺の事はどうでもいい。とにかく大人しくしていろ。

 特にエスデス将軍が近くにいる今は、静かにしてるべきだ」

「……分かった。あんたいい奴だな。帝国にいるなんてもったいないぜ?」

「クハハ! そんな簡単に信じるなよタツミ。お前が思ってる通り、帝国は腐ってて、反吐が出そうなくらい邪悪だ。油断や慢心は捨てろ。それが道を繋いでいく」

 

 まるで自分に言い聞かせるように、俺は言った。

 

 

 ■■

 

 

 俺は今、非常に危ない状態にある。

 周りは敵だらけで、更には大物のエスデス将軍までもが近くにいる。

 

「しかも…恋人にするとかなんとか言われてて離れてくれないしな」

 

 昨日、ソープ――イェーガーズのメンバーの一人に忠告された。

 今は静かにしているべき、確かにその通りだ。エスデス将軍を説得して味方にしようと思っていたが、改めて思えば無謀過ぎる。

 そんな事誰だって考え付くけど、今この状況が何よりの証拠なんだろう。

 

 エスデスはこちら側には来ないと。

 だから、俺はエスデスの説得はやめて、大人しくすることにした。

 

 その結果――

 

「お前も大変だよな、何かあれば相談に乗るぜ?」

 

 今はウェイブと行動していて、エスデスは側にいない。

 

(これはチャンスだ…ソープさんが言った通り、大人しくしてて正解だったな)

 

「…ありがとう」

 

 よっし! こっからが勝負だぜ、俺。

 上手い事逃げて、みんなに情報を伝えるんだ!

 

 ・

 ・

 ・

 

「それで私と合流したと言う訳か」

「ああ、上手い事ウェイブからは逃げれたし、追っ手も無かった。

 いや、ほんとソープさんの助言通りだったよ。≪インクルシオ≫を装着した後に即座に透明化、

 んで、脱いどいたコートを川岸に置いて即離脱って感じで」

 

 なんとかあの後フェイクマウンテンから離脱した後に、アカメと合流できて、アジトに戻れた。

 正直こんな上手く行くとは思ってなかったから少し拍子抜けた。

 

「それで? そのソープとか言うやつはアンタから見てどうなのよ」

「それがさマイン、分からないんだよ。なんつーか、底が見えない…帝具の能力もいまいち分からなかったし」

「ダメダメじゃない!」

「うっせー! こっちだって必死だったんだよ!」

 

 だけど、ソープさんはこちらについてくれそうな雰囲気があった。

 もし、また会えば誘いを掛けるのもいいんじゃないかと思うんだが。

 

「実際、ソープって奴は言ってたんだろ? 帝国は腐ってて、反吐が出るって」

「ああ、確かに言ってた。それと、あまり信じるなって」

「信じるな? どういう事だ」

「わかんねぇ、だけどそんな事言う人だぜ?」

 

 明らかに俺に対して助言をくれていた。

 本当になんで帝国の、イェーガーズなんかにいるのかが不思議なくらい親切な人だった。

 

「気になるな、そのソープって奴。私の野生の勘に来るものがある」

 

 姐さんがなんかキメ顔で言ってるけど――、

 

「いや姐さん…今帝具つけてないじゃん」

 

 ■■

 

 タツミの逃亡でイェーガーズはドタバタとしていた。

 

「スタイリッシュの方はどうだ? 姿が見えないようだし、捜しているんだろう?」

「はい、独自に動かれているようですが…連絡はありません」

「何かあれば一報があるだろう…」

 

 イェーガーズのメンバーも何人か捜索に出たりはしたが、行方は分からないようだ。

 気になるのはドクターが単独行動で捜索に向かったまま音沙汰が無い事だ。

 

(最悪、タツミに追いついて捕縛――殺す可能性もあるかもしれん)

「隊長、俺も捜索に出る」

「お前もか? あまりそういうタイプには見えないが」

 

 それ薄情な奴って事か…?

 でも、確かにそんな面倒な事は普段ならしないな。

 よく分かってるね、将軍様は。

 

「タツミの事はちょっと気に入ってたしな、ついでにドクターも探してみる」

「分かった。頼んだぞ、ソープ」

 

 了解と言って、早速イェーガーズ本部の外へ向かおうとすると、

 

「ソープも行くの? 私も手伝おうか?」

 

 クロメが協力を申し出てきた。

 意外だ。タツミとは仲が良さそうには見えないし、仲間意識なんてものは無いだろうに。

 

「心配いらねぇよ、子供一人を探しに行くだけだ」

「…分かった。気を付けてね」

 

 聞き訳が良い、素直に折檻されているウェイブの元へ戻る。

 もう少しゴネたりするかと思ったが。

 そう言えば、なんでクロメは俺に対しては呼び捨てなんだろうか。

 ウェイブ、ラン、セリューとかの年が近い連中は確かに呼び捨てだが、ボルスはさん付けで呼ばれてる。

 低く見られてる事はないと思うんだが、帰ってきたら聞いてみるか。

 

 ……ああ、そうだ。

 

「隊長、いい加減ウェイブへの折檻も止めて捜索にでも出せよ」

「ソープさん! 俺は信じてました! ありがとうございます!!」

「…それもそうか、まだ序の口だが仕方あるまい。これもタツミの為だ」

「え!? これで序の口!?」

 

 元はと言えばタツミを促したのは俺だ。

 そうでなくとも逃げてはいただろうが、ウェイブに借りを返したって事でいいだろ。本人は知るはずもないが。

 とりあえずこれで心置きなくタツミ――いやドクターの後が追える。

 山賊狩りの時に少し見たが、あの私兵の数だ。

 追跡に特化した兵がいても不思議じゃない。

 ドクターには目印みたいなものは付けてる、それに気配も雰囲気も記憶済みだ。

 帝具の能力で追跡は可能。

 そしてスピードは圧倒的にこちらが上となれば、追いつくことは容易い。

 久々に追う側に回るとしますかね。

 

 ■■

 

 帝具の能力での追跡。

 その能力と言うのは、ソナーの様に特殊な探知パルスを周囲に広げ、ソープが対象とした人物にパルスが触れれば、

 対象から自分が発したのと同じパルスが返ってくる。そうして返ってきた方角、返ってくるまでの時間で距離を特定できるのだ。

 有効範囲は広すぎる為、ソープ自身把握出来ていないが――帝都周辺どころか、辺境の土地まで範囲内に入っていると分かっている。

 そして今回の対象スタイリッシュは、

 

「方角はあっちで、返ってきた時間的に十キロも離れてない。意外と近いな」

(これなら全力で走らずとも追いつけそうだ。ただ、日はもう沈んだし悠長にはしてられないか……よし、“アレ”使うか)

 

 何かの準備の為にソープが力を溜めた瞬間、僅かだが全身の筋肉が膨張した。しかし腕はその変化が一際現れていた。

 帝具の能力であろうそれは、刃のように人体からかけ離れた変化は起きていないが、殴られれば一溜りもないだろう。

 

「慣れないねぇ…これは」

(ただ、これって結構便利なんだよな。“筋力増強”)

「じゃあ、よーい―――どん」

 

 気の抜けた掛け声とは裏腹に帝都の石畳が弾け、ソープの姿は一瞬にして消えた。

 山賊の頭部を蹴り飛ばした時とは比べ物にもならないほどの力で、零からの加速。普通の人間であれば加速した瞬間の圧力に耐えられないが、

 元々常人離れした体、更には筋力増強でより強化されている。身軽に動き、地を蹴る度に数十メートルを移動している。

 このスピードならば、早めに付けるだろうと笑い、風すらも置いていきそうな勢いでソープは駆けて行った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 走り始めてから数分だろうか、既に周りの景色は緑に覆われた森の中になっている。

 木々を避けながら、走りつつも時には鬱陶しくなったのか正面から突っ込み木をへし折りながら進む。

 

(流石に視界が悪いな。日の無い夜に加えて、月明かりも遮る森じゃ当たり前だが)

 

 走りながら目を閉じて、再び開くと――、一見すれば変化は見られないが、ソープの視界は文字通り色を変えていた。

 “熱源視覚”――熱を色へと置き換え、視界をクリアな物へと変える帝具の能力。

 現在は夜なので視界が余計に悪くなりそうだが、ソープはこの能力を気に入っており、一日中この視界で居た時もあるくらいだ。

 本人曰く、『余計な色が無い分疲れない』だそうだ。

 

(感度良好って言うのか、こういうのは。さて、視界も確保出来たし、もう一段階加速でも――ッ?)

 

 ソープの頭上を風を切りながら進む物体。ソープよりも早く、周りへの風圧が凄まじい。

 

(危険種のエアマンタ? ここら辺が生息地だったか?)

(いやあれは――誰か乗ってる…チッ、この視界だと人とまでは判別できるが顔まではわかんねぇ)

 

 悪態をついてはいるが、気取らせない為に少しスピードを落とし、やり過ごす。

 エアマンタが先に行くのを確認しつつ、徐々にスピードを上げ、一定の距離を保つ。

 

(敵か味方かは知らんが、進行方向は同じ。なら何かしら関係あるんだろう)

 

 そろそろ森も抜けるかと言いつつ、ソープは視線を前へと向けた。

 

 ■■

 

「スサノオ! 南西の森に敵が潜んでる、逃がすな!」

「分かった!」

 

「チィ! バレちゃったら仕方ないわね。ここは一時退却よ!」

 

 ナイトレイドと交戦していたスタイリッシュは、新たに現れた≪スサノオ≫と呼ばれる帝具人間によって追い詰められていた。

 

(こんな事ならセリューか、ソープでも連れて来れば良かったわ!)

 

 敵に背を向け走り出そうとするが、エアマンタの起こす風圧にバランスを崩され、転がってしまう。

 態勢を立て直し、また逃げようとするが…。

 

「……」

 

 既にスサノオは目の前におり、最早撤退は不可能だった。

 

「スタイリッシュ様! 我等がお守りします!」

 

 スタイリッシュの私兵である、≪鼻≫と≪目≫がスサノオを通さんと立ち向かうが、

 偵察に特化したこの二人では勝算は無いと歯噛みするスタイリッシュ。

 ここまで来てしまっては、ぐずぐずしている暇はないと思ったのか、

 

「いいでしょう。腹をくくるわ…」

 

 そう言いながら取り出したのは注射器。中身は得体の知れない液体が入っており、何かのドーピング剤なのが分かる。

 それを腕へと突き刺そうとした瞬間――、

 

「スタイリーッシュ――!?」

『スタイリッシュ様!?』

 

 森から飛び出してきた何かに吹き飛ばされ、不思議な叫びを上げながら持っていた注射器を手放してしまう。

 大した痛みはないが、突然過ぎて思わず手を離してしまい、四つん這いになりながら声を張り上げる。

 

「い、一体なんなのよ!」

 

 邪魔されて頭に来たスタイリッシュが顔を上げ、自分を吹き飛ばした相手を視界に入れ、言葉を失う。

 

 全身が鎧で覆われた謎の人物が立っていたからだ。

 その鎧は鋼鉄に似ており、左右非対称になっていて歪。事実、鎧は捻れたかのように歪んでいて、凹凸がある。

 顔がある頭部は外界を遮断する様に視界を確保する為の穴はなく、腕や胴体とは違って凹凸も歪みも無い滑らかな造形になっている。

 それはスタイリッシュを反射して映しており、まるで大きな瞳にも見える。

 何故か首回りの鎧部分は服の襟が立っているかのような形をしており、服をそのまま鋼鉄で覆ったようだった。

 そしてスタイリッシュは気付く、それが鎧ではなくその鋼鉄自体が生きている者の体だと。

 

(関節部分の空洞が無い、そして呼吸と共に胸も膨らんでる…新種の危険種かしら。こんな状況じゃなければ捕まえて研究したいくらい不思議な生物ね)

 

 いきなり吹っ飛ばされて、少し冷静になったスタイリッシュは、

 ふと、スサノオに視線を向け、動きが止まっているのを確認する。謎の生物を警戒しているようで、仲間ではないのだろう。

 状況は仕切り直しとなったが、肝心の切り札はどこかへ飛ばされてしまっており、不利なのは明白。

 この化け物がどう動くかが鍵、そう考えていたが…何故、あの化け物は最初に自分を吹き飛ばしたのか気になった。

 更にずっとこちらに顔を向けている事…。

 

(――ッ! まずいわ! アイツ最初からアタシを――)

 

 気付いた時には遅かった。初めに目の体が、くの字に曲がる。

 背中からは銀色の腕が突き出ており、掴んだ腸の感触を確かめるように手を開いては閉じる動作を繰り返していた。

 言葉を発する暇もなく目は殺され、鎧の化け物は死体の肩越しからスタイリッシュの姿を確認している。

 死体から腕を引き抜くと――体を低く、腹這いになるかのように屈ませ、その見た目の重みを感じさせない動きで走り出す。

 とてつもなく速い訳ではないが、スタイリッシュの様なインドアなタイプには十分脅威となる速度だ。

 ぶつかれば最初の時のように弾かれるだけでは済まない。そう感じたスタイリッシュは、次に戦えるであろう鼻へ命令しようとする。

 盾になれ、そう発したかったが、吹き飛んだのは自分ではなく兵だった。鎧の化け物はスタイリッシュの方へ顔を向けていたが、思考は冷静で、障害になる者から潰す気だ。

 吹き飛ばされた鼻は、四肢が本来曲がらない方向へ曲がり、自慢のハナは常人のサイズにまで潰れていた。

 タックルの体勢で固まっていたが、鎧の化け物は鼻が死んだだろうと分かり、即座に体を立て直して次の標的――耳へとその顔を向ける。

 

「ひ――ッ」

 

 が、大した戦闘力も無いと悟ったのか、一瞥してスタイリッシュをその頭部に映し、重苦しい足音を立てながら近づいていく。

 

「じょ、冗談じゃないわっ! ただの賊狩りがこんなことになるなんて、全ッ然スタイリッシュじゃない―ッ!」

 

 半狂乱になりながら、恐れを掻き消そうと叫ぶ。

 すると、何故か化け物の動きが止まり、

 

『欲張るからだろ、ドクター』

「え――」

 

 聞いたことのある声、そして呼び方に一瞬戸惑った瞬間、

 地面から突き出てきた黒い槍の様なもので全身を貫かれた。

 化け物は地面へ腕を突っ込んでおり、引く抜くとその手は四本指の大きな鉤爪と化していた。

 呆気なく、叫びも苦痛の声も上げずに殺されたスタイリッシュ。

 鏡面の様な顔には、呆けた顔で死んだDr.スタイリッシュの顔が映った。

 そしてそのまま、死体へ近づこうとすると、

 

「動くな、何者だ…貴様」

 

 ナイトレイドのメンバー達に囲まれ、一歩でも動けば即殺すと言わんばかりの雰囲気を出すリーダーの≪ナジェンダ≫に問われる。

 

『――』

「味方ではないだろう、お前みたいな奴は見たことが無い」

 

 その言葉に、肩を竦めて再び歩こうとする鎧――ソープだったが、

 レーザーの様な銃撃が足元に撃たれ、ピタリと静止する。

 

「動くなって言ったでしょ? 次はその気色悪い頭ブチ抜いてやるわよ」

 

 桃色の髪をした、帝具≪パンプキン≫の使い手≪マイン≫に警告される。

 撃たれた地面をじっと見つめ、顔を上げてマインを見つめてみるソープ。次はない、そう物語る眼をしているが、

 関係ないと、再び一歩踏み出そうとして、

 

『――ッ!』

 

 頭部にパンプキンの銃撃が直撃する。当たった場所からは煙が上がり、至近距離からの一撃は誰もが重いと分かる。だが、

 

「はっ――警告してやったのに動くそっちが悪いんだから、大体―」

『ってーな…』

「嘘!?」

 

 煙が消えれば、当たった場所を撫でて余裕そうな姿が。

 流石にこの距離で当てた一撃、死にはしなくとも重症だろうと思っていたマインは思わず声を上げてしまう。

 

『このピンキー少女、こんな姿だからって普通に痛覚あるんだからな。もっと労われよ』

「いや、そういう問題じゃないだろ!」

 

 いつもの癖ですかさずツッコミを入れてしまうラバック、ハッと口をおさえてまた構えを取るが、

 一瞬空気が緩んだ瞬間だった。ソープはスタイリッシュの死体へと近づき、その腕を――正確には帝具≪パーフェクター≫をもぎ取る。

 

「まずいぞ、帝具が奪われる! 全員――」

『ほらよ』

 

 奪われるかに思われた帝具だが、ソープはあっさりとそれをナジェンダに投げ渡す。

 

「っと!?」

「えぇ!?」

「どういうことだ?」

 

 意味の分からない行動にナイトレイドの面々は頭の上に疑問符を浮かべる。

 

『お前らの手柄だ、それはお前らの戦利品だよ』

「何故だ、アレを倒したのはお前だろう」

『ここまで追い詰めたのはそっちだ、俺はただそれを横から掻っ攫ったに過ぎないよ』

 

 見た目に反してまともな事を言う為、全員が唖然としてしまう。

 しかしナジェンダは冷静で、ソープの動きを見極めようとしていた。

 これはフェイクで、隙を付いてこちらに襲いかかる危険もある。

 ここまで来て、油断をして死を招くのは愚かと言うべきだと、ナジェンダは考えている。

 

(迂闊には動けない…パンプキンの至近距離での攻撃すら大したダメージが入らないあの鎧だ。もし戦闘となれば、確実に一人か二人はやられる)

(そうなる前に――)

 

『先手を打つかナジェンダの嬢ちゃん』

「……そ、その呼び方!?」

『油断したな』

 

 スッとナジェンダに近づいたかと思えば、そのまま横を通り抜け森へと走り込んでいく。

 一瞬やられると思った、メンバー達だが、相手が逃げに徹するならばと後を追おうとするが、

 

「待て、追わなくてもいい」

「え? いいの?」

「ちょっと! 顔見られたのよ!?」

「そうだな、追って始末するべきだと思うけど」

 

「いや、大丈夫だ――私に対してあの呼び方…恐らくは」

 

 疑問は残るが、ボスからの命令ならと全員は足を止める。

 そこへスサノオが近づいてきて、

 

「知り合いか、人とは思えなかったが」

「まあ少し付き合いがあってな。いや結構な方か……というかスサノオ、その発言はツッコミ待ちか?」

 

ジト目で天然な事を言うスサノオを一瞥し、

 

「しかし…生きているとは…」

 

 ナジェンダは渡された帝具を握り締め、ソープが逃げた方を見やる。

 その瞳は懐かしむような感情が篭っていた。

 

「あれ!? あの耳がデカイ奴が消えてるぞ!」

「もしかして、あの一瞬で連れてったのか?」

 

「はぁ…抜かりないな、あの人は」

 

 溜息をついて取り出した煙草に火をつけるナジェンダだった。

 




誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。

追記:ソープの能力で斬ったり突き刺したりしたらウィルス感染するんじゃ…と思いました。

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