インフィニット・ストラトスW ハーフボイルド一夏 作:ベロリンガRX
俺の名前は織斑一夏、鳴海探偵事務所で探偵見習いをやっていた男だ。
現在俺はとんでもないピンチに陥ってしまった。それは………
授業についていけねぇんだ………
教科書の単語はまったくもって理解不能状態。どこか異界の文字じゃないのか?それとも超古代文明の文字とかなのか?
「織斑くん、何かわからないところがありますか?」
唐突に俺に質問を投げかける山田先生。気遣ってくれるのはありがたいが今の状況は最悪だ。
「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私はせんせいですから」
えっへんと言わんばかりに胸を張る山田先生。クソッ、今はその優しさが痛いぜ……しかしこれも俺が招いた結果だ。潔く訊くことにしよう。
「あの~先生……」
「はい、織斑くん!」
やる気に満ちた返事。だかそのやる気のせいで余計に訊きづらい。しかしここでためらっては何も始まらない。意を決して俺は言い放った。
「ほとんど全部わかりません」
瞬間、ついさっきまでやる気に満ちていた山田先生の顔が引きつった。
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
クソッ!超恥ずかしい!これだから俺はいつまでたってもあいつに『ハーフボイルド』なんて不名誉な称号で呼ばれるんだ!
「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
挙手を促す山田先生。だが誰も挙げない。当たり前だ。こんな基礎の基礎で躓くなんて“参考書を捨ててしまった”自分くらいだろう。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
千冬姉が怒りに震えながら俺に訊いてくる。あ、これはマズイ。しかしもうどうにもならないので正直に真実を打ち明けることにした。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パァンッ!
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
また殴ったよこの人。俺はあと何回千冬姉に殴られればいいんだ。
「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「……自分でやらかした事ですからね。もちろんやりますよ」
正直拒否権なんて物存在しないからね今の状況。
二時間目の休み時間、俺は一人本を読んでいると、後ろから声をかけられた。
「ちょっと、よろしくて?」
本を閉じ、振り向いて見るとそこには金髪の鮮やかな女子が立っていた。
この雰囲気、高圧的な態度。間違いなく女尊男卑の象徴ですと言わんばかりの現代風な女子だった。
「訊いてます?お返事は?」
「あぁ、すまねぇなレディ。少し考え事をしてたんだ。」
「あら、少しは相応の態度というものを理解してらっしゃるのね。まぁ当然ですわよね。なにせこのわたくしに話しかけられたのですから」
正直この手合いは苦手だ。だが俺もおやっさんの弟子、レディには優しく接するのがハードボイルドってもんだからな。
「で、イギリスの代表候補生にして入試主席のエリートであるセシリア・オルコット嬢が俺に何の要件だ?」
「そう!エリートなのですわ!」
セシリアはビシッと俺に人差し指を向ける。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「当然。俺は人との出会いは大切にするんだ。あんたと出会えた奇跡に感謝するさ」
「……馬鹿にしてますの?」
「まさか、俺は本気さ。人との出会いは一期一会。出会いの一つ一つを大事にするもんだ」
「ふん。まぁそんなことはどうでもいいのですけれど、わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
この嬢ちゃんは優しさという言葉の意味を辞書で調べるべきだ。
「ISのことでわからないのでしたら、教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
エリートエリートうるせぇな……しかし唯一ねぇ……
「なら俺もエリートかもしれねぇな」
「は……?」
「教官なら俺も倒したからな。一応」
正直あれを勝利とカウントするのは忍びないが……今回はこの高慢ちき嬢ちゃんの鼻をへし折る為にあえてそういうことにしとこう。
「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」
「大方女子だけってオチだろ?」
セシリア嬢の顔が驚愕で固まってしまった。これは結構効いたらしい。
「つ、つまり、わたくしだけではないと………?」
「ま、世界は広いってことさ」
「あ、あなた!あなたも教官を倒したって言うの!?」
「だからそう言ってるだろう?」
「そんな……ありえませんわ!」
「おいおい落ち着きなって……」
「こ、これが落ち着いていられ―――」
キーンコーンカーンコーン。
おっどうやら都合よく三時間目開始のチャイムだ。
「ま、とりあえず今回はここまでってことで。さっさと席に着きなよレディ」
「っ……!また後で来ますわ!逃げないことね!よくって!!」
逃げるも何も俺は基本休み時間はいつもここにいるんだがなぁ……
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
今回は一、二時間目と違って、山田先生ではなく千冬姉が教壇に立っている。なぜか少し嫌な予感がする……きっと気のせいだろう。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
クラス対抗戦?代表者?なんだろう、さっきの嫌な予感が少しづつ形になってきてる気がする。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。ちなみに対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」
あ、これダメだ。絶対これ女子が面白がって唯一男の俺を推奨するパターンだわこれ。
「はいっ。織斑くんを推奨します!」
やっぱりだよ畜生め!
「私もそれがいいと思いますー」
おいおい便乗すんなよお前ら!お前らも嫌なのかもしれないけど俺だって嫌なんだよ!?
「では候補者は織斑一夏……他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」
どうやら俺で決定のようだ。こうなったらハードボイルドらしく腹をくくるとしますか……
「待ってください!納得がいきませんわ!」
せっかく俺が腹をくくったのにそこに待ったをかける人物が一人。
やっぱりあんたかセシリア・オルコット。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、そのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
好き勝手言ってくれるねぇまったく………
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ごさいませんわ!」
ほんとひどい言われようだなおい。いくらなんでも猿はないだろう。
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
「そのへんにしときなレディ。あまり興奮するのは淑女としての態度じゃぁないぜ」
「なっ………!?」
これ以上続くと長くなりそうなので止めに入る。面倒だかこれしか彼女を止められないだろう。
「あっ、あっ、あなたねえ!わたくしを侮辱しますの!?」
「そうじゃない。ただこれ以上喚かれるのは面倒なんでね」
そうして俺はセシリアに向かってビシッと指差し、宣言した。
「白黒はっきり付けようぜ。そっちの方が手っ取り早いだろう?」
「いいでしょう。決闘ですわ!」
さて、これで逃げ道は完全に消え去ったわけだ。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの奴隷にしますわよ」
「随分と舐められたもんだ。真剣勝負で手を抜くような奴がハードボイルドなんて語れるかよ」
「そう?何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
相手はおそらく前哨戦程度にしか思っていないだろう。その慢心、その油断にこそ俺が付け入る隙になる。
「せいぜい慢心することだな。俺は手加減も油断も余裕もない。だからこそ俺は負けないぜ」
するとクラスから爆笑が巻き起こった。どうやら俺が本気で勝てると思っているのがおかしいらしい。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
「ねー、織斑くん。今からでも遅くないよ?セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」
どいつもこいつも言いたい放題である。だがそれでいい。この状況がよりセシリアを油断させる。実際ただでさえこっちには勝機が少ないんだ。自分が勝つにはまず相手に無意識でもいいから手を抜いてもらわないといけない。
「たとえ絶対に勝てないとしても己を曲げない。それがハードボイルドだぜ」
俺のセリフを聞くと更にクラスは笑い出した。……これでいい。今は耐えろハードボイルド一夏。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意しておくように。それでは授業をはじめる」
(期限は一週間か……ISの基礎をマスターするのは絶対として、相手のISの事も調べる必要があるな……)
まぁとりあえず授業を真面目に聞くことからはじめようか……
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