放映中ずっと思っていたことですが、武内Pを支えるような人間が1人はいてもいいんじゃないか、と。その願望・欲望を文にしたので荒い部分もあるかもしれませんが、ご指導ご鞭撻頂けると幸いです。
「では武内君、よろしく頼むよ。とはいえ、私が心配することはないかな?」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
好々爺とした表情を浮かべながら、アイドル事業部部長の今西がプロジェクトルームを出て行った。
残されたのは、目つきが悪くガタイの良い男性と、反して人の良さそうな顔つきをした男性。
ドアがパタンと閉まった後、片方が口を開いた。
「タケさん! 改めて、よろしくお願いします!」
はあ、と一つ大きなため息が漏れる。
「――その呼び方は今後控えてください」
「え!? じゃあ、なんてお呼びすればいいんですか!?」
「私はシンデレラプロジェクトのプロデューサーなので、プロデューサー、と」
「いやいやタケさん、それはないですよ……プロデューサーなんて他にもいっぱいいるじゃないですか!」
「そう滅多に他のプロデューサーと話すことなんてないと思いますが」
「会議とかどうするんですか!? プロデューサー、なんて呼んでたら他のプロデューサーも反応しちゃいますよ!」
「――確かに、考えられなくもないですが。では、アイドルの皆さんと一緒にいる時は禁止です」
「お、つまりそれはアレですね、いつものツンデレですね! 『ふ、ふたりっきりの時だけだからな!』的なアレですね!」
このこのー、と脇を肘でつついてくる知り合いは、この後輩くらいだ。
自分で言うのもなんだが、こんな強面に、よくフレンドリーに接することができるものだ。
そのコミュニケーション能力は評価するが、時に行き過ぎていることもある。
こんなふうに。
仕方がない。
そんな表情を隠さず、武内はいつもの癖で、首の後ろに手をやった。
ため息も追加して。
「サブロー君。いえ、陣内三郎太君。ふざけていると今西部長に進言して、プロジェクトから外れてもらいますよ」
「いっ!? それだけは勘弁してくださいよー!」
「でしたら、社内ではキチンとしてください」
そう言われて、ようやくというべきか、人の良さそうな顔つきの男、陣内は武内から離れて相対した。
背筋を伸ばし、ジャケットのシワをなくす。
アゴを引いて、締まった顔をすれば、そこには先程とは打って変わって、仕事のできそうな男がいた。
ちゃんとやればできるのに、なぜこの男はこうもふざけるところがあるのだろうか。
そう思いながらも、そこが良いところでもあると理解している武内は、いつものやり取りを思い出して微笑んだ。
つられて陣内も。
「はい! 陣内三郎太! 以後、シンデレラプロジェクトの”サブ”プロデューサーとして、武内プロデューサーの補佐につきます!」
場所は移り、プロジェクトルーム内のオフィススペース。
そこに武内と陣内はいた。
「では、既にお互い挨拶は済んでいると思いますが、改めて」
「はい! 千川さん、陣内三郎太です! サブプロデューサーとしてシンデレラプロジェクトに配属されました! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
「久しぶりね、陣内君。社内研修ぶりかしら? こちらこそ、これからよろしくね」
シンデレラプロジェクトに関わる美城プロダクションの社員として、もう一人重要な人物がいる。
千川ちひろ。
プロジェクトの雑務を担当しており、経理にも明るく、欠かすことのできない女性である。
「おっしゃる通り、社内研修以来ですね! いやー、あの時の千川さんは怖かっ「陣内君?」あ、いえ、なんでもないです」
「そうよね~、なんにもないわよね?」
「ええ、はい。特になんにもないです……」
にこにこと微笑みながら、どこか黒い雰囲気をまとう彼女に逆らってはいけない。
それは美城プロダクション社員なら誰でも知っている共通事項だ。
決してやましいことをしていなくても、謝らせるような空気を彼女は持っている。
特に経理に関わることは厳しく、陣内の社内研修において、経費の精算方法について講師を務めたのが彼女だ。
当時、経理部門のそれなりの地位にいた彼女は、役員のずさんな経費精算にメスを入れ、大改革を果たした。
具体的なことは省くが、その役員はグループの子会社に飛ばされるという結末になった。
その様子を、実に愉快そうに話す彼女の姿は、見る人によっては鬼や悪魔に見えたことだろう。
悪いことはしておらず、むしろ会社の利益になる行動なのだが。
また、上記の行動を上層部は疎ましくも思っていなかったのに、彼女は異動願を出した。
経理部門としては大事な戦力を手放したくなく、必死に引き止めたのだが、彼女は頑として首を縦に振らなかった。
『こんな人間が近くにいると、皆さんが働きにくいでしょうから』
そう言って、彼女はアイドル事業部に異動となった。
それが幸か不幸かは定かではないが、こうして後輩社員をいじる様子は、楽しそうである。
「そういえば、陣内君のこと、陣内君って呼んでいいんでしょうか? プロデューサーさん」
「あまり、好ましくはないかもしれませんね」
「え、じゃあ、タケさんは俺のことなんて呼ぶんですか?」
「――サブプロデューサー、でしょうか」
サブプロデューサー。
千川と陣内は脳内で言ってみるものの、なんだか言いにくい気がした。
特にサブの”ブ”とプロデューサーの”プ”の連続したところが噛みそうになる。
現に、口に出して感触を確かめている陣内は「サブピュロ…シャブ…??」と噛みまくっていた。
シャブはいけない。
「タケさん、言いにくいです」
「少し、冗長な気がしなくもないですね。プロデューサーさん、どうします?」
どうします、と言われても、武内は困る。
アイドルと極度に親密になることを避けるため、自分はできる限りプロデューサーと呼ばれるようにしてきた。
それには過去のことも関係している。
今、それを多く話すことはないが、呼び方と言われても。
そこまで考えて、ふと武内は思いついた。
「サブロー……サブローさんでいいんじゃないでしょうか」
「それっていつもタケさんが俺のこと呼んでるやつじゃないですか?」
「ええ、そうです。ただ、意味合いが少し違います。サブプロデューサーの”サブ”とプロデューサーの”ロと長音”を取って、サブローです」
「おぉ!! それはイイですね!!」
「プロデューサーさん、名案ですね! では改めてよろしくね、サブローさん!」
「よろしくお願いします、サブロー君」
陣内はいつもどおりの呼び名にしっくりきたようだ。
晴れやかな顔で先輩二人に向かった。
「はい! よろしくお願いします!」
新人サブプロデューサーの陣内の配属一日目は、こうして始まった。
後日。
『シンデレラプロジェクト 選考会場』
美城プロダクションのとある会議室。
その二つを使って、シンデレラプロジェクトの中核となるアイドルたちの選考を行っていた。
「……番! ……です! 特技は……」
「……には自信があります!」
「いつも学校では……」
少女たちが想いのたけを、精一杯アピールする。
私はこんな人間だ、私はこんなことをしたい、私はこんな風になりたい。
必死で、しかし笑顔で、自分というものを虚飾するものもいれば、ありのままを表現するものもいる。
「――ありがとうございます。席におつきください。では次の方」
それを武内と陣内はじっと見る。
少女たちを見つめている、と表現すると、なんだか怪しい表現になってしまうが、まさしく見つめていた。
まるで恋い焦がれるように。
立ち振る舞い、表情、言葉、そして感情。
どれを一つ抜かしてもいけない、全てをじっと見つめている。
恋い焦がれるという表現は、もしかしたら不適切かもしれない。
ただ、彼らはそのくらいの気持ちで選考会場にいる。
なぜか。
自分たちが好きになることができなければ、世間にも好きになってもらえるわけがないからだ。
プロデューサーは、そのアイドルのファン1号みたいなものだ。
中には嘘をつくものもいるだろう。
事実と違うことを己の功績とうたうか、もしくは五十であること百というものもいるだろう。
それでもいい。
貫き通せるのであれば。
何があったとしても、それを自信をもって、胸を張って堂々とできるのであれば、それが嘘だろうと事実だろうと大きな差はない。
真実は自身の胸の中だけだ。
ハリボテだろうとなんだろうと、どうでだっていい、芯をもってアイドルになりたいと思うのであれば、想いは通じるだろう。
この男たちにも。
そして、世間にも。
「ありがとうございます。席におつきください。では次の方」
彼女はそういったものをもっているだろうか。
それは、これからわかる。
「はい! 二十四番、島村卯月です! 笑顔には自信があります!」
数日後。
武内と陣内はプロジェクトルームにいた。
先日の選考資料をデスクに広げて、頭を悩ませていた。
「やっと最終選考も終わりましたねー」
「ええ。とはいえ、まだ三人足りていませんが」
「欠員ですよね。あー、合格だったのに親御さんの許可取り付けてなくてキャンセルとかもったいない」
そう、最終選考は終わり、合格発表も行った。
しかし、三人の欠員が出たのだ。
理由は陣内がこぼしたものと概ね変わらない。
本人にやる気と資質はあれど、未成年者。
保護者の許可無しにアイドル活動など行うことはできないし、ましてや地方出身者は上京などできるわけがない。
結果、プロジェクト予定人数の十四人に満たない結果となった。
「で、合格した十一人の内、関東在住者は……赤城みりあ、緒方智絵里、城ヶ崎莉嘉、多田李衣菜、新田美波、双葉杏、三村かな子、諸星きらり。寮移住者は……アナスタシア、神崎蘭子、前川みく」
「既に入寮手続きや転入手続きも済んでいます」
「もう三月後半ですからねー。ひとまず合格者だけでも滞りなく手続きが進んで何よりです」
「そういえば、新田さん、双葉さんへの確認は済んでいますか?」
「はい、大丈夫です。彼女たちは既に一人暮らしをしているので、寮への引っ越しはしないとのことです」
「そうですか。でしたら問題ありません」
美城プロダクションは、地方出身アイドルのための女子寮を所有している。
成人していればまだしも、未成年者をアイドルとしてスカウト・選考することも多い美城プロダクションは、そういったことにも気を使わなければならなかった。
ただ、そこは大企業、本社に程遠くない場所に位置する元社員寮を購入、女性向け内装にリフォームすることで対応した。
オートロック付、管理人在住のマンションタイプのため、一人娘を東京に、しかもアイドルとして働きながら学校に通わせるなんて、と思っている親御さんも説得できる。
今回、シンデレラプロジェクトに合格した少女たちのだいたいが中高生だ。
関東圏に在住していないものもおり、そういった場合は女子寮に移住し、美城プロダクション他芸能関係企業が出資している学園に転校することで、学業と仕事を両立させる。
学園の方も芸能関係出資により、授業や単位といったことには、時間の振替など融通が効く。
未成年者を預かるものとして、責任をもって対応しなければならないことだ。
「タケさん、それより欠員三名、どうしましょうか? 最終選考前で落とした子たち、再選考しますか?」
「――そうですね。二名は再選考しましょう」
「二名、ですか? 残り一名はどこからもってくるんですか?」
「一人、心に決めている方がいます」
武内は強い意思をもって口を開いた。
「――ティンときた、ってやつですか?」
「ええ。765プロダクション社長のお言葉を借りるなら」
あの大手芸能プロダクション、765プロ。
とある芸能雑誌のインタビューで、765プロ社長はこう聞かれたそうだ。
『今や超売れっ子アイドルを何人も抱えているわけですが、彼女たちを選んだポイントはどういったところですか?』と。
すると、社長、右手の人差し指をピンと伸ばして一言。
『ティンときた』
その答えにインタビュアーは、はぐらかされた、と思い、ただ記事の隅の方に載せるだけに留めたそうだ。
しかし、その雑誌は芸能関係者なら斜め読みでもチェックする程のもの。
ましてや、あの765プロ社長のインタビューが載っているなら見ないわけにはいかない。
もちろん美城プロダクションのプロデューサー陣もチェックしており、売れっ子アイドル担当のプロデューサーは、その表現に偽り無し、と口を揃えて言う。
『確かに、ティンときた』
武内はこの状態になったのだろう。
「なるほど、でしたら合格でいきましょう! それで、どの子ですか?」
「この方です」
武内が陣内に選考資料を渡す。
陣内は渡された履歴書や証明写真を見て、選考会場にいたことは思い出していた。
ただ、それ以上に印象が薄く、陣内には『ティン』とこなかった。
これはひとえに経験だろうか、それとも才能だろうか。
追いつくためにもより一層頑張らなければ、と陣内は決意を改め、止まっていた手を動かす。
「――了解です! じゃあ、通っている養成所にアポ取りますね!」
「ええ、お願いします」
「――いつもお世話になっております。美城プロダクションの陣内と申します」
「ええ、はい、こちらこそ、先日はありがとうございました」
「早速ご相談なのですが……」
「島村卯月さんにお話がありまして、いつ頃でしたらご都合よろしいでしょうか?」
灰かぶりの時計が動き出した。
大学の先輩・後輩という設定です。
アニマスでも765プロのポスターとかあったので、もちろんそこはリスペクト。