シンデレラたちとサブプロデューサー(仮題)   作:マスギル

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ようやくアニメ第2話です。


第7話a

 美城プロダクションの本社、正面入口前。

 陣内は待ち合わせのために外で待っていた。

 

「良い天気だ……」

 

 本当は受付横で待っていてもよかった。

 受付嬢は知り合いなので、話して時間を潰すこともできなくないが、それは社外的によろしくない。

 今日は来客も多いみたいだし、せっかくの良い天気だから、外の空気でも吸いながら待ちたい気分だった。

 

 そろそろ待ち人が来てもいい頃かな、と腕時計を見てから顔を上げると、見慣れた女子が歩いてきていた。

 桃色の髪の毛、着崩した制服、デコられた鞄。

 まさしく、ギャルだった。

 

「あれ、サブローじゃん! 久しぶりっ!」

「……お久しぶりです」

「え、なんでそんなに距離置くの!?」

「城ヶ崎さん、今は別部署なので、以前のようなコミュニケーションは控えたほうがよいかと」

「な~んだ、そんなことかぁ~。心配して損したっ。名字呼び、禁止したよね?」

「……美嘉さん」

 

 城ヶ崎美嘉。

 世間の女子中高生に人気のギャル系アイドル。

 名前でわかるように、城ヶ崎莉嘉の家族で、姉。

 

 別部署ということで壁を作っておかないと、現プロデューサーに悪いし、シンデレラプロジェクトのアイドル候補生達に良からぬ疑いをかけられるのも面倒だ。

 以前はそれなりに親しく接していたものの、今はキッパリと分けなければ、とする陣内の態度に、美嘉は不満気だった。

 

「美・嘉」

「……美嘉、さん、勘弁してください」

「イ・ヤ」

 

 一歩も引かない美嘉。

 こうなったら彼女は意地でも引かない。

 その気の強さが今の彼女の地位を確固たるものにしてるともいえる。

 やるといったらやる、やりきる。

 そうでもしなければ、モデル界を生き抜くことなどできなかっただろう。

 流行り廃りがある中で、ギャル系雑誌のモデルとして活躍、その後アイドルに転身。

 意地だけじゃない、才能も彼女にはあった。

 

「――美嘉。これでいいんでしょ?」

「そうそう! 最初っから素直になればよかったのに」

「大人になると、素直さだけじゃ生きていけないんです……」

「相変わらず老けてるー」

「からかわない。で、今日はプロデューサーさんと一緒じゃないの?」

「そこまで一緒だったよ? この後の撮影の事で旧館に先に行くって言ってた」

「そっか。ならいいんだけど。あと、こうやって話すのは周りに人がいない時とか、美嘉のプロデューサーさんの前ぐらいだからね」

「オッケー! っていっても、一緒に仕事してたのは他の人も知ってるんだし、気にしすぎなんじゃない?」

 

 陣内はシンデレラプロジェクトに配属される前、他部署を転々としていた。

 転々、というか、ジョブローテーションだった。

 各プロジェクトのプロデューサー達のアシスタントとして、様々な業務を経験し、いつかはプロデューサーとして独り立ち。そういった研修フローだった。

 その内の一つが現シンデレラプロジェクトであり、また美嘉のいるプロジェクトでもあった。

 

 美嘉のプロデューサーは、まさしくプロデューサーというのか、大柄で熱血漢な男性だった。

 体育会系のノリもあったが、そういったところは陣内としても好んでおり、良い関係を築いていた。

 飲みの席でも「お前は研修終わったらウチのプロジェクトに来い!」なんて言われるぐらい。

 そんな感じだったので、担当アイドルの美嘉ともよくコミュニケーションは取っていた。

 足として現場まで運ぶこともあれば、レッスンに立ち会うこともあった。

 陣内もまだ若い男性であることから、美嘉も比較的話しやすかったのだろう、こういった感じでよくやり取りしていた。

 

「美嘉のプロデューサーさんがそういうの気にしないのは知ってるけど、他の人なんてわからないもんさ。用心するに越したことはないし、アイドルと仲がよすぎるのも、ね」

「仲がいいのは、いいことじゃんっ! 信頼関係って大事だよ?」

「それはそれ、これはこれ」

「もうっ、相変わらずなんだから」

 

 久しぶりの会話が弾み、陣内と美嘉はなんだかんだいって楽しそうだった。

 しかし、楽しい時間は過ぎるのが早いものだ。

 

「そういや、時間大丈夫? 旧館じゃなくて本社に来るってことは、何か用があったんじゃ?」

「あ、ヤバっ!? サブロー、ありがとっ! またねー!!」

 

 手を振りながら走り去る美嘉。

 その様子に、自然と笑みがこぼれる陣内だった。

 

 

 

 ただ、その様子を見ていたものが数人。

 

「おはよう。アンタって、あの城ヶ崎美嘉と仲いいの?」

「うわぁ、本物の美嘉ちゃんでした! サブプロデューサーさん、おはようございます!」

 

 凛と卯月だった。

 

「うん、おはよう。仲がいいというか、ただの元同僚」

「ふーん」

「でも、楽しそうでした!」

 

 早速プロジェクトメンバーによからぬ疑いをかけられている。

 後悔先に立たず、しかし久しぶりに話すことができて、楽しかったのもまた事実だった。

 

「まあ、美城の中じゃ、年の近い男性が少ないから話しやすいんだと思うよ」

 

 卯月は、仲がいいっていいですね、とでも言わんばかりの笑顔。

 だというのに、凛はジト目で見てくるものだから困る。

 資料だけ、といって名刺を中に忍び込ませていたり、ああ言えばこう言う感じで印象悪そうだったのに、追加でアイドルに手をかけてそう、みたいな疑いまでかけられそうだった。

 

「まあ、そういうことにしておくよ」

「そういうことなんだけどなー。それはさておき、二人一緒に来てくれたのは助かるよ。そこの受付で名前出せばゲストカードがもらえるから、それ首にかけて、新館……隣のビルの30階まで上がっていって。そうしたらシンデレラプロジェクトへの案内があるから、それに沿ってよろしく。プロデューサーさんが待ってるから」

「わかりました! サブプロデューサーさんは来ないんですか?」

「後で行くよ。先約があってさ」

 

 それではお先に、と卯月と凛は本社に入っていった。

 凛との信頼関係を構築するには一筋縄じゃいかなそうだな、と陣内は思った。

 

 そこは仕事で挽回していこう、と気を新たにしていると、表門近くに目当ての人物がいた。

 陣内と目が合うと、勢い良く駆け寄ってくる。

 

「サブプロデューサー! 城ヶ崎美嘉と知り合いなの!?」

 

 第一声がこれか。

 外ハネの効いたショートカット、制服の上に羽織ったピンク色のパーカー。

 活発そうな印象のまま、活発である。

 

「本田さん、まずは挨拶」

「あっ!? サブプロデューサー、おはようございます!」

「はい、おはよう」

 

 本田未央。

 シンデレラプロジェクト、最後の一人。

 

「質問に答えるけど、知り合いは知り合いだよ。同じ会社で働いているからね」

「じゃあじゃあ! いつか私も一緒に仕事できるかな!?」

「本田さんが頑張れば、いつかは」

「うわ~、ワクワクしてきた! 本田未央、トップアイドルまで突っ走りますっ!」

「アクセルだけじゃなくて、たまにはブレーキ踏もうか」

 

 えへへ、と笑ってごまかす未央に、陣内も苦笑で返した。

 

 この少女は後先考えずに、文字通り突っ走る傾向がある。

 プロジェクトの再選考オーディションでは、その活発な印象と溌剌とした笑顔、ムードメーカーな雰囲気にアイドル性を感じ、かつプロジェクトメンバーに足りないリーダーシップを期待して、合格となった。

 その後、詳しい条件の打ち合わせのために話すことがあったのだが、まあ、こんな感じだった。

 

 エネルギーは凄いし、ポジティブさは溢れていた。

 ただ、もう少し慎重と臆病を持ち合わせておいた方が、挫折した時が怖い、と陣内は思った。

 張り詰めた糸ほど、切れた時はあっけないものだ。

 

「書類は持ってきてるね?」

「もちろん!」

「じゃあ、早速行こうか。書類預かったらプロジェクトルームへ向かうよ」

 

 

 

 

 

 

 新館22階の人事・総務室へ寄った後、陣内と未央は30階のシンデレラプロジェクト、プロジェクトルームへ足を運んだ。

 ドアを開けると、既に武内と卯月、凛、千川がルーム内にいた。

 

「お疲れ様です。本田さん、連れてきました」

「ありがとうございます。では早速、紹介します。こちらは欠員補充メンバーの最後の一人、本田未央さんです」

「本田未央です! 高校1年、よろしくねっ」

「島村さん、渋谷さんも、自己紹介をお願いします」

「はい! 島村卯月、高校2年生です! よろしくお願いします!」

「渋谷凛、高校1年。よろしく」

 

 よろしくー、卯月って年上だったんだ、えーひどいですー、等々。

 年が近いのもあって、すぐに仲良くなる三人。

 ひと通りの会話が終わった事を見計らって、千川が武内に書類を渡す。

 

「プロデューサーさん、この書類、明日までにお願いしますね」

「ええ、わかりました。あと、千川さんからも自己紹介をして頂いてもよろしいですか?」

「もちろん大丈夫ですよ。卯月ちゃん、凛ちゃん、未央ちゃん、千川ちひろです。このプロジェクトの事務員だからいろいろ頼ってね? 男のプロデューサーさん達に言いにくいような事があったら言ってもらって大丈夫だから」

「「「はい! よろしくお願いします」」」

 

 三人の元気な声に、千川は微笑ましくなる。

 武内はというと、そんなに言いにくいような事があるだろうか、とデリカシーの無いことを考えていた。

 男には分からない女性独自のネットワークみたいなものはあるんですよ、と後で武内に教えようと思った陣内もいた。

 

「それじゃ、ささやかながら……」

 

 コン、コン、コン、とカラーボックスの上にエナジードリンクを三本。

 

「エナジードリンク?」

「頑張ってね!」

「頑張ります!」「はい」「ありがとうございます!」

 

 そうして、千川はプロジェクトルームを出ていった。

 エナジードリンクを女子高生に与えていいものなのか。

 そもそも、鞄からエナジードリンク三本も出てくるのは普通なのか。

 ところどころツッコミたい陣内だったが、当の三人が神妙に眺めながらも自分の鞄にしまうのを見て、意外と普通なんだな、と認識を改めた。

 

「それでは皆さん、私は所用がありますので、一旦失礼します。今日の流れについてはサブプロデューサーから説明がありますので。では、また後ほど」

「と、いうわけで、説明するから適当なところに座ってもらえる?」

 

 武内は会議に向かい、プロジェクトルームを後にする。

 残った陣内は三人に座らせた。

 

「それじゃ、今日の流れについて改めて。既にメールや電話で伝えているけど、まずはみんなに基礎レッスンを受けてもらいます」

「プロになってもレッスンか~」

「本田さん、レッスンは大事ですよ!」

「未央でいいよ、しまむー!」

「し、しまむー!?」

「じゃあ、私は?」

「しぶりん!」

「……まあ、いっか」

 

 渋谷さんそれでいいんだ、と陣内は驚きつつ、既に話が逸れるどころか話を聞いていない現状に肩をすくませた。

 

「はい、雑談は後で。厳しいこと言っておくけど、もう仕事だからね。話聞いてませんでした、は通じないよ」

「「「ごめんなさい……」」」

「反省すればオッケー。せっかくのアイドルデビューに向けて頑張るんだし、楽しくいこう! 君たちの選考理由は『笑顔』なんだからさ」

 

 その言葉に、未央が首を傾げた。

 

「んん? 私の選考理由って笑顔だったの?」

「あれ、プロデューサーさんから聞いてない?」

「おろ? 聞いたような、聞いてないような……しまむーとしぶりんも『笑顔』だったの?」

「はい! 自慢の笑顔です! ぶいっ!」

「私のは違う気がするけど」

「まあまあ、笑顔に関係することは間違ってないんだし」

 

 ふん、と凛が顔を背ける。

 アイドルになることは了承したものの、選考理由についてはまだ納得がいっていないようだった。

 いや、納得して認めるのが恥ずかしい、といったところだろうか。

 苦笑する陣内の様子を見て、凛はことさらに機嫌を悪くした。

 

「話が逸れちゃったけど、基礎レッスンの話。島村さんの言う通り、レッスンは大事だよ。というかプロになったからといって、レッスンを怠っているようなアイドルはうちには一人もいない。新曲が出る度に、ライブを開催する度に、イベントが開かれる度に、各アイドルはボーカル・ダンス・ビジュアルのレッスンを受けてる。常に前へ、常に前より良いものを。そういう気持ちでやってるよ」

「うーん、確かに城ヶ崎美嘉とか高垣楓はいっつも可愛くて綺麗だし、歌もいいもんね~」

「そのためには地道な基礎レッスンが大事ってこと。やる意味、わかった?」

「バッチリ、未央ちゃん頭脳にインプットしましたっ!」

「なら良し。それに、島村さんは養成所でレッスン受けていたから大丈夫だと思うけど、渋谷さんと本田さんは初めてだよね?」

「学校の授業以外ではやったことないよ」

「私は友達と踊ったりすることあったけど、ちゃんと教えてもらったことはないな~」

「だったら尚更だね。プロのトレーナーにしっかり見てもらって。島村さんは復習もかねて、頑張って」

「はい、頑張ります!」

 

 基礎レッスン、されど基礎レッスン。

 レッスンに慣れている卯月も、ちょっとかじった未央も、まったくの素人の凛も、基礎レッスンの重要性を理解したようだった。

 

「レッスンは旧館にレッスンルームがあるから、そこで受けてもらいます。更衣室もそこにあるから。で、レッスンが終わったら、少し休憩を入れて、旧館の別フロアで宣材写真の撮影。初仕事だ」

「宣材写真、バッチリ決めるよっ」

「うぅ、恥ずかしいです」

「どうすればいいんだろ」

「島村さんと本田さんは、オーディション応募の時に撮影したものがあると思うけど、今回のは営業用のものだから、しっかりね。渋谷さんはそうだな……」

 

 卯月は気負わなければ問題ないだろう。笑顔が出れば一発オッケーだ。

 未央はオーディションの時の写真の勢いがあれば問題ない。活発な印象がダイレクトに伝わってくる。

 凛はスカウトだから、そういう写真を撮影された事がないだろう。

 でも、彼女の強みは飾ったものではないはずだった。

 

「渋谷さんは、そのままでいいよ」

「そのまま?」

「うん。気負わず、いつもの渋谷さんでいい。ん? 違うな。いつもの渋谷さん”が”いい」

「……わかった」

「おや? おやおや? 何かわかりあっちゃって……さてはいい仲ですな!?」

「えぇ!? そうなんですか?」

「本田さん、茶化さない。島村さんはすぐ騙されるから要注意。渋谷さん、ごめんね」

「別に、気にしてない」

「言葉が足りなかったけど、プロデューサーさんはいつもの君を見てスカウトしたんだから、飾る必要はないってこと。無理して笑う必要もない。渋谷さんらしい様子で頼むよ」

 

 うん、と頷く凛。

 納得いってもらえたようで何よりだった。

 

「え、しぶりんってスカウトされたの!?」

「そうだけど」

「私がスカウトしました!」

「しまむーが!? これは新たなプロデューサー誕生の予感」

 

 卯月がスカウトした、というわけでもないような。

 大きな切っ掛けにはなっただろうけど。

 それにしてもこの三人、相性良いな、と陣内は感じた。

 武内にユニット案として提案してみよう、とも。

 

「そういえば、各自衣装は持ってきた? 事前に伝えた通り、私服でもいいし、制服でもいいし、何か特別な服装でも大丈夫だからね。奇抜じゃなければ」

「私は普通に制服が一番自分らしい気がします!」

「うーん、迷ったけど、このパーカーが気合入るかなー」

「私はお店のエプロンを一応持ってきたけど。あとジーンズ」

「お、それいいね。着慣れてるだろうし、よく似合うと思うよ」

「確かに! 凛ちゃんのエプロン姿は綺麗でした!」

「や、やめてよ恥ずかしい」

「へ~、しぶりんの家って花屋さんなんだ?」

「そうなんですよ! とっても詳しいんです!」

「なんで卯月が自慢気なの」

 

 凛のチョイスは中々に良い。自分らしく、けれど制服ではないことで差別化を図ることができる。

 卯月は自分で自分の長所が無意識にわかっているのだろう。制服で良いと思う。

 未央はパーカーということで若干崩しつつも、自分らしい印象を与えることができるだろう。

 宣材写真撮影が楽しみだった。

 

「よし、時間もいい頃だし、レッスンに向かおう!」

 

 

 

 

 

 

 新館から旧館への渡り廊下。

 仲を深めている三人を先導するように陣内が歩いていると、前方から青い衣装を来た四人組が近づいてきた。

 

「お疲れ様です」

「あら、サブローじゃない。また飲みにいきましょ?」

「機会がありましたら」

「あ、自分もいいッスか?」

「自分は特に問題ないです」

「なぜ眼鏡をしていないんですか!?」

「家に保管してありますので」

「ま、また勉強教えてもらってもいいですか……?」

「大丈夫ですよ」

 

 ブルーナポレオン。

 最近、波に乗っている五人組ユニットだ。

 濃い青色の衣装に身を包んだ、松本沙理奈、荒木比奈、上条春菜、佐々木千枝。

 あと、ここにはいない川島瑞樹がいれば、全員揃うことになる。

 ただ、瑞樹は美城プロダクションの稼ぎ頭として、高垣楓や城ヶ崎美嘉とユニットを組む事が多いため、今回のように四人とは別行動なのだろう。

 

 沙理奈と比奈からは飲みのお誘い、春菜からは眼鏡プッシュ、千枝からは勉強の指導。

 美嘉の時と同じく、以前所属していたプロジェクトの関係で、ブルーナポレオンとも顔見知りだった。

 今日はよく他部署のアイドルと顔を合わせるな、と思いながら卯月達を振り返ると、とても驚いた顔をしていた。

 

「ブルーナポレオンとも仲が良いんですね!」

「サブプロデューサー、只者ではないとみた!」

「やっぱりアンタ……」

 

 なぜこうも勘違いする方向にいってしまうのか。

 陣内は苦笑しながら否定する。

 

「元同僚だから。一緒に働いていたら世間話するぐらい仲良くはなるでしょ?」

「でも、飲みにいきましょって、お酒だよね? アイドルとお酒だなんて……これまた、おやおや!?」

「モテモテですね!」

「松本さんと荒木さんは成人してるから、話に付き合ってるだけだって」

 

 茶化す未央と卯月をかわしながら、ふと凛が黙っていることに気付く。

 そちらを見やると、凛が何かに化かされたような顔をしていた。

 

「渋谷さん? どうかした?」

「な、なんでもない」

 

 ほら行くよ、と陣内を追い抜かす凛。

 木に登って昆虫を捕まえようとした女の子がいつの間にか消えたなんて、恥ずかしくて言えなかった。

 

 

 

 その後、三人は基礎レッスンを行った。

 今回はスケジュールの都合上、ベテラントレーナーの青木聖にダンス以外のボーカル・ビジュアルについても指導してもらうことになっていた。

 

 といっても、まずはダンスだ。

 これに関しては特段問題は見られなかった。

 卯月は苦手としていたステップを特別レッスンプログラムにおいて克服している。凛は余裕が無さそうではあったが、そつなくこなしているのは才能か。未央は持ち前の運動神経を活かして、のびのびと踊っていた。

 これには聖も少し驚いたのか、関心していた。

 ただ、その後、少しレベルの高いステップをやらせて三人を困らせたのは茶目っ気だろうか。

 

 次にボーカル。

 ダンス担当といえど、聖もトレーナーの一人、ボーカルレッスンを指導することもできる。

 総評すると、卯月と未央は、まあそれなりに。ただ、凛は頭ひとつ抜きん出ていた。

 凛は普通に声を出しているつもりだろうが、よく通り、澄んだ声だった。

 後で聖から「妹の明には声をかけておくから、今度時間作っておけ」と耳打ちされた陣内も驚きを隠せなかった。

 

 最後はビジュアル。

 次に宣材写真撮影が控えていることから、最後にもってきていた。

 また、ビジュアルはダンス的な要素も兼ね備えているといえる。

 辛そうな顔をして踊るものではないからだ。

 ただ、今回は『自分らしさ』に重きを置いて指導してもらった。

 自分らしいポーズ、角度、表情。

 三人は聖のお手本を参考にしながら、上目遣い、見返り美人、ジャンプ、など試してみる。

 いくつか試している内に、各人はなんとなく感覚を掴むことができたようだ。

 

 

 

 

 

 

 基礎レッスン終了後、更衣室横のエステルームに忍び込んだ卯月と未央が川島瑞樹と遭遇するなどアクシデントはあったが、特に問題なく陣内たちは武内との集合場所である旧館エントランスに集まった。

 

「お疲れ様です。レッスンの立会、ありがとうございました」

「いえいえ、とんでもないです。良い報告があるので、期待してください」

「それは楽しみですね。それでは早速……」

 

 武内が声を詰まらせる。

 視線の先には、トップアイドルといってもいい地位にいる高垣楓がいた。

 その生の姿に卯月達も目を見開いて、声が出ない様子だった。

 

 楓はそんな三人のアイドルになりたての姿に微笑みつつ、その先にいる武内を見た。

 それはどこか懐かしさを感じているような、柔らかい笑みだった。

 

「おはようございます」

「おはようございます。あのプロジェクトのお仕事ですか?」

「ええ、そうです」

「たまには、こちらに顔を出してくれてもいいんですよ?」

「……」

「ふふ、ごめんなさい。困らせちゃいましたね。それでは、また」

 

 楓はエレベーターに消えていった。

 ドアの閉まり際に、右手を首の後ろにやった楓を見て、思わず武内も同じことをしそうになったが、手のひらの上で転がされているような気がしたので、思いとどまった。

 しかし、そんな様子も彼女達には関係なかった。

 

「プ、プロデューサーは高垣楓と、どういったご関係で……?」

「大人な雰囲気でした!」

「アンタ達って……」

 

 達ってなんだ、達って。

 思わず陣内は否定したかったが、火に油をそそぐことはないと思い、何も言わなかった。

 

「どういった、といわれても、元同僚ですから……」

「そんなとこまでサブプロデューサーと一緒! これは打ち合わせしてますな!?」

「してないよ。さあ、撮影フロアまで行くよ!」

 

 えー、と駄々をこねる三人をエレベーター方面へ押し込む。

 目で感謝の念を伝えてくる武内に苦笑いしながら、撮影フロアへ向かった。

 

 

 

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