凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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第十一話 気づき

今日も天気は晴れ。適度な雲が漂い、生ぬるい風が流れる。

 

太陽から差し込んでくる光が暖かいから暑いと既に感じ始めてはいるが、だからといって浴びないように外から出ないという訳でもない。

 

体育の種目は一、二、三年ともに水泳へと変わった。動くとすぐに汗で濡れる体育着から学校指定の水着になり、去年より自分の体が成長したかどうかがなんとなくわかる。

 

が、夏が近づいているとはいっても毎日が暑いわけでもなく、時には曇って涼しい日もある。それ故、その日に水泳があると生徒は皆入りたがらない。けれども先生は水温をきちっと測って、入るか否かを決める。おまけに授業中は殆どプールに入らないときた。若干の理不尽さを生徒たちは覚えるものだろう。

 

 

「よーし、帰りのホームルーム終わり。おじょしさま作り参加者はこの後体育着に着替えて、裏口に集合なー」

 

明日注意すべきことなど口頭で説明し、ホールルームを終わらせる。大塚は手を軽く数回パンパンと叩いて終わりを示し、里実に号令を促す。

 

当たり障りない号令と共に生徒たちがばらばらのお辞儀をする。そして直ぐさま喋り声が教室内を飛び交い始める。音量を小から急に大に変えたようだと大塚は無意識に思う。

 

机を引きずって後ろに下げるため、足の部分と床が擦れる音も重なって、不格好なオーケストラ状態だ。

 

 

「おい、海遥」

 

机を下げてすぐにバッグを肩にしょって、スタスタと教室を立ち去ろうとする海遥に声がかけられた。

 

「何?」

 

自分に声をかけた航大に少し疑問を浮かべるような目つきを向ける。だが航大は航大で何を次に言っていいのかわからない様子だった。目線を左右に動かして、手が自然と頭をかく。

 

「……いや、俺はおじょしさま作りに参加してないから、いてもしょうがないだろ」

 

「あ、おう。……じゃあな」

 

参加しないなら帰る。至極正しいことを突きつけられ、航大は大したことは言えず、彼に手を振っただけに終わった。

 

海遥は無言で手をほんの少しだけ振って教室から出て行った。

 

大きいため息をこぼし、航大はまた頭をかく。

 

「なんだろうなぁ、どんどん海遥が孤立していくよ。しかも洋斗がやるっていうことは、お前のぼっちがうつったかな」

 

「おいふざけんな」

 

彼としては海遥を心配して言ったつもりだったが、洋斗にしてみれば自分に対する悪口にしか聞こえなかった。眉をよせて鋭い目つきを航大に向ける。

 

「別にこれは自由参加だろ?強制じゃないし、何も心配いらないだろ。俺は掃除だからお前らはとっとと着替えてこいよ」

 

教室後ろの掃除ロッカーから逆T字型のほうきを取り出し、三人を先に行かせようと促す。

 

三人とも軽く頷きながら各々の鞄を持って教室から出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海遥は淡々と足を進める。いつもとほぼ変わらない時間帯なのだが、一人しかいないからだろうか、どこか変な感覚がする。

 

一歩一歩前に進むたびに聞こえる自分の足音。この通りを通学路にする生徒自体ごく少数しかいないので、よりはっきりと聞こえてくる。

 

その音が無性に耳障りになってくるのには自分でも少し馬鹿馬鹿しいと思ったが、途端に悲しくもなった。

 

 

他の四人は、なんだかんだで陸の人々と馴染んできている。生徒同士話し合ったり、笑い合ったり、時には遊んで。

 

海の時の学生生活とほぼ大差ない毎日を過ごせていることはとても嬉しく感じる。むしろ、海より人の多い陸の方がよりよい生活になるのかもしれない。

 

それに比べて自分はなぁ、と海遥は自分自身を笑いながらため息が出た。

 

わかっているのだ、陸の人々は悪いやつらじゃない。変にボケてくるやつもいるが、それは俺らを信頼しているからこそなのだろう。

 

みんないいやつらだ。だから澄澪も航大、沙月も洋斗も、受け入れているのだ。それこそ、おじょしさま作りに参加している。陸を避けている俺なんかが加われるわけがない。

 

十分伝わっているのだ。ここまでしてわからないほど能なしではない。澄澪や沙月が心配して言ってくれた言葉も、つい苛ついたまま返してしまっている。

 

申し訳ないと思っている。頭を下げて謝るくらいだ。けど、それでも俺は……。

 

 

そう考えているうちに、埠頭まで着く。と、同時にハッと何かを思い出したようで、制服のズボンを探って財布を出す。

 

お札を入れるところから1枚の折りたたまれた紙をだす。

 

「そういや、買い物するんだった」

 

回れ右をして海遥は目的の店へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埠頭から大して距離はなく、数分で着いた。

 

スーパー・マツシゲ。ここがよく使う店だ。大体の食糧をここで買っている。自分で冷蔵庫を見て、足りないと思ったときや父に言われた時に、学校の帰りがけに寄っている。

 

そしてここで自分の知っている人が一人アルバイトしているのだが……。

 

店が見えてきたとき、その知っている人物の後ろ姿が見えた。けれど、その人物のすぐ側で話している男性がいた。二人とも笑いながら話しているようだ。

 

すぐに話が終わったようだ、男性の方が手を振ってその場から離れていった。知っている人物もその場から店内に戻ろうとしたところで、海遥と目が合った。

 

「あら、海遥。おかえり」

 

「どうも、汐帆ちゃん。さっきの人って、知り合い?」

 

笑顔でこちらに手を振ってくる汐帆にこちらも手を少しだけ振る。そして先程の男性について聞いてみるのだが、なんだかやけに動揺していた。

 

「え?え、いや、別に、いつもご利用なさってくれるお客様ですけど?何か問題でもありますでしょうか?」

 

「お、おう。ないけど」

 

彼女自身は平然を装っているのだろうが、誰から見ても平然じゃない。いつも海遥に対する話し方から逸脱している。海遥は少し困った顔になる。

 

「い、いや。そんなことより!みんなとは一緒じゃないの?」

 

何故か顔が赤くなっていた汐帆だが、両手を振って話題を変えてきた。やはり小さい頃から一緒にいる姿を見ていると、一人でいるだけで不思議がられるのかなぁ、と海遥は若干の鬱陶しさで目をそらす。

 

「あいつらは、学校でおじょしさま作ってる」

 

「……ああ。そういえばここの人と白風の希望者で作ってたね。私はやらなかったけどさ。で、海遥もやらないの?」

 

「そうだよ。別に何もおかしくないだろ?自由参加なんだから、あいつらがやりたいならやる。俺はやりたくないからやらない」

 

ただそれだけのことじゃないか。五人揃って同じことをやらなくてはいけないルールがどこに存在するというのだ。

 

そうさ、おじょしさま作りに参加しなかっただけで罰せられるわけでも、町が危機にさらされるわけでも、世界が変わるわけでもない。

 

これ以上何か言われるのを避けるために海遥は店内へ入る。店番は汐帆しかいないようで、汐帆もすぐに入ってきた。

 

 

今朝メモに書いてきた食材や菓子を買い物カゴに入れ、会計をする。特に汐帆から言及をする様子はなく、今はここの店員としての姿だった。

 

買った物が入ったビニール袋を受け取り、店を出る。後ろから「また来てねー」と声がしたが、海遥は後ろを振り返って手を振ったりなどはしなかった。

 

 

 

 

ビニール袋から買った菓子の1つを手に取った。たまに買うココアシガレットだ。箱を開けて一本取り出す。

 

「……へぇ、そうだったんだ」

 

海遥はぽつりと呟き、シガレットを口にくわえて、折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギーコ、ギーコとそこら中で鳴っている。

 

ここは学校の裏にある山の中。と言っても学校からすぐの場所にあるので迷うことない。

 

ここで木々を必要な分だけ測ってノコギリで切っている。勿論何人かで強力して行っているし、大塚や阿波、長年おじょしさまを作ってきた人もいるので安心して作れる。

 

「ここはこう切るんだ。押すんじゃなくて、引くようにするとうまく切れる」

 

ノコギリを闇雲に扱って切っている航大に、大生が丁寧に教える。それを頷いてちゃんと聞き航大はそれを実践する。

 

すると今までうまく切れなかったのが嘘のように、あっという間に切れた。航大自身も驚きが顔に出ている。

 

「おお、本当だ」

 

「大生くん、よく知ってるね」

 

航大が切る木を両手で押さえていた澄澪も目をぱちっと開いている。

 

「まあ、色々とこういう作業やってきたし」

 

大生は大して自慢げにすることなく、変化しない表情のまま後ろを見る。大塚と共に木を切っている男性と目が合う。男性の方は少しだけ口が緩まる。

 

この男性、おじょしさま作りを長年行ってきているこの方は、大生の父なのだ。父の作業を手伝ったりしているため、既にノコギリの使い方を会得いていた。

 

「久しぶりに大生パパ見たよね」

 

こちらも木を押さえる係をしていた茉紀。目の前で木を切る担当をしている一樹にそう言うが、当の本人は何だか必死で聞こえていないようだ。

 

「……一樹?」

 

「っしゃ!こっちの木は全部切り終えたぞ」

 

最後の木を切り、端っこの部分がコトンと落ちる。一樹はノコギリを持っていない左手を突き上げる。

 

「お疲れ」

 

航大たちに教えていた大生が一言。表情はほぼ変化していないが、長年の付き合いであれは少し笑っているとわかる。

 

「おお。一樹くん、こうちゃんより全然切るの早いね」

 

こちらを向いて澄澪がこれまた驚いた様子で言う。この発言は航大をさりげなく「切るのが遅い」と言っているようなもので、航大は一樹の作業の早さの驚きとその発言に対するダメージで顔の表情がコロコロ変わる。

 

「一樹ってどこか不器用な感じだと思ってたんだけどな」

 

「へへん。案外こういう作業は好きだよ」

 

「とか言っちゃってさ、細いのばっかり切ってたんじゃないの?」

 

「幹大たちはサボってないでさっさと切れ」

 

横で茶化してくる幹大と隆広は木の幹に寄っかかりながら笑っていた。一樹はその姿を見てがくっと肩を下ろして呆れた視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかた切り終わり、木々を長さごとに整理していた。単純作業だったが、時間は意外と経っていて陽が赤くなり始めていた。

 

「よし、この辺で今日は終わりにしようか。仕分けとかは先生立ちでやっておくから、お前らは帰っていいぞ」

 

大塚たちの許可の元、おじょしさま作り1日目は終わった。

 

道具等を片付けて、一行は着替えるために更衣室へと戻り、着替えを済ませて下校する。

 

海の四人組は今日も固まって帰宅をしようとする。沙月が下駄箱から靴を出そうとしたとき、自分の名前が呼ばれた。

 

「どうしたの、里実ちゃん」

 

その人物は里実だった。沙月自身からは特に彼女から聞かれる様なことは思いつかなかったので、首をかしげた。

 

「えっと、ね。前にうちの後輩から聞いたんだけど……沙月ちゃんって、誰か入院してる?」

 

突然言われたその発言に沙月は驚いて目を見開く。当然、クラスにそのことは伝えていなかったからだ。

 

「いや、病院に向かってるのを見たってだけで……」

 

「……ああ、うん。そうだよ。おばあちゃんが」

 

ただの憶測だが、自分を心配して言ってくれているのだとすぐに察した沙月はホッとし、少し笑う。

 

「そう、だったんだ。なんか不安そうな顔してた時会ったし、心配になっちゃって」

 

「大丈夫だよ。里実ちゃんが心配することないって。それに、そんなに症状重くないし」

 

リラックスした状態で説明する沙月の様子を見て、里実も安心した。これで自分の中にあるモヤモヤは晴れた気がした。

 

 

靴を履き変えて、里実と手を振ってわかれる。校門には三人の姿が見えた。

 

少し待たせたな、と思って沙月は少し早歩きで向かった。




(後書きは投稿した後に書いてます)
活動報告にも書きましたが、1月中は投稿がかなり厳しいので、次の投稿は2月になると思いますー
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