凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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テストも終わり、通常通りのペースで投稿出来そうです

今日は知られざるちょっとした海っ子たちの過去の話。


第十二話 深海ほど暗くて見えないものはない

次の日はどんよりと曇っていた。一面うっすら灰色が混じった白が空を覆う。じんわりとした太陽の光はどこにも見えない。

 

今日の塩分濃度は大したことなくいつも通りだと天気予報は言っていた。支度を済ませて玄関を出たときに舐めて確認をした。

 

航大は右肩にのみバッグをしょって歩く。もう慣れたこの道から様々な人の生活がうかがえる。たまに遅れそうになって見ている余裕がない日もあるが、彼らもほとんど変わらない日々を送っているのだとわかる。

 

少し歩いていくと目的地が見えた。今日は珍しく早く着いたようだが、先客がいるようだ。付近にある石壁に寄っかかって何かを考えている風に見える。

 

「ウイッス、海遥」

 

「……おう、おはよ」

 

航大のあいさつに海遥は少しだけ遅れて、航大をチラッと見て返事を返す。どうやら深く考え込んでいたようだ。

 

「どうした、何か悩み事か?相談相手になってやんよ」

 

「いや、別にそういうことじゃない」

 

航大はそう言いながら海遥の隣に寄っかかる。海遥は視線を足下に向けたままだ。

 

「何だよ、昔からの仲の俺にも言えないってことは……恋か!とうとう海遥も」

 

「ちげーよ」

 

どうやら航大の頭の中で勝手な想像が走り出してしまったようだ。流石に予想外だったようで、呆れた顔で航大を見る。

 

航大が何か続けて言おうとしたところで洋斗が来た。少し遅れて澄澪と沙月が到着し、学校へと向かった。

 

航大は海遥の悩んでいることについては特に触れなかった。学校に着いてからも、授業中や休み時間なども朝と変わらず考えているようだったが、海遥が素直に言わなかったことは追求してもしょうが無いという結論に至った。

 

 

本日の授業も終わり、放課後になるとすぐにおじょしさま作りが始まった。

 

1日目であらかた材料となる木は切り終えたので、今日からは美術室での作業になる。昨日切った木々をさらに切って調整していく。それらは男子たちが行い、女子たちはおじょしさまの衣服を作り始めた。

 

この日は大生の父や先生たちはいなかったが、歴代ナンバーワンの人数で作業はなかなかの進み具合だった。

 

「いやー、俺ってば才能あるね」

 

「俺だって負けてねーぞ」

 

幹大と一樹は木をどれだけうまく、且つ早く切れるかの勝負をしていた。同時にスタートしてノコギリを両者ともに引いて押してを繰り返す。

 

「おぉーっと、両者譲れない戦いを繰り広げているぅ!」

 

隆広に関しては、切った時にできた木の切れ端をマイクに見立てて実況していた。実に彼らしい。

 

そんな男子の方を見ていた女子は布にチャコペンシルを使って線を書いている。

 

「あはは、にぎやかだね」

 

「まったく、指切っても知らねーぞっての」

 

里実は苦笑いをしながら、茉紀は呆れた様子で作業を進める。そんな時、澄澪はフフっと笑った。

 

「どうしたの?」

 

「フフフ。だってね、みんな楽しそうなんだもん。みんな笑ってて、そしてこうやってみんなと協力しておじょしさま作ってる。とっても幸せそうだなって」

 

男子たちがふざけあっているこの状況を、澄澪は彼女らと違う捉え方をしていたようだ。ぽかーんと口を開けて固まってしまった。

 

「……?あれ、どうしたの?」

 

「……いや、あんたはただの天然だけではなかったようね」

 

沙月はまじまじと澄澪を見る。

 

「こういうところも澄澪ちゃんって可愛い」

 

里実はニッコリと笑いながら澄澪を見る。当の澄澪は自分が何か特別なことを言ったのだろうかと疑問そうに首をかしげた。

 

「それはそうと、澄澪先輩が通ってた海の学校の方はどんな感じだったんですか?」

 

茉紀の隣で作業をしていた女子生徒、山瀬砂奈(やませさな)が澄澪に聞く。

 

今までで何回か海での生活についてを質問されたことがあった。自分らでは呼吸すらできない未知の世界の中で生きる澄澪たちが、陸の人間にとっては気になるのだ。

 

「んーと、特に陸とは変わらないと思うけどなー」

 

「そうね、海独特のカリキュラムみたいのは無かったと思うけど。でも、人数は圧倒的にここが多いわよね」

 

「え、そうなんですか!?」

 

少し上を向いて記憶をかき分け始める澄澪。横にいる沙月も考えてみたが、そのくらいしか思い浮かばなかった。

 

"そのくらい"のものに、澄澪はそういえばそうだったねと軽く頷いたが、陸女子たちは目を丸くして驚く。

 

ここから少し遠くへ行った街には何校もあり、クラスも何クラスか存在していることは知っていたからこそ、自分たちの学校は人が少ないと思っていたのだ。

 

「小学校の頃はまだいた方だった気がするんだけどね」

 

「そうそう。確か隣にもクラスが1つあったし、一クラス25人……くらいはいたよね」

 

再び澄澪が自身の頭をフル回転させ、過去の記憶を遡る。目をつむって頭の両側を人差し指でクリクリ回しながら出した記憶はどうやら間違いないようだ。沙月が頷いている。

 

「え、そんなにいたのなら他の人たちはどこの中学に行ってるんですか?」

 

茉紀がさらに素朴な疑問を投げかける。それは当然のものだった。20人以上のクラスが2つあったといわれる果那ノ海から、何故ここに来たのは4人だけなのか。久里ノ上には中学校は1つしかない。この白風中学校だ。

 

しかし、その回答がすぐには返ってこなかった。澄澪は口を開くが、困った顔をして口を閉じてしまった。

 

「……出て行っちゃったんだよ」

 

そう、言ったのは沙月だった。その様子はどこか寂しさを感じる。チャコペンシルを机において、膝あたりで両手を握った。

 

「勿論、全員が海を捨てたとか、そういうわけじゃないけどね。……あの事故の影響が強いとは思うけど、家庭の事情とかで陸に出たり、中には他の海村に入った子もいるって話だし」

 

沙月は慌てて笑顔を作って、手で誤解を招かないでと言わんばかりにジェスチャーをする。果那ノ海を嫌う人ばかりいたと思わせたくなかったし、変に空気を重くしたくなかった。

 

そう思って弁解した沙月の言葉は彼女の予想とはかけ離れた反応、3人揃って余計に疑問そうな顔をしていた。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

掌を突き出して話を止めたのは里実だった。

 

「えっと、なんか色々わけわかんなくなっちゃったけど……。出て行った、ってその言い方とか、あの事故って……」

 

 

「土砂崩れだよ。2年前にあっただろ?」

 

丁度里実の左横から質問の回答が来た。

 

振り向くと、航大が机の上に座って腕を組んでいた。視線は彼女らと合わせずに窓の外を見ていた。

 

「久里ノ上駅と魚喰駅の区間で起きた土砂崩れ事故。その時丁度通ってた列車も巻き込まれて死傷者が出てる。その時落ちてきた土砂は果那ノ海にまで落ちてきた、って聞いた」

 

大生も作業を止めて椅子に座っていた。この時でも変わらない表情で自分の記憶から事件の大まかな内容を話す。

 

航大は黙って首を縦に振る。

 

「大生が言ったとおり、土砂が果那ノ海に入ってきた。デケー石とか色々落ちてきたが、幸いその時は死者はいなかった。住居はそんなに多くなかったし、みんな出かけてたんだ。

まあ、それで終わればよかったんだがな。原因はわからないけど、前々から地震とかが多くなってた。その時から土砂崩れの心配をする人もいたけど、大丈夫だって宮司さんとかが言い聞かせてた。でも、いざこういうことになったらどうしようもなかった。次いつ土砂崩れが起こるかわからない、今回は運良く人のいないところに落ちたけど、密集地にでも落ちてきたらどうするんだ、とかね」

 

2年前に起きた土砂崩れのことは、この場にいた全員が記憶にある出来事だった。だが、それが果那ノ海にどういう影響を及ぼしていたかなんて、陸の彼らのほとんどは考えもしていなかっただろう。

 

「それで『こんなところで突然死ぬより、別にところに言った方がマシだ』と誰かが言い始めて、それにかき立てられてぞろぞろ出て行くことを決定していった。それらの中心は、子供を持った家族だった。子供を安全な場所で生活させてやりたいってのは最もな意見だ。だがその結果は、果那ノ海の人口減少だ。小学校卒業ぐらいはみんないたけど、中学を上がったときには俺らしかいなかった」

 

知らぬ間に起きていた衝撃の真実。果那ノ海の人口減少についてはなんとなく聞いたことのあるような感じだったが、原因が土砂崩れにあったのだ。陸の彼らは、ただただ聞くことしかできなかった。そして小学生とはいえ、海の彼らは友達が次々と離れていった中で普通に生活していたと考えると、陸の彼らはなんとも言えない胸の苦しさを覚えた。

 

「中学一年はそれで過ごしたけど、5人だけよりもっと大人数でのふれ合いとかが大切だ、ってなって俺らはここに来たってことかな。そもそも学校側としてもやっていける状態でもなかったしな。金とか」

 

この教室にだけ、少しだけ重力が増したかのような感覚だった。それが航大にはとても苦しかったようで、声を大きくして両手を頭の後ろで組んだ。

 

その時、学校のチャイムが午後5時を告げた。

 

「あーあー、もうこの話終わり!俺らは残ったから今ここにいる。それだけだ。さて、片付けようぜ」

 

航大は手をパンパンと叩くと、みんなで片付けを始める。彼らにもとりあえずいつも通りに戻る。作業とまっちゃったなー、とか色々言いつつも片付けを終え、美術室の部屋を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私おばあちゃんのお見舞い行ってくるから。先帰ってていいよ」

 

まもなく埠頭にたどり着くあたりで沙月が3人に言う。

 

「さっちゃんのおばあちゃん、明日退院なんでしょ?」

 

「うん。医師の人も問題は無いでしょうって言ってたし」

 

「おお、良かったじゃん。んじゃ、よろしく言っといてくれ」

 

「うん、じゃあね」

 

3人と手を振って分かれる。そのまま海とは反対方向に足を進める。入院してから何回も通った道を重ね塗りのように歩く。

 

退院ということは、明日でこの道とは最後。それは彼女のおばあちゃんが健康になったということだ。それだけで嬉しいことはない。

 

少し早歩きで目的の病院に着き、カウンターで見舞い者名簿に名前を記入して用紙などをもらう。

 

カウンターの近くの階段から昇って三階へ。右に曲がって行くとナースステーションが見える。そこをまた右に曲がると病室が並んでいる。そのうちの一部屋を目指す。

 

もう慣れたその部屋の前で止まる。ドアは開いていて、そのまま入る。奥のベッドにおばあちゃんが寝ているのだが……。

 

 

「あ、あれ?どうしたの?」

 

そこにはおばあちゃんと、壁にもたれ掛かって立っている海遥。それに椅子に座っている海遥の父の和洋の姿があった。




今回は少し暗い話。こういうのが今後増えていきます……。
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