次の週が来る!アアアアアってなってたのが現状でして、いそいそ焦って書くよりやはり落ち着いて行こうじゃないかということになります
もしくっっっそ余裕でスラスラ進んだなら毎週出せるかもですけど(くっっっそ確率低い)
通路を歩き、とある部屋の前で里実の母は止まった。ノックをして声をかけるとすぐに声が返ってくる。男性の声だ。そして、聞いたことがある声だ。
「おお、よく来たね」
ドアノブを回して部屋に入るとそこは以前に聡太郎たちと話し合った部屋だった。だが違うとすれば座っている人数が多いことだ。見ると同じような格好の人たちが多く見受けられた。その格好も聡太郎のものと同じであるからして、漁協の人たちだろう。
「とりあえず座ってくれや」
「はい」
漁協の人が脇に置いてあったパイプ椅子を広げて持ってきてきた。それに汐帆は座る。この空間に来たことがあるのに、まったく別の世界に感じる。それほど彼らが抱えている問題が深刻であると示している。それは汐帆も承知だ。
「マツシゲさんとこのから聞いた話って、やっぱり本当なのか」
「ええ、果那ノ海どころか、全ての海村で冬眠が始まることは確実です」
まわりが少しどよめいた。元海村出身の里実の母に来た通知は勿論本物であるが、先程まで海の中にいた人間からその事実を突きつけられたとなれば、宙ぶらりんで曖昧だった"冬眠"ということが急に現実味を帯びる。
「冬眠、するのか。で、あいつらはいつまで寝ることになってんだ?」
「近いうちに冬眠は始まりますが、いつ目覚めるのかはわかりません。これは異例の事態なんです。私の両親や祖父母でさえ経験したことのない状況です。たった数ヶ月で起きるのか、それとも1年、5年、10年……。もしかしたら、皆さんが生きている間に起きてこないこともありえます」
あまりに衝撃過ぎて彼らは絶句した。突然のぬくみ雪。突然の海との連絡断絶。そして、冬眠。ここ数日の中で劇的に状況が悪化していくのを驚くことしかできない。
「マジかよ……。たまに上がってきては酒を飲む仲だったけど、もしかしたらもうあいつらとは飲めねぇってことかよ」
「それもそうだけどさ、俺らはどうなるんだ?」
別の職員が前のめりになって汐帆に言う。世界が寒冷化していくとなると、海の中では暮らせない彼らはどうすればいいのか。おそらく里実の母は特に何も言ってないだろう。それに彼女自身だってこの先どうなるかなんてわかるわけがない。
「わかりません。海村の人たちが冬眠に入ってからすぐに世界は凍えるほどの寒さになるとは思えません。徐々に冷えていって、私たちが死んだ、いくつか後の世代に……」
人類は消える。そう言いたくはなかったがこの中の全員がそう察しただろう。部屋がしんと静まりかえる。お互い顔を見合って首をかしげ、難しい顔をしている。この間を破ったのは聡太郎だった。
「ね、ねえ。何か解決策はないの」
「それは……」
「松茂さんが教えてくれた昔話、あれは何かヒントとかにならないのかな」
その昔話はここに来る前にウロコ様から教えてもらっていた。今起きている現象とまったく同じ状況の時に1人の女性が海に潜った。陸にいる人間たちの思いを聞いて再び人の側に戻った。気候も元通りになった。多分それを話しているのだろう。
「あぁ、あれか。じゃあ誰かが海に潜るのか?」
「潜るったって、結局何処に行くんだよ。潜ったって果那ノ海しかねぇぞ」
「なら、おふねひきしかない」
まわりで様々な意見が飛び交う中、大生の父が口を開く。
「え、でもそれは毎回やってるじゃないですか」
その通りである。今年だって一生懸命になっておじょしさまを作った。それは倉庫で出番待機している。
「そうじゃない。今までのはあくまで
「ちゃんとした……っていうのは」
「つまりだ。今までの木製のおじょしさまだけ立てて船を出すのではなく、実際に誰かがおじょしさまとして立っておふねひきを行う」
「まさに、昔話の通りにやるって訳か」
胞衣を捨てて陸に上がってきた人々が、数々の苦難を海神様の怒りだと思って生け贄を1人流し、怒りを静めようとした。その昔話そのままを再現してみようということだ。
「なら、その生け贄役として誰が立つんだ」
「ああ。そうなると、だな」
「なら、私が」
まわりの職員が腕を組み、考え始める。するとすぐに1人が手を上げる。里実の母だ。
「松茂さん」
「私は元々海の人間ですし、胞衣もあります。何の問題もありません」
「いえ、私がやります!」
右手を胸に添えて里実の母が言う。この中で胞衣を持つ人物であり、流れからしては確かに問題はなかった。ここで待ったをかけるように汐帆が立ち上がる。
「私が、いえ、私にやらさせていただけませんか?」
「でも、汐帆ちゃん……」
「昔話が確かなら、生け贄となったのは1人の少女。もう、私は少女なんて言われる年じゃないけど、この中で最年少は私だから。少しでも昔話に近づけた方がいいんじゃないかと思うの」
汐帆の主張は的を射るものだと感じられた。ゆっくりとではあるが皆が頷き出す。
「で、でも」
「大丈夫だよ、聡太郎さん」
その主張がたとえいい物に聞こえたのだとしても、彼にとってはなかなか頷きがたいものだろう。自分の妻がいきなり生け贄役に名乗り出たとなれば、不安でしかない。汐帆は聡太郎を安心させようと笑って彼の肩に手を置く。
「何がどうなってるのか、みんなわからない。そしてこれから先どうなるのか、も。でも何もせずにその時を迎えるより、少しでも自分らで動かなきゃダメだと思う。それにさ、別に私は海神様に身を捧げるんじゃないよ。私たちは決して海神様を忘れたわけじゃない。海を忘れたわけじゃない。この思いを伝えに行くんだよ。私を捧げられるのは聡太郎さんだけだもん」
「……うん、そうだね」
彼にとっては女神に見えただろう。頬を赤らめるが、すぐに強く頷いた。
「ははっ、まったくよぉ。強い女房を持ったもんだ」
「でも、このままじゃすぐに尻に敷かれてそうだぜ」
漁協職員の言葉で一気に場が和んだ。
「ふふふ、そうね。それに私たちも頑張らなくちゃ。
「……え。あ、いや、そういうことを言ったんじゃなくて!」
里実の母の言葉によりさらに場が和む。漁協職員の笑い声は大きくなり、汐帆は一転して焦り顔と化した。まだまだ年上には勝てそうにないようだ。
この話し合いがあった次の週の始め、海遥たち5人は白風中に登校してきた。案外洋斗が言った案が通ったのだ。たいした言い合いにもならずサラッと受け入れた様子から、こう言い出すのを待ってたかのようにさえ感じた。とにかく、彼らは期限付きで登校できる。それだけでも十分な収穫であった。
彼らが揃って教室に入ってきたときはもうクラス中がスポーツ観戦なみの騒ぎであった。彼らにも既に海村の冬眠、これから訪れる寒冷化についてはなんとなく知っていた。だからこその驚きであった。
「冬眠の日がウロコ様の判断で決まったんだ。だからそれまでは地上に出てこられるんだぜ」
航大がまるで自分の功績のように胸を張って言う。だが陸の彼らにとってはあくまで冬眠の日までしか会えないというのが強く、次第に場が静かになっていった。
「おいおい、シラけさせてどうすんだよ」
海遥が呆れるように手を振る。
「別に俺らが会えるのはその日で最後じゃない。いつかきっと起きてきて、またみんなといられるさ」
海遥のその口調にはクラスの皆が驚く他なかった。例の一件まで相容れようとはしなかった海遥が今日になって急に皆に向かって話す。改心した現場にいた一樹たちでさえ目を見開いたが、すぐに口元が緩む。もう、何も隔てる必要はない、と。
「で、だ。ついでに聞いときたいんだが、冬眠の日はいつだ」
「実は、夏祭り当日なんです」
大塚の問いに答えたのは澄澪だった。これをウロコ様から聞いたとき、奇跡とはこういうことなのかと実感した。
「なるほどな……。ギリギリおふねひきに出られるかくらいだな」
「その日ならぶっちゃけいつでもいいんだろ?ならやってから寝ちまえばいーじゃん」
隆広は右手の人差し指を立てて指さす。彼も一週間ぶりではあるがこういった状況になっていても相変わらずである。
「それに、5人がいてくれないと困るんだよね。今年のおふねひきに関しては」
ここで一樹が発言する。その意味がわからず5人が一斉に一樹の方へ向く。
「困るって……?まさか人数の問題じゃないわよね」
「勿論。実はみんなが上がってくる前にもう冬眠については知らされていたんだ。元海村の人たちに通達があったらしく、それを明かしてくれた」
「え、そんなモンがあったのかよ」
一樹は黙って頷き、話を続ける。
「みんなもこの異常気象には不安がってたみたいだったんだ。それでこの海村の全てが冬眠に入るって知らされた。そしていつか地上は凍り付いていくなんて言われたら、みんなどうすればいいか話し合ったんだ。そんなときに汐帆さんも来て、そんで話が決まったんだ」
「何が、決まったんだ?」
「おふねひきで俺らが作ったおじょしさまと汐帆さんが出ることになった。つまりおじょしさまが2人になるのかな」
「ええ!?」
恐る恐るといった様子で航大が聞くと一樹が答える。それは5人が声を上げて驚くのも無理はないものだった。
「ど、どういう……」
「話の全容は大人たちが知ってんだ。まぁお前らには説明したいのも山々だが、とりあえず授業が間もなく始まる。おふねひきについては後日打ち合わせを行うから、その時にだ」
ここで大塚の発言によって彼らは日常に戻った。数分で間もなく一時限のチャイムが鳴る。その前には生徒全員が席に着くようにしている。渋々といった様子で座るが、そんなことを聞かされたら気になってしまうのが正しい。疑問が脳の大半を占めた。
おふねひきの打ち合わせは次の日の放課後に行われた。これまた場所は漁協だった。とある一室に白風中12人と大塚、漁協メンバー、そして汐帆がいた。
海っ子5人と汐帆が顔を合わせたとき、何だかお互いに恥ずかしがっていた。一週間前までいつかきっと会えるなんて行ってしまった手前、こんなあっさりと再開したとなるとなんともあっけないことだろう。それはともかく、話はすぐに始まった。
「とりあえず話の主要部分はみんな知っているとおり、今年のおふねひきにおじょしさま役として白風中の彼らが作ってくれたものと、池谷さんが行うことになった」
ホワイトボードの前に大生の父が立つ。他は1つに4人ほど並んで座れる長さのテーブルを数個置いて大生の父の話を聞いている。
「それで、何故そういうことになったんですか」
海遥が質問する。
「ああ、そこはみんなには言ってなかった。俺ら漁協メンバーと松茂さん、池谷さんたちと色々話し合った。海村が冬眠に入る、そして地上の異常気象で世界は凍っていく。そんなぶっ飛んだ現実を今後どうしていくか……。無論決定的な解決策なんで出やしなかった。だけど、海の昔話みたいに、こういった状況になったときに1人の少女が海に潜って、人々の思いを伝えたと言われている。知ってるよな」
海っ子が皆頷く。
「そして池谷さんから聞いた、ウロコ様からの話にもあったように、人々が海神様を忘れていっている。祈りがない故に海神様は力を失っている。このことを考えた結果、池谷さんにこの昔話の少女役として、そして俺ら陸の人間と君ら海の人間が揃って立つ。海神様を忘れてはいない、海と陸とで分かち合って生きている、そういった思いを伝えるというイメージだ」
「なるほど。昔話をリバイバルするということですか」
手を膝に乗せたまま沙月が頷く。一度起きたことをもう一度試す。それが彼らが出した答えだった。
「希望論だね」
洋斗だった。右肘をテーブルにつき、右手で口当たりを覆う。
「でもやれることはやってみるべき、ですね」
「うん」
大生の父は強く頷く。
「というわけで、大して難しい内容じゃない。これが最善なのかわからない。それでも未来のために、少しでも行動を起こしたい。当日で海っ子たちは眠ってしまう。もし君らが起きてきたときに、ビックリするくらいに元通りの世界になっていることを臨むよ」
「よっしゃ、いっちょやりますか!」
「お前は調子に乗って1人だけ凍えてろ」
彼らの中に芽生える僅かな希望。それは決して確かなものではない。けれどそれがちゃんと成長して、立派な花を咲かせられるか。きっと彼らは咲かせられると信じている。その希望の笑顔が拡散していく。
相変わらずのお調子者の隆広は一樹のすかさずのツッコミを食らった。この後もおふねひきの打ち合わせは続く。順調に進んでいく話し合いだが、彼らの中にある、純粋な波打つ心はどうやら順調にいくかは怪しかった。