凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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まぁ、大したことないと思われるかもしれないですが、タイトル変わりました。ええ、そこですよそこ。そこが変わりました。何だかんだ調べて、2通りをうまく今後使っていきたいということで、そこが変わりました。え?そうですよ読み方は変わりません。ですが、はいそうです、そこが変わりました。


第二十七話 やっぱり

何気ない日常。日が昇り、鳥たちのさえずりが聞こえる。朝とともに人たちは動き出す。身支度を済ませ、仕事や学校へ向かう。今日も雲は厚く覆っているせいでなんとなく暗い。

 

校門を通る生徒たちは友達と喋っていたり、また1人だったり。元気な顔もいれば毎日の学校生活で眠そうにしていたり様々だ。それらではない、また別の表情を浮かべるのはきっと彼らしかいない。けれど皆に見られ、心配させないようにと作った表情を上塗りする。心の全てがポジティブで埋まるはずがない。

 

「あ、おはよう」

 

教室に入って最初に声をかけてきたのは里実だった。海遥たちは各々挨拶を返す。それに続いて一樹たちとも挨拶を交わした。

 

「いよいよ俺らが地球救っちゃいますかってときにさ。期末試験とか、空気読めよ」

 

「しょーがねーだろ。お前は英雄以前にただの中学生なんだよ」

 

呆れるように手を広げる隆広をさらに呆れた目で見る一樹。

 

「まあ、わかるわ。勉強めんどくさいもんな。やんなっちまうよ」

 

「流石、平均点以下しかとれないやつは言うことが違うねぇ」

 

「うっせ!」

 

航大は隆広に同意するように何度も頷く。その横でニヤニヤしながら皮肉めいたことを言う海遥を睨んだ。

 

「大丈夫だよ、洋斗にたたき込んでもらうから」

 

「え、俺かよ」

 

「いやいやいや、俺も頼むぜ」

 

長年欲しかった物を手に入れるように這い寄ってくる航大と隆広。歪ませた顔をする洋斗が後ずさると、後ろにもう1人いて洋斗の肩に手を置く。

 

「俺も、よろしくな」

 

幹大の満面の笑みを洋斗は死んだ目で見つめる。そんな光景を見て女子たちも笑う。

 

「じゃあ、私は里実ちゃんにお願いしようかな」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「うん、いいよ」

 

澄澪と沙月の頼みの綱は里実しかいなかった。彼女はいやがることなく笑って了承する。その傍らでついに3人が洋斗をつかんで、誰が最初に教えてもらうかというくだらない戦争が始まっていた。今にも死にそうな顔をしている洋斗を海遥たちは笑ってみている。3人にしてはある意味真剣なのだから、余計に面白い。

 

その様子を見てなぜだか、少し表情が曇る沙月。不思議そうに澄澪は顔をかしげた。

 

 

 

期末テストがあるのは来週の月曜日から三日間行われる。そして祭があるのは7月の最終柊の土曜日だ。いつものごとく生徒たちの大半は一週間前から徐々に焦り始めて課題を進め、本番を向かえることとなる。この場合、大抵放課後は帰らずに友達同士で教え合ったりするのだ。塾がそもそも久里ノ上になく、電車で隣町に行かなければならない。そのためのお金があればいいのだが、実際は皆放課後勉強で事済んでいる。

 

チャイムが鳴り、一斉に体の力を抜く。机に突っ伏す生徒が多い中、教室前で待っていた大塚が入ってきて数学担当の喜来と軽く会釈して教卓に立つ。

 

「ほらほら、さっさとホームルーム終わらせるぞ」

 

手をパンパン叩いて皆をなんとか動かそうとする。皆一様に体を起こしてホームルームを始める。といっても特別行事もなくあっという間に終わる。里実の挨拶で放課後へと変わった。当たり前だが、テスト一週間前でも掃除は普通に行われる。いや、なしにしてくれよという皆の声は大塚の耳には入ってないぞ。

 

掃除といっても教室以外にも各々の教室のドアから奥の突き当たりまでの廊下、学年ごとに別々の場所のそうじがある。2年はすぐ側にある階段とこの階にある空き教室、1階の美術室が担当である。列で班を作っているのだが、こういうのをめんどくさがる生徒はつるんでいる人物の班にさりげなく加わったり、そもそもサボることがあるのだ。

 

その例のごとく、隆広は幹大と教室の隅で喋っていた。

 

「おーい、タカボー。サボるなー」

 

「サボってねーよ。何なら、さっき隅をほうきで掃いといたぜ」

 

教室の班にイジられる隆広だったが、貢献したからいいだろとドヤ顔をかます。そしてこの後やった貢献と言えば、机をひとつ元の場所に戻したぐらいだろう。

 

そんな中でも隅澪はせっせとほうきで埃やゴミを掃いて集めていく。そんな姿は男子にも女子にも好印象を与えるには十分だった。

 

「ほら、幹大。あんたも掃除しろし。澄澪ちゃんを見習いなさいよ」

 

「いや、ここまでやってくれるなら俺の出番はないさ」

 

「そう、ならゴミ捨てっていう出番を与えよう」

 

「よっしゃやるかー」

 

途端にこれである。しかしこれにも頷ける部分がある。掃除が終わったあとゴミ箱のゴミは焼却所まで持って行くのだが、その場所が学校の裏からでて少しばかり歩かないと着かないのだ。誰も好き好んで行くようなところではない。普通はジャンケンで負けた人が行く、というのが主流になっている。

 

後ろに下げた机を前に動かして後ろの部分を掃く。使い込まれてボロボロになった座敷ほうきやT字のほうきを使って中心にゴミを集める。女子生徒がちりとりを持ってきて一樹が手早くゴミを移す。

 

「さて、ゴミ捨てだ」

 

「幹大いけよ」

 

「嫌だし。それに俺だってちゃんとやったじゃん」

 

両手を腰に当てて女子生徒は皆を見回す。すぐさま一樹が笑って幹大を指名する。

 

「ジャンケンでいいじゃん」

 

「ま、そうだね」

 

5人が自身の手を握って出す。誰が合わせるという会話もなく、昔からやってきた故に自然とかけ声が掛かって始まる。

 

「じゃーんけーん、ぽい」

 

 

 

 

正面玄関の裏口から出て少し歩く。近くにある倉庫を横切っていくと上へと登る階段が見えてくる。そこを登っていくと焼却炉がある。細長い石が積まれた階段は綺麗に並んでいるが角度はすごく緩やか、というわけではないので登ると少し疲れる。加えて降ったり降らなかったりだがぬくみ雪もあって若干滑りやすい。先生たちが急速で作った"滑りやすいので注意"とかかれた看板が階段近くに設置されている。

 

「よっと」

 

先に辿り着いた一樹が持ってきたゴミ箱をひっくり返して焼却炉にゴミを放り込む。こちらは燃えるゴミだからかいらなくなったプリントや掃除で出た埃が多い。バラバラと音をたてて中に落ちていく。

 

「ほら、もらうよ」

 

「ん、ありがとう」

 

燃えないゴミが入った袋を持った澄澪からもらい受けて、焼却炉の奥にある置き場所に放り投げる。

 

「ここまで来るのめんどくさいよね。もっと近くに作ればいいのに」

 

「はは、それな」

 

澄澪の本音、それはおそらくここの生徒全員が持っているのではないかと思われるそれを聞いて一樹が笑う。でもそれはどこかぎこちなさが残る。

 

澄澪と二人きりというだけで、たかだかゴミを捨てに行くだけで緊張してしまうとは……と自らに呆れる一樹。そして笑いつつ自然と逸らしてしまっていた視線を澄澪に戻すと、

 

「あ」

 

「え?」

 

固まった一樹の視線の先を澄澪も追った。見ると、白い雲で覆われた空の先に僅かな光が差していた。そこから微かに見える青い空を2人はしばらく見ていた。

 

「なんか久しぶりに見たな、青空」

 

「確かにね-。ずっと曇ったり、ぬくみ雪降ってたし」

 

「こう、改めてみるとやっぱり綺麗だよな」

 

「うん」

 

澄澪の横に並んで見ていた一樹は、ずっと空へと向いていた視線を澄澪に向ける。彼女も雲の隙間を眺めている。優しく見守るようなその目は、しかしスッと細くなる。微笑していた口元も、気持ち僅かに小さくなったようだった。それを見て一樹は下を向く。

 

きっと、今も苦しんでいるんだろう。冬眠まで残り一ヶ月もない中、楽しんでみんなと学校生活を送りたい、そう願っているはずなんだ。そのたわいもない日常、度々見かける青い空だって、彼女にとっては大事なんだ。今見ている景色を、空を僕らと同じ時に見ている。そんな当たり前が当たり前じゃなくなるなんて、実感はまだない。そんなことに鳴ってしまったときに、きっと感じたくもない気持ちになるのだろう。でも、

 

「大丈夫だよ」

 

「……え?」

 

「みんな不安だし、わかんないし、どうにもできないけど。それでも、僕らは必ず会えるさ。吉野川さんたちが起きてきたら、みんな笑って出迎えてあげる。絶対だ。それに、僕らの言葉を海神様に届けられたら、世界が凍えることにならないかもしれないんでしょ。なら、今はそれにかけるしかない。信じよう。大丈夫さ」

 

と、今心の中で浮かんできたのをそのまま言葉にして出してしまった。ゆっくりと横を見ると、澄澪は目を丸くしてこちらを見ていた。そして右手を口元にあてるとじわじわときたように笑い始めた。

 

「あ、あれ?なんか、変なこと言ったかな」

 

一樹も焦って頭の後ろをかく。変と言っても、笑う原因となるのは今の発言に他ならない。

 

「ううん、違うの。……やっぱり」

 

かぶりを振って改めて一樹を見る。その表情は先程の悲しむような雰囲気は全くなく、代わりに少し意地悪そうな笑顔を浮かべていた。

 

「やっぱりさ、一樹君って……」

 

その時、一樹の心臓は和太鼓を思いっきり打つような音が鳴った。息が止まり、目は意図せずして見開いている。手は一瞬で硬直して下に下ろしたまま動かせない。足もまたしかり。

 

やっぱり、とは。そういうのであれば、もう前々から何かしら自分のことについて澄澪は何かを感づいていたこととなる。その()()は一樹自身が知りたいことのようで、もう知っていることなのかもしれない。次の言葉が言う間隔は一秒もない。なのに、それが何分も空いている風に感じた。息をのんだ。

 

「すっごく優しいよね」

 

「……ふぇ?」

 

あまりに予想外で変な声が出てしまった。しかし、第一に一樹が変に思い上がっていたのか、期待してしまっていたのか。彼女には結果的に一樹の秘めたる想いは感づかれていなかったようだ。

 

「ここに来てからさ、1回私のエナをみんなが見てたら、こうちゃんが勘違いしたときあったでしょ。その時も出てきてくれて、誤解を解いてくれたよね。それにおじょしさま作りで指切っちゃったときも、みんなに迷惑かけないように隠してたもんね」

 

ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう、一樹は思った。

 

「優しく男の子ならモテるんじゃない?茉紀ちゃんとか里実ちゃんはどうなの?」

 

「え!?い、いや、2人は幼なじみだし」

 

急に振り下ろされる第二撃。無邪気な笑顔で指さされたときは一樹の心臓が止まってしまそうだった。すぐに手を振って弁解する。

 

「ふふふ、冗談冗談。さ、早くいこ」

 

手招きした澄澪は階段を降りていく。一樹も地面に置いたゴミ箱を持って後を追う。

 

彼女の背中が見える。三つ編みにした髪が揺れている。そんな姿を一樹はどう思ったか、言うまでも無い。

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