凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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第三話 もどかしい距離

何のためらいもなく、海に向かって飛び込む。

 

勢いよく入ったため、目の前が泡で埋め尽くされる。だがそれもすぐに無くなり、目の前に果那ノ海の景色が見えてくる。

 

また後ろから音を立てて航大、洋斗、澄澪、沙月と海に入る。

 

 

魚の群れが5人の横を優雅に泳ぐ。

 

5人も足を動かして泳ぎ、待ち合わせ場所のところまで来た。

 

着地し、それぞれの帰路につく。

 

ここで海遥、航大、澄澪と洋斗、沙月に分かれる。

 

お互いに手を振り、「また明日」と声をかわす。

 

 

「えっと……。明日が一年生の入学式で、あさってが五時間授業だっけ?」

 

「確かそうだったな」

 

「澄澪、初回からいきなり教科書忘れんなよ?」

 

「大丈夫だよ!ちゃんと確認するし」

 

「筆箱忘れんなよ?」

 

「そんなに忘れっぽくないよ!」

 

あさってからいよいよ授業が始まる。それにむけて、前から少々忘れ物が多かった澄澪に2人が前もって言っておく。

 

澄澪は海遥が言ったのは大げさだと頬を膨らませるが、下手したらあり得るのだ、筆箱忘れ。

 

 

航大とも別れ、段々となっている町の上の方へ彼女は歩いていく。

 

そのあと少し歩いて、2人が分かれるところまで来たとき、1人の女性の姿があった。

 

「あ、お母さん!」

 

「あら、澄澪。お帰りなさい。海遥君も」

 

「どうも」

 

手に立方体で格子状の箱を持っている女性は澄澪の母だ。彼女と同じ髪色で、腰あたりまである長い髪をうなじあたりから一つで結っている。

 

「あ、そうだ。今から丁度ウロコ様に御霊火もらいに行くところだったの。澄澪、行ってきてくれない?お母さん買い物もあるから」

 

「うん、わかった」

 

御霊火の調達を任された澄澪は海遥と同じ道を歩き始める。

 

海遥の父は宮司なので、ウロコ様のいる神社は彼の家の近くだ。町から少し離れていき、見えてくる石階段を上っていく。草木が多くなり始める。

 

そして海遥の家へと続く分かれ道をそのまま過ぎて神社へと向かう。

 

実は、彼は陸での学校生活のことを報告するよう任されていたのだ。

 

 

再び現れた石階段を上ってやっと渦波神社に着く。見た目は古い木製の神社だ。

 

正面の戸を海遥が両手で開くと、1人の男性が敷物の上で寝っ転がっていた。こちらも腰まである銀髪、赤い菱形麻呂眉にキリッとした目つき。彼がウロコ様だ。

 

遙か昔に亡くなった海神様の"ウロコ"の一部だったらしい。なのでウロコ様。

 

「よう、ウロコ様。来たよ」

 

「どうも、こんにちはウロコ様」

 

「おお、おぬしたちか。よう来たな」

 

ウロコ様は横になったまんま左腕をヒラヒラとさせる。見た目が若い男性なだけあって口調が年寄りなのは変に思えるが、実年齢がぶっ飛んでいるため問題はない。海神のウロコだし。

 

「ウロコ様。御霊火が無くなってしまったので貰いに来ました」

 

澄澪が手に持っていた箱を前に出す。

 

ウロコ様は無言で頭を支えていない左手を挙げ、人差し指を立てる。

 

すると、後ろにある大きな赤い杯に灯っている青い炎から小さな火の玉が出てくる。

 

ウロコ様の人差し指の近くに来ると、スッと箱の方を指さす。それにつられて火の玉も移動し、箱の中に入って収まる。

 

「ありがとうございます!」

 

「うむ。んで、海遥。陸の学校はどうじゃった?」

 

ウロコ様は自分の近くに置いてあった、菓子が沢山入った皿からせんべいをとって食べ始める。

 

 

「ああ、バカばっかりだった」

 

「……ぷっ、ははははは。バカだから学校に行くんじゃないのか?」

 

「頭がいいか悪いかじゃない。野生のチンパンジーの集まりみたいだった。小学生未満だなありゃ」

 

海遥の感想に笑いをこらえきれないウロコ様。さらに海遥は自身が感じたことを述べた。

 

「で、でも!全員がそうじゃなかったよ!」

 

「お前が思い浮かべているのは1人だけだろ」

 

「うぐっ……」

 

海遥の言ったことを澄澪は否定する。が、彼女が考えるバカじゃない人は1人しかいない。故にそれは結局バカばっかりだということだ。

 

 

「……で、他に聞きたいことは?」

 

「いいや、十分じゃ。面倒なことは起こすんじゃないぞ?」

 

「それは航大に言ってくれよ」

 

先程ので満足したウロコ様。せんべいも二袋食べ、お腹いっぱいと言わんばかりに仰向けで寝っ転がった。

 

「いや、お前さんも例外ではないぞ?人間、どうなるかわからんからのぅ」

 

顔は上を向いたまま、横目で海遥を見つめる。その瞳は海遥を見透かしているようだった。

 

「……では、これで」

 

海遥は一旦目を閉じる。そしてすぐに開け、そのまま神社を立ち去る。

 

「え、あ、ありがとうございました!」

 

澄澪は慌ててウロコ様にお辞儀をして外に出て行く。

 

 

「……本当に、たった僅かなことでも、人間は変わるもんじゃよ」

 

そう呟いて、ウロコ様は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ、みはっちゃん」

 

澄澪は一緒に石階段を降りる海遥の顔を見る。

 

「まださ、初日だしさ。これから過ごす間にお友達が増えるって!あんなこと言ってた人たちもさ、話してみると案外いい人だったり……」

 

海遥の機嫌を伺うように、語りかける。

 

「あのさ」

 

突然、海遥は自分の家への分岐道で立ち止まる。澄澪は少し遅れて一歩前あたりで止まり、海遥の方を見ようと振り返る。

 

 

「お前は何がしたい」

 

「ふぎゅうぅぅぅ!」

 

刹那、海遥の両手プレスで澄澪の両ほっぺたを潰すかたちとなった。

 

「別に俺が陸のやつらと仲良くしないからって、お前に害があるわけじゃないだろ。そもそも嫌がらせされた相手に甘過ぎだろ」

 

「ふにゅうぅぅぅーー」

 

今度は両ほっぺたをつかんで横に引っ張る。案外伸びた。

 

「んんんもうっ!……私はただ、みはっちゃんたちと陸のみんなが仲良くなってほしいんだよ。楽しい中学生活を過ごしたい」

 

耐えきれずに海遥の腕を取りはらう。そのまま怒るかと思いきや、少し俯いて、もどかしい表情で彼女の思いが語られる。

 

只願うのは、みんなとの楽しい学生生活。なるべくギクシャクなく笑って過ごす、そんな生活を望んでいた。

 

人差し指同士をつけては離したり、スカートを握ったりする。

 

そんな姿を見た海遥は、視線を左に向ける。そこには果那ノ海の町、上には海と陸の境界線が見えた。

 

「俺は別に、陸の人間を嫌っている訳じゃない」

 

ポツリと出たその言葉に澄澪は顔を上げる。

 

彼の目は、帰り道の時に見たような、寂しそうな目だった。

 

 

 

 

「俺は、陸が嫌いだ」

 

 

 

 

それは只の言葉ではない。様々な思いが、彼にしかわからない思いが入り交じっていた。

 

澄澪は何か言おうと口を開くが、言葉は出ること無く俯く。

 

 

「まぁいいさ。じゃあまた明日」

 

澄澪の頭をポンと触れて海遥は家へと向かっていった。その姿を澄澪はしばらく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日もいつものように集まり、学校へと向かった。今日は入学式だけあって、前日より登校時間は少し遅かった。

 

二年の教室に入ると、皆の視線が集まる。

 

女子組は少し戸惑いながら席に着くが、男子組は終始無視だった。

 

 

時間が来ると大塚先生は廊下に生徒を1列に並べた。海五人組は固まって最後尾に並ぶ。

 

先頭から歩き始めて体育館へと向かう。

 

 

 

 

二年と三年は事前に置かれたパイプ椅子に座り、一年が入場すると拍手をし始める。半数以上がめんどくさそうにするが。

 

一年生27人はそんな中を歩き、パイプ椅子に座る。後方に座る保護者たちは我が子の写真やビデオを撮るのに必死だ。

 

 

それからは校長の話など式が進み、一時間くらいで終わった。

 

一年が退場して、それから保護者が退場する。

 

その後は残りのみんなでパイプ椅子を片づける。面倒でフリだけする生徒も少しいた。

 

 

 

 

 

片付けも終わり、教室に戻ってホームルームを行う。明日の授業について軽く説明をして、里実の号令で挨拶をして解散となった。

 

各々席を立ち、下駄箱へ向かう。

 

靴を履き替え5人が正面玄関を出ると、校門付近から数人の生徒の会話が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームルームが終了し、一樹は直ぐさま席を立つ。バッグを肩にかけ、ドアへと向かう。

 

途中、チラリと横目で澄澪の方を見た。隣に座る沙月と会話しつつ帰り支度をしていた。

 

すぐに目線を前に戻して教室を出る。

 

廊下を早歩きで通り、階段を降りて下駄箱につく。履き替えていると横から声がかかる。

 

「よ、帰ろうぜ」

 

声の主は大生だった。

 

「いいぜ」

 

「で、なんでそんなに早足なの……。あ、さては」

 

「そうだよ。あいつに終わったら早く校門前に来てって言われてさ。待たせるとギャーギャーうるさいし」

 

一樹は若干早歩きで大生と一緒に玄関を出る。

 

今日の会う人物に対しての愚痴をこぼしながら、グラウンドの横を通りつつ校門へ向かう。

 

 

「あ、来た来た!おーい、一樹!大生!」

 

目の前から、一樹の名前を呼ぶ声が聞こえる。クリーム色のショートカット、白風中の制服を身につけた女子生徒が手を振っていた。

 

「おう。今日からお前も中学生か、茉紀」

 

「へへへ。あとさ、あとさ!どうよ、この制服姿。似合っとるかい?」

 

笑顔をこぼしながら、大山茉紀(おおやままき)は初々しい制服を見せびらかす。クルッと一回転して、スカートがフワッと舞う。

 

「まあまあじゃね」

 

「ちょ、一樹。絶対適当だろそれ!……あ、もう中学入ったし、里浦先輩って呼んだ方がいいかな?」

 

制服の評価を適当に流されたことに少し腹を立てるが、あざとい仕草で一樹への呼び方を変えてみる。

 

「いやいや、違和感しかないから。今までのがいいわ」

 

 

「あれ、茉紀ちゃんだー!」

 

後ろから茉紀の名前を呼ばれる。振り返ると、里実がこちらへと駆けてくる。

 

「おお、里実ちゃん!」

 

「入学おめでとう。制服、似合ってるよ」

 

「へへ、ありがとう」

 

里実に褒められ、茉紀は笑顔がこぼれる。

 

「なんだか、この面子で揃うの懐かしいな」

 

「だな」

 

不意に出た大生の言葉。一樹も同感だった。

 

 

彼ら4人は昔からの付き合い。幼なじみだ。

 

いつも4人で遊んでいた。一緒に登校したり、放課後一緒に帰ったり。時には山に行ったり、海ではしゃいだり、など。

 

茉紀も中学に上がり、こうやって再び共に学生生活を過ごせることに、彼らは自然と安心感を覚えた。

 

 

会話が盛りあがっていると、彼らの横を海5人組が通り過ぎる。

 

それを茉紀の目にとまる。見慣れない制服の生徒が学校から出てきたのだ。それに、海からの転校生と知らないので余計に気になった。

 

「ねえ、あの人たちは?」

 

「え、ああ。昨日果那ノ海から転校してきたんだ」

 

「ええ!そ、それって海の人ってこと?!すごいね」

 

彼らが海の人間だと知って、茉紀は目を大きくして驚く。

 

陸の学校に海の人間がいることはそうないので、珍しい光景だろう。

 

「ねえねえ。あの人たちってどんな感じ?なんか話した?」

 

茉紀が好奇心で一樹たちに問いかける。

 

が、一樹と里実は微妙な、苦笑いを浮かべたまま答えない。その意図がわからない茉紀に、大生が口を開く。

 

「初日から撫養たちがからかいはじめてな。なんとかそこは海のやつの一人のおかげでおさまったけど。そのせいで微妙な距離感になってる」

 

「そうなんだよなぁ。……なんで馬鹿にするようなこと言うんだろ。別に、海も陸も同じ人間なのにな」

 

どんどん小さくなっていく海5人を背中を、一樹は見つめる。

 

一樹は彼らとの距離を少し悲しく感じる。それが、彼の瞳からも見て取れる。

 

「ふーん……」

 

茉紀はあの姿と、一樹の方を交互に見た。




これでストックつきました(早い)
もしかしたら次回からこの日に出せないかもしれませんが、頑張ってなるべく投稿できるようにします。
なんたって、凪あすの放送が始まった時間帯だからね(TOKYO MX、他)
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