凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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第三十八話 降り積もった時。止まってしまった時。

時というのは人によって感じ方が違う。ある一日は短く感じた人もいれば、長く感じた人もいる。

 

しかし時はどっちにしろ、流れていくのだ。日が昇り、いつかは沈んで夜が来る。月は現れてもいつかは消えて、再び日が昇る。小さい頃から知っているその循環は止まることはない。一日一日が繰り返され、時を刻んでいく。その中で人は身体的にも精神的にも成長していく。1年前と比べて着る服のサイズが変わったり、食べる量が変わったり。学生なら学ぶ難易度が変わったり、時期的には進学もする。考え方ももしかした変わっているかもしれない。

 

つまり、時は止まらない。それによって人も止まらず、人それぞれのペースで進んでいく。

 

しかし、これは全員が体験するわけではないのだが、時が止まることがある。それは上記のことをいきなり否定するわけではない。無論、時は進んでいる。日が永遠に昇っているわけではない。しかしながら、止まるのだ。それは、()()()()()

 

 

 

 

 

 

日本にある海村14箇所すべてが冬眠に入っている。そしてどこかから誰か目覚めたという報告もない。政府は14箇所全てが冬眠に入った年からこのまか不思議な現象の調査に乗り出したのだが、海村の近くで交流があった地域すべてから、調査拒否の言葉がでた。それはいうまでもなく、眠っている彼らを起こさないでほしい、そっとしておいてほしいというものだった。

 

しかしそれで簡単に終わるはずがなかった。

 

その14箇所の中で特に注目を浴びていたのが果那ノ海だった。それは当然、彼らの冬眠と同時に氷山が現れたのだから。これは果那ノ海だけ。その異常現象の中の異常現象に専門家はこぞって久里ノ上へと足を伸ばした。

 

当然久里ノ上の皆はどかどかと部外者が入ってきて調査やらなんやら始められても、いい気分がするはずがない。彼らは、あの日の惨劇をこの目で見てしまったのだから……。

 

しばらく双方の対立があった。しかし専門家たちが久里ノ上で連日の調査のためと言って近くの宿を無償か低料金で部屋を貸せという、明らかな暴挙などが多数寄せられ、このままいけば裁判沙汰になるところまでいった。それだけは避けたいと、苦い顔をして彼らは退去していった。そして今後そういったものがないように、ここ久里ノ上へと辿り着くための大きな橋の通行を規制したのだ。この方法が功を奏したのか、これ以降無遠慮な専門家などは近寄ってこなくなった。

 

テレビでは連日それらについての報道はあった。久里ノ上でも度々上空からヘリコプターが飛んでいたのを住人が目撃している。そして誰もが、それをいい目で見てはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おふねひきから、もう5年が経っていた。しかしそれを感じさせるように、いくつかの店が潰れ、いくつかの世帯が引っ越したり、そして"おふねひき"自体も行われなくなった。それは確かに、死人まで出かかった災害になってしまったのだから行われなくなるのも当然だろう。しかし、あくまでその言い分は表向きだ。彼らの本音はきっと、もう見たくないのだろう。あの光景を、あの悲劇を、あの悲鳴を、あの涙を、あの海を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澄んだ空の下で1台のトラックが橋の上を爽快に駆け抜けていく。エンジン音を響かせながら道路を蹴るスピードは風を切るほど。

 

もう年月が経ったために規制はもうない。しかし元々ここの通りが少ないため、そして久里ノ上の過疎が徐々に進んでいるために今日もガラガラに空いている。

 

運転手は慣れた手つきでハンドルを操作して橋を降りて一般車道へと移る。開けた窓から入ってくる風は、やはり7月下旬とは思えない冷たさだ。鎌で肌を撫でられるような心地で運転手はぶるっと体を震わせる。

 

トラックがついに辿り着いたのは一件の店。古びた看板は5年前よりかはペンキがはげてしまっているが、文字はちゃんと読める。緑の横長の看板に書かれた白の文字は"スーパー・マツシゲ"とある。

 

閑散とした場所にトラックが来たとなれば、ひときわエンジン音が目立つ。故に店の人が気づくのは当然だった。

 

「あ、どうもお疲れ様です」

 

店からひとりの女性が顔を出す。長い髪を後ろでひとつに結んだ彼女は大人びた様子だが、自然に出る笑みがなんとも可愛らしい。そんな彼女でもここの店長をしているのだから驚きだ。

 

「どうも。仕入れ品ですよ……委員長」

 

「え、あ、隆広君!?」

 

目を丸くして口元を手で隠す彼女、里実の前に現れたのは隆広だった。彼は5年前と比べて身長もかなり伸びた。里実と同じくらいだったのだが、今では10センチほど違う。

 

「へへ、やっとこっちの担当を任されたんだよね。ここの出身ってのも理由のひとつだし」

 

「やったじゃん!最近隆広君見てなかったから何か新鮮だな」

 

へへへ、と隆広はでこをかきながら照れ笑いをする。

 

「最初は大変だったけど、もう慣れてきたんだ。そんで、早くここの担当になりたかった」

 

「……うん」

 

隆広は照れ笑いから徐々に微笑へと変わっていく。そして合わせたわけでもなく、2人してとある方向を向く。海風がそれとなく流れてくる、凪いだ海の方へ。

 

静かな間を置いてから、里実が口を開く。

 

「実はね、今週末に返ってくるんだよ、あの2人が」

 

「マジ!?あいつらひっさしぶりだわ。俺も休みだから戻ってくるよ」

 

「うん、待ってる」

 

隆広はぱあっと広がるような笑顔を見せて頷いた。里実はニッと笑ってから、2人で協力して商品を下ろし始める。その途中から汐帆も参加した。久しぶりに見る隆広をひとしきりなで回していた。恥ずかしがる隆広を見て里実と汐帆は笑っていた。

 

それでも、こんな在り来たりな光景があっても、止まっている。時は、彼らの中で。あの日のあの夜、あの瞬間から、ずっと。




早速アニメ二期部分に相当する場面に入ったのですが、私情により月一投稿になっていく予定です……。もしかしたらそれすらできない日があるかも
やらなくてはいけないこと、やりたくないのにやらざるをえないこと。人生は物語のように修正はできないですからしょうがないです
とりあえず今日は凪あすの世界に入り浸って、4周年タグツイートのリツイート嵐です笑
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