凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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第七話 それぞれの休日②

休日はあっという間に過ぎていくもので。最初の三連休が終わって、月曜の平常授業がやってきた。

 

今日を乗り越えればまた三連休がやって来るので、さほど生徒の心のダメージは大きくなかった。

 

 

「……ん。……ちゃん。さっちゃん!」

 

「ふぇ?!」

 

すぐ近くから聞こえてきた声に驚き、沙月は変な声が出た。

 

「さっちゃん大丈夫?朝からボーッとしてるけど」

 

「え……うん。大丈夫だよ。何でもないよ」

 

澄澪を安心させるように、ジェスチャーで大丈夫アピールをする。が、その表情はどこか曇っていて、無理をしているようにも見えた。

 

 

 

「なあ、どうだった?漁業レッスンは」

 

隆広が興味津々で幹大に問いかける。3人は教室の後ろの黒板のところに寄りかかっている。

 

「どうって……。そりゃ大変でしたよ。ええ、大変大変。お前らが暢気に休日満喫してるときによ」

 

「はは、スマンな」

 

あの三日間のことを思い出し、幹大は苦行で苦しむような顔でジェスチャーをして大変さを表した。それに苦笑いの一樹。

 

「まったく……。俺も平凡な家に生まれたかったよ」

 

「んー、でもさ。漁師ってのもカッコイイと思うけどな。ここらじゃ漁業がメインみたいなもんだしさ、頑張って久里ノ上ナンバーワン漁師にでもなれば?」

 

「何だよそれ。まぁ、結局は俺と兄貴が継いでいかなくちゃいけないし、やるしかないんだけどね」

 

幹大は腕を頭の後ろにまわる。なんだかんだ言って彼は漁師の仕事を嫌っているわけではないのだ。

 

それに、ナンバーワンがどうたらこうたらで彼の表情が少し晴れたので、わかりやすいやつだと一樹は思った。負けず嫌いのところは昔からだ。

 

 

 

 

この日の授業も終わり、生徒は直ぐさま教室を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、連休初日にさ、一樹と大生でお昼食べてたでしょ」

 

茉紀は一樹に少し不機嫌そうに事実確認をする。

 

「え、そうだけど……。なんで知ってんの?」

 

「お昼頃、お母さんが買い物から帰ってお昼作るまで暇だったから、外出てたの。その時2人が店に入っていくのが見えたの」

 

「そうなんだ」

 

「へー」

 

2人はそんなことがあったんだな、はい終わりのようなテンションで適当に返す。

 

「……いやいや、違うでしょ。私も誘ってくれればいいのに!」

 

茉紀は頬を膨らまして腕を組む。自分だけが仲間はずれにされたようで少し怒っているようだ。

 

「いや、別にお前をハブったわけじゃねぇし。それに、里実とか同じクラスの女子とか誘うもんだと思ってた」

 

「私はお店の当番あったからなぁ……。なんかごめんね」

 

一樹の中では男子は男子で、女子は女子で飯に行くものだと形成されていた。こうやって一緒に帰宅してるが、少し違う。

 

「いや、里実は謝らなくてもいいんだって……。あ、今思い出したけどさ、その後すぐに転校してきたって言う海村の人、女の子も見つけたよ」

 

茉紀はふと思い出したようで、話題を変えた。

 

「見つけたって、俺らが店に入っていくときってこと?」

 

「そう、確かボブカットの子。急いでたって感じでさ」

 

転校してきた5人の中でボブカットの女子は、沙月しかいない。

 

「方向的に、病院の方だったかな」

 

この町では唯一の病院だ。それなりに大きく、設備も整っている。陸の人間は勿論のこと、海の人間も診察や入院もしている。

 

 

そういえば、今朝から沙月の様子が変だった。なにか心配しているような、そんな感じだったと里実は思い出す。

 

「沙月ちゃんの家族かが入院しているのかな」

 

「そうかもしれないな」

 

一樹も少し顔を俯かせながら言う。

 

「病院の方向とはいえ、もしかしたら違うかもしれないしね。誤解したまんま変に優しくするのもあれだし、気になるなら聞いてみた方がいいと思う」

 

大生はちゃんと考えて言葉を言う性格だ。変なことを言って場を壊すようなことは滅多にしない。というか、少なくともこの3人は見たことがない。

 

今のも里実と沙月、両者どちらかが不快にならないよう正面から考えて出した言葉だろう。

 

うん、そうだねと里実は返した。

 

連休が終わったら聞いてみようかと考えた。いきなり今日電話で聞くのはちょっと抵抗を感じた。

 

今度は自分から行くんだ。自分から歩み寄って、海のみんなに少しでも慣れていってほしい。そんな願望が里実の中で強くあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうして?なんでそこにいるの?』『みんな揃ってそこに行くんだ。楽しい?』『陸の人と仲良くなって、いいね。お母さん嬉しいよ』『いつも通りの生活を過ごしていくんだね。』『お父さんと仲良くやっていくんだね』『羨ましいよ。本当なら私もそこにいるはずだったのに』『でも、もうそこにはいない』『永遠に戻れない。だから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『私たちを忘れていくんだね』』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っぁぁあああ!!」

 

勢いよく起き上がる。息がしづらい。心臓もバクバク音をたてている。大したことはしていない。ただ寝て起きただけなのに、夢の内容でこんなに辛いものになるのかと思う。夢なのに、たかが夢なのに、どうしてだか涙が出そうになる。

 

少しして呼吸が楽になってきた。つるしていた糸が切れたように再び布団に倒れる。左横を見ると、目覚まし時計が9時を示していた。

 

「起きるか」

 

海遥は再び眠りに落ちれないと確信して、布団から出た。

 

 

 

 

 

 

 

父親は朝から出かけているらしい。家にはおらず、代わりに朝作ってくれた目玉焼きとブロッコリーを茹でたものが皿にのせられ、ラップがかけてあった。

 

ラップを取り、買っておいたロールパンを袋から出して口に運ぶ。

 

 

『いつも通りの生活を過ごしていくんだね』

 

 

パンを持った手が止まる。

 

先程見た夢の言葉が、頭に浮かんでくる。それは波紋のように簡単に消えてくれるものではないようだ。

 

「また、見ちゃったな」

 

手を動かして口にパンをつっこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日で三連休最終日。明日から授業が始まり、夏休みまでこれといった祝日はない。

 

皿を洗い、歯磨き等も済ませて自室に戻る。広いというわけではないが、布団を敷いてもある程度余裕があるので海遥に不満はない。

 

小学校に入る前に買ってくれた勉強机。棚には学校の教科書や、小学校の卒業アルバムなんてものもある。そして昨日やっていた宿題のワークと、スケッチブックが机の端に置いてある。

 

 

海遥の趣味に風景画がある。

 

小学校の時にやった授業で、学校にあるうんていやジャングルジム、ブランコなどのスケッチをするというものがあった。そこで"絵を描く"というものにハマった、と記憶している。

 

澄澪も絵を描くことに興味があったようなので、休日に二人で果那ノ海の様々な建物や木々などを描いていた。そして描いたものを見せ合っていたのが懐かしい思い出だ。

 

昨日は果那ノ海の町並みを鉛筆で描いていた。渦波神社の近くの場所に、一望できるところがあるのだ。

 

今日は残った宿題を片づけなくてはいけない。椅子に座ってワークを開こうとしたとき、家のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ホント助かるぜ」

 

「みはっちゃんがいれば百人力だね」

 

場所は少し移って茶の間。海遥の目の前には私服姿の航大と澄澪が座って各々の宿題を出している。いわゆる「宿題終わらないから手伝ってくれ」ってやつだ。

 

「百人力って……。洋斗の方が勉強できるだろ」

 

「いや、最初は洋斗んとこ行ったんだけどさ。あいつは午前からカテキョーと勉強してたから無理だった」

 

「さっちゃんも誘おうってなったんだけど、さっちゃんも朝からお見舞いがあるからって」

 

「あぁ、そうなんだ……」

 

結局この2人が行き着いた先がここだったようだ。別に海遥はそれなりに勉強はできるほうであり、用事はないので一日教師を承諾した。

 

 

 

 

「……んで、ここでこの公式を使って……」

 

「なるほど」

 

 

「このときはこの求め方を使うんだ」

 

「ほうほう」

 

 

「海遥」「みはっちゃん」

 

「お、おう……」

 

進まねぇ!と叫びたかった。

 

ただでさえ勉強を()()()()()()()とする航大と澄澪を、2人を同時に見るのはやはり一筋縄ではいかないようだ。

 

教えつつ自分の宿題も終わらせようだなんてことを考えた自分を止めたい気持ちになった。

 

これこそ猫の手も借りたいものだが、この場で教えられるのは自分しかいない。海遥は再び教師の仮面を被る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく進め、2人の宿題もそろそろ終わる頃になった。

 

「……?どうしたの、じーっと見て」

 

シャーペンを止め、視線を感じた澄澪は顔を上げる。海遥は右手で頬杖しながら澄澪を見ていたのだ。自身の宿題はもう終わっていた。

 

「んー?んー……。そこ、問3間違ってるなーって」

 

「え?……あ!本当だ。ということは問4も違うじゃん」

 

問いかけられた海遥は何だかボーッとした様子で少し唸り、澄澪のケアレスミスを指摘した。

 

「ハハハ。さっすが澄澪。いつもどっかしら間違えるよな」

 

「お前もそこ、スペルミスしてんぞ」

 

「ぬわんだってぇ?!」

 

2人揃ってミスするので、裏で合わせてんじゃねぇのかと思うほどだった。普段からこういう抜けているところが、テストで泣く結果を生むのだと実感した瞬間でもあった。

 

「よし、これで終わりだ」

 

「やっと終わったよ-!みはっちゃんにはホント感謝だよ」

 

航大はワークを勢いよく閉じ、澄澪は腕を上げて伸びる。

 

自分のだけなら30分ほどで終わるはずだったが……と無意味なことを海遥は考え、机に突っ伏す。

 

「さてと……。そろそろ時間もアレだし、海遥の手料理でも食ってくか!」

 

「それさんせーい!」

 

「おい、テメェら……」

 

時刻は正午前。勉強で消費したエネルギーを補えと言わんばかりに航大と澄澪のお腹が鳴った。

 

「お前らに勉強教えて、さらに昼飯食わせろと?」

 

「ま、まあその通りだけどさ?ついでだよ、ついで。久しぶりに海遥の手料理食べたいしさ」

 

「そうそう!みはっちゃんの料理美味しいし、また食べたいなって思ってたの。だからお願い!」

 

去年だかに2人に加えて洋斗と沙月、そして5人の面倒を見てくれてきた汐帆に手料理をふるまった時があった。その時はオムライスを作ってみたのだが、それはもう大絶賛。

 

みんな笑顔で食べてくれたので、海遥はこのときばかりは喜んだ。

 

 

2人の熱い眼差しに負け、「わかったよ。作ってやんよ」とこれまた了承した。

 

「「やったー!」」

 

小学生さながらの喜び方ではあったが、彼らが笑顔になってくれるのであれば海遥はそれで充分なのだ。

 

「ちょっと待ってろ……。今回は今あるので出来るのは焼きそばだけど、いいか?」

 

「もちろん!」

 

「お願いします!」

 

冷蔵庫や棚でメニューを決定し、お客様からのOKも頂いた。後は、普段からやっている料理テクニックで焼きそばを作るのみだ。

 

 

 

 

2人は海遥の焼きそばの美味さを新たに覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たよ、おばあちゃん」

 

沙月は病室のドアを開け、真っ先に自分の祖母のところへ駆け寄った。

 

「あらあら、今日も来てくれたのかい。毎日じゃなくてもいいんだよ?」

 

「そんなこと言わないでよ。私が来たいから来てるの。着替え、ここに入れとくね」

 

ベッド近くの収納棚に持ってきた着替えを入れる。

 

 

祖母が倒れたのは最初の三連休の始めだった。

 

北島家総出でいそいで病院に行った。症状は比較的重くは無かったが、検査等のために入院している。

 

それから毎日欠かさず沙月はこの病院を訪れている。おばあちゃんが心配なのだ。彼女はおばあちゃんが大好きだから。

 

「まったく……。この頃は体が言うこと聞かなくてねぇ。そろそろ限界が来たのかねぇ」

 

「もう、大丈夫だって!医師の人も問題はないって言ってたし。それに、良くなったら今年のお祭り行こうって約束したじゃん」

 

花瓶の水を替えて、一目散にベッド横の椅子に座って手を握る。祖母が嘆くのを沙月は必死に励ます。

 

「そうだったねぇ。ごめんごめん。……だけんど、人間どうなるかわからんしねぇ」

 

握ってくれた手を握り返す。けれどその力は以前よりも小さくなっていると、感覚で気づいてしまう。

 

目線を窓に向け、広々とした青空を眺める。その目には何が映っているのか、何を考えているのか。沙月は寂しそうな、悲しそうな表情をうかべる。

 

「……ああ、そういえば。おばあちゃん、死ぬ前に沙月の旦那さんくらいは見ておきたいなぁ」

 

「ええ?!」

 

視線を沙月に戻し、祖母が全く考えていなかったことを口にする。先程の沙月の表情は何処かへ飛んでいき、一気に顔が赤くなる。

 

「い、いいきなり何言っとんの!」

 

「だってさぁ。いつかは結婚するんじゃろ?」

 

「なっ!いやいや、まだ中学生だし!」

 

「中学生は関係ないじゃろ。それにここはそんなに男は多くないから、モタモタしてると都会に行っちまったり、他の子に取られちまうよぉ」

 

先程までの様子とは大違いである。孫娘の結婚事情にかなりの興味があるようで、沙月はずっと赤くなった顔で祖母と荒い言葉のキャッチボールを繰り広げる。

 

でも、勿論これは祖母が自分のことが大好きだからこそ、心配しているのだとわかっている。

 

 

だから、私もちゃんと正直に答えないとね。

 

 

 

「そうそう、最近は陸の学校に通ってるんだろう?そこにいい男はいないのかい?それとも海の方でもう決めてる人がいるのかい?」

 

「う……。えっと、一応……いるよ。好きな人」

 

その途端だった。まるで雲の隙間から太陽の光が一気に差し込んでくるような、そんな表情の変化が祖母にあった。

 

「そうかい!そうかい!そりゃ嬉しいねぇ。早く連れてきてほしいよ」

 

「で、でも!まだ告白……とか、してないし」

 

「そうなのかい?なら今すぐにでもババッとしてこいさ。その人は他に好きな子とか、付き合ってる子はいないんだろ?」

 

「え、うん。……いないと思う」

 

なら大丈夫さ、と祖母は笑顔で答える。先程の憂鬱な雰囲気はどこに行ってしまったのかと本当に思う。

 

けれど、こんなに笑ってくれる、そんな姿を見ると沙月もなんだか心が安らぐ。

 

「うん。わかってる。いつか必ず、伝えるよ」

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