凪のあすから おもいのカケラ   作:柊羽(復帰中)

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久しぶりにこの時間に投稿できた


第八話 ナンバーワンじゃなくても

あっという間にゴールデンウィークは終わり、いつもの平日が顔を出す。

 

もう少しだけでいい、あと一日くらい休日を……、なんて思いながら連休明けに登校してくる生徒が大勢いた。顔を見れば一発でわかる。

 

当然宿題をやってこなかった生徒もいた。対応は先生で様々だが、国語の宿題を忘れた生徒は、やってこなかった宿題に加えて追加の問題を出されるという、大塚スペシャルを食らった。

 

勿論、隆広もその一人だった。

 

 

そして、次に待っていることといえば、中間テストである。

 

期末よりは教科も少なく、範囲も大して広くない。のだが、みんながみんなオール満点をたたき出せるわけではない。

 

十分理解している生徒が理解していない生徒を教える。自然とこれはクラスの中で形になっていた。

 

今までほぼ同じメンバーと小学校時代から過ごしてきた。お互いをよく知って理解しているのだ。

 

けれど、今年はまた違う展開になっている。教えてほしいという生徒の何人かが洋斗のところに集まっていた。

 

 

 

 

洋斗は勉強ができる。頭がいいのだ。このクラスで頭のいい生徒は里実の他数人だったが、彼らより上の可能性があった。

 

それが明白となったのは、先日の数学での授業でのこと。

 

いつも通り内容を進める喜来先生だったが、これまたいつも通り洋斗は夢の中であった。

 

今までは特に起こしたり注意したりはなかったのだが、その日は先生の気まぐれか、洋斗を起こしたのだ。

 

「ほらほら、二軒屋君。起きて授業受けないとね」

 

そんなことされるのは初めてだったので、洋斗自身も若干驚いた顔だった。そして……。

 

「じゃあ、目覚ましにあれ、解いてみようか」

 

起きたことを確認した先生は、黒板の方を見て指さした。

 

そこには、数学の問題が一つ書いてある。それも難問で、みんなわからず項垂れていた。

 

――――うわぁ、タイミング悪い……。

 

周りの生徒は難問をさりげなく回されてしまった洋斗に同情しつつ、彼に当たってくれたことに嬉しさもあった。

 

 

起きたばかりの目は少しの間、問題を見つめる。

 

そして席を立ち、ツカツカと黒板のところまで来る。ここで一旦は悩むけど、白旗を挙げるのだろうと思っていた。

 

 

が、白旗ではなく白いチョークを持ったかと思うと、黒板に数式を書き出した。

 

何の抵抗もなく、スラスラと答を導き出していく。その間、生徒たちは今までに使ったことのある方程式が出て、ここでこう使うんだなと納得はするが、こういう発想は出てこねぇよと諦めさえ浮かんできた。

 

そんなことを考えているうちに、洋斗は解き終えてチョークを置く。そのままツカツカと自席に戻る。

 

「せ、正解だよ。え、よくわかったね」

 

まさか正解するなどと思っていなかったのだろう。先生の顔はいつものニコニコが消え、まさに驚き一色だった。

 

「……簡単」

 

そう言い残して、再び夢の世界にログインしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れた」

 

むしろいつ疲れていない姿があろうかとツッコミを入れたいが、それを我慢する一行。

 

明日から試験だということもあって、大体の授業が自習だった。その時間ずっと洋斗は慣れない様子で他の生徒に教えていた。

 

「我らが洋斗センセ-は凄いなぁ。何人も相手して」

 

「ひろちゃん、大人気だったね」

 

今日の洋斗の活躍っぷりを見て、自分のことのように嬉しがる航大と澄澪。

 

「俺はこういうの苦手なんだよ」

 

「いいじゃん。将来にむけてのコミュ力向上も兼ねてるんだから」

 

「あ、なるほど。それは大事だね」

 

海遥のある意味正論のいじりに沙月が乗っかる。

 

洋斗は終始ムスッとした顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中間試験は終わり、ひとまず試験という重荷から解放された。

 

 

「ねえねえ、どうだった?」

 

「最後の問題わかんなかったなー」

 

今日最後に行った科目の話をする生徒。

 

 

「二年の初っぱなからマズったかもなー」

 

「おいおい大丈夫かよ」

 

最初のテストから失敗して嘆く生徒。

 

 

「いよっしゃぁ!次からの体育はサッカーだ!」

 

「いやー、楽しみだね。幹大は特にこれにこだわってたしね」

 

最早テストなど無かったかの様に、体育の話になる生徒。

 

などなど、である。

 

幹大たちが待ち望んでいたサッカーは、他の男子たちも楽しみにしていた。

 

この地で小さい頃から遊んでいたものと言えば大体サッカーが最初に来るほどだった。

 

ボールと場所があれば、最悪二人でも楽しめる。女子にも小さい頃からやっていた子がいるので、全員一致の低評価ではない。

 

 

 

「サッカーか。久しぶりだな」

 

先生がホームルームをする中、航大が小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっしゃぁ!今日からサッカーだ!」

 

「昨日も同じようなこと言ってたよな」

 

この日は快晴。程よい気候となって、彼らが望んでいた絶好のコンディションだ。

 

「はいはい、落ち着けお前ら。んでだ、まず準備体操してから男女それぞれでチームをわけろ。6人一チームになるように。男子の方は6と7かな」

 

阿波先生の指示で体育が始まる。

 

準備体操が終わって、男女でチーム分けが始まった。ここでは一番サッカーができる者が2人出てきて、一人ずつ選んでいくという方法が使われた。

 

女子の方では海の2人が打ち解けているので問題なかったのだが、男子の方では未だ壁が完全に取り外されていないので、海3人組が仲良く残った。

 

「んー、どうするか……」

 

代表の1人である幹大は頭を掻きながら悩む。

 

陸のメンバーならどのくらい上手いかなど知っているが、3人に関しては全く知らない。まさに未知数なのだ。

 

さらに1人余るので、どっちに入れた方がいいのか等考えなくてはいけないので、少々めんどくさかった。

 

後でまた変えればいいかと思い、適当に組もうと幹大が指示を出そうとしたとき、

 

「めんどくさいから、グッパーで分けようぜ。グーなら幹大の方に、パーなら俺の方に」

 

代表のもう1人、一樹が口を開いた。その案に納得して、3人で握り拳を出す。

 

 

結果、幹大の方に洋斗が行き、一樹の方に航大と海遥が行くということになった。

 

 

「チームは決まったね?それじゃまずチームごとにパス練習などしよう。少ししたら、10分の試合をやろうか」

 

先生が倉庫から出してきたサビついたボールケースの蓋が開かれた。全員がそこに集まり、ボールを出して2人一組のペアを作る。男子は一つだけ3人ペアだ。

 

先生が幹大と一緒に見本を見せた。足のどこでボールを蹴るかなど大きい声で説明し、各チームで練習が始まった。

 

 

「……!」

 

洋斗には幹大がついていた。彼なりに説明通りのキックをしてみるが、狙った方向になかなか飛ばないでいた。

 

「そうそう、そんな感じ。あとはもう少し強くていいよ」

 

少し変に飛んでも一樹は動いてボールを止め、アドバイスを出していた。そして綺麗なパスを繰り出す。

 

 

 

一樹のチームの、海2人は黙々とパスを続けていた。

 

「ホント、久しぶりだよな。サッカーやるの」

 

航大は慣れた感じでパスを出す。

 

「まぁ、そうだったかもね」

 

海遥は航大の言葉に曖昧な返事を付けて、パスを返した。

 

航大は笑っているようにも、でもやはりもどかしそうな表情を浮かべた。

 

 

 

「それじゃ、10分間。試合開始!」

 

セットされたタイマーのボタンを先生が押した。機械音のブザーが鳴り、男女の試合が同時に開始された。

 

 

「うおりゃー!」

 

気合いの入った声と共に、澄澪が思いっきりボールを蹴ろうとするのだが、見事に空振りに終わる。

 

周りから笑いがこぼれつつ、女子の方はキャッキャしながら試合と言うよりボールの蹴り合いを楽しんでいた。

 

 

男子の方は、どこか緩さがあるがきっちりとした試合をしていた。

 

じゃんけんでボールを獲得した幹大チームからスタートした。

 

主に上手い人間同士がパスし合い、攻めていく。そして幹大がパスを受け取り、いきなりシュートをしてゴールネットを揺らした。

 

「よっしゃ、まず1点」

 

幹大はガッツポーズをしつつ、自陣に戻る。

 

「やっぱ上手いなぁ、幹大のやつ」

 

あっぱれという気持ちで一樹は試合再開する。

 

こちらもパスをつなげていくが、いいところでパスカットされる。そしてそれが幹大にわたり、豪快なミドルシュートを放った。

 

綺麗な直線で、上のポストギリギリでボールは入った。

 

「2点目!」

 

「うわぁ、ヤバすぎ」

 

ここで一樹がキーパーと交代する。他にもサッカーができる生徒がいるので、彼らに攻めを任した。

 

試合再開。ここでもボールの奪い合いになるが、なんとか一樹チームが突破する。が、ボールをここで取られ、それが洋斗にまわってくる。

 

他の仲間にこっちにパスだ、と手を上げているのを見つけてパスを出すが、うまく蹴れず逆に一樹チームに取られた。そのままキーパーの足下をくぐり抜けてゴールを入れられた。

 

「ドンマイドンマイ」

 

洋斗にそう声をかけて幹大はボールを中央に持っていく。

 

 

 

 

本当に、未だどこかで引っかかっている。

 

長距離走の時、洋斗に後ろからぶつかって倒してしまった。それについてまだちゃんと謝ってもいなかった。

 

結局自分が求めていた一位になれず、それどころか怪我をさせてしまった。

 

自分がクラスのナンバーワンになりたい、この気持ちでやってきたのだが、現状はほど遠いと幹大自身は思っていた。

 

だからその罪滅ぼしのように、洋斗に積極的に話しかけていた。勿論洋斗がどう思っているかなんてわからないが、こうしなくてはなんだか気が済まなかった。

 

再びボールを蹴り、幹大チームが攻め込む。ここでも幹大中心で攻め、パスを幹大がもらった。

 

その時、目の前に海遥が立ちはだかる。

 

――――蔵本か。悪いがここは突破……。

 

幹大がそのまま避けようとするが、海遥もなんなく動いて幹大の通り道を塞ぐ。すぐに動いて突破しようとするが、反応してきて出来ない。

 

それどころが、スキをつかれてボールを取られた。

 

「マジかよ!」

 

そのまま駆け出し、幹大チームをスイスイ避けていく。ゴール直前来てキーパーが構えるが、ここで蹴るフリをして横にパス。

 

その先にはさりげなく走り込んできた航大がいた。そこ勢いでこれまた豪快なシュートを繰り出す。

 

気持ちいくらいの音でボールはキーパーの手をはじいてゴールする。

 

「おっしゃぁ!ナイス海遥」

 

入った瞬間、航大は満面の笑み浮かべ、海遥とハイタッチをする。

 

 

「え……すげぇ」

 

「あいつらサッカーもできるのかよ」

 

男子一同驚いていた。

 

 

 

 

その後も航大&海遥のコンビで攻め、ゴールを決めていた。一樹チームが逆転したのだ。

 

幹大はまたもや焦り始める。

 

また、あいつらに負けるのか、と。海遥ならまだしも、長距離でも負けた航大にサッカーでも負けるのはどうしても幹大は避けたかった。

 

サッカーでは負けたくない、これだけでもナンバーワンを勝ち取りたい。

 

その気持ちで残り数分を全力で臨んだ。

 

 

「!」

 

パスをもらった航大のところに幹大が防ぎに行く。他の仲間もフォローに行き、航大をガードする。

 

それでも航大は海遥にパスをする。それを見逃さず、海遥に渡る直前でカットする。

 

そのままシュート。ここは惜しくもゴールポストに当たってしまった。

 

「くそっ」

 

いいシュートだったと思っていたので、外したのが悔しかった。けれど、どうしてか幹大自身でもわからないが、そこに嬉しさがあった。

 

今まで自分の思うままに進まないと気が済まなかった、気にくわなかった。そんれなのに……。

 

 

ゲーム再開。ボールは一樹チームでパスをまわし、海遥に渡る。

 

――――させるか!

 

幹大がすぐさま防御に向かうが、その前に隆広にボールを渡した。海遥は幹大を抜かし、再びそこでボールを受け取る。

 

「くそ……!」

 

追いかけるも間に合わず、海遥のシュートは見事にゴールの上の角あたりに入っていった。

 

「ナイス、海遥」

 

航大が駆け寄り海遥の肩を叩く。海遥は大して嬉しさは顔に表れていないようだ。

 

すぐにボールを戻し、再開する。そのまま幹大は敵陣地に攻め込む。

 

今度は航大が目の前に立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、やっぱ男子はサッカー好きだね」

 

「ホントそれな。私たちはもう疲れちゃったよ」

 

女子の方は、もう既にプレイヤーというより観戦客と言うべきだろう。サッカーコートの真ん中あたりに集まり、座ったり立ったり個人の好きなままにして、男子の試合を見ていた。

 

「見てるとさ、上手い人って本当に上手いよね。ボールさばきって言うか」

 

「わかる。って、幹大また抜かれてんじゃん。一番得意とか言ってたのに」

 

幹大が一樹チームに抜かされ、それを追いかける。航大に渡るが、惜しくもシュートはポストに嫌われた。

 

「あー惜しい。てかさ、あの2人サッカーも上手いんだね」

 

「相変わらず二軒屋君はコートの端に立ってるだけだけどね」

 

「ハハハ……、洋斗はしょうがないよ」

 

改めて彼女らの『海の人間=陸の運動は苦手』説が打ち壊された。先日、海の男子たちは陸でも遊んでいたと知ったので、サッカーも出来ることにはすぐに理解した。

 

ただ苦手ということもあり、洋斗は案の定の事実上不参加に沙月は苦笑いする。

 

「でもさ、撫養君楽しそうだね」

 

不意に、澄澪が言う。男子はほとんど楽しそうにしているので、それを今更言うことに少し疑問を持つ。

 

「今までみはっちゃんとこうちゃんと対立してたって言うか、あんまり関わらないようにしてた感じだったけど、今はまさに友達って感じ」

 

「……ああ」

 

ひたすらに男子の方に目を向けている澄澪は、笑顔だった。まるで子を見る親の様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか、楽しいんだ。

 

俺は、楽しいんだ。俺以上に上手いやつと戦うのが。

 

 

幹大はとうとう自分自身に気がついた。

 

先程から感じる違和感。今までは感じることさえもしなかった気持ち。それをやっと、南京錠を外して開いたのだ。

 

ナンバーワンになりたい。これはもしかしたら違うのかもしれない。そんなこと以上に、自分と同等、あるいは上の人と何かを楽しみ、勝負する。

 

これこそが自分が、心の奥底で必死に叫んでいた自分が求めていた答だった。

 

いちいち突っかからなくてよかったのだ。自分より上がいてもいいじゃないか。

 

何でもかんでも、ナンバーワンにならなくてもいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

結果、一樹チームが勝った。

 

10分がなんだか長く感じたようにも、短く感じたようにもした。けれど、たった練習試合が幹大を新しくした。

 

そのうち気づいたものかもしれない。何か考えさせる機会が訪れたのかもしれないが、早く気づけたのなら問題はない。

 

 

水飲み休憩に入り、航大と海遥が揃って向かっていると、後ろから幹大が2人の肩に腕を回してきた。

 

「いやー、お前らサッカー強いな。ビックリだわ」

 

彼ら相手にいつもの友達感覚で話しかける。今まで一回も無かったその行動に幹大自身さえ多少の抵抗感があったが、もう行っちゃえという勢いに任せた。

 

「いや、お前こそ上手いじゃねーか。かわしきれなかったもん」

 

海遥は真顔だったが、航大はにぱっと笑顔になった。

 

どうやら、もうこの間に壁はなくなったようだ。

 

 

 

 

 

「二軒屋、長距離走の時は悪かったな」

 

同じく水を飲んでいた洋斗に話しかける。

 

「もう今更気にしてねぇよ」

 

特に不機嫌になることもなく、手で軽くジェスチャーをした。

 

これで、幹大のモヤモヤは全てとれた。心も、今日の天気も晴れだ。気持ちいい他ない。

 

休憩も終わり、チーム替えをして授業の終わりまでサッカーを楽しんだ。




初期案では幹大は狭山あたりの、そんなに深掘りせず出していくポジションでしたが、気づいたら色々設定を組み込んでました(笑)
次回からちゃんとメインキャラを動かし、今のところほんの少ししか出せてない恋模様も出していくよう頑張ります
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