魔法少女まどか☆マギカ×Fate   作:くまー

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文字数が少ない?
キノセイダヨ……

※11/25 おまけの中身が説明不足過ぎたので追記。



まどマギ×Fate 16

「魔法少女は魔女になる」

「僕らの使命はその際に生じるエネルギーを回収する事さ」

「それは宇宙の存続のために使われる」

「彼女たちのおかげで、終焉は先延ばしに出来るんだ」

「長期的に見て利があるのは瞭然だろう」

「もちろん簡単に死なれてはエネルギーも回収できないから、魔法少女に相応しい改造を施させてもらう」

「……どうやら理解してくれたようだね。魔術師は理解が早くて助かるよ」

「それで、だ」

「ここからは忠告だよ。マジカルルビー、衛宮士郎」

「魔法少女に関わらない方が良い」

「これは君たちの事を想って言っているんだ」

「今までに魔法少女を研究しようとして返り討ちに遭った魔術師は数多くいるからね」

「早い話が死体を隠蔽するこっちの身にもなってほしいってことさ」

 

 

 

「それじゃあね。この忠告が無駄にならない事を祈るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ まどマギ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の見滝原市。

 彩るは人工の輝き。

 途切れることの無い人の英知の結晶。

 それはさながら夜の闇に散りばめられた宝石の様。

 その煌きを。

 ルビーと衛宮士郎は雑居ビルの屋上から見下ろしていた。

 

「……どこまでが本当の事だと思いますか?」

 

 眼下の光が目まぐるしくその光彩を変え。

 夜の闇が一層濃くなり。

 体温を夜風が奪って。

 要はそれくらいの時間を費やして。

 静寂を先に破ったのはルビーだった。

 

「……ほぼ本当だろうな」 

 

 感情の見えない言葉を士郎は口にした。冷静に、客観的に、私情を排した声だった。

 

「目的の真偽は不明だけど、犠牲になる点では嘘を吐く意味がない」

 

 キュゥべぇの目的は宇宙の存続。その為には第二次性徴期の少女の感情エネルギーが必要。

 例えキュゥベェの目的が嘘であったとしても、第二次性徴期の少女たち――マミや杏子やさやか――が犠牲になるという結果に変わりはない。

 

「……まぁ、そうですよね」

 

 ルビーも返答内容に期待はしていなかったらしく、あっさりと士郎の言葉に同意した。

 

「キュゥべぇさんの言葉……憎たらしいほどに筋が通っていますからねぇ」

「正直に話したところで俺たちには何もできないと踏んでいるんだろうな」

「ヘタに本当の事を話したところで信じられる内容じゃありませんし……仮に皆が信じたとしても――――」

「単純に魔女化を促進する結果になるだけだな」

 

 自分がやがて、それも遠くない未来に終焉を迎えると聞いて、その話を肯定的に捉えることが出来る人物はそうはいない。ましてや多感な第二次性徴期の少女たちとくれば、その結果は言葉にするまでも無いだろう。

 或いは。焦ってルビーたちが真実を伝えることで、皆の魔女化を促進させることがキュゥべぇの目的かもしれない。わざわざ現れてご丁寧に説明をしてくれた辺り、その思惑の可能性は高いだろう。思惑通りにならなくとも余計な手出しを控えさせるよう牽制にはなる。

 

「……私たちでどうにかするしかない、ってことですね」

「現状の情報で判断するならそうなるな」

 

 無論この2人がその思惑通りに事を運ばせる気は一切無いわけなのだが。

 

「士郎さん、何か良い手は無いですかね?」

「……そう簡単には出てこないな」

「ワンステップで契約破棄する手とか」

「そんな便利手段あったらこんな悩んで――――あ、いや、ちょっと待った」

「え、ウソ、マジ?」

 

 予想だにしていない展開にルビーの声が色めき立つ。士郎は士郎で己の記憶を穿り返す様に米神のあたりを叩いた。

 

「……手なら知っている」

「お!」

「ルールブレイカー、って名前の契約破りの短剣だ」

 

 聖杯戦争。まだ士郎が高校生だったころに巻き込まれた、七人のマスターと七体のサーヴァントによる殺し合い。

 その殺し合いの参加者の中に、契約を破る術を持ったサーヴァントが居た。

 キャスター。

 生前は裏切りの魔女と呼ばれた、魔術師のサーヴァント。

 

「確か一刺しで契約を破棄された。使ったところを見たのは2回。多分、アレなら契約を破棄できる」

「やるじゃないですか! 何だこれで解決ですねっ!」

「ただ問題点が2つある」

 

 まぁそう上手くは行かないですよね。水を差す士郎の言葉にルビーは溜息を吐きつつ耳を傾けた。

 

「まず一つ。希望通りに作動するかは分からない」

 

 それはそうだ。ルビーは思った。魔術の体系が違うのだ。トンデモ技術で彼女たちは魔法少女に造り変えられているのであり、その魔術体系に沿っているわけではない此方の魔術が正常に作用する保証は無い。

 

「うーん、彼女たちで実験する訳にはいかないですしねぇ……」

「そうだな。……気は向かないが魔女に使用して試すしかないな」

 

 魔女の正体を知った今、士郎の案を採択することに抵抗感はある。

 元は人間だった少女の成れの果てを実験体としてみなせるか。

 試した結果もしも元に戻せなかったらどうするのか。

 だがそれは言っても仕方が無い事でもある。

 

「で、もう一つの問題点は?」

 

 やるしかない。が、それを言葉にせずルビーは話の続きを促した。

 

「ルールブレイカーは今の俺じゃ用意できない」

「それって問題点じゃなくて致命傷ですよ」

 

 参った。思わずルビーは天を仰いだ。今までの話の前振りは何だったのか。この話の流れなら用意できることが前提じゃないのか。

 まさかの話の根本から揺るがしかねない爆弾発言に、ルビーの意識は珍しく遠のきかけていた。

 

「士郎さん、なんて事を言うんですか! そこはお得意の投影魔術で何とかしてくださいよーっ!!!」

「いや、そう言われても……俺はその時ルールブレイカーを解析できていなくて……」

「はぁぁん!? じゃあ何で効能を知っているんですか!?」

「言っただろ。2回見た、って」

 

 正確には1回は自身のみで経験して、もう1件は傍から見ていただけなのだが。

 無論そんな細かいところはどうでも良い事なので口にはしない。

 

「何ですか……何なんですか、この上げて突き落とすスタイル。士郎さんってそんなドSでしたっけ……」

「ルビーが勝手に舞い上がっただけだろう」

「いや、そーですけどぉ……」

 

 よよよ、と。そんな擬音が付きそうな様相でルビーは力なく地面に落ちた。そして涙を流しながら羽で地面を叩く。今日のルビーはリアクションがやたらとオーバーであるが、此処に至るまでの話の流れをを考えると致し方ない。

 

「そう言うルビーは何か案は無いのか?」

「出てこないから困っているんですよぅ」

 

 普段は突飛で珍妙でトンデモな残念発言が多い彼女だが、人工精霊を謳うだけあって頭脳の回転は人の域を凌駕する。その彼女にして案が出てこないのだから、事態はやはりそう易々と解決できるものではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ、ルビー。お迎えにキタヨー」

「もう、ルビーったら遅いんだから……って、あれ?」

 

 結局のところ案は出てこない。

 冷たい夜風に晒されて大分身体も冷えてきて。

 時計の針もそろそろ夜も濃くなる時間を指して。

 全く状況が進展していないまま時間だけが過ぎて。

 互いにただ息を吐き出すだけの存在と成り果てて。

 そんな2人――と言うよりはルビーに声がかかる。

 振り向けば少女が2人。

 鹿目まどかと美樹さやか。

 

「あれれ、士郎さん?」

「こんばんわ、士郎さん」

「ああ、2人ともこんばんわ」

 

 悩みがある事など微塵も見せずに、何時もと変わらぬ調子で士郎は2人に挨拶を返した。感情と思考を切り離して行動できるのは彼の強みの一つである。

 他愛もない挨拶を交わしながら、士郎はさやかが本当に魔法少女となってしまった事を実感した。最後に会った時とは異なり、目の前の少女からは魔力が溢れ出ている。加えてこのビルの屋上まで跳んでくる身体能力。既に人間とは一線を画した存在になってしまった事は疑いようがない。

 

「ルビーと士郎さんが夜景を眺めている……?」

「あれー、士郎さんってルビーを捕まえに来たんじゃないんですか?」

「その予定だったけど……一旦中止。別に優先しなきゃいけない案件が出来たんだ」

「あらら、ルビーとしてはラッキーだったり?」

「いーえ、そうでもないですねー、一時的に手を組んでいるようなもんですから」

「あー、昨日の敵は今日の友みたいな?」

「さやかさんみたいな美少女ならともかく、こんなガタイの良い男が味方になっても全く嬉しくないですけどね!」

「戯け」

 

 士郎はルビーの会話に合わせながら、静かに憂いの息を吐き出した。中々絵になっている辺り、彼が苦労性であることが良く分かる一コマである。

 

「まぁ、何にせよコイツとは協力している状態だ。連れて帰るかは……一先ず保留ってころだな」

「うわー、大変ですね……あ、宜しければその案件とやらを手伝いましょうか?」

 

 色々とお世話になりましたし!

 自信満々にさやかはそう言った。その発言の裏には、自身が魔法少女になった事による高揚感があるのは想像に難くない。或いは無邪気な子供のように、得た力を振るえる環境を求めているのだろう。

 

「さやかさんったらやる気満々ですね、私との契約には不満たらたらだったのに」

「うーん、まぁ、ちょっとねー……」

「はいはい良いですよーだ。私にはまどかさんとほむらさんと杏子さんがいますもーん」

「まどかは良いとしても、後ろの2人は絶対違うと思う」

「えー? そんなことないですよねー、まどかさん?」

「てぃひひ……」

 

 困ったようにまどかが笑う。呆れたようにさやかが溜息を吐く。ルビーは意図して空気を読まずに振る舞う。

 その様子を一歩引いた位置で士郎は観察していた。気心の知れた者同士の会話。ルビーの築き上げた確かな関係性がそこにはあった。魔法少女などと言う血腥い世界とは無縁であるべき光景だった。

 

「……気持ちだけありがたく貰っておくよ。それより、そろそろ帰った方が良い」

「ん? 何かあるんですか?」

「2人とも学校があるだろう」

「あ”っ」

 

 きっと本気で忘れていたのだろう。さやかの顔がみるみる険しくなる。

 

「そう言えば明日の数学は確か小テストだもんね」

 

 まどかは困ったように頬を掻いて追い打ちを喰らわす。忘れていた現実にさやかは暫しフリーズする。魔法少女の世界を知っても、まだ彼女たちは日常と非日常の間に居た。日常の事で悩むことが出来ていた。

 

「ヤバい、完全に忘れてた」

「それじゃあ帰りましょー、さやかさんにはじっくりたっぷり洗いざらい私を選ばなかった理由を吐き出してもらいますからねー」

「てぃひひ……士郎さん、さようなら」

「さよーならー……」

「士郎さーん、2人は任せて下さい。そっちは任せましたんで」

 

 三者三様の別れの言葉を残し、2人と1本は夜の見滝原市の空を跳ぶ。それは傍から見れば幻想的な光景に映っただろう。だが士郎はそんな能天気に感動を享受できるような立場には居ない。居れない。

 士郎は彼女たちの姿が夜の闇に溶けるまで見送ると、静かに息を吐き出した。そして思考に耽るのを抑えて口を開く。

 

 

 

「……何か用か?」

 

 

 

 その言葉は決して大きな声量では無かった。

 息を吐く様な、そんな自然な、空気に溶ける様な声だった。

 声の方向も眼下の街並みに向けてだった。

 呟くよりは大きかったけれども、大差はなかった。

 

 だけど。

 

 士郎の背後で。

 空気が揺らいだ。

 それは気づかれることを想定していなかったのが分かる、稚拙な反応だった。年相応の反応だった。

 

「……どこまで知ったの?」

「ある程度は」

 

 問いかけに最低限の言葉で返す。それから身体を反転させて、相手の方へと向き直る。

 夜の暗闇に溶ける様に。彼女はいた。注視しなくては見過ごすような、第一印象からは大きく異なる儚げな様相だった。

 士郎は気付かれぬ様に、細く、長く、暗闇に紛れる様に息を吐き出した。

 

「それで……何の用だい、暁美さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね、さやかちゃん。今日はありがとう」

「はっはっは、気にしなさんな。これも正義の味方の役目ってことだしねっ!」

 

 いつになくハイになっておられるなぁ、と。普段の自分の振る舞いを棚に上げてルビーは思った。さやかは普段から活発な少女ではあるが、今の彼女はその普段の状態を振り切っている。それが魔法少女となった事によるものであることは誰が見ても分かる事だ。

 流石に友人の家の前で魔法少女の格好をしている事は恥ずかしいのか、学校帰りの制服姿にさやかは戻している。こうして見ると、溢れ出る魔力以外は全く普段の彼女とは変わらない。閉じていた魔力回路をこじ開けたのかは不明だが、キュゥべぇの言う通り魔法少女として改造を施されたのは瞭然だ。

 

「じゃあ、私は帰るね。まどか、また明日!」

「うん、バイバイ、さやかちゃん」

 

 手を振りながら。さやかは駆けた。そして裏路地に入る。一拍の間を置いて、青い光が一瞬裏路地から零れた。そして暗闇に紛れる様にして影が跳んだ。

 その一連の流れをルビーは確と捉える。

 

「……じゃあ、戻りましょうか、まどかさん」

「うん」

 

 柄を消して、羽を消して。ルビーはまどかの鞄の中に入る。まどかはルビーが入ったのを確認してから、家の中に入った。

 鞄の中で揺られながら、ルビーが考えるのはたった一つ。

 一体どうすれば彼女たちを魔法少女としなくて済むのか。

 残念ながら契約の塗り替えは出来なかった。それは図らずとも杏子やほむらと一方的に契約をしたことで判明した事実。ルビーとの契約では、キュゥべぇの契約を上塗りすることは出来なかったのだ。

 

「……だとすると、気は進みませんが士郎さんと契約するしかないですかねぇ」

 

 ルビーに出来るのは契約を行う事だけ。高度な魔術技術により制作されたとは言え、ルビーはあくまでも媒体である。ルビー単体では出来る事は限られている。

 ならば、この状況を打開できる可能性があるのは誰か。ルビーがコンタクトを取れ、そして彼女に協力してくれそうな人物は誰か。

 それこそ衛宮士郎しかいない。状況を理解していて、協力してくれて、尚且つ能力もある事を考えると、一番可能性があるのは彼だけだ。

 

「契約の破棄、か」

 

 契約して、平行世界の士郎自身からルールブレイカーを調達して、以後使えるようにする。そうすれば問題点その一はクリアしたも同然だ。

 問題点その二である通用するかどうかは実施してみないと分からないが、可能性の話をするならば彼に頼らざるを得ない。寧ろお誂え向きだ。此処までくると元凶であるゼルレッチは何処までを見据えていたのか。恐ろしいほどの人員配置である。

 問題があるとすれば、

 

「はぁ、男と契約するなんて絶対嫌だ……」

「どうしたの、ルビー? さっきからブツブツ独り言を言って」

「乙女の純情と純白がせめぎ合っているだけですー」

「? ええと、ゴメンね、考え事している時に」

「いえいえ、お構いなくー……」

 

 男の手に、それも筋肉質な野郎のゴツイ手に。自らの身体を委ねなければならない屈辱と言ったら何とも言いようが無い。この身は全世界の愛らしい乙女の手に握られる為にあって、野郎なんぞに触らせるつもりは一切無いのだ。……そんなルビーの信念を曲げざるを得ないほどに、状況は切迫しているとも言えるのだが。

 

「ホンットに、あンのケモノめ……」

「ルビー、お風呂行ってくるね」

「行ってらっしゃーい」

 

 まどかが視界から消え、足音が一階に降りたところでルビーは盛大に溜息を吐き出した。幸せが逃げる? 知った事か。

 とりあえずは今日の夜。まどかが寝静まった後にでも士郎と連絡を取り、契約をする方向で事を進めなくてはならない。気は全く進まないが仕方が無い。

 

「キュゥべぇさんもそうですけど、あンのクソジジィ……」

 

 きっと世界のどこかで。アイツは高笑いしているに違いない。今の自分たちの現状を観察して楽しんでいるに違いない。何せゼルレッチが観測した平行世界は強制的に事実として扱われるのだ。全てがゼルレッチの掌の上で進行している事を考えると、彼を毛嫌いしているルビーの身からすれば文句の十や二十くらい言いたくなると言うものである。

 

 

 

「……あり?」

 

 

 

 ふと。

 ルビーは思った。

 ゼルレッチが観測した平行世界は強制的に事実として扱われる。

 だから彼が観測をする時は、介入してより良い結果に導く時だけ。

 故に滅多なことでは彼は観測を行わない。

 その彼が観測を行っている。

 それは、つまり。

 ゼルレッチが観測を行わなければならない何かがあると言う事で。

 

「……何か、見落としている?」

 

 あの人格破綻者が、たかだか才能のある少女たちを救う為に観測を行うだろうか。

 あの人格破綻者が、たかだか地球外生命体の思惑を潰す為に観測を行うだろうか。

 あの人格破綻者が、わざわざ自らの息のかかった者を派遣し観測を行う意味は何か。

 

「……何を見落としている?」

 

 ひどく嫌な予感をルビーは覚えた。

 だがその正体を知ることは叶わない。

 言葉に出来ない不安が渦巻くだけ。

 聡明な彼女でも拭うことは出来ない。

 まるで深い霧の中を。一寸先は崖かもしれない道を歩くような。

 そんな。不安。

 

「いったい、何を……?」

 

 曖昧模糊。

 五里霧中。

 今のルビーでは。

 自らを悩ますその原因を突き止めることは、叶わない。

 

 

 




おまけ

※さやかが魔法少女になった事が判明した後。


 酷い現実だ。
 そう杏子は思った。
 また一人、奇跡を願った。
 その先にどんな未来が待っているかも知らずに。

「なぁ、ほむら」
「……」
「アイツ、何で魔法少女になっちまったんだろうな」
「……」
「アタシには……理解できねぇよ……」

 隣にて佇む少女に向けて、杏子は力なく自身の胸の内を吐露した。眼下にて何も知らずにはしゃいでいる少女を見て、言葉にし難い遣る瀬無さに彼女は襲われていた。理解が出来ないと言い換えても良かった。
 そうとも。何故恵まれている身の者がわざわざその幸せを手放す真似をしたのか。何故自分から報われない生き方を選んだのか。何故人として生きる道を止めたのか。
 何も知らないならまだしも、既に此方の世界の事は知っている筈なのに、だ。

「……私も、同じよ」
「……」
「……どうして……かしらね」

 杏子からはほむらの表情は見えなかった。彼女は手すりの上に立ち、少女たちを見下ろしていた。そしてわざわざ見上げてまでその表情を知ろうとは杏子は思わなかった。

「……帰るぜ」

 一足先に、そう言って杏子はその場を後にする。
 ほむらの返事を待つつもりは無かった。
 聞こえているかの確認もしなかった。
 ほむらへも、そして少女たちへも視線を向ける事はなかった。

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