魔法少女まどか☆マギカ×Fate   作:くまー

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今更ですけど、作中の時間経過については、まどマギまとめwikiのタイムテーブルを参考にしています。
ちょっと時間がずれている事に関しては……その、ほら、本編とは違う平行世界って事で大目に見て下さい。


まどマギ×Fate 17

 美樹さやかが魔法少女になって5日が経過した。

 魔法少女たちの生活は、表向きは何も変わらない。

 魔女退治をする巴マミにパートナーが出来た。

 ただ、それだけ。

 

 

 

 チャイムが授業の終わりを告げる。

 号令を終え、俄かに騒がしくなる教室。

 本日のカリキュラムはHRも含めて全て終了した。つまりは、放課後。

 仲の良い者同士で話をする者、家路に急ぐ者、隣のクラスに向かう者……

 生徒それぞれが行動をする中、暁美ほむらは静かに席を立った。

 もう彼女は身支度を整え終わっている。つまりは後は帰るだけだ。

 喧騒に紛れる様に己の存在感を希薄化し、溢れる人の流れに乗る様にして彼女は廊下に出ようとして、

 

「待ってよ、ほむら」

 

 手を掴まれる。

 驚きは無い。しかし驚いたような表情を作って、ほむらは振り向いた。

 

「……何の用かしら」

 

 声の主が誰であるかは聞いた時から分かっている。ついでに言えば、ここまで軽々と人のパーソナルスペースに入ってこれる人物は、彼女の特殊な事情を以てしても一人くらいしか思い浮かばない。

 事実、予想通りの人物がほむらの目の前にはいた。

 

「……色々とさ、話したいことがあるんだよね」

 

 同世代よりも高めの身長。短めに切り揃えられた水色の髪。金色の髪留め。

 そして眼。くっきりとした、意志の強さが伺える、その眼。不退転の意志が込められているのが良く分かる眼だ。

 くいっ、と。声の主は、親指を上へと向けた。

 

「屋上。ちょっとツラ貸してよ」

「……さやかちゃん。だからその言い方は違うって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ まどマギ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ、眠い。まどか、助けて」

「大丈夫。眠いのは私も同じ。頑張って」

「……」

 

 いつかの日と同じように。

 屋上に設置されたベンチに座ると、さやかは力尽きたようにまどかにもたれかかる。そんな親友を適当にあしらいながら、まどかは口を開いた。

 

「いきなりでごめんね、ほむらちゃん。その……ちょっとお話がしたくて……」

「そうそう、そうだよ。ここのところずっとご無沙汰じゃん?」

「……そうかしら? 昨日も話はしたと思うけど」

「いやいやいや、挨拶だけじゃん。それも朝だけ」

 

 ガシガシガシ。己の頭を掻き乱しながら、さやかは言いにくそうに口を開いた。口調こそは言いにくそうだが、言葉はハッキリしている。そこに好意的な響きが含まれていないのは明らかだった。

 さやかに追随するように、まどかも口を開いた。尤もまどかはさやかほどハッキリとした口調ではない。遠回しに、なるたけ優しい言葉を選んで口にした。

 

「あのね、ほむらちゃん。ここずっと、私たち挨拶以外していないなぁ、って思って」

「お早う、くらいだね。一昨日は、さよなら、もあったかな。ホントは昨日の内に話をしたかったんだけど……さ……」

「ちょっとね、都合がね……」

「知っているわ、魔女退治でしょう?」

 

 その言葉に。顔を上げた2人が見たのは、ほむらの苦笑いを浮かべた表情だった。目を細め、口元を隠した、笑うと言う表現にはやや足りぬその顔。或いは――――無理矢理に作っていると言う表現がよく似合う顔だった。

 隠さなくとも知っている。

 そう言いたげにほむらは自身のロングヘアーをかき上げた。

 

「巴マミと一緒に魔女退治をしているのは知っているわ。昨日は工業地帯の方面だったかしら」

 

 まるで他人事のように。そうほむらは言い放った。ほむらはまどかたちが何をしているのか知っている。知っていて、しかしそれ以上踏み込もうとはしていなかった。

 それは言外に、彼女がまどかたちに協力しない事を示す、そんな言葉だった。

 

「美樹さやか。貴女が巴マミに師事しているのは知っているわ。彼女は経験豊富だから、判断は間違っていないと思う」

 

 ほむらはそう言った。その眼は透き通ったガラス球に様に感情が一切見られなかった。さやかを見ている筈なのに見ていなかった。さやかではなく別の物を見ているようだった。或いは――もしかしたら何も見ていないのかもしれなかった。

 

「……そう、知っているんだ」

 

 反射的だった。意図するよりも早く、口が動いていた。

 ガシガシガシ。さやかは再び自身の頭を掻き回した。丁寧にセットされたであろう髪が、乱暴に乱雑に掻き乱される。そして空いているもう片方の手は、自身のスカートをこれでもかと強く握りしめていた。

 

「あのさ……ほむらはさ……やっぱり私が魔法少女になる事は反対だったの?」

 

 絞り出す様に。さやかは言葉を発した。彼女なりに考えて口に出した言葉だった。

 

「あの日から……全然私たち話さなくなったよね」

 

 言葉を発してから、マズッた、とさやかは思った。本当はこんな会話をするつもりではなかったからだ。

 だがその実直さこそ、さやかの悪癖でもあり美徳でもある。

 仕方が無い、と瞬時に組み立てていた筋書きを破棄すると、大きくさやかは息を吐き出した。隣でまどかが顔を強張らせている。目が作戦と違うよ、と訴えている。が、元より無理のあったのだ。まどかやルビーなら兎も角、さやかは本心を隠して演技をできる程器用ではない。

 要は不可抗力なのだ。

 本当に致し方が無いのだ。

 そして出してしまった言葉は戻らないのだ。

 

「ほむらの目的って、何?」

 

 仮面を脱ぎ捨てる。装着してからここまで10分。寧ろ良くそれだけ被っていられたと、さやかは教室から此処に至るまでの自身を振り返ってそう思った。

 スイッチを切り替えるように。さやかは自身の頬を強く叩いた。気持ちいい音が屋上に鳴り響く。そこに居たのは頬を赤く染めた、いつも通りの美樹さやかだった。素直で、実直で、短気で、感情のままに振る舞う美樹さやかだった。

 

「……それを知って、どうするつもりかしら」

 

 ほむらは空気を読まずに、そう言葉にした。勿論、あえて読んでいないのは明白だった。

 髪をかき上げ、或いは挑発するように、彼女は己の視線をさやかの視線に絡ませた。

 

「私の目的と貴女の目的は違うわ。知ったところで意味は為さないと思うけど」

「……そのさ、私はみんなとは違う、仲間外れだ、って考えが気に喰わないんだよね」

「……ほむらちゃん。私も同じ考えだよ」

 

 2対1。この場には3人しかいないのだから、2つに分けるなら必然的に割合はそうなる。

 一瞬。本当に一瞬だけ、ほむらは表情を強張らせ、

 

「……私の目的は『魔法少女を増やさない』……これでいいかしら」

 

 2人の意見に同調するように、ほむらは己の目的を口にした。

 ……何故に言い出しっぺのさやかではなく、まどかの発言に返す様な発言をしたのか。勿論、その意味が分からぬ程さやかは愚鈍ではない。つまりは今のほむらの発言は、これまでのさやかの質問への回答の総合である。

 ――――なんだ、そう言う事か。

 少し抜けていて、常識知らずで、ちょっとは可愛げがあって、友達になれたと思っていたのに。

 友達だと思っていた筈の相手の本心に、さやかは奇妙な納得を覚えた。それは過程や経緯をすっ飛ばした理解だった。

 同時に、心から温度が奪われる。ポッカリと穴が空いたかの様な虚無感。ただただ冷たくなっていく。

 

「そっ、か。そう言う事か、ほむら」

「さやかちゃん……?」

「……」

「アンタはさ……私たちが魔法少女にならないために友達になった……そういう事だったんだね」

 

 ――――そう……いう事だったんだ。

 口にしたことで、余計にさやかはその意味を自覚する。考えを強固なものにしてしまう。

 隣でまどかが何かを言っている。

 きっと言葉を撤回させようとしているのだろう。

 きっと別の言葉を探しているのだろう。

 だけどその全てはさやかに届かない。

 彼女の視線はほむらに釘付けになっていて。

 またほむらの視線もさやかに固定されていた。

 あの感情の見えない眼だった。

 

 

 

 もしここで。

 仮にさやかがもう少し物分かりが悪かったら。

 仮にまどかがさやかに任せきりにせずに自分で発言をしていたら。

 仮にこの場に別の第三者が乱入にしに来たら。

 仮に魔女の結界が発動したら。

 仮に――――そう、仮に、もしも、もしも、もしももしももしももしも――――

 

 

 

「――――そうよ」

 

 

 

 例えそんな『もしも』があったとして。

 それはこの場において何の意味も為さない空想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――風見野市、とある住宅地帯の工事現場。

 

 

 

「……やっぱり、無理か」

 

 倒れた魔女がその身を崩す。周囲を彩っていた空間が歪む。

 士郎はガンプレイの如く黒色の片手剣を手元で回して構え直すと、息を吐き出すと共にそのまま虚空へ霧散させた。同時に空間が何の変哲もない工事現場に変貌する。魔女の命の消滅。魔法少女の安らかな眠り。そして彼女たちの存在の証明であるグリーフシードが足元に転がる。

 彼女たちが生きた証を拾い上げ、士郎は片手に投影した歪な短剣を突き刺した。

 ルールブレイカー。破壊すべき全ての符。以前に士郎と敵対していたある女性が所持していた宝具。

 それは只の短剣に在らず、あらゆる魔術効能を無効化する能力を持つ。

 多重に張った結界も、折り重ねられた魔術も、或いは複雑な契約も。

 この一刺しで全てを無効化することが出来る。

 

「どうですか、そっちは何か変化が出ました?」

「……魔力が消えた、かな。それぐらいしか分からない」

 

 突き刺して、微動だにせずに3秒。

 だが大きな変化は見られない。

 手に持ったグリーフシードは奇妙な熱を保持したままで、魔力が消え失せた事は知覚できたが、それだけだった。

 

「うーん、上手くいかないですね……投影品だからでしょうか」

「ランクはどうしても落ちるからなぁ……オリジナル通りにはやっぱり行かないみたいだ」

 

 その場に腰を降ろし、まじまじとルビーと士郎はグリーフシードを観察するが、やはり何の変化も見られない。士郎はルールブレイカーを霧散させると、疲れたように息を吐いた。

 ――――魔女にルールブレイカーは効かない。

 それはここ数日の調査の結果であった。

 

 ――――うへぇ……男と契約するなんて嫌なんですから、さっさと平行世界の知識で投影してください! ほら、Hurry Hurry Huuuuuuurrrrrrrrrrrrrrrry!!!

 

 案の発起人はルビーだと言うのに随分な言われようである。嫌なのは士郎とて同じだ。が、状況が状況である。ルビー被害者の会の皆とは異なり、士郎はルビーから謂れの無い罵倒を受けるだけでとりあえずは済んだ。

 だがせっかく契約を交わし、ルールブレイカーを投影できるようにしたは良いが、その労力が実を結んだとは言えていない。

 魔女に突き刺しても、結界が消えるか、或いは魔法による攻撃が中断されるくらい。既に魔女と成ってしまっている以上、そこにあるのは実体であり、突き刺しても解放はされないことが分かった。

 ならばグリーフシードに突き刺したらどうかとも思ったが……この結果だ。

 

「はぁ……」

「……ふぅ」

 

 全くの同時に、両社は諸々の感情を呼吸に乗せて体外に吐き出した。冷たい空気を取り込み、思考の熱を中和させる。

 状況は芳しくない。私情を挟むことも、贔屓目に見る事も許されない。

 魔法少女の行き着く先。

 救いの無い未来。

 見つからない手立て。

 だがこれらの問題は、遅くともあと大凡1週間程度で片付けなければならないという時間の問題も抱えていた。

 

 ――――ワルプルギスの夜がやってくるわ。命が惜しいなら、去りなさい。

 

 美樹さやかが魔法少女になったあの夜。

 士郎はほむらに上記の忠告を受けた。

 相も変らぬ無表情でありながら、その言葉には感情が込められていた。激情とも捉えられる、隠しきれていない感情だった。

 

 ――――アイツに勝てるのは魔法少女だけ。貴方じゃ死ぬだけ。

 

 何でもワルプルギスの夜と言うのは最強最悪の魔女であると言う。

 いつ産まれ、いつからその名を呼ばれ、いつから猛威を振るっているのかは分からない。

 ただ一つ。今まで数多の魔法少女が挑み、その誰もが勝てなかった事だけが真実である。

 そしてその魔女が2週間後、つまりは今日の時点から大凡1週間後には見滝原に襲来すると言う。

 

 ――――あのステッキを連れて、イギリスに帰りなさい。余計な手出しは無用よ。

 

 最後にあの冷たい眼で。そうほむらは話を締めくくった。そして士郎の返事を待たずに、時間を止めてその場から消え失せた。魔力の残滓だけが彼女がいた事実だった。

 ……せっかちな子である。言葉の調子はともかく、士郎の身を案じてくれているのは分かるが、人の話を聞こうともしない辺りは年相応の少女としか言いようが無い。思い返すと苦笑が蘇る。

 あの絶対的な力を持った彼女が忠告に来るくらいなのだから、ワルプルギスの夜とやらは相当な実力を持つ魔女なのだろう。

 だがどんな理由があるにせよ、今の状況ではその言葉に従う事は出来ず、そもそもルビーも士郎も他者の言葉に素直に従う様な人間では無い。

 

 

 

「やぁ、魔術師。魔法少女でもないのに今日も魔女退治に精が出るね」

 

 

 

 結界が消滅した事を察知して。

 2人の眼の前にキュゥべぇが姿を現した。

 相も変らぬ皮肉を含んだ言葉が2人に投げられる。

 相も変わらぬ感情を伺えない眼が2人を映している。

 

「……チッ」

「ワルプルギスの夜が来る前に、グリーフシードのストックは必要だろう。話に聞く限りではまだ足りないくらいだ」

「その考えは正しいけど、本当に君たちはワルプルギスの夜と対峙するつもりなのかい?」

「あったりまえじゃないですか。ねぇ、士郎さん」

「ああ、そのつもりだ」

 

 ここ数日、2人はキュゥべぇと行動を共にしていた。さやかが魔法少女になった翌日からだった。

 建前はワルプルギスの夜の情報を仕入れる為。本音はこれ以上の契約を結ばせないために、少しでも監視できる場所にこの獣を留めておくためだった。

 

「最強最悪の魔女なんだろ。手は多いに越したことはない」

「やれやれ、普通ならば逃げ出すと言うのに……君たちは僕が知っている魔術師とは大きく違う。これほどまでに好戦的な魔術師は過去に居なかったよ」

「よくもそんな言葉をほざけますね。魔女を創り出したのは貴方たちでしょうに」

「それは仕方のない事さ。何事にもデメリットはつくものだろう?」

「その結果がワルプルギスの夜じゃないんですか? 魔法少女が太刀打ちできない魔女を創り出してどうするんですか」

「それこそ君たちには関係の無い話だ。それよりも君たちはこの街とは無関係の人間だろう? 何故わざわざ首を突っ込もうとしているのかが僕には理解できないよ」

「お前らと同じで、こっちにも事情があるんだよ。お前らだって、ワルプルギスの夜に暴れられたままだと困るだろうが」

 

 キュゥべぇの目的が本当ならば、魔法少女が魔女に転換するその瞬間でなくてはエネルギーの回収は見込めない。ただワルプルギスの夜に蹂躙されるだけでは彼の目標は達成されることはない。

 

「まぁ、確かに君の言葉にも一理あるよ。このままでいれば何れはワルプルギスの夜は世界を滅ぼす力を得る。そうなればこの星でのエネルギー回収は望めない」

「こンの黙って聞いていれば私の楽園を畜産農家みたいに……っ!」

「ストップ、ルビー。……なぁ、キュゥべぇ。地球でのエネルギー回収が望めなくなったらどうするんだ」

「そしたらほかの星に行くしかないね。地球程ではないけど、感情を持つ生命体が存在する星は他にもある」

「……そうか」

 

 どうやら広大な宇宙のどこかには、地球と同じような生命体が存在する星もあるらしい。ロマンのある話だ。こんな状況でなければきっと素直に話を聞けていただろう。

 士郎は話もそこそこにグリーフシードを懐に仕舞おう――――として、途中で止めた。

 

「……なぁ、キュゥべぇ」

「何だい?」

「確かお前らって穢れの溜まったグリーフシードを回収しているんだよな?」

「そうだけど、何か?」

「ああ、いや、これ」

 

 そう言って士郎は、今しがた懐に仕舞おうとしたグリーフシードを見せる。

 

「お前らどこに回収したグリーフシードを収納しているんだ?」

「ああ、そんな事かい。ほら」

 

 そう言ってキュゥべぇは背中を尻尾で指した。すると背中に刻まれていた紋様の様な箇所が開き、黒々とした穴を見せた。

 

「此処に入れているのさ。流石に持って移動するのは危ないからね」

「そうか」

 

 相槌もそこそこに、士郎はその穴に向けて手に持ったグリーフシードを投げ入れた。絶妙なコントロールと速度でキュウべぇの中に納まる。但しスピードが出過ぎたのか、入ると同時にやや苦しそうにキュゥべぇは呻き声をもらした。

 ルビーがテレパシー飛ばす。ナイス、士郎さん。

 

「……なんだい、いきなり。しかもコレ、全然穢れの溜まっていない新品じゃないか」

「穢れて無いとやっぱりダメなのか?」

「ダメと言うか、もったいないだろう。自然に穢れは溜まるけれども、かかる時間は膨大だ。魔法少女の穢れを吸った方が溜まるのは早いんだ。まだ使用できる段階で回収するのなんて久しぶりだよ」

「そうか、それは悪かった」

「全くだよ。……にしてもコレ、全然穢れが溜まっていない。随分と珍しいよ」

「そうなのか?」

「普通はグリーフシードに成った時点で少しは穢れがあるんだ。それがこれには無いからね。こんなのは長らく見ていないよ」

「……そうか」

 

 どうやらルールブレイカーはグリーフシードに対して正常に作動していたらしい。グリーフシードが穢れを逃さないように術式を組んでいるのであれば、一刺しすれば解除は出来る。そして解除してしまえば、もう一度術式を組み直さない限りはグリーフシードはただの置物でしかない。これは体系は違えど通用すると言う好例である。

 エントロピーなどと言う魔術世界では聞かない言葉が出てきたから、キュゥべたちの技術は科学技術で構成されているかもしれないと考えたが、実際のところはそうではないらしい。

 

「なぁ、キュゥべぇ……」

 

 ふと。士郎は思った。

 キュゥべぇにルールブレイカーを刺したらどうなるのだろう、と。

 だが思うだけ済ませて、すぐに言葉を飲み込んだ。効能にばかり目が行きがちだが、この宝具は普通の短刀と同様に切れ味がある。キュゥべぇ程度の体躯ならば突き刺して命を奪う事も出来る。つまりはやる事に意味を見出せず、寧ろ不必要な不信感を植え付けるだけに終わるに過ぎないと思ったからだ。

 

「お前は随分と魔術師の事を嫌っているみたいだな。何でだ?」

 

 代わりに、別の話題を口にする。キュゥべぇの紅い眼が士郎を映す。

 出会った時からそうだが、キュゥべぇはルビーや士郎に対してきつめの口調で言葉を発する。今も尚、まどかやさやかは名前で呼ばれているのに、ルビーたちはフルネームか魔術師か君のどれかでしか呼ばれない。そこには魔法少女としての資質云々以前の問題があるように士郎は感じていた。

 

「何で、と問われても困るね。それを知ってどうするつもりだい」

「別にその答えで何かをするわけでは無いさ。理由が知りたいだけだ」

「そんな質問をしてきたのは君が初めてだよ。……答えとしては、魔術師が邪魔だからだね」

「邪魔、か」

「そうさ。君は他の魔術師とは異なるようだけど、これ以上の説明は必要ないと思うよ」

 

 邪魔。

 キュゥべぇが発した言葉はシンプルでありながら、それだけで全てを理解できる説得力を持っていた。

 魔術師とはそういうものだ。ルビーや士郎のように、他者の為に動こうとするものはいない。そういう者は魔術師とは呼ばない。魔術師にはならない。

 これまでにキュゥべぇが出会った魔術師がどんな接し方をしたかは知らないが、大凡どんな事になったかは想像がつく。

 

「今この瞬間だけはキュゥベェさんと同意見ですね。私もあなたの事が邪魔だから嫌いなわけですし」

「理解が早くて嬉しいよ。無駄な事は僕も避けたいんだ」

「はっ、ほんっとうに気が合いますね」

「……ルビー、ストップだ」

 

 溜息を飲み込みつつ士郎は仲裁に入った。あの日から今日に至るまでルビーは喧嘩腰でキュゥべぇに接している。当事者たちはそれでいいかもしれないが、魔術師であることとキュゥべぇの方針には賛同できない旨以外の理由で不必要な不信感を抱かれるのは士郎としては困る。まだまだ入手しなければならない情報はあるのだ。

 ルビーもそれは分かっているので、キュゥべぇの事は基本士郎に任せている。キュゥべぇと対峙したところで不愉快さから口論になってしまう事は、彼女自身が良く分かっている事なのだ。

 今日ルビーがこの場に来たのは、あくまでもルールブレイカーの効能を確かめる為であり。それさえ確認できればキュゥべぇが来る前に退散するつもりだったのだ。ちょっと退散するタイミングが合わなかっただけなのだ。

 

「あーーーはいはい、私は退散しマース、お2人でごゆっくり!」

 

 これ幸いにとルビーは強引に話を打ち切り飛び立った。事の始まりはキュゥべぇの皮肉から始まっているのだが、ルビーがヒートアップしていたせいで、まるで幼子が癇癪起こして拗ねて退散したように見える。幼子と言うほど可愛いものでは無いが。微笑ましいものでは無いが。

 

『後は任せました。私はまどかさんの様子を見に行きます』

『了解』

『そこのそれをちゃんとズタボロのボロ雑巾となるくらいにとっちめといてくださいね!』

『……善処する』

 

 テレパシーで飛ばされた戯言を流して、士郎は心の中で溜息を吐いた。

 最近溜息を吐く回数が格段に増えたことは、きっと気のせいではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふよふよと風見野の空を飛ぶ。

 空は夕暮れ。オレンジ色に染まった世界が既に半分は黒色に侵略されていく。

 もうあと30分もすれば陽は落ち切るだろう。日常は落ち着きを見せ、魔術師の時間がやってくる。

 これからの時間に少女たちは必要ない。鹿目まどかも、美樹さやかも、そして暁美ほむらを初めとするベテラン魔法少女たちも。本来ならこの日常の時間から外れるべきではないのだ。

 

「あ”ー、本当にやってらんない!!」

 

 何も自分の行く手を阻むことの無い広大な空。

 誰も聞いていない事を良い事ルビーは大声で思いを吐露した。遣る瀬無さを隠す事無くぶちまけた。

 物事の切り替えの良さはルビーの美徳であり悪癖でもある。が、今日のこの瞬間ばかりはそう易々と切り替えられなかった。酷く陰鬱な感情がルビーの思考の奥底に渦巻いていた。こんなのは初めて経験するレベルだった。クソじじぃことゼルレッチに対してもここまでの感情は芽生えたことが無かった。

 どうしてくれようか。マジで。

 基本的にルビーはストレスが溜まる事の無い生活を送っている。それは彼女が自分の感情に従って勝手気ままに振る舞っているからだ。好きな時に魔法少女を量産し、自分好みにカスタマイズする。やりすぎて厳重に封印されていた事もあったが、それでもここまでの悪感情を抱く事は無かった。

 だから。

 今の彼女にこの感情を発散させる術は無い。

 今の彼女はこの感情を消滅させる術を知らない。

 

「あ”-、まどかさーん……」

 

 とりあえずまどかに慰めてもらおう。彼女の未発達の胸に自分のヘッドをぐりぐりと押し込み、優しく抱きしめてもらおう。愚痴を聞いてもらおう。あの柔らかな身体に包まれよう。そして行き場の無いこの感情を受け止めてもらおう。

 直感的に己のストレスを軽減させる術を思いつくと、ルビーはその思考に従うべくまどかの魔力を探査する。勝手に契約を交わしたおかげで、まどかの位置ならすぐに分かる。無論さやかも、杏子も、そしてほむらの位置も、なんなら士郎の位置だって分かる。

 この街に来てずっと接しているまどかの魔力を感知すると、すぐにその方向へとルビーは軌道修正した。幸いにもそんなに離れていなかった。場所は風見野と見滝原の境界線だった。今のペースで飛んで行っても10分と掛からない位置だ。

 

「……あり?」

 

 飛んでから気が付く。まどかだけではない。知っている魔力が他に3つあった。

 さやか、ほむら、杏子。

 さやかは分かる。彼女はまどかの親友だ。いつも一緒にいる。

 だが他の2人もいる事は珍しい事だった。何せほむらと杏子はさやかが魔法少女になってから一度も行動を共にしていなかった。ほむらは学校で見かける事もあるし、魔女退治中に近くにいる事を感知した事もある。だが、杏子に関しては魔女退治に同行した事は無かった。この5日間、一度たりとも彼女は見滝原には来なかった。

 ……嫌な予感がする。

 根拠も、過程も、理論も。何かもをすっ飛ばしてルビーはそう思った。冷や水を浴びせられたような急激な思考の停止。背を撫ぜる悪寒。別に知っている仲同士が同じ場所に集まっているだけだと言うのに。それを嫌な予感として捉えてしまっている。

 

「ああん、もう、よりにもよって私がいない時に……っ」

 

 見滝原総合病院前にてまどかが魔女の結界に捕らわれたあの日。ルビーは傍に居なかった

 魔法少女化したさやかがまどかを救ったあの日。ルビーは傍に居なかった。

 そして今。またルビーは傍にいない。

 それ以外の時は大抵は居ると言うのに、だ。

 

「ええい……まどかさーん!! 今行きますからああぁぁああああああ!!!」

 

 悩むよりも、思考するよりも、まずは行動を。

 ピンポイントで自分がいない時を狙って牙をむく悪意。

 どこか作為的なそれを感じながら、ルビーはまどかの元へと駆けた。

 




おまけ

⇒これまでにキュゥべぇが出会った魔術師がどんな接し方をしたかは知らないが、大凡どんな事になったかは想像がつく。

Q.どんな接し方をされたの?
A.捕獲されて実験&実験&実験。
最後は助けに来た魔法少女たちによって無事救出されました。救出されなければ良かったのにね。
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