原作をご視聴済みの方はお気づきかもしれませんが、まだ山場は最低でも2つ残っています。
……今年中には完結できなさそうですね、まだ早いですけど来年もよろしくお願い致します。
※21/11/9 誤字脱字修正
今日はどうやらまどかは休みらしい。
しばらく何時もの待ち合わせ場所で待っていたが、全く姿を見せない幼馴染に対し、さやかはそう判断をした。
連絡用アプリは未読のまま。メールでの連絡も無し。勿論着信も無し。
さやかはそっとスマホを仕舞うと、学校へと歩き出した。これ以上待っていれば、自分が遅刻してしまう。
「……仕方ない、か」
まどかが来ない理由を、大凡だがさやかは察していた。恐らくはきっと、昨日の事で心を痛めてしまっているのだろう。ベッドの上で布団にくるまり、声を押し殺して泣いているかもしれない。あの子は人一倍優しい子だから。
元気づけてあげたいとは思う。けど、今まどかに会いに行くのは逆効果だと。そう、さやかは思った。
まどかは他人の為に泣ける子だ。魔法少女の真実を知った今、さやかが姿を見せれば、彼女はきっと泣いてしまうだろう。きっと勝手に負担を抱えてしまうだろう。……だからこそ、今は会っちゃいけない。もう少し落ち着いたところで、全然平気であることをアピールしなきゃいけない。
そう。アピールだ。全然平気なアピール。いや、アピールじゃなく、本心。
だってさやかは。代償と引き換えに願いを叶えたのだ。大凡自分では叶えられそうにない願いを。……世界の誰もが、叶えられなかったであろう願いを。
だから。あの行動に、決断に。
魔法少女になった事に。
美樹さやかは、後悔を抱かない。
「さやかさん」
考え事をしながら歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
振り返らなくても分かる。志筑仁美。幼馴染にして親友の1人だ。
「あら、まどかさんは?」
「うーん、今日は見てない。多分体調不良じゃない?」
というか、十中八九、そう。
珍しいですね。事情を知らない彼女は、少し驚いたように相槌を打った。何か気に病むようなことがあったのでしょうか。普段はぼんやりとしたザ・お嬢様な彼女であるが、妙なところで敏いのだ。まぁ事実を知られることは、多分無いだろうけど。(フラグ)
「ところで、」
息を潜める様に。通学中の他の生徒たちには聞こえず、隣にいるさやかにしか聞こえない声量で。仁美は話題を変える切り口を発した。
彼女のその真剣みを帯びた声に、言葉に、そしてさやかを見据えるその視線に。
もしや魔法少女関係がバレたかと。フラグ回収早くないかと。
嫌な予感を、覚える。
「さやかさんに、お話がありますの」
頼みますからどうか魔法少女関係じゃありませんように。
いつになく真摯な幼馴染の言葉に。さやかは胸中で祈った。
いるはずもない神様に向けて、祈った。
■ まどマギ×Fate ■
結局学校をサボってしまった。
既に陽も高く昇ったAM10:00。普段ならば一限目どころか二限目の真っ最中の時間帯。
まどかは布団の中で、サボってしまったと言う事実に心臓をばっくばくに跳ねさせていた。真面目な彼女にとって、学校を休むと言うのにはそれなりの理由が必要な行為である。幾ら状況が状況とはいえ、まどか自身は体調不良でもないのに休むというのは、大げさな言い方をすれば彼女の生き方に反するような行為であった。
勿論そう思っているのはまどかだけである。実際のところ、今朝の彼女は誰がどう見ても体調不良と診断せざるを得ないほどに顔色が悪かった。なんならまどかの両親は、顔面蒼白な愛娘を心配し、病院に連れて行く事を検討していたくらいだ。
だがさやかや仁美を始めとする親友やクラスメートたちから届いた、体調を心配するメッセージを見て。まどかは自分の体調の事なんて吹っ飛んでいた。心配されるべきはさやかたちなのに、何でもない自分が心配されているとはこれ如何に。現実や事実が真実と異なる事なんて幾らでもあるのだが、それを未成年のまどかが受け入れられるかと問えば否。いつまでも寝ていられるはずが無いのだ。
ヤバい、起きなきゃ!
今から学校に行っても仕方がないのに、急いで制服を着用しようとするまどか。平日の朝と昼の間という時間帯。誰もが活動している時間帯。学校で勉強している学生。仕事に従事する大人たち。どこかで欠伸をするキュウべぇ。そんなのどかな見滝原市で、活動していないのは自分だけかもという焦りを覚えるまどか。いつもは暴走しがちな幼馴染を抑えるストッパーとしての役割を担う事も多い彼女だが、今この瞬間ばかりはそれどころじゃなかった。何をすればいいかも分からないが、動かなければならないと思っていた。要は絶賛混乱中なのだ。
――――ガシャンッ
「!?」
そんなまどかの混乱を加速させるかのように、背後で何かが割れる様な音が響いた。振り返ればベッド。割れる様なものは何も無い。いや、窓がある。しかもカーテン越しに、人影が見えた。それからカチリと。ご丁寧に鍵を開ける音。
泥棒。
まどかの脳裏に過ったのは、そんな物騒な二文字。魔女や魔法少女にキュウべぇ、ルビーと言った人外と接せども、まどか自身は何処にでもいる様な中学生の女の子だ。寧ろ泥棒なんていう、魔女やキュウべぇなんぞよりもよっぽど身近で悪意の塊のような存在に、思わず身体が硬直するのも無理はない。
パ、パパ、じゃなくて、えっと、警察――――
震える思考で取るべき行動を考える。だが悲しいかな。現実は何時だって少女の選択など置き去りにするのだ。それが結果的に良かれども、だ。
「邪魔するぜ――――お、起きてんじゃん」
カーテンをガバッと捲って。
姿を現したその人物に、まどかの身体から一気に緊張が抜けた。
「杏子ちゃん!?」
佐倉杏子。
隣町の風見野を縄張りとする魔法少女。
そしてまどかの友達だ。
「よ、昨日ぶり」
気さくに手を上げ、挨拶もそこそこに室内に入って来る杏子。丁寧に靴を脱ぎ、乱暴にベッドに着地する。衝撃でまどかの人形たちが僅かに揺れた。
「もう! 佐倉さん!」
「いいじゃんか、開いたんだから」
そんな杏子を追う様にして、もう1人分の声。
その人は丁寧にカーテンを捲ると、静かにベッドに着地をした。それでも杏子と同じくらいにはベッドが揺れたが。
「マミさん!?」
巴マミ。
見滝原の魔法少女で、先輩。
魔法少女としても、同じ学び舎に通う学生としてもだ。
窓を開け、まるで勝手知ったる我が家の様に乗り込んでくる杏子と、オロオロあわあわと表情を移ろわせているマミ。随分と対照的な2人だ。
「いきなり来て、しかも不法侵入みたいな形でごめんなさい、鹿目さん」
ぺこりと。真っ先にマミはまどかに向けて頭を下げた。会話からしてアイディアも実行も彼女が原因ではなさそうだが、先ず何よりも謝罪を優先させる辺りに、彼女の真面目さが良く分かる。
「なんだよ、不法侵入って。家族がいるだろうから正面から会う訳には行かないって言ったのはマミだろー」
対して杏子は何の悪びれも無かった。寧ろ何故咎められなきゃいけないんだと言わんばかりの態度だった。彼女は自分の行いを何も反省していないし、それどころか最短で最良の手段を取ったと思っていたくらいであった。
「だからと言って窓を割るのは違うでしょう……しかもさっきの暁美さんの時と言い、窓ガラスにガムテープを張って音を出さないように割るとか、どこで覚えたのよ……」
「マンガ」
「どんな不良マンガよ、それ」
「お、良く分かったな。GT〇ってマンガ。この前マンキツで読んだ」
ああ、あんなに可愛かった佐倉さんが。よよよと嘆き悲しむマミと、へいへいと面倒くさそうに流す杏子。まるで姉妹ようなやりとりだ。だいたい言葉遣いも乱雑だし、乱暴だし、男の子っぽいし……昔はあんなに可愛かったのに。関係ねーだろ。ほら乱暴になってる。あーはいはいうっせうっせ。
「えーと、それで、どうしたの?」
このまま放置していたらマミの嘆きが続きそうだったので、まどかは会話に割って入った。と言うか窓を割って入られて、当人放置で口喧嘩とか、第三者からすれば理解不能な絵面である。まどかはイイ子だから微塵もそんな事は思わないが。
まどかの言葉を聞いて、早々に反応を示したのは杏子だった。待ってましたと言わんばかりに、彼女はニカッと笑みを作った。カラッと晴れ渡る様な、夏の青空を想起させる笑顔だった。
「ちょっと手伝えよ。馬鹿1人ぶん殴りに行こーぜ」
■
昨日の夜、好き放題言い残して逃げ出したほむら。
とりあえずぶん殴ろうと決めてから12時間くらいが経過。
ところが幾ら思い当たる場所を探せども、当人はおろか魔力すらも見つからない。
「んで、アンタかさやかなら知ってるかもって来たわけ」
まどかの方に来たのは、彼女が学校に行っておらず、且つ2人がいた場所から近かったから。即断即決即行動の杏子らしい理由であるが、隣でマミはこれでもかという程盛大な溜息を吐いた。
「本当に、ごめんなさい。こんな自分勝手な理由で」
何故まどかがこの時間帯に学校にいないのか。それをある程度はマミを察していた。思慮深い彼女は、まどかの苦悩をある程度は察していたのだ。
勿論杏子を止めようとしたのだが「時間をかけてこのままほむらに雲隠れされたらどーする」という彼女の理屈に反論が考え付かず、引っ張られるがままにこの事態を許してしまっていた。
「で、どこか思い当たりそうな場所ってある?」
マミの事はそこそこに、杏子はさっさと本題に入った。隣でまたマミが溜息を吐く。苦労性なのが良く分かる仕草だ。
「ちなみに家に行ってみたけどもぬけの殻。暫く待ってみたけど帰って来やしねぇ」
「キュウべぇに訊いてみたけど、あの子も知らないみたいなの」
思い出してしかめっ面をする杏子と、またも溜息を吐くマミ。ちなみに全くの余談ではあるが、キュウべぇは昨日早々に杏子に見つかってボコボコにされている。というかボコボコどころか5、6匹逝っている。最初の1匹を見つけた際の杏子の「誠意見せろや」という短いながらもその後の苛烈にして凄惨な仕打ちを思わせる一言は、キュウべぇよりも隣にいたマミの方が震えあがったくらいだ。
閑話休題。
杏子に聞かれたまどかだったが、彼女もそこまでほむらに詳しいわけじゃない。知っている事は、2人と大差ない程度だ。と言うか家を知っている杏子の方が、まどかよりもよっぽど彼女がどこに居るか思い当たる可能性があるだろう。
「マジか」
それを聞いて、分かりやすく杏子は落胆した。顔を顰めて天井を見上げる。わりと頼りにされていたらしく、まどかは申し訳なさを覚えた。
杏子の後を引き継ぐように、今度はマミが質問に口を開いた。
「ルビーさんも知らないのかしら?」
「ルビー……は、えーと、出かけちゃってるんです」
いつからか、は覚えていない。ただ彼女はまどかが気が付いた時には居なくなっていた。机の上の書置きには、ちょっと出かけてきます、だけ。
その書置きを見せると、2人は分かりやすいくらいに顰めっ面を見せた。
「多分、そんなに遠出はしていないと思うんですけど」
「……魔力は、感じねーな」
「そう、ね」
少なくともこの家、及び周辺にはいないらしい。ルビー自身の魔力は、魔法少女に比べれば少ないが、それでも一般人と間違えるようなことは無い。
「あーあ、手詰まりかー。士郎もいねーしさ」
「士郎さんも?」
「ええ、そうなの。マンションに寄ったんだけどいなかったのよね」
とすると、ルビーは彼と一緒にいるのだろうか。そう言えば何日か前に、2人で共闘しなければならない案件が出来たとかなんとか言っていた事をまどかは思い出す。
「杏子ちゃんは士郎さんがどこにいるか分からないの?」
「魔力が感知できねーんだよ。上手く隠してんのか、感知できない場所にいるかは知らないけどさ」
士郎の場合は魔力を隠す理由がない……筈である。だがこんな時に、しかもルビーと一緒に所在不明となると、何か隠れてしているのではないかと考えてしまう。いや、あの善人の塊の様な人間が悪い事をするとは考えられないが。
「まぁアイツらはどーでもいいよ。それよりもほむらだよ、ほ・む・ら!」
バシッ! 自らの掌と拳を叩き合わせる杏子。相当に腹に据えかねているのか、随分と大きな音が鳴った。
「会ってぶん殴らないと気が済まねー」
「……殴るかは置いておいて、話はしっかり聞かないといけないと思うのよね」
恐らく、だが。ほむらは魔法少女について、昨夜話した以上の何かを知っている。それはもしかしたら、キュウべぇ以上にだ。
「ワルプルギスの夜も近いみたいだし」
正直な話を言えば、マミ自身はワルプルギスの夜の襲来を、それほど信じてはいなかった。ほむらが嘘をつく理由なんて無いが、荒唐無稽過ぎたというのがあったのだ。
だが、昨夜のせいで一気に信憑性が増した。
とすれば、彼女に訊かなければならないことは幾らでもある。
「とりあえず、もう一度家に行ってみましょう。もしかしたら戻ってきているかもしれないし」
「……そうだな、それぐらいしかアテもねーしな」
「じゃあ行きましょう。鹿目さん、ごめんなさいね。窓の修理代、後で支払うから」
「悪いね、おしかけて」
「あ、あの!」
次の目標を立てるや否や腰を上げる2人。
その2人を引き留める様に、まどかは少し大きめに声を上げた。
「私も、一緒に行っていいかな!」
■
「ここだよ、ほむらの家」
「……ここ?」
「そ」
まどかが案内されたのは、あの聡明でミステリアスなほむらが住んでいるにしては、やや古めで味わいのありそうな、要はイメージと結びつかない小さなアパート(まどか見解)であった。なんか幽霊が出てきそうなオンボロパート。
カンカンカン、と。勝手知ったる我が家の様に、錆びついて安っちさを感じる階段を上ると、杏子は傍の部屋のチャイムを鳴らした。
ぴーんぽーん。
ぴーんぽーん。
ぴーんぽーん。
「じゃあ出ないってことで開けてくる」
そう言って何故か手すりから屋根へと跳んだ杏子。どういうことだか分からないでいるまどかに、マミは苦笑いを零した。
「さっき鹿目さんの部屋の窓を開けた時と同じ事」
「えーと?」
「部屋の窓を割って、不法侵入済みって事」
はぁ。疲れたように溜息を吐くマミ。真面目な彼女からすれば良心が痛む行為であるが、今更手段を選んでもいられない。そんな苦悩がありありと感じられる仕草だった。
どたっ、がちゃっ、きぃ。音を立てて部屋の扉が開いて、杏子が顔を出す。
「入りなよ。家主はいないから荒らしてへーきだよ」
その理屈はどうかと思いつつ、まどかは部屋に入った。お邪魔しますの挨拶は忘れずに。なんだかんだ言って順応性の高い子である。
部屋の中は、実に何も無かった。最低限の家具。ただそれだけ。片付いていると言うよりも、物が無さ過ぎて片付いている思ってしまうだけ。
「……帰ってきた様子も無いわね」
「チッ、手間かけさせやがって」
まどかは傍の安っぽいベッドに腰を下ろしたが、買いたてなのかやや硬い。と言うか漂う香りもどこか無機質なもので、ほむらの残り香みたいなのはどこにも無かった。生活臭が全く感じられなかったのだ。
「本当にどこ行ったのかしら」
「『出来る事に全力を尽くす』って言っていたけど……」
「出来る事、ねぇ。それがワルプルギスの夜に対してなら、戦力拡大のために動いているかもしれねーな」
「それって、他の魔法少女に協力してもらうとか?」
「うーん、その可能性は低いわね。ワルプルギスの夜に対抗できるような魔法少女って少ないから」
「新米が増えたってなぶり殺しにされるのがオチさ。そんなことするくらいなら、グリーフシードを集める方がよっぽど効率的っしょ」
グリーフシードを集める。それは即ち、元魔法少女を倒すという事である。
杏子の何気ない言葉に、分かりやすく顔を強張らせたまどか。そんな彼女に杏子は苦笑いを零し、軽めのデコピンを放った。
「ばーか、そんな顔すんなよな」
「そうね。今更魔女の真実を知ったところで、やることは変わらないもの」
グリーフシードが無ければ、ソウルジェムの穢れが取れない。穢れが取れなければ、自分たちが魔女に成り果てる。魔女になれば、周囲に害をもたらす悪と成り果てる。別の魔法少女に斃されるまで、未来永劫。
ならばこそ。魔女になりたくなければ、魔女を狩り続けるしかない。今更その連鎖からはマミも杏子も降りられないのだ。
だからこその、覚悟。
現実を、事実を、真実を。受け入れて尚、戦い続ける覚悟。
2人の確固たるその思いに、まどかは自分を恥じた。
心配なんて、そんなのは烏滸がましい行為であると。
そう思ったのだ。
――――ぐぅぅぅぅぅぅ
……同時に、場所も状況も考えずに鳴るまどかのお腹。
慌てて腹筋に力を込めて前かがみになるが、もう遅い。
それから、間髪入れずにどこかで12:00を告げるチャイムが鳴る。
「あ、う、うぅ」
今更の話ではあるが、まどかは朝ごはんを食べていない。水を少し飲んだだけ。なんなら昨夜の出来事がショック過ぎて、昨夜から何も食べていないのだ。加えてまだまだ成長期なお年頃。当然身体は栄養を欲している。
とは言えまどかからすれば、何故こんな真面目な話の最中なのにお腹が鳴ってしまうのかと、穴があったら入りたくて仕方が無い気分であった。顔は真っ赤だし、小刻みにプルプルと震えていた。恥ずかしくて頭が沸騰しそうだったのだ。
「ぶはっ」
そして遠慮なく噴き出す杏子。マミは流石に吹き出しこそしないが、可愛いものを見る様に微笑んでいる。
「確かに腹減ったな。なんか食うか」
「いいわね、賛成」
同時に、2人のお腹も鳴った。理由がどうあれ、2人とも朝から活動的に動き回っている。お腹が鳴らない方がおかしいのだ。
「っしゃ! 食べ放題行こーぜ!」
「食べ放題? この近くにあるの?」
「あー……ほむらと入った焼肉があるなぁ。食いそびれたけど」
「入ったのに食べそびれたってどういうこと?」
「いきなりあの馬鹿が魔法少女になって連れ出された」
「意味が分からないわよ」
分かりやすく頭を抱えるマミ。だがまどかも同意見だ。全く意味が分からない。
「つーか昨日も食いそびれたし」
「昨日も行ったの?」
「ああ。またアイツに連れ出されたせいで、〆の冷麺とお茶漬けとジャンボチョコレートパフェが食えなかったけどな」
「佐倉さん、食べ過ぎじゃない?」
そう言えばいつぞやの日には、早々に満腹になった自分たちを置いて、1人最後までチーズフォンデュを堪能していたっけ。まどかは懐かしきあの日を思い返し、同時に疑問を抱いた。その細い身体のどこに入っているのだろうか。
ちなみに本当に全くの余談であるが、昨日杏子は1人で20人前近くの肉を平らげている。食べ放題にしてよかったと、士郎が秘かに安堵の息を吐いていたのは誰も知る由が無い。
「あ、そうだ! しゃぶしゃぶ行こうぜ! 食べ放題のチェーン店。ランチなら2,000円程度で食べられるし、カレーにラーメン、デザートも食べれた筈」
「うーん、私はいいけど……鹿目さんは?」
「え、あ、ちょっとお金が……」
「あら、お金なら心配しなくて良いわ。私払うわよ」
大人だ。まどかはそう思った。さらっと奢るなんて言いのけられた事実。しかも2,000円。安くはない。1歳しか違わないのに、ものすごい年上に感じる。
その横で「ひゅー、太っ腹」なんて囃し立てる杏子。ちなみに2人は知る由も無いが、この3人の中で今一番お金を持っているのは杏子だったりする。食事代は基本士郎持ちで杏子が払うことは無く、しかも何だかんだ理由を付けてお小遣いまでもらっている。それにそうでなくとも、ATMを盗んだりぶっ壊したりと、非合法な手で集めた貯金があるのだ。
■
店にはすぐについた。お昼時だが存外人は少ない。ただ店員たちはオーダーを取っていて出払っているのか、お待ちくださーいの一言で、3人は少々待たせれることになる。
その間に何の食べ放題コースにするかでおしゃべりを重ねる3人は、年相応の少女たちであった。魔女だの魔法少女だのと言った血腥い存在とは無縁の少女たちだった。
何のコースにしましょうか、種類多い方がいいっしょ、デザートはパフェが良いなぁ。その会話を聞いて、彼女たちがまさか人知れず命を削って戦っているとは、誰も夢にも思わないだろう。
ところで、だが。
世の中には絶妙に運の良い人がいる。
アイスの当たりくじを引いたり、欲しかったものが偶々安売りしたり、生じた問題が偶然解決したり。
わざわざ人に話すほどのものでなく、それでいてラッキーと思える内容に、それなりの頻度で当たる人はいるのだ。
それが日頃の行い故か、或いは生まれ持ったものなのか、偶々の巡りあわせか。
その是非は、分かりはしない。
「あ」
本当に、偶然だった。
まどかはそう思った。
「え」
この店に来るとは決まっていなかった。
杏子の一言でそうなったが、彼女が違う店を上げていた可能性もあった。
そもそも、あの時まどかがお腹を鳴らさなかったら、食事をしていたかどうかもわからないのだ。
「へ」
目の前で、相手が呆けた顔をしていた。その子はずっと探していた少女だった。
テーブル席に案内される途中。本当に偶々偶然耳に届いた、聞き覚えのある声。そちらに視線を向けると、ある人物が視界に入った。そしてそれは相手も同じだった。
……ところでだが。
世の中には絶妙に運の良い人がいるとすれば、その逆で絶妙に運の悪い人もいると思う。
例えば、目の前で呆けた顔をしているような――――
み つ け た ぁ
その表情を表現する言葉をまどかは知らない。知らないが、どこかで見たことがあると思った。しかも割と最近。あれは何時だっただろうか。
すぐ隣。視界の端に映る杏子の顔。
眼を見開き、その人に視線を固定し、口角を吊り上げた、笑顔だけど笑顔ではない、身体の芯から震えそうな、その表情。……どう見てもマジ切れどころの騒ぎではない。感情のメーターが完全に振り切っておられる。そんな顔。
限りなく一秒が引き延ばされるような感覚の中で、まどかは記憶を探った。今更記憶を探っても意味は無いのに。と言うか何故探り始めたのかはまどかも分からなかった。あえて理由を付けるのなら、突然の事に混乱してしまっていたのだろう。
だが前にも言ったが、現実は何時だって少女の選択など置き去りにするのだ。
「逃がさねーよ」
獣の様な俊敏さで、杏子は動いた。動いて、相手に次のアクションを取らせなかった。
押し倒すかのように襲い掛かった杏子。衝撃で飛ぶ皿。慌ててそれらをキャッチする男性の太い手と六芒星。いきなりの事にポカンとしたままの店員さんに、マミが頭を下げる。
「とりあえず……どう死にてぇ?」
それは台詞が違うと思うなぁ。
混乱したまま、まどかはそう思った。
おまけ
※昨夜皆と別れてからの杏子とマミ
PM19:00 みんなと別れてほむらとキュウべぇを探す。←24話終了後
PM19:30 キュウべぇ発見。誠意を見せろからの殴っ血KILL。
PM21:30 ほむらの家に突撃。いない。
PM23:00 いつまでも暗いマミに杏子ブチ切れ、深夜の大喧嘩開始。
AM 5:30 河原で仲良く朝陽を見る。
AM 6:30 マミの家で手当て、朝食。
AM 8:00 ほむらの家に再突撃。いない。
AM 9:00 士郎の家に突撃。いない
AM10:00 まどかの家に突撃←25話開始