もう12月か……
やぁ、さやか。……おや、随分と顔色が悪いね。今日は家へ帰って休んだ方がいいんじゃないかい?
――――……キュウべぇじゃん。アンタこそ、どうしたのさ?
どうしたのさって……そんな顔色の悪さでふらふらと歩いていたら気にもなるさ。それよりも、意外だね。もう少し冷たく当たられるかと思ったよ。
――――別に。私は後悔してないから。
ふぅん、そうかい。まぁ冷静でいてくれると言うのなら、こちらもありがたいよ。杏子なんかは怒り狂って話す事すらさせてもらえなかったからね。
――――それは自業自得でしょ。
手厳しいね。まぁ杏子の事は置いておいて、今は君だよ。どう見ても様子がおかしいのに、何処に行こうと言うんだい?
――――……いくつか気になることがあって。それで、士郎さんに話を聞こうかなって。
気になる事? ボクじゃダメなのかい?
――――アンタは隠すでしょ。
やれやれ、そこは信用が無いままか。訊かれたらちゃんと答えるさ。
――――はいはい。でもさ、私の知りたい事、アンタじゃ分からない可能性高いし。だったら士郎さんに訊くよ。
ふぅん。それは仕方ないね。まぁそこは好きにすればいいさ。……ただね、さやか、
――――うん?
確かに衛宮士郎は特異だ。普通の魔術師とは違う。でもね、本当の事なんてわかりやしない。
――――どういうこと?
忠告だよ。さやか。
■ まどマギ×Fate ■
そろそろ俺は死ぬかもしれない。過労で。
そう衛宮士郎は思った。午後5時の見滝原市の緑地公園で、そう思った。
「これが宝具」
「ああ。ルールブレイカーって言う、契約を破棄させる効果を持つ武器だ」
答えながら士郎は頭上を見上げていた。正しくは空を見ようとしていた。時間通りであれば、夕焼けに染まる赤い空が見えるであろう。今日は晴天なので綺麗な夕焼け空が見える筈だ。尤も今士郎がいるのは魔女の結界の内部なので、残念ながら絵の具をぶちまけたような奇妙な色の天井しか目に入らないのだが。
そう、魔女の結界。
緑地公園で体力魔力共々回復しようとしたところで、運悪くも魔女の結界に巻き込まれた彼は、疲労と泣き言を飲み込み魔女退治に勤しんだのだ。その甲斐あって一般人に被害が出る前に魔女は拘束済みで、後は止めを刺すだけの状態で転がっている。
「そんな形だけど、普通の刃物と同じ程度には斬れるから、取り扱いには注意してくれ」
士郎は天井を見上げた体勢のまま、すぐ傍にいる暁美ほむらに声をかけた。今しがた渡した短刀への注意喚起の言葉。彼女は食い入るように短刀に目を向けて……いや、目を離せなくなっていた。
暁美ほむらはつい先ほどこの結界内に入って来た。士郎が魔女を拘束し終わったのとほぼ同時くらいのタイミングだった。
魔女退治だろうか。士郎はそう思った。だが彼女は魔女を一瞥しただけで、特にそこに何かを言うことは無かった。それよりも士郎が投影し、手に持っていた短刀に興味を抱いたのだ。
「……不思議な代物ね。そもそも纏っている魔力からして奇妙な感じがするわ」
そう言ってほむらは、今しがた士郎から渡された短剣をまじまじと見つめた。刃の部分が雷のように歪な形状をした、不思議な短剣。だがその形状以上に、溢れ出る魔力が、その短剣が普通のものでは無い事を誇示している。
ルールブレイカー。破壊すべき全ての符。
ほむらは知らぬことだが、古の時代にある魔女が所有し使用していた、宝具と呼ばれる存在である。
「契約を破棄させる効果……これを使えば、魔法少女でなくなる可能性があるということかしら?」
「可能性は。試した事が無いからどうとも言えないけど」
問いかけに返しながら、今更ながらに士郎は思った。何でそう言えばほむらは此処に来たのだろう。話し合いなら昼飯の時に終わった筈なのに。
思いつつ、まぁいいかとかき消した。わざわざ問いただすまでもないと彼は判断した。余計な思考をする余力もないほどに彼は疲れているのだ。
「ちなみにだが、魔女には効かなかったよ。刺さっただけだ」
「そう」
「俺とルビーの見解では、魔法少女にも効かない可能性の方が高いとみている」
士郎は己の疲労を溜息に乗せながら、ついにその場に座り込んだ。より正確には、拘束されて虫の息状態の魔女の上に。
繰り返すが士郎は魔力、体力とも限界ギリギリの状態である。そもそもこの緑地公園には休息を目的として来ている。なのに何故魔女の結界に巻き込まれるのか。なぜこうもピンポイントに発生するのか。世界は士郎の事が嫌いなのだろうか。
彼は前々日の魔女退治からほぼ休むことなく働きづくめであった。もう欲求に従って寝たくて仕方が無かった。衛宮士郎は超人ではなく人間なのだ。だから数時間前に某しゃぶしゃぶチェーン店でほむらと杏子がひと騒動を起こしかけた際には、彼は金の力(約5,000円のコース)に任せてその場を収めた。まさにマネーイズパワー。普段の士郎なら絶対に取らない手ではある。が、心身共に疲れ果てていたので、迷わず金で解決したのだ。だってお金の存在意義って、あらゆる問題への解決手段だからね。仕方がないね。
「効かない? そう考えるのは何故かしら?」
「さっきも言った通り、魔女に使用した時は刺さっただけだったんだ。魔女になってしまう前の、魔法少女としての姿に戻ってくれる事を期待していたけど、そんな効果は無かった。なら、魔法少女に使っても効果は同じだろう」
数日前に、そして今先程改めて試した結果。
だがどちらも結局は同じだ。魔女に突き刺しても、ちょっと刺さるか、或いは魔法による攻撃が中断されるくらい。既に魔女と成ってしまっている以上、そこにあるのは実体であり、突き刺しても彼女たちが魔女という存在から解放される事はない。
「いや、効かない程度で済めばいいと思っている。それよりも良くない事態になるんじゃないかと思っている」
「……どういう事?」
「昨夜のほむらの説明だと、魔法少女の魂はソウルジェムに移動しているのだろう? この宝具の効果は、あくまでも契約を破棄するだけだ。もしも仮に破棄する事に成功したとしても、その後魂が元の肉体に戻らない可能性がある」
寧ろその可能性の方が高い。士郎は出しかけた言葉を飲み込んだ。今知りたいのはほむらの見解であり、己の認識の披露ではないからだ。
ほむらは口元を左手で隠すように覆った。そして考え込む様に眉根を寄せる。
「……何故、私に訊くの?」
「ほむらが一番魔法少女について理解をしているからだな」
真実を知らない面々に訊いても効果的な答えは得られない。士郎が今知りたいのは想像による空論ではなく、実績と経験に基づいた論理である。そして今、この見滝原市で最も魔法少女に付いて知識を有しているのは、間違いなくほむらだ。
「……試さない事には、何とも言えないわね。ただ、肉体に刺しても意味はない可能性が高いわ」
「根拠は?」
「キュウべぇも言っていたでしょ。魔法少女の本体はソウルジェム。肉体はただの器」
「契約は魂と行っているから、魂の宿っていない肉体に刺したとしても、意味は為さないと」
「そういうことよ。……ほら」
ほむらは士郎に見せつける様に、左の掌を開いてみせた。そしてその中心部に、何の躊躇いも無く刃先を突き刺す。
「ね? 何も効果はない」
「……だとしても、驚かさないでくれ」
それは薄々は士郎も勘付いていた事だ。魔法少女になってしまった以上、肉体の方への契約破棄関連の魔術は効かないだろうと。
だとしても、
あまりに急な事に、士郎は驚きで何も言えなかった。実践結果が結果だから良かったものの、もしも何か起きたらどうするつもりだったのか。或いはもしもいきなり魔女となってしまったらどうするのか。魔法少女として活動できなくなったら、魔力が暴走をしたら、ソウルジェムにまで効果が及んだら。
あらゆる文句が思考を満たし、口から溢れかかったが、士郎は溜息一つで無理矢理に霧散させた。ほむらはどうにも結論を急ぎ過ぎな面があるが、確証の無い事を行いはしない傾向にある。
「効果があるとすればソウルジェムの方だけど、試すのは最後の手段ね」
ファサッ、と。彼女はその特徴的ともいえる、黒髪をかき上げる仕草を見せた。冷静沈着なようで何よりである。
士郎はこれ以上何かをされない様に、ルールブレイカーを受け取ると、すぐに霧散させた。
「消えた……成程。ただ刃物を射出するだけでなく、特殊効果付きの刃物も意のままに用意できるわけね」
「まぁそんなところだよ」
宝具を刃物として一まとめにされるのは心外であるが、そこを細かく正すことに意味はない。正す気力も今の士郎には起きない。
新しい手段を探さなくちゃな。策が一つ潰えた状況ではあったが、前向きに士郎は現状を受け入れた。分からないが不可能に変わっただけ進歩しているのだ。思い通りいかなかった事に固執して思考を止めている余裕はないのだ。
「仕方がない。ワルプルギスの夜が来るまでに、他の手段を探すとするか」
「私としてはワルプルギスの夜に注力をしてもらいたいのだけど」
「するさ。だけど、魔法少女の解放だって俺には重要な事だ」
「……理解しかねるわ」
ほむらは彼女にしては珍しく、ボディランゲージを交えて、士郎の意見に呆れを示した。
「『ワルプルギスの夜を倒す事に協力をする』。それが契約の内容よ。本番に影響が出る様な行動は避けてもらいたいのだけど」
「『憂いの元となる物事は解決しておきたい』。ワルプルギスの夜に全力で対応する為にもな。それじゃダメか?」
「……好きにすればいいわ」
短いやり取りだが、説得は無理だと諦めたのだろう。ほむらは溜息と共に、渋々ながら肯定の意を示した。そして踵を返す。
「帰るのか?」
「ええ。色々と疲れたから。……先に言っておくけど、私は充分な量のグリーフシードを既に確保しているわ。そこのそれは貴方の好きなように使えばいい」
「ん、分かった」
そこのそれ。つまりは士郎が組み敷いている魔女。グリーフシードも要らないとは、もう魔女に関与するつもりはないらしい。
ほむらは本当に疲れているのだろう。いつもはしっかりとした足取りで歩くものだが、今日はどうもふらふらとしている。それも当然で、彼女も士郎と同様に今日に至るまで働きづくめだったし、なんなら先ほどは杏子と一悶着もあったのだ。
彼女は何かを探すかのように暫く周辺を彷徨うと、暫し立ち止った後、何故か士郎の元へと戻って来た。
「……前言を撤回するわ。早く魔女を倒して」
古今東西を問わず、結界術とは大きく分けて2種類に分類される。外からの侵入を拒むか、中に封じ込めるか。
そして魔女の結界とは、基本的には中に封じ込めるものである。得物を誘い、そして逃がさぬ様に。自身の力を最大限に発揮できるように。
現状既に虫の息になったとはいえ、結界の効能に陰りは無い。
「なるほど。出らんないのか」
いつもなら諸々気の回る士郎だが、疲れ果てた彼にそこまでを求めるのは酷というものだ。つまりはデリカシー無し。端的に、それでいて直結に、ほむらの状況を言葉にする。イギリス在住の恋人兼師匠がいたら、制裁の一撃か鋭利な皮肉が飛んでくるのは想像に難くない。
だが此処にいるのは疲れ果てた苦労性×2だけである。
こくり。素直に彼女は頷いた。普段なら絶対に見られまい、自身の感情に直結した行動。ルビーがいたのならそのほむらの初めてとも言える素直な様子に諸々の情緒がぶっ壊れただろうし、まどかは素直に人の手を借りるほむらに感激して泣いただろう。つくづくこの場に唐変木でじじむさい野郎しかいないことが悔やまれる。
「……じゃあ、終わらせるか」
投影開始。士郎は小さく、いつもの言葉を唱える。そしてその手に顕現する中華刀。干将・莫邪。
「ごめんな」
命を奪う。どんな理由があろうとも、その事実に間違いはなく。
胸に刻む様に。士郎は呟いた。
無感情に。ほむらはそれを見届けた。
終ぞ。
2人は自分たち以外の誰かがこの場にいる、なんて。
そんなことに気が付きもしなかった。
■
そろそろ私はダメかもしれない。本当に。
そう鹿目まどかは思った。午後8時のまどかの自室で、そう思った。
「いや~、怒られましたね~」
「……」
ふくれっ面を隠す事無くまどかは頭上を見上げていた。正しくは寝転がった自身の上をふよふよと浮遊するルビーを見ようとしていた。いつも通りであれば、この時間帯はドラマを見ているか、さやかやルビーとおしゃべりをしている。今日は追っているドラマの放映日なので、いつもならリビングにいる筈だ。尤も今は激おこ状態のママをパパがリビングで宥めているので、残念ながら今日の放映は諦めるしかないのだが。
そう、もう午後8時。
マミやほむらと別れた後、ルビーと一緒に帰宅したまどかを待っていたのは、当然のことながら愛するパパによるお説教タイムだった。勿論自分が悪いので、何一つとして文句を言わず説教を受けていたのだが、本当のラスボスは早退して戻って来たママである。まどかはあれほどまでに怒ったママを知らない。どれくらいかというと、怒っていた筈のパパが慌てて宥めに入るくらいであった。
「うーん、愛されていますねー」
まどかは寝転がって天井を見上げた体勢のまま、すぐ頭上を浮遊しているルビーを睨み付けた。今しがた発せられた、まるで自分には非が無いとでも言わんばかりの、他人事的な態度。まどかはルビーに目を向けて、可愛らしくその頬を膨らませた。
まどかが怒られている間、当然のことながらルビーはただのアクセサリーに扮していた。何も発言しなかった。だが状況は把握しているはずである。
「……ルビーが応答してくれれば良かった話なのに」
そう言ってまどかは、顔を半分ぬいぐるみで隠しながらルビーを可愛らしく睨み付けた。まどかが外出したのは、音信不通のほむらを探すためであった。ルビーと士郎にも連絡が付かず、マミも杏子も困っていたから、まどかは協力してほむら探そうとしたのだ。
なのに。実際にはルビーは殆どずっとほむらといたと言うではないか。
まどかの呼びかけには答えない癖に、だ。
「まぁ確かに秘密のおしゃべりをしていたとはいえ、テレパシー機能をオフにしていたのはルビーちゃんのうっかりってやつですね。テヘペロ」
「……」
まどかは尚も不機嫌さを隠そうともせずルビーを睨み付けた。だがその位で痛む良心をこの人でなしが持ち合わせているはずが無い。なにせ製作者自らが「コイツヤベェ」と思った代物なわけなので。
……とは言え。まどかとて出会ってからひと月も経過していないとはいえ、ほとんど四六時中をこの愉快型魔術礼装と一緒に過ごしているのだ。何を思って行動をしているのか、何を隠しているのか、それくらい分からないはずが無い。
きっと、というか絶対。まどかには言えないような事にルビーは首を突っ込んでいるのだ。それは予感ではなく確信である。
「……別にいいけど」
ぷいっ。ルビーから視線を外し、まどかは今度こそぬいぐるみに顔を全て埋めた。視界を全てぬいぐるみで覆いつくした。
此処で無理矢理に問いただそうとしても、ルビーは絶対に口を割らないだろう。それくらいは分かる。また適当な事を言って煙に巻くのだ。絶対に秘密裏に行動している内容について口にすることは無い。
だがそれはつまり、それだけ危険な事に首を突っ込んでいる証明でもある。きっとキュウべぇや魔法少女の真実にも関わる事なのだろう。言わないのはまどかを巻き込まないための、ルビーなりの優しさなのだ。
と言っても、そんなもの、クソくらえなわけだが。
まどかはぬいぐるみに顔を埋めながら、胸の内でグツグツと燃え滾る怒りをどうにか鎮める。そして鎮めながら思う。ルビーが言わないのなら、勝手に行動するだけだし。こう見えてまどかは存外頑固者だし、一度決めたことをやり遂げる覚悟も持っている。
白日の下にさらされた魔法少女の真実。未だ隠し事をしているほむら。ちらっとだけ聞いた、ワルプルギスの夜。
ルビーがまどかを巻き込まぬ様に遠ざけようとするのならば、そんなの関係ねぇと言わんばかりにその全てに首どころか全身突っ込んでやろうじゃねぇか、というやつである。
(……と言うか、ルビーだけじゃないよね)
思い浮かべるはほむらやマミと言った魔法少女関係のみんな。最初からまどかを魔法少女から遠ざけようとするほむら。魔法少女としての一線は越えさせない様に振る舞い始めたマミ。魔法少女関係については排他的な杏子。秘密の多い士郎。大親友であるさやかを除けば、みんなしてまどかだけ仲間外れにしているような状況なのだ。
「(ヒエッ)」
むくり。にょき。まどかは身を起こして、ぬいぐるみから顔を覗かせた。そして未だに空中を浮遊していたルビーに視線をロックオン。その眼は覚悟でガンギマリである。可愛らしい顔とは不釣り合いの、その意志の強さが隠せてない眼に、ルビーは思わず息を呑んだ。
「(いやああああああああ、まどかさんが悪い方向に育っているうううううううう!!!)」
まどかと言えば=ラブリーでキュートでスウィートなエンジェルである。冗談なんかミリ単位も無く大真面目にそうルビーは思っているし、実際この地にいる魔法少女関係者の中では、その評価がダントツで似合う女の子でもある。
だからこそ最近のちょーっと性格が悪目な方向に成長しているまどかは、ルビーにとっては色々と誤算だったりする。もっと素直で可愛らしい反応を見せてくれてもいいのよ。まぁそんなまどかの成長の原因の99%はルビーが担っているのだが。
「(よよよ。まさかまどかさんも凛さん、杏子さん、ほむらさんと同じようにツンデレになっちゃうのでしょうか。まどかさんと4人でクワトロツンデレッドなのでしょうか。紅、赤、紫、桃のツンデレッドチームなのでしょうか)」。そんな阿呆みたいな嘆きは、しっかりまどかに聞こえている。ゼルレッチお爺ちゃんがヤベェと思って付け足した機能。全く以って感想に困る機能である。
「……」
ところで。そんなルビーの狂ったような独白に対して、普通で普遍でどこにでもいる常人ならば、また馬鹿なこと言い出したよコイツ程度に済ますだろう。付き合いきれんと早々に匙を投げるだろう。
だがまどかは違う。彼女はルビーの性格をそれとなく把握している。つまりは、阿呆な事を馬鹿みたいにまき散らして道化を演じ、本当に大切な事を煙に巻く。そういう性格であると。
だからまどかはルビーから目を離さない。待っているのは、ルビーが極稀に見せる冷静な態度。ふざけているようで理論的な思考回路。或いはあからさまとも言えるような強引な話題転換。つまりは、不審のとっかかりである。
少しでもルビーがそんな不審な点を見せようものなら、そこから食いついて離さないぞ、という不退転の意思。流石のルビーも、一筋縄ではいかなそうなまどかの態度に、如何しようものかと頭を悩ませ――――
「まどかあああああっ!!!」
どどどどどどっ! ごんっ! がちゃっ!
騒々しさとともに開け放たれるドア。咄嗟に天井の隅に逃げるルビー。驚きにフリーズするまどか。
そしてまどかママ。
帰宅時から全く変わらぬスーツ姿のまどかママが、受話器を片手に部屋に踏み入ってくる。その顔は相も変らぬ怒りの様相を含んでいて、まさかの追加お説教タイムかと、思わずまどかは目を瞑る。
だがそんなまどかママの第一声は、まどかはおろかルビーすらもが、全く予想もしていない内容だった。
「さやかちゃん、帰ってないって! どこに行ったか知らない?」
■
やぁ、さやか。そんなところで何を……おや? さっきにも増して顔色が悪いね。いったいどうしたんだい?
――――……
ダンマリかい。まぁ別に良いけどね……と言いたいところだけど、流石にこんな時間に1人でいるのを見過ごすのは気が引けるよ。どうしたんだい?
――――……
ふぅん? まぁいいや。話したくなったら話せばいい。魔法少女のサポートもボクの役目だからね。
――――……キュウベぇ、
うん?
――――魔女は……悪なの? 悪者なの?
うーん、難しい問いだね。善悪なんて立場が変わればひっくり返るもんだし。ただ今のボクの立場から言わせてもらうと、悪にはなるかな。
――――なんで?
そりゃ君たち魔法少女と敵対する存在だからさ。それに一般の人間たちにも害を及ぼす。だからボクからすれば悪だよ。
――――でも、魔法少女は、魔女になるんだよね。じゃあ私たちは、悪になるの?
否定はしないよ。でもそうはならないために、グリーフシードがある。君たちは変わらず、魔女を狩り続けてくれれば、それでいい。
――――……が、
うん?
――――……魔女、が。魔女がいなくなったら?
そんな未来は来ないだろうから、考える必要がないんじゃないのかな?
――――そうとは限らないでしょ!
そうかな? まぁその時はその時さ。それよりも目前に迫ったワルプルギスの夜をどうにかするほうがいいんじゃないのかな?
――――ワルプルギスの夜?
そうさ。巴マミ、佐倉杏子、暁美ほむら、……そして衛宮士郎とマジカルルビー。彼女たちは戦うらしいけど、さやかはどうするんだい?
――――……
まぁさやかは魔法少女になって日も浅いし、無理に戦う必要はないと思うよ。ワルプルギスの夜は最強最悪の魔女だからね。彼女たち全員が束になっても倒せる可能性は低いくらいなんだ。寧ろ逃げることを視野に入れるべきだとボクは思うね。
――――……魔女は、倒す。倒されなくちゃ、いけない……
うん? まぁ、害を及ぼすからね。それに君たちが活動するためでもある。
――――……もし……もしも私が魔女になったら……マミさんも、ルビーも、ほむらも、杏子も……衛宮さんも殺しに来るのかな。
魔女になったら殺しに来るんじゃないかな。
――――っ
でもまだそんなことを考える段階じゃないだろう? 確かにさやかのソウルジェムは濁っているけど、グリーフシードで全然回復可能な範疇に見えるけど。
――――……殺しに、来る。
やれやれ。どうやら会話が成り立たないみたいだ。しっかりしてくれないか?
――――……今日ね、見ちゃったの。
何をだい?
――――衛宮さんが、魔女を倒したところを。……魔法少女じゃないのに、魔女を倒していた。
彼は魔術師だからね。あの手には慣れているんだろう。
――――あの人は、そんなことをしないと思っていたの。魔女を魔法少女に戻す方法を探してくれている。そう思っていたのに……
ハハッ、魔術師がそんな人助けみたいなことをするわけないじゃないか。
――――……?
言っただろう、さやか。魔術師は信用しない方がいいって。
――――キュウ、べぇ?
魔術師なんてのはね、君たちで言うところのガンみたいなものさ。百害あって一利なしなんだよ。
――――でも、
今からでも遅くない。手を切った方がいい。魔術師どもに関わっていいことなんて、なにもないよ。
――――そんな、こと、
目的のために全てを犠牲にするのが魔術師だよ。仲間も、友人も、恋人も、家族も、あるいは自分自身すらも。……見たんだろう、さやか。衛宮士郎が魔女をいたぶっていたところを。
――――……
もう一度言うよ、さやか。
確かに衛宮士郎は特異だ。普通の魔術師は違う。でもね、本当の事なんてわかりやしない。
だから、
それに
おまけ
※描写忘れていた且つ、今更入れることもできない内容についての簡易説明。
①士郎が暁美さんではなくほむら呼びになっている
⇒前話の協力要請時に名前呼びに変更。士郎、ほむらと呼び合っている。
②ほむらが杏子にぶん殴られた痕について
⇒本話で結界侵入前に治療済み。でもそのせいでほむらの魔力が枯渇かつ疲労ピーク。
③なんで魔女の結界からほむらは出られなかったのか
⇒②の通り限界ギリギリだったので、結界から抜け出る余力は無かった。グリーフシードを使うという頭もないほど疲れていた。
④なんでこんなにまどかの性格が頑固なのか。
⇒99%ルビーのせい。