ああ、やっぱ辛い。
全身あざだらけ。節々に痛みがひどい。あまり動けない。
はは……。血も出てるしなんだこの仕打ち。私が悪いんだろうな。うん、私だ悪い。
「–––––––ほら、やっぱ絶盤だよ」
この世に絶望しかないんだなあ……。
ていうか寒い。脱がされて外に放置されているんだ。三月とはいえ雪が降っている。私の体に雪が積もっていってる。
––––––このまま、死ぬのかな……。
そう頭に不安がよぎる。
–––––––嫌だ……死にたくない。
と同時にそう思った。
「…………家に帰ろう」
パンツにシャツ一枚となった私の格好は、家に帰らないとやっていけ……。
あれ、おかしいな。視界がどんどん狭く……。
そして、目の前が真っ暗になった。
目がさめると、どこか高いマンションの上にいた。
––––––どこ、ここ。
私はこんなとこら知らないし、なんか服着せられてるし。なんか施しを受けたらしい。
「あら、起きたのね」
聞いたことある声だ。
「…………おはよう」
ここも、聞いたことがある。
何ノ下さんと何ヶ浜さんだったっけ。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんだ。
「あ、お、おはよ……!」
体に痛みが走る。
「あまり動かないほうがいいわ。ひどい打撲に内出血。よく耐えれたわね」
「なんで私を助けたんだ……」
雪ノ下さんの言葉は聞こえず、そう呟いた。
雪ノ下さんにはひどいことをした。そう自覚している。見殺しにすればよかったのに。みんなそう望んでいる。
「なんでって、そんなこと聞く必要ないでしよ」
「…………由比ヶ浜さんも、私は死んだほうがいいと思ってるのに?」
「……………………」
私は誰もに死ぬことを望まれている。役立たず、害しかなさない、必要皆無な悪。どれをとっても生きることは望まれていない。
「私を助ける道理なんかないし、私なんか見捨ててもよか」
「いい加減にして」
私の言葉は遮られ、最後までいえなかったら、
「人は生きていることになにも罪はないわ。死ぬことを望まれた人間なんていないのよ。私も、由比ヶ浜さんも、あなたもそうよ」
「……………………」
その雪ノ下さんの威圧感にただただ黙っているしかない。
そんな真剣な雪ノ下さんは初めてみた。
雪ノ下さんはきっと正しさも兼ね備えているんだろう。言葉一つ一つが人を包み込む。その奥にはきっと雪ノ下さん自身が曲げられない信念というものがあるのだろうか。
–––––––私も、そうなれるだろうか。
「そう、だね」
少し憧れを抱きながら頷いた。
「さ、お粥、出来たわよ」
「え、そこまでしてくれるの?」
「ええ」
「沙織ちゃん沙織ちゃん」
「なに?」
「じゃーん」
由比ヶ浜さんが出してきたのはなにか黒い液体。なにこれ、墨汁?
「なにこれ」
「ホットミルク!」
こ、これがホットミルク?
ホットミルクといえば真逆の色なんだけど。なに、反転の能力でも持ってるの?
「はい」
「あ、ありがと……」
受け取ってしまった。
…………ここまで来たからには仕方がない。意を決して飲むと死よう。やばい、死を実感してる。
「いざ」
一気に飲み干す。
口から噴き出てしまった。赤い色の液体と混ざりながら。
また、目の前が暗くなった。
「由比ヶ浜さん、料理、しないほうがいいわ」
「ひどいゆきのん!?」
由比ヶ浜の料理スキル……