–––––死ね、カオナシ!
–––––生きてんなよ!
…………昔の話を思い出してしまった朝方。
これは昔の私だ。私は昔から感情がなく、それを理由にいじめを受けていた。それがだんだんと続き、日々に絶望していった。その絶望が、いつのまにか快楽へと変わっていった。
それからというもの、私は他人に絶望を強要している。私は絶望の先の希望へと向かっているのだろうか。
「さてと。今日も絶望の広報活動、しますかね」
制服をピシッと着て、家から出ると、青い髪の女の子が前を通った。
たしか名前は川崎沙希。弟に川崎大志とかを持つ立派なお姉ちゃんか。今度の標的はこい……!
「なにしてるのかなー?君は」
声がした方をみると、そこには知らない人がいた。
でも、見た覚えがあるような気がするこの人。
「やーっと犯人を突き止めたってのに、なんだかリアクションが薄いなあ」
低く少し怒りがこもっている声の人。
誰かに似ている気がする。
「誰だって顔してるから自己紹介するね。私は雪ノ下陽乃。あなたが不登校にした雪乃ちゃんのお姉ちゃんだよ」
なるほど。どうりで見たことがあるわけだ。
「私の可愛い雪乃ちゃんを不登校にして。君はなんの目的でそうしたのかな?」
「まあ、あなたが思ってるほど面白い理由じゃないですよ」
「そ。理由はなんだい?」
「なんとなく面白かったからです」
これ以外なにがある。私はそれしかできないから。世の中希望だらけではないんだ。絶望を与えていかないと、人間というのはすぐに調子にのる。私ってものすごーく優しいな!そんな人間を冷ましてあげるんだから。
「そんな理由で雪乃ちゃんを不登校にしたの……?」
「逆に聞きますがそれ以外に何があるんですか」
「ふざけないでちょうだい」
怒り心頭の様子。人が怒る様は滑稽で、面白いものだ。
「別にふざけてませんよ。ニンゲンは利己的なんですよ?人間の本能に忠実に従っただけですから」
「ふざけないで。あなたはやってはならないことをしてるのよ。雪乃ちゃんの邪魔をしないでちょうだい」
「あーはい。そっすね」
この人なんも面白くない。
面白みに欠ける。やっぱこんな裏がすぐ読める人ほどつまらないものだ。雪ノ下陽乃。妹ゆずりのつまらなさでもある。
「話はそれだけなら私は行くんで」
「話はまだあるわ」
「遅刻するんで」
「勝手に遅刻しなさい。私の可愛い雪乃ちゃんをいじめた罪は重いわよ」
「遅刻したらどうなりますかね」
「怒られるに決まってるじゃない」
「へえ、ナイフで刺されたりとかはしないんだ……」
ナイフで刺されたりするのなら、私はいつでも遅刻するのに。つまらないなあ。
「な、ナイフで刺されたりする……?何言ってるのかしら」
「ナイフで刺されたりする、窮地に追いやられるのが一番私が好きなものなんですよ。まさにそれって絶望的じゃありませんか?人々に絶望を与えていた私が、逆に今度は自分に絶望がふりかかる。そんなの最高ですよ」
感情が昂る。それは絶望を愛する者にとっては絶好のシチュエーションだよ。考えただけでもう……ね。
「あ、あなた頭おかしいんじゃないの?」
「そーですね。私ほどさいこぱすでをキチガイな人間はいませんねー」
絶望中毒の私は、いつしかサイコパスになっている。それは自覚している。自覚した上で、絶望を好いている。
「…………私はもう帰るわ」
「そうですか」
去っていく雪ノ下さん。
その雪ノ下さんに、こう告げた。
「また、会えるといいですね」
彼女は私に恐怖している。だから恐怖を倍増させてあげるのさ。