俺はドアをノックする。
「おい、由比ヶ浜」
ドアを叩いて呼びかけるが応答はない。応答せよ応答せよ!こちら比企谷八幡!大丈夫なら連絡をくれ!
なんて思っていると、小さい声が聞こえてくる。
「ひ、ヒッキー……」
「由比ヶ浜。学校へ来い。平塚先生も心配してたぞ」
「でも…私ヒッキーに合わせる顔ないし」
由比ヶ浜は空気を読む節がある。だから、合わせない空気を読んでしまうのだ。
「それに……私も悪いと思ってるんだ。たしかに言われてみれば原因を作ったのは私だしちゃんと謝れてないから……ごめんね、ヒッキー」
「そんなの俺は気にしてないし、謝れとも言っていない。学校へ来いって言ったんだ」
あのことはあの時で終わりだ。終わりにしたはずだ。いつまでも引きずってはいられないだろ。
「でも……」
由比ヶ浜が言葉につまる。
俺も、ボキャブラリーが少なく語彙力がこういう時に出てきたりしないので、ある話をすることにした。
「由比ヶ浜。一つ話を聞いてくれ。これは友達の友達の話なんだが
その友達はある男の子に声をかけた。その男の子はクラスの中心人物でお……その友達の友達にも優しかったそうな。それで、自分が一番仲良いと思ってしまい、体育のときにペアを組もうと提案した。すると
『あ、俺すでにペア組むやつ決まってんだ』
と断られた。仕方ないなと思いつつ、その時は先生と組んだそうだ。そして、放課後ジャージを教室に忘れて取りに行くとある会話が聞こえたんだ。
『○○谷俺にペア組もうって来たんだぜー?』
『わっ!きめえ!』
それをきいてその友達は泣きながら帰ったそうだ」
「それヒッキーの話じゃん……」
「バカっ、お前!俺の友達の友達の話だっつの」
決して俺の話ではない。
「…………で、何が言いたいの?」
「俺が言いたいのは、逃げずに戦えってことだよ。あの時逃げた俺は情けねえ……」
「やっぱヒッキーの話だったんじゃん」
「…………まあ、それでいい。由比ヶ浜。お前は逃げんなってことだ」
「…………でも、私は……」
「昔から言うだろ。『逃げるな、戦え。欲しなければ与えられん』というだろ」
「聞いたことないけど……」
「まあ、そうか。由比ヶ浜だからな」
「なんかそう言い方がムカつくけど……」
まあ、由比ヶ浜だもんな。仕方ないよな。
「…………まあ、そういうことで学校にこい。俺は待ってるから」
そう言い残し、俺は由比ヶ浜の家からでていった。
俺は自転車にまたがり、家へと帰っていった。雪ノ下は、また明日……だ。