失われた未来の先へ   作:大野海苔

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第2話

 

朝起きると何故か泣いている。

そういうことが起こるようになったのは、多分この日から___

 

 

彗星が落ちた次の日。

美しい糸守の町並みを見ることが出来ない初めての日。

壊滅的な被害を受けた町並みを照らしたくないのか、太陽はその顔をまだ見せない。

 

 

糸守高校体育館。

避難をしてきた大勢の人達が寝息を立てている中、目を覚ました少女がいた。

寝起きとは思えない神妙な表情を浮かべて。

 

 

「・・・・っ!?」

 

 

なんだかとても大事なことを忘れている気がする。

そんな気がした。

 

 

「あれ・・・なんで私泣いてるんやろう。」

 

 

気が付くと涙が溢れていた。

すかさず右手で拭う。

が___涙は止まららない。

 

 

「どうしたんやろうわたし。」

 

 

喪失感。

何かを失ってしまった。

何かとても大事な、大切なことを忘れてしまっている。

何故だろう。そんな気がした。

 

・・・・・・・

 

数分考えこんだが何も思い浮かぶことはなかった。

 

「はぁ。」

 

思わず溜息が溢れる。

 

「なんやのこの気持ち。もぅ。なんやの。」

 

駄々をこねる子供のように見えないものに悪態をつく。

その時。

ひとりごとを聞かれたのか、声を掛けられた。

 

 

「うぅん・・・何を言っとるんお姉ちゃん・・・」

 

「!!よ、四葉・・・お、おはよう。」

 

自分の世界に入り込んでいた三葉は、慌てふためいている。

 

「変なこと言っとらんとちゃんと寝んといかんよ・・・」

 

「・・・。」

「はいはい。四葉も寝んとね。」

 

 

はっきりした目覚めではなかったのだろう。四葉はまた直ぐに寝息を立てている。

すやすやと気持ちよさそうに眠る自分の妹を見て少し笑みが溢れる。

しっかり者の妹。

いつも可愛い私の自慢の妹。

思えば妹の寝顔を見るのは久しぶりだ。

 

 

「いつの間にか私より早起きになっとるでね。」

 

かわいい寝息を立てている妹の頭を撫でながら思う。

 

「これからは私ももっとしっかりせんとね。」

 

そんなことを考えながらはだけたかわいい妹の肌布団を直そうと手を伸ばした。

 

その時_____

 

2階の窓から差し込んだ光が、三葉の、白く美しい手を照らした。

 

「あれ?手になんか書いとる。」

 

「す、きだ・・・?」

 

三葉の頭の上にクエスチョンマークが並ぶ。

 

「なんやのこれ。」

 

首を傾げ、5秒ほど硬直した後気づく。

この三文字がとても大事なメッセージであることに。

 

「っ!?!?!?っ!?」

 

急いで開いていた手を握り拳に変え周りを素早く見渡す。まず四葉。そしておばあちゃん。その他。

よし。誰も見ていない。

恐る恐る握っていた拳をゆっくり開く。

 

 

すきだ_______

 

 

「なななななななんなんやのこれは!?」

「わ、わわわわわたし寝とる間に告白されとる!?」

 

即座に再び握り拳に変えた。

顔は紅潮し、完全に気が動転している。

落ち着け。落ち着け。自分に言い聞かせる。

 

再度あたりを見渡す。

よし。誰も見ていない。

何故だろう。全く悪いことをしていないのに、見られるととてもまずい気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここなら大丈夫やよね。」

 

三葉は握っている右手の上から左手を重ね厳重に警戒しながら、誰も起こさないよう音を立てず体育館を抜け出した。

移動した先は体育館裏に隣接されている女子トイレの洗面台の前。

 

「ふぅ。。。」

 

まずは一息。そして。

再びゆっくり手を開く。

 

「そ、それで、な、なんやのこれ。」

 

まだ少し動揺を隠し切れていないが、冷静に自分の手のひらを凝視する。

自分の手にしっかり書かれた告白を表す三文字。

健全で、ごく一般的な高校生であればこう考えるだろう。イタズラに決まっている。と

しかし、三葉にはこの言葉が、この告白がイタズラだという考えは微塵も湧いてこない。

 

「やっぱり避難した人の誰か・・・なんかな?やっぱり同級生?まっまさか下級生!?」

「寝、寝てる間に告白やなんて・・・大胆な人なんやなあ。」

「わ、わたしが昨日避難を主導してたその勇姿に惹かれた・・・?そ、それとも危機的状況からくる吊橋効果・・・?みたいなん?」

 

意味不明なことを考えていると。

気づいた。

 

「ああああああ!!!そんなら寝顔見られとる!!!!」

 

鏡の前で赤面したり、考えこんだり、忙しい様子の三葉。

何故だろう。

ドキドキする。

胸が高鳴る。

この文字を見ているだけで表情が緩む。

 

これまで告白されたことは何度かある。

母親譲りの端正な顔つき、親しみやすい性格、引き込まれるような笑顔。

男子達から人気を集めるのは自然なことだった。

 

ラブレターでの告白、呼び出されての告白。

どの告白も三葉はよく覚えている。全て断ったこと、ときめくことが無かったこと。

さやちんやテッシーからもったいないと言われるような相手もいた。

しかし、どんな人からどんな告白をされても、浮かんでくる感情は幸福ではなかった。

勇気を出して自分に告白してくれた相手に断りの言葉を入かけなければならない。という罪悪感と申し訳無さだった。

 

 

 

このたった三文字の告白は、どの告白よりも三葉の心に刺さった。

顔も。

名前も。

どんな人かもわからない人からの告白にも関わらず。

 

自分でもよくわからない感情に混乱する。

 

「誰なんやろう。。。」

「でもこんな気持ちになるってことは私も気になってた人・・・ってことやよね。」

「そんな人おらんよな・・・?」

「・・・・・」

 

ふと朝の喪失感を思い出し気づく。

もしかすると自分が探しているのはこの告白をされた人。なのかもしれないと。

心が通じあっていた人が自分にもいた。本当に僅かだがそんな気がしてきた。

そんな気がしつつ、でもそんな人がいたなら忘れるわけないよなあ。と自分で納得が出来ずにまた唸る。

 

「う〜〜ん。。。。。。う〜〜ん。。。。はぁ。」

 

駄目だ何も浮かばない。

でも確かに思うことがある。この文字は私にとって大切な言葉で、この文字を書いてくれた人も恐らく大事な人なのだろうと。

 

「消したくないんやけどなあ。」

 

消したくない。

できることなら毎日書き足してずっと残しておきたいくらいだった。

そのくらいこの文字には力がある。

 

「でもこんなん書いてるん人に見られたら。。。なぁ。」

 

間違っても友達、家族には見せられない。

見られたら間違いなく相手が誰かを尋ねられる。だが、その相手がわからない。

そうなれば自分で書いたことを疑われ、私は完全に変なヤツの仲間入りだ。

 

でも消したくない。

 

自分の手のひらにキスをしたいくらい、この言葉が愛おしい。

そんなことが一瞬頭をよぎり、三葉はまた顔を赤らめる。

ああああああ。と声にならない声で唸っていると、聞き覚えのある声から不意に声を掛けられた。

 

「あれ?三葉?こんなところでなにしとるん?」

「っ!!??」

 

元々変な声をあげていた三葉だったが、更に変な声を上げ、個室便座があるドアまで後ずさりし、右手を包み込むように左手を重ね胸のあたりに仕舞い込んだ。

この三葉のあまりの驚きように沙也加が驚かされた。

 

「ど、どうしたん三葉。な、なんかあったん?」

「な、な、なんでもないにんよさやちん。あはは。あっ、おはようさやちん。。。」

「お、おはよう三葉。。。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

「えっ、えーっとトイレしたいんやけど・・・。」

「あっ、ご、ごめん」

 

サッとドアの前から離れる。

 

「ど、どうぞ。」

「ど、どうも。」

 

 

沙也加がトイレに入ったのを見て、そそくさとトイレの外に出る三葉。

どうしようどうしようどうしよう。消さないと消さないと。。。

ここに来てまだ躊躇している三葉。

そして。閃く。

 

「そうや!写真に撮っておくやさ!」

 

そう思い付くと、素早くスマートフォンを取り出しカメラを起動する。

そして。

 

「 カ シ ャ ! 」

 

大きなシャッター音が静かな糸守高校に響く。

しかし、今の三葉は全く周りを気にしない。

人の顔を伺うことが多かった三葉とはまるで別人のよう。

 

よし。これで心置きなく消せるはずやさ。

トイレのすぐ外で満足気な表情を浮かべる三葉。

 

「み、三葉?な、なにしとるん・・・?」

 

「っ!?!?!」

「手の写真撮ってどうするん?」

「!?!?!さっさっさやちん!おかえり!!」

「えっ、た、ただいま。」

「えっえーっと。。。」

 

 

言葉が出てこない。

 

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

再び沈黙。

 

 

「ちょ、ちょっと記念にと思って・・・」

「な、なんの記念に・・・?」

 

 

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

「ごっごめんさやちん!!私ちょっと用事思い出したやさ!」

「えっえええ!?」

「それじゃさやちん!また後でね!!」

「ちょ、ちょっと三葉!三葉!」

 

 

呼び止める沙也加の制止を無視して三葉は校舎の方へと駈け出した。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「ふぅ。」

 

沙也加には悪いことをしたと思いつつも、再び一人の時間を得たことに少しホッとする。

移動した先は再びトイレ。校舎2Fにあるトイレ。

トイレから違うトイレにダッシュ。

自分の行動がおかしくて少し笑ってしまう。

 

 

一息つき、再度鏡の前に立つ。

蛇口を捻り、水が流れ出すのを見つめる三葉。

 

 

消すと決めた___はずなのに。

 

 

何故だろう。消すと二度と思い出せないような気がする。

何故だろう。消すととても後悔しそうな気がする。

 

 

大丈夫・・・大丈夫・・・写真もとってんやから・・・大丈夫・・・いつでも思い出せる。

そう自分に言い聞かせ、石鹸に手を伸ばす。

伸びした右手を見てさっき脳裏によぎったことを思い出す。

 

消した後に後悔するくらいなら___

 

そう思い、三葉は目線の高さまで右手を上げた。

 

すきだ___

 

この言葉を再び近距離で凝視する。

やっぱりだ。何故かドキドキする。頬が赤くなる。

 

自分の右手をみて恥じらう人間は自分だけだろうと思う。

頬を赤くし、目線が泳ぎながらも決心し、

 

そして___

 

自分の右手の手のひらに優しくキスをした。

 

頬だけではなく顔全体が真っ赤になる。

 

「っっっっっっ//////」

 

誰にも見られていないのにとても恥ずかしい。

でも___とても幸せな気分になった。

 

恥ずかしさが爆発した三葉は一心不乱に石鹸を右手に擦りつけている。

名残惜しそうに、幸せそうな表情を浮かべて____

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。
避難をしていたのはグラウンドだったと思いますが、体育館にさせていただきました。
その他にもおかしいところが多々あるのではないでしょうか。。。申し訳ありません。
基本的には三葉視点の話ばかりになります。一人で考え込んでいる三葉が愛おしくてたまりません。。。
仕事が忙しく書く時間がなかったのですが、これからは更新頻度上げていけそうなので頑張ろうと思います。
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