【名詞】1.(可算名詞)(宗教上または国家的・社会的な公式の厳かな)儀式、式典
2.(不可算名詞)(社交上の) 儀礼、作法; 仰々しさ
2-1-1"Ceremony"
南洋日報電子版
皇国海空軍ウィッチ、南沙諸島のネウロイを撃破。シーレーン防衛に重大な貢献。
2017年6月26日(月)午後4時43分
【新発田・シンガポール支局】
人類連合軍東アジア司令部の発表によると、人類連合第203統合戦闘航空団は本日午前、南沙(スプラトゥーン)諸島に潜伏していたネウロイを補足、撃破した。撃破したネウロイは新型種であると報じられている。南沙諸島は我が国のシーレーン防衛において重要な地域であり、南遣艦隊司令香椎(かしい)中将は「今後は、より徹底した哨戒網の構築、並びに南方展開戦力のより一層の増強に努めなければならない」と語った。
第203統合戦闘航空団には、我が国より海空軍のウィッチ、並びに艦隊戦力が供出されている。
<社説>若き翼 南洋で活躍 203空の光と影
今月二五日に南沙(スプラトゥーン)諸島沖で発生した戦闘で発見されたネウロイについて、人類連合軍東アジア司令部は新種と断定し、メインマストと命名した。この戦闘において南沙諸島近海のネウロイは無事に掃討され、扶桑皇国を含む周辺諸国には直ちに影響はないという。この討伐を行ったのは扶桑皇国・極東オラーシャ・華僑民国の三国共同で設立された第二〇三統合戦闘航空団である。
第二〇三統合戦闘航空団、通称「ゴールデンカイトウィッチーズ」が発足したのは記憶に新しい。設立後一月あまりでありながら、すでに部隊通算のネウロイの撃破数は二桁にのぼり、扶桑皇国海軍が誇る第一航空戦隊「一航戦」と肩を並べようかという撃破ペースで快進撃をつづけている。その攻撃の中核を担うのは、扶桑皇国海軍の大村のぞみ海軍准尉(十三)と同空軍米川ひとみ空軍准尉(十二)の二名のまだ幼いという表現が担う士官候補生だ。
軍属の魔女の低年齢化においては度々議論の的になっているものの、その度に空海軍を中心とした国防体勢の維持のためにやむをえない処置として認可されてきている。その解釈がいよいよ国際協調の場にも持ち込まれた形であると解釈できよう。ウィッチの幼年化について歯止めを掛けようとする動きは既に歴史の教科書に記載されるほど過去の遺物になってしまった。
ガリア=インドシナ戦争後期は現状ととても似通った状況である。インドシナ半島周辺の地域にとどまらず世界各国から義勇兵としてウィッチが参加し、泥沼化したインドシナ半島を救うべく活躍した。しかしながら、ジェットストライカーが全面的に使用されたインドシナ戦線ではウィッチの「損耗」が激しかった。損耗と言えば穏やかだが、実態は二度と飛べなくなったウィッチの墓標が増え続けていたのである。
プレティーンやローティーンのウィッチの軍属禁止運動はその状況を知った1人の母親が声を上げたことから始まった。まだ幼いウィッチに世界平和の実現という重すぎる命題を預け、ウィッチが使い潰されている現状を糾弾するその活動は、国会への乱入事件等を引き起こした一大社会現象となった。それは瞬く間に世界中に広がり、幼いウィッチの採用、徴用の自粛をもって結実したこととされた。
苦い勝利ではあったが、それらの活動により十五歳以下のウィッチの投入が全世界的に咎められるようになり、それでもネウロイに蹂躙されることなく、戦線の維持が可能になっていた。ウィッチをしっかり時間をかけて錬成できることで生存率も上がり、守り切ることができること、幼いウィッチの才能に頼り、やみくもに数を増やさなくとも、ネウロイに対抗できるようになったはずであった。
しかしながら、二〇〇一年リベリオン東海岸を襲った
中東及び欧州方面の旗色の悪さのために設立が前倒しとなった「未熟な」部隊である二〇三空。その活躍を喜ぶべきか、こんな幼子を前線に出さねばならない体たらくを嘆くべきか、一扶桑人として悩ましいばかりである。
「で、これをどう思う?」
「……すごく、おおきいです」
「阿保か」
机に座った相手は何の感傷もなくそう吐く。無感情に平べったくにそういうことを言われると意外とグサリとくるものだが、別にこっちだって返したくて返している訳ではない。だが
まあそれはともかくとして……目の前に放り出されたのは数版の新聞紙や週刊誌。論調は様々であるが、どれも203空ことゴールデンカイトウィッチーズに関する文章だ。その一つを取り上げ、眺めてみる。
まだまだ203の実力に疑問を呈する記事があることからも分かるだろうが、この多国籍部隊は決して強いというわけではない。そもそも団長含めて僅か五名のウィッチ。一個小隊分の戦力しかないのである。精々が母艦の防空戦力。それ以上の戦力としては使えない。
そして、それを目的に編成されていた。そのはずだ。半島にて厳しい戦いを強いられている扶桑が世界に送り出すのは
……蓋を開ければ退役間際のベテランウィッチに率いられた幼いウィッチばかりの部隊。まあ、オラーシャ軍が派遣したウィッチだけは実戦経験豊富な中堅ウィッチのようだが――――それにしたってお粗末なものだ。
それをこうも祭り上げるとは。
「……
すると向こうは、小さくため息。
「今後この部隊を載せた空母加賀はシンガポールの東アジア司令部の指揮下に入ることになる」
「は?」
「言ったままだ。203は
「ちょっと待ってください。
203空は東京の極東アジア司令部にて運用する。そういう話ではなかったのか。
多国籍部隊たる統合戦闘航空団は、人類連合軍直轄の部隊である。しかし世界中に広大な戦線を抱える人類連合は各地に司令部と軍集団を設置することで戦場を管理しており、実際の作戦では各司令部の指揮下に入って行動するのだ。
つまり203がシンガポールの指揮下に入るというのは、彼女らの戦場が移動するということを意味する。
「貴様も知っての通り、
「……新編部隊をいきなり実戦投入して鍛えるなんて、いつから皇国軍は懐古主義になったんですかね」
思わず頭を抱えたくなる。だが頭を抱えても何も解決しない。実戦叩き上げは確かに強いだろう。ウィッチならシールドも張れる。そう簡単に万一の事態は起きないと言えるかも知れない。
だがそれは昔の話だ。音速を超える戦闘機動はウィッチに信じられないほどの負荷をかける。パニックに陥りとんでもないことをするかもしれない新人をホイホイと前線に送り込んではならないのだ。なのに。
「これは決定事項だ」
「……文句を言う気も覆す気もありませんけどね、海軍は空母を失ってもまだ遣欧を下げないとは。驚きですよ」
「第五航空戦隊は遣欧艦隊として人類連合の指揮下にある。扶桑の匙加減では動かせないのだよ」
先日沈没した航空母艦「和泉」。正規空母を失ってしまった扶桑は今、文字通りのピンチである。それこそ1975年の函館以来、本土戦を許してしまうかもしれないというほどの由々しき事態なのだ。
ああ、そう言えば「和泉」乗員の救出でも203空は活躍したんだったか。203の実力を否定するつもりは全くないが、それでも撤退戦だからこそ活躍できたのだ。
203は順当に考えて華僑民国の支援か対馬海峡の封鎖、せめて「和泉」の穴を埋めるべく回航されるであろう二航戦の後を継いでオセアニア方面の警備に充てるべきだろうに……。
「安心しろ。既に海軍は予算でのテコ入れを決定しているし、人類連合だって203に戦線の維持を期待しているわけではない。普通に欧州まで行って、その最中に何度か航空支援に参加してもらうだけでいいんだ」
「でもスエズ攻略には参加させる、と」
「新発田」
たしなめるような口調……相手の顔は、残念ながら壁際の窓から差し込む光が逆行となって見えない。
「華僑、オラーシャ、扶桑。既に203はこの三国だけの存在ではない。少なくとも国際世論はそう認識している」
「……」
無言で睨んでやる。
混迷を深める中東・西アジア戦線のことは彼だって知らない訳ではないだろう。
ここらは交通インフラが未整備であり、軍は欧州方面ほどの機動力が確保されない。一方ネウロイの進撃速度は変わらない。鈍足の人類と、神速のネウロイ。防戦一方ならともかくとして、攻勢となればにっちもさっちもいかなくなるのである。
「残念だが、203が海上戦力であるという事実は変わらない」
中東戦線の攻勢は
「で、私はなにをすればいいんです? 従軍記者らしく磨り潰される少女の写真を撮ってこいなんて言われたら流石に怒りますけど」
「そう話を急くな。言っただろう、203は
「と、いいますと?」
「ブリタニアとリベリオンが乗り気だ。列強の一員としてアジア戦線は支えねばならないが、あれらがアジアに展開できる余剰兵力はないだろうからな」
「2、3人の増員で済ませるわけですか。彼らのやりそうなことです」
世界がネウロイの侵略にさらされている。誰もがネウロイの殲滅を願い、そしてそれをすぐに成しえない政府に腹を立てている。203に参加してアジアの平和を守ったなら、機動艦隊を派遣するよりリーズナブルで皆満足という訳だ。
まあ、同じように形式的派遣をしようとしたのがそもそもの203なのだが……政治は都合よくコロコロと変わってしまうものだから仕方がない。
「ともかくだ。203はアジア、ひいては国際世論の関心事だ」
「心得てますよっと」
「もっていけ」
その言葉と共に、飛んでくる小さな箱。なにかと思えば、手帳サイズの折り畳み式ボードゲーム。
「……なんですかこれ、1ドルショップでも買えそうですけども」
「餞別だ、もっていけ」
そう言われては仕方がない、何も言わずにそれを鞄に仕舞う。それを認めた上司は、話は終わりだと言わんばかりに背を向けた。
部屋を出る。廊下を進む。階段を降りる。
と、風に乗って何かが飛んできた。反射で掴むと、それはブリタニア語で書かれた新聞の切れ端。
「おや」
やけに丁寧に切り出された新聞記事。誰かこれをスクラップのコレクションにでもしようとしたのだろう。それにしても、何日前の記事だろうか。ブリタニア語で明るいことばかり綴られている。添えられた写真に写されているのはやけに若いウィッチ。
【アジアの希望の星、第203統合戦闘航空団本日入港!】
「ふぅん、そういうものですかねぇ……」
彼ら曰く、203はこの決していいとは言えない南アジアの戦場を変えてくれる存在とかなんだとか。
変えてくれる?
中隊にも満たない規模の部隊が変えるのか? 何十年も続くこの混迷の戦線を? ネウロイとの戦争を?
その紙きれをそのまま風に落とし、
そして目指す先にも帝国主義の残滓……ブリタニア海軍が誇る巨大ドックがそびえ立っていた。
ここはシンガポール。地球の真ん中に宝石のような輝きを散りばめた、南国の楽園だ。
「やっほーひとみん、今日もいい天気だねぇ!」
「霧堂艦長……おはようございます」
扶桑皇国空軍のウィッチ、
「かんちょー暇ですねぇ」
そう言うのは隣のスツールに座っている
「いやそりゃ暇さあ、だって「加賀」の総員退艦が済んだのは昨日のことだもの」
「せめて両舷上陸って言いましょうよ、縁起が悪い」
のぞみがそう言っても、強襲揚陸艦「加賀」の艦長を務める
「で、そんなことより私が気になるのはひとみんの調子さ、どう? 元気になった?」
そう言う霧堂艦長、ひとみは先日の戦闘で――――というか、遭難で――――高熱を出してぶっ倒れ、とりあえずシンガポール入港と同時に地元の連合軍病院へと叩き込まれたのだった。久しぶりの揺れないベッドは懐かしいと同時に、203の皆と離れた夜だったので少し寂しかったけど……。
「はい、もう大丈夫だと思います」
「そりゃあ良かった良かった。じゃあ今日の受勲式は大丈夫だねー」
「へ? じゅくんしき?」
鳴り響くファンファーレ。扶桑を出港した時もこんな金ぴかの楽器を持った人たちが見送ってくれたっけ。その音楽を聞きながら高らかに南の風にたなびくのは世界地図をモチーフにした人類連合旗。そこに扶桑、オラーシャ、華僑と国旗が続く。
「こ、ここ、こんなところに来てよかったんでしょうか……?」
そんな晴れやかな舞台、それを一目袖から見ただけでひとみはガッチガチに固まってしまっていた。あれよあれよと正装である純白の空軍下士官制服に着替えさせられ、そのまま霧堂艦長に連れてこられたのがいきなり式典会場なもんだからたまったものじゃない。なんかすごい偉そうな人とかいるし、扶桑の人だけじゃなくて外人さんもいっぱいいる。
「何を委縮してるんだ。米川」
そう言うのはひとみの上司、第203統合戦闘航空団の団長である
「で、でも石川大佐ぁ……」
「式典がどうした。狙撃でもない限り大丈夫だ、落ち着け」
「そ、狙撃……!」
そんなひとみの反応を見てしまったという顔をする石川大佐。もちろん手遅れである。なんせ弾道固定の固有魔法を持つひとみは最近狙撃の勉強をしたばかり。もちろん、狙撃で命を散らした有名人たちのこともたくさん知ったばかりだ。
そう、もしこの場で狙撃されたなら……。オープンカーに乗ったリベリオン大統領の姿がありありと頭に浮かび、ひとみはギュッと目をつぶる。
「ふん、狙撃なんて大したことねーでやがりますよ」
そう吐き捨てるのは
「……ひとみ、大丈夫」
そう言うのはオラーシャ空軍所属ののっぽな少女、プラスコーヴィヤ・パーヴロヴナ・ポクルィシュキン――ひとみたちはコーニャと呼んでいる。階級は中尉で、石川大佐の次に偉い。落ち着き払っているように見えるが……稀によくとんでもない言動をしでかすことは、皆が知っていることだ。
「まったく米川、なーにをそんなに堅くなってるんだか。勲章なんて名誉なことじゃない」
「で、ですけど先輩、わたし。なにもしてないんです」
そう言えば、のぞみはひとみへと向き直る。
「あのねぇ米川。私たちはもう立派なエースなんだよ? 203空はもう立派に務めを果たしてる、それをわざわざ勲章なんて形にして祖国が祝ってくれるの、ありがたいと思わないの?」
「そ、それは……」
「なら貰っときなさい、あんたがみんなを守った証拠なのよ?」
みんなを守った証拠……そうだ、まだ扶桑を出て一ヶ月と少ししか経ってないけど、いろんな所に行った、いろんな景色を見た。わたしが初めて行く場所には人が住んでいたり、戦っていたり……誰もいなかったり。
地図で見ていた扶桑も小さいけど、わたしはもっと小さくて。今まで見てきたのは世界のほんの端っこに過ぎないのだって、そんなことも改めて知った。
でも、わたしは前に進んでる。あの501が活躍した欧州の空に、前よりもずっと近づけた。そう思うんだ。
「よし、いくぞ」
石川大佐が前に進み、ひとみたちは後に続く。式典が始まろうとしていた。
視界の中で国家が動く。国家とは物理的には存在しえないが、新発田に言わせるのなら制服をもって国家はこの世界に顕出する。
制服とは即ち壇上に佇む海軍中将であり、彼を取り巻く参謀たち。
そして彼らが神のように仰ぐ扶桑国旗。それが翻る横には、華僑民国とオラーシャ帝国の国旗が、同じように各国の将校たちが並ぶ。まるで何世紀も前から仲良しこよしであったかのように。
「それにしても、受勲とはまあ……」
呆れたように呟いて見せる。もちろんヒトひとり程度の呟きなど大衆のざわめきに埋もれて消える。
勲章とは名誉であると同時に、国がヒトを縛り付ける格好の手段でもある。
退職した御老体に贈られる勲章ならともかく、若者に贈るそれは楔だ。戦場に縛り付ける楔だ。
海軍中将がにこやかに少女たちに歩み寄り、どこかで聞いたことのあるような謝辞と共にキラキラと輝く勲章をふかふかの座布団から持ち上げる。そして敬礼したままの少女――――そう、本当に小さな少女だ――――の胸へとかける。
勲章はネウロイを倒すのにも、自分を守るのにも使えない。金メダルがあっても人種差別は乗り越えられないし、貴族サマだって領地と臣下を失えば着飾っただけの人間だ。
わっと歓声が沸いたのは気のせいなのだろう。軍楽隊すら黙りこくって真面目に聞いている。これは式典なのだ。
少女がカクリカクリと変な動きになりながら下がる。米川と紹介されている彼女は、扶桑空軍から出向してきたと聞いている。それも、幼年学校を一か月と少しで卒業したとか。
エリート? 冗談じゃない、死地に送り出しているだけだろう。
皇国空軍も落ちぶれたものだ。体質や魔力の性質で乗機を決めたり、自動化ばかりに頼ってウィッチの訓練を怠ったり……挙句の果てには人員の早期投入ときた。
「米川さん、あなたはそれでいいんですか?」
新発田の言葉は、青空に消える。軍楽隊は再び盛大に奏で始めようとしていた。
「ご苦労だった、今日の日程はこれで終わりだ。俺は北条司令と香椎閣下の相手をしてくるが……お前らは羽根でも伸ばしてくると良い」
「了解です大佐!」
石川大佐は頷き、会場の方へと戻っていく。さっきひとみたちに勲章を下げてくれた偉い人たちとの食事会があるのだという。
「やっと終わりやがりましたね」
やれやれと言わんばかりに頭の後ろで腕を組む夢華。
「そーいうこと言わないの。大事な式典なんだから……って米川?」
のぞみが振り返ると、ひとみはそこに突っ立ったまま。
「あははは……」
「おーい、よーねーかーわー?」
のぞみが目の前で手を振って見せるも反応がない。まるで英雄を讃える銅像のよう……いや、それにしては表情筋がだらしなく緩み切ってい過ぎるというもの。
「あーあ、ダメだこりゃ。流石の私もお手上げだよ」
「ひとみ、頑張った」
「まー米川にとっちゃ檜舞台みたいに感じるだろうけどねぇ……あんなの序の口よ?」
「
「そりゃあ知ってるからねぇ……って。ちょっと米川、姿勢正して」
「ふぇ? なんですかぁ先輩?」
次の瞬間、建物から影が飛び出してくる。
「え?」
それも一瞬、一瞬で影は踏み込んできて――――
――――米川に
「どもっ恐縮です、南洋日報ですぅ! 一言お願いしますっ!」
「ふえっ!? こっ、殺さないでください!」
「殺さないですよ!?」
「待った米川、そのネタ扶桑人にしか通用しない……って、通じてるっぽいしそもそも南洋は扶桑系か……」
のぞみがよく分からないことを言っているが、とりあえず殺される心配はなさそうだ。ひとみは襲って(?)来たらしい人物を見やる。アロハシャツに半ズボン。いかにも南国してそうな格好の女のヒトだ。
「えっと、どちら様……でしょうか?」
「はい、
「え、英雄……扶桑の、英雄……」
またも思考回路が壊れそうになりそうなひとみ。のぞみが割って入る。
「あー申し訳ないんですが記者さん。ここは軍の区画でして、必要に応じてブリタニア法律が適用されますが」
「えっ、のぞみ先輩? そんな言い方しなくてもいいんじゃ……」
「米川。ここは式典場とはいえ軍の敷地内だ。一般人が入ってくる場所じゃないんだよ。それに取材があるなんて話は聞いてない」
振り返れば、コーニャも新発田のことを睨んでいる。夢華なんて使い魔の耳を出していて、完全な臨戦態勢だ。
一方の新発田は、怯えることも笑みを崩すこともない。
「もーやだなぁ大村のぞみ氏、ちゃんと許可証は頂いてますって!」
そう言いながらやけに大きいショルダーバッグを開き、許可証を取り出す。受け取るのぞみ。
「……従軍記者?」
「ええ、南洋日報より扶桑皇国海軍に派遣されました! 石川大佐にお会いしたかったのですが……丁度第203統合戦闘航空団の皆さんがいらっしゃいましたのでご挨拶と取材をしようと思いまして!」
のぞみは黙って許可証をじっと見ていたが、やがてそれを返す。
「……許可あって立ち入ったのは理解しました。ですがこちらでは対応しかねます。遣欧艦隊司令部か石川大佐の方に直接お問い合わせください」
「そうですか……では、写真だけでも!」
そう言いながらショルダーバッグからカメラを取り出そうとするが……のぞみはそれを手で遮った。
「とにかく、お引き取りください」
有無を言わさぬのぞみ。新発田はガックリと肩を落とすと、さも残念そうに言った。
「……はぁい。では、今日のところはこれにて失礼します」
そうトボトボと帰っていく。なんだかその後ろ姿が寂しそうで、ひとみはその後ろ姿に向かって言った。
「あの! 新発田さん! こんどきっと、取材に来てくださいね!」
すると相手は、くるっと振り返って笑顔を向けた。
「ではその時は青葉とお呼びくださいっ! 次会ったときはFriendsですからねっ!」
「はいっ!」
ひとみも笑顔で青葉を見送る。来た時と同じ、すばしっこい動きで角の向こうへと消えていく。
するとのぞみが、真後ろで盛大にため息。
「……米川ねぇ。軍人は記者に向かって勝手なこと言っちゃいけないの」
「え?」
振り返ると、のぞみは不機嫌そうにひとみの前に立ちふさがっていた。
「こんどきっと……てさ、米川はそれを保証できるわけ?」
「それは……できませんけど」
「米川。私たちは軍人だ。軍人とは国民・国家を守る存在だ。それがもし『ネウロイに勝てません』なんて言ったらどうなると思う? 世の中大混乱だよ?」
「でも……! 可哀そうじゃないですか」
そう言うと、のぞみはさらに眉間のしわを深くする。それからビシッとひとみに人差し指を突き付けた。
「じゃあ、アンタはそれ全員に言えるの? 世界中の人に可哀そうって、それで私の力でなんとかしてあげられますよって」
「そ、それは……」
「なによりも、軍人は国家のもの! 勝手な行動は勿論のこと、発言だけでも絶対に許されるものではない! 特に報道記者は世界と繋がってるんだ、アンタは世界に向けて行っちゃったんだよ? 責任はだれがとると思ってんの、アンタじゃない石川大佐だ!」
「ひぅっ……ごめん、なさい……」
肩をすくめるひとみ。ちょっと元気づけてあげたかっただけなのだ。でも先輩のいうことは正しくて、それに気が付かなかった自分が情けない。なによりこの場にいない石川大佐に迷惑が掛かるなんて思いもしなかった。先輩が怒るのも当然だろう。
「……のぞみ、そのくらいにする。十分伝わった。それに……今のはのぞみにも当てはまる」
のぞみの更なる追撃を止めたのはコーニャだ。のぞみは盛大にため息をついて見せる。
「そのくらい分かってるわよ……ったく、ポッドキャスト中尉は甘いんだから」
「のぞみ」
名前は訂正せず、少し睨むだけに留めるコーニャ。のぞみはバツが悪そうに肩を竦めた。
「悪かったって
「いえ……ごめんなさい」
「ま、今度からは互いに気を付けよう。どうせあの記者とは長い付き合いになりそうだし、甘い顔しといて損はないって考えれば大したことないない」
「長い付き合い? あんな胡散臭いのとなんでそうなるんでやがりますか?」
夢華がそういうと、のぞみは打って変わって明るい表情を作る。
「あーゆめかは扶桑語読めないもんねー。許可証に何が書いてあるのかしらないもんねぇー?」
「……そもそも許可証に目を通したのはあんただけでやがりますよ」
「まあそれはそうなんだけどさ。あの人、五航戦の従軍記者だ」
従軍記者?
「え、それって……」
「そ、あの人は「加賀」に乗り込む許可を取ってるってわけ」
「じゃあまた会えるってことですか?」
「あーうん。まあ、そうね……」
良かった、ということは嘘にはならなかったのだ。ほっと息をつくひとみ。先輩に怒られてどうなることかと思ってたけれど、どうにか責任とかそういうのにならずに済みそうだ。
「……あーもう! はい! この話終わり! 終わり!」
どこか振り切るようにブンブン頭を振ってから、のぞみは駆けだす。
「行くよ米川!」
「えっ? 先輩!? どこ行くんですかぁ!」
「大佐は羽を伸ばせって言ったんだ! 観光に行こう! 観光!」
「ま、待ってくださいよぉ!」
どんどんゲートの方へと走っていくのぞみ。ひとみはそれを追いかける。
「夢華、行くよ」
「……はいはい」
それに続くコーニャと夢華。ゲートの先には、太陽を受けて輝くシンガポールの中心街が聳え立ち、空はペンキをぶちまけたような青一色だ。
さて。ゴールデンカイトウィッチーズ第二章、いよいよ幕開けです!
そしてごめんなさい。久々の更新だというのに全然女の子がキャッキャウフフしてないです。これから!これからたくさんやるから!
というわけで第二章ではシンガポールから始まります。南洋の宝石シンガポール。ちょっと怪しい雰囲気もありますが……203空再始動です!
当面は週一投稿となります。それではまた来週!