背中を激しく叩きつけるような衝撃波、空はかき乱され、意識はポテトサラダにマヨネーズをぶっかけたようかのようにぐちゃぐちゃにされ、息すらも詰まりかける。マルチバイザーに表示される計器が狂ったようにグルグル周り、正常な値に戻すのに一秒はかかってしまっただろうか。
実戦ならもう死んでる。それほど長く翻弄された。このアタイとしたことが情けない。
それにしても……いったいなにが? まさかネウロイの襲撃?
「ティティ! シャン!」
大空に向かって叫ぶ。もう陣形なんてないも同然だ。それ以前にあいつらは生き残ってるのか?
見えるのは、
ネウロイの襲撃では、ない。
「まさか……」
誘導弾の使用は禁止だ、武装はペイント弾が込められた小銃だからあんな爆発は起こりえないし、固有魔法や魔力の過剰集積による爆発なら何らかの
共通回線を開く。演習にて万一の事故や緊急の伝達がある際に用いられる回線だ。
「
《uwa-n! gomennasaaiii!》
即座に反応、何語だこれ……あぁ、この耳を撫でまわすような感じの言語は扶桑語だったか。
しかし全くなにを言っているのか分らない。これが噂に聞く”
すると別の声が返ってきた。今度はしっかりとしたブリタニア語だ。
《何してく
なんだこの無駄に丁寧な返しは……どう考えてもアタイのこと馬鹿にしてるでしょ?!
その言葉を放ってきているのであろうF-35Bがクルリと回転し、それから銃先が向けられる。ルールに従っていればなんでもいいと言わんばかりにチロリと光る。
本能的にロールを打っていた。空を切る弾丸。連射ではない。
だが、ロールを打ったことで頭に血が戻って来たのか戦場が見えてきた。
とりあえず落下していくシャンは見えた。ティティは多分生きてる……はず、というかティティまで落ちてたら
それにしても……
つまりさっきの爆発と衝撃波はオーグメンターの使用による爆発的な魔力反応だったわけだ。すれ違いざまにヨネカワ――一番弱そうなくせにアタイのルークを奪った泥棒猫ーーだけがオーグメンターで超加速し、丁度一番機同士ですれ違ったシャンにその大爆発が直撃、見事に一機撃墜と相成ったわけだ。
……だから、格闘戦形式は嫌いなのよっ!
昨日まではお気に入りだったが今日からは大嫌いだ。格闘戦演習の評価を地獄にまで叩き落し、無線に怒鳴りつける。
「
《
そう言いつつF-35Bが発砲、聞く気はさらさらないらしい。
「
そう叫びながら撃ち返す。折角のプランが台無しだ。シャンは墜ちるし、ティティはどこ行ったか分かんないし、そして何より
《
ティティの声……! どこっ!?
それがレクシーの注意を全体に拡散させた。彼女にとっては、それが幸運であった。
瞬間身体を貫くような殺気。いや殺気じゃない。でも突っ込んでくる。反射で張ったシールドに確かな手ごたえ。
「くぅうっ……!」
銃弾だ。目の前に立ちふさがるブリタニア語と小銃を使うF-35Bのじゃない、別の方角から来た、弾丸。
目線が飛ぶ、空を探す。見つけた、ヨネカワだ。ヨネカワがとんでもなく遠くから銃弾を放ってきたのだ。F-35Bがさも悔しそうに毒づく。
《
狙撃か。そのためにオーグメンターを使って距離を取るのか。そうやってアタイの手の届かないところから、アタイのルークを奪いやがったのか。この、このっ……!
「……
戦略など知ったものか、レクシーはキロ単位で離れているであろうF-35Aへと突貫した。
「
あえて聞こえるように英語で毒づいてやったのぞみは、しかし予想以上の戦果に内心ホクホクであった。
もともとオーグメンターの使用はYONEKAWA――――ひとみが格闘戦に巻き込まれないための策だったが、まさかガリアのラファールがひゅるひゅると落ちていくとは思わなかった。
爆風に煽られたぐらいでぶっ壊れるほどストライカーユニットはヤワじゃないから、恐らくウィッチの方が失神したのだろうが……。
「……こんなことなら、全員でオーグメンター吹かせば三機とも落ちたかもね。
そんなことを呟きつつのぞみは愛銃である
目の前にはひとみの狙撃を間一髪で防いだリベリオン海兵隊のハリアー。
適当に撃ちつつ無線で抗議に返答する風を装いつつ煽り、注意をこっちに向かせられれば米川の狙撃で一発だと思ったのだが……まあ一瞬で作ったプランなどこんなものだ。失敗するのは仕方ない。
それに、ちょっと戦闘時間が延びるだけのこと。
《
突っ込んでくるハリアーは牽制程度にしか撃ってこない。狙撃手であるひとみを一気に落とすつもりなのだろう。
「ゆめか!」
《
了承の意が名前の訂正なのはもはやお約束のコンビネーション。とにかく夢華が
「30秒持たせなさい! 米川っ!」
《ハイッ!!》
打てば響くひとみの返事。ハリアーへの狙撃は失敗こそしたがひとみの動きは良かった。なにより、あれだけYONEKAWAYONEKAWAと
……いつの間にか、成長したものだ。もっとも、戦場では一撃で落とせるようにならなきゃダメなのだけど。
「私らで残ったホーネット潰すよ!」
既に3対2、勝負はついたも同然。全力でホーネットを潰し、その後総力を持ってハリアーをやる。夢華の固有魔法は未来予測、時間稼ぎならいくらでも出来るだろう。
「さぁーって、
どうせ帰路の魔力を気にする必要はない。躊躇いなくオーグメンターオン。のぞみが構えるロクヨンは大口径の7.56㎜弾。反動で狙いが付けづらく、陸軍では弱装弾使用が前提とされるくらいの曲者だ。
しかし、半面威力は絶大。そしてなにより、のぞみの固有魔法である怪力を持ってすれば反動など計算に入れる意味もない。
照準が重なる。目標はF-18を操るアウストラリス空軍ウィッチ。金色のおさげに使い魔のカラフルな羽根に爽やかな青色の制服。そんな少女の顔が恐怖に染まる。
ついつい口角が吊り上がる。ブリタニア系の国籍マークはまるで射撃の的だ。別にそこを狙う訳じゃないが、中央にいる白色のカンガルーを撃ち抜く気分で引き金に指を乗せる。
「墜ちろ蚊トンボォォォォッ!」
引き金を引く。慣れっこの反動が来るのと同時に飛び出していく三発のペイント弾。設定は連射ではなく三点射撃。あくまで決定打はひとみに譲り、相手のシールドを確実に展開させることが目的の射撃だ。
しかしシールドをむやみやたらに張ることの愚は相手も当然知っている。
まるでミサイルの様に飛び上がると、固定翼機じゃ考えられないようなジグザグ機動で高度を徐々に取っていく。足に取りつけるような格好になっているおかげで実質的に噴射ノズルがフレキシブルな
さっさと済ませて夢華の援護に回りたいところだが、そのためには相手をひとみに対して無防備にさせる――つまり、こちらに対してシールドを使わせる――必要がある。
よく狙って、撃つ。F-35は戦闘機動を得意とする訳ではないが、今の相手はF-18、こちら以上に格闘戦が苦手な機だ。
「墜ちろ! ほら墜ちろっ!」
焦らすように弾をばら撒く。ネウロイと闘っていると忘れがちだが、敵を焦らせるのは立派な戦術だ。実際、アウストラリスのウィッチは完全に錯乱しているご様子。しかし流石に演習相手として出てくるだけはあり、なかなかシールドを使わせることが出来ない。
「逃げてばっかりで良いわけね? なーらこっちにも考えがある。米川っ、撃て!」
指示を待っていただけのひとみが間髪入れずに射撃。彼女の装備はカールスラント製の狙撃銃であるワルサーWA2000。さらに固有魔法は弾道補正。
「!?」
シールドを使う以外に防ぐ方法などない。遠距離から高速で叩き込まれた7㎜弾が、ホーネットの行き足を無理矢理止める。
「もらったぁ!」
一気に距離を詰めるのぞみに慌てて振り返り、顔を真っ青にしながら彼女は引き金を引く。
「
動体視力が良くなくたって弾丸が飛んでくるのは分かる。当たれば痛いがまあ当たるような弾道ではない。のぞみは身体を捻って躱そうとし――――
――――目の前が真っ赤に染まった。
「のぞみっ!」
悲鳴にも聞こえる声を出したのはコーニャだ。天幕の中には大量のモニターが並べられ、詰めかけた将校たちに情報を提供している。ここでならスタート直後に落伍したガリアのウィッチが無事に回収されたことだって分かる。
だからこそ、目の前に写された映像をコーニャは信じられなかった。
「……」
空が、
モニターが写すのは爆炎。先ほどまでのぞみがいた空を焦がす炎。
反射的に魔力を開放。使い魔であるヘラジカの尾と耳が生えて、コーニャは手近なコンピュータ-へと手を伸ばした。接続。演習中の各機のモニタリング情報。カイト・ワンを探すが……ノイズまみれで聞こえない。視えない。
「これはどういうことだ」
コーニャの気持ちを代弁したのは203空の司令である石川大佐。北条司令も驚きを隠せない様子で、霧堂艦長だけが小さく息を漏らす。それから振り返った。
「まさかとは思うけど、実弾を混ぜてたんじゃないでしょうね?」
もちろんその台詞はブリタニア語で放たれたもので、向けられたのはアウストラリス軍の佐官。
演習の連絡役として派遣されてきたアウストラリス軍人は、向けられた霧堂艦長の視線に対して微笑んで見せた。
「どういうこともなにも、アレが彼女の固有魔法ですよ」
「固有魔法だと?」
石川大佐が怪訝な表情を浮かべ、それに対し表情を変えずに頷くアウストラリス軍人。
「ええ、そうです」
「……ポクルィシュキン中尉」
「ん」
言われるまでもない。モニタリングから広域魔力モニターに切り替える。ウィッチのより効率的な魔法運用を促進するために設置されたセンサー類とその膨大なログに蓄積された魔力の拡散具合を瞬時にザッピングすれば、大した時間もかからずにある仮説が出来る。
「ホーネットが放った銃弾……魔力が、流れていた」
「それは魔力弾化された弾頭ということか?」
ならどちらにせよ違反だろう。そう言いたげな石川大佐。
「違う。魔力弾化処理はされていない……こんな短時間にこんな沢山の弾頭を魔力弾化するなんて、無理」
そこに先ほどのアウストラリス軍佐官の
「……
石川大佐の言葉に、アウストラリス佐官はにやりと笑ってみせる。
「そう言うことです。別に問題はないでしょう?」
「お言葉ですが、それでは演習弾を使用しても実戦と同じ威力を発揮することが出来るはずです。それでは……」
「石川君」
抗議しようとする石川大佐、彼女を留めるように北条司令が前に出る。この場の扶桑側の責任者は彼だ。
「なるほど、確かに問題はない。問題はないが……しかしそれは事前に伝えておいてほしいものです。安全に関わりますから」
「それを言うなら固有魔法を制限すべきでしたな。そちらは当方の示した条件を飲んだではありませんか。シールドも使えるわけですし、安全な演習といえるでしょう」
演習弾でも実弾でも爆薬に変えてしまうのなら、相手の固有魔法はルールを破っているといえる。しかしそれは固有魔法によるものだ。こちらも同じくひとみが固有魔法で戦っている。夢華の予知だってそうだ。やっていることは相手と同じ。
無言で微笑むアウストラリス空軍佐官が掲げるのはそういう理屈だった。
「……」
無言で石川大佐は睨む。霧堂艦長はそんな彼女にそっと手を添える。
悲しいことにこの国際協調の時代においても、いやだからこそ複数国で行う演習というのは示威行為だ。
なんせ多少の制限がかかるとはいえ完全武装のウィッチたちが大空でドンパチやるのである。国家の威信という単純な言い回しでもいいが、外交における
それが分かっていても、まあ気分がいい話ではない。
その時、コーニャの耳に無線特有のノイズが走った。雑音が多いが、それは確かにコーニャの探していた音だ。
《…………こ…………ト……》
「!」
「大村かっ!?」
石川大佐も声を上げる。間違いない。これはのぞみの無線だ。同時に映像の煙も晴れ始め、センサ系でののぞみの反応も復帰する。
映像に写ったのぞみは――――良かった、無事だ。咄嗟にシールドを張っていたらしく、服装にも髪の毛にも乱れは見られない。コーニャが静かに息を吐く横で、石川大佐はおもむろにマイクを持ち上げてから口を開いた。
「私だ。大村、無事か?」
《……ええ大佐、サプライズでしたが、なんとか無事です。機体に異常はありません。もっとも、実弾を使ってくるとは思いませんでしたが》
これは不戦勝ってことでいいんですかね? ぼやきというよりか信じられないといった様子でのぞみの言葉が続く。やはり固有魔法であることには気づいていない。これは直接伝えないと分からなさそうだ。
「いや、残念ながら今の爆発はゴールドスミス少尉の固有魔法によるものだ。演習は続行されている。二射目が来るぞ、用心しろ」
《はあぁっ?! 固有魔法って……!》
映像と音声が爆音に染まる。急激なノイズを検知したことで自動的に音量が絞られ、スピーカーからは遠雷のような音が漏れ出るのみ。小銃弾の一発一発を爆弾に変えてしまうとなれば、それはつまり
《先輩っ!》
《米川、今撃っても無駄なの分かるでしょ?! アンタは魔力温存しときなさい!》
状況が流れていく。石川大佐は隣で同じように演習を見守る北条少将へと目配せ。考えることは同じようで、彼も顔を僅かに歪めた。
「ねぇ石川」
そんな状況を見て何を思ったのだろう。霧堂艦長は石川大佐にそっと耳打ちする。
「あの子欲しいんだけど」
「欲しいというと、なんだ。戦力として有用だからか」
なるほど確かに戦力になるだろう。なんせあの規模の爆発だ。飛行型のネウロイには大して有効でなくとも、地を這う陸上型ネウロイには有用なのは間違いない。
「ううん。可愛いから」
「……」
「いや、めっちゃ欲しくない!? 『
しかも幼顔のくせに大きいときた! 畳かけるように握り拳を見せつける霧堂艦長。真横でぷるぷると震えている北条司令を横目に見つつ石川大佐も頭を押さえる。
「………………貴様には場所を弁えるという考えがないのか」
「扶桑語だから周りのヒトには分からないでしょ?」
「それが場を弁えないというんだ……っておい!」
霧堂艦長は石川大佐からマイクを奪い取る。もちろん無線を使うためだ。
「のんちゃんのんちゃん。私だ、霧堂大佐だ」
《……艦長? あの、ご覧の通り私は忙しんですけども!》
爆音を背後にのぞみの困惑気味な声が飛ぶ。
「あの娘落として、最優先」
《言われずとも最優先です!》
「いーから。皇国の興廃この一戦にアリ、奮闘努力せよ!」
のぞみには伝わらないだろうに拳を振り上げるジェスチャーを送る霧堂艦長。
「……
「上手い! 流石は
……後方の騒乱はともかく、前線での戦闘はノンストップである。うるさい警告音を切っても、マルチバイザーに表示された酸素警告はそのままだ。
酸素警告と言っても、身体の全周を保護する保護魔法の外側の酸素濃度が急激に下がっただけで別に息苦しくなることはないのだが、まあ気分のいいものではない。
「そりゃ、あんだけ盛大に爆発したからねぇ?」
のぞみは余裕げに笑って見せる。しかしそれは表情だけの話。先ほどの
目の前のウィッチが構えた銃が光る。のぞみは迷うことなく魔導エンジンをふかす。捻じるように回避しつつ真横へとシールド展開。想定通り爆発はのぞみのちょうど隣で起き、今度は危なげなく防ぐことが出来た。
「ホント、これが固有魔法とはね……砲兵隊もびっくりな精密砲撃だっての」
厄介な相手だが、戦わないのは恥。それはのぞみには許されない。
「米川、聞こえてる?」
回線を開く、次の瞬間飛び込んできたのは耳に刺さるような声。
《先輩っ! 大丈夫ですかぁ?!》
「だいじょーぶだいじょーぶ、この程度で落ちやしないよ」
無線の向こうの後輩に笑って見せる。同時に目の前がまた爆炎に染まる。
《先輩!》
「大丈夫って言ってんでしょーが! 警戒を厳に、流れ弾の爆発で墜落とかやらかさないように!」
そんな心配されなくたってシールドさえあれば防げる。心配はいらない。少なくともこちらに
三度発砲。また空が赤く燃える。レーダーに移された相手が一気に動き出した。一直線に動いていく。
戦闘機動に直線なんて単調な動きは滅多にない。この動きは逃げるか、突っ込んでくるか。
この場合は言うまでもなく前者だろう。大方、弾切れ。
「だから逃がしてくれって? 甘いわよ――――米川ッ!」
米川のWA2000が唸る。しかし流石に読まれていたらしく、弾かれたようにハーフロールを打ち7㎜弾を正面で受け止めるホーネット。ワンテンポ遅れて聞こえてくる発砲音。こちらも引き金を引いて三点射撃、銃身から飛び出した7.56㎜弾が空を切り裂き、空を舞った。
固有魔法で命中が約束されているひとみとは違い、流石に高速で動き回る目標に当てるのは厳しい注文だ。
ともかく
《ひゃああっ!》
一発飛び込んだ訓練弾が固有魔法のために爆発、煽られたひとみの悲鳴が聞こえる。
「……継続火力も申し分ないって訳か。まったく、とんでもないデモンストレーションね」
単調だが、いかんせん火力が伴っているから突破は難しい。敵さんは面制圧に最も向いている火力バカ。それをただただ喧伝するような戦闘に付き合わされている。
さてはて、困ったものだ。
相手は固有魔法でバンバン撃ってくる。まさに固有魔法のデモンストレーション。宣伝し放題。一方こちらはやられ放題である。
さあ困った。これは演習だ。扶桑・リベリオン・ガリア・アウストラリス、世界の主要国が参加する大演習である。世界中……は見ていないかもしれないが少なくとも北条司令は見ている。あの石川大佐だって見てくれている。
「悪いけど……私もやられっぱなしってわけにはいかないんでねっ!」
底抜けて青空な空を蹴る。
再び発砲。もうパターンは読めた。適度に感覚を開けてばら撒かれた数発の弾丸が突っ込んでくる。瞬間エンジンを吹かす。自滅しない程度に抑えられているとはいえ音速飛行を実現するために存在するF135-PW-100魔導ターボファン推力機の全力は伊達ではない。頭から足に向かって流れる加速度に一瞬血の気が引き、視界が色あせる。
だが、身体を爆炎がなめることはない。
「……!」
ホーネットのウィッチの顔が驚愕に染まったのが手に取るように見える。思った通りだ。
「やっぱり爆発するだけの時限信管。
笑ってクルリと回る。3点射撃中止、指を滑らせて安全装置を連射へ切り替え。
次の瞬間、のぞみはロクヨンを――――
「さぁーって――――大村家流火力主義ってやつを全世界に見せつけてあげようじゃない!」
腰にぶら下げられた
右手にロクヨン、左手にMP5。チャンネルを開く。
「
のぞみのブリタニア語は母親譲りのクイーンズ・ブリタニッシュ。まさか意味が通じなかったわけがないだろう。返事を待たずに追いすがる。
実のところ
だが相手も必死だ。のぞみを近づけまいと光る銃口。同時にのぞみはエンジンノズルを一瞬
だがこれで、懐に飛び込んだ。これならお得意の爆撃も使えまい。
「貰ったァ!」
引き金を引く、両腕にかかる反動は全て固有魔法の怪力で抑え込み、確実に全てを叩きこむ。シールドが展開され、7.56㎜と9㎜弾は尽く阻まれる。シールドを使うとは卑怯……と言いたいところだが、さっきからのぞみも使ってしまっているし、これは道楽の模擬戦ではなく戦闘訓練。シールドを使うことに制限などない。
そして何より、距離だ。シールド展開より早く叩き込まねばならない。もしくは、シールドを叩き割るぐらい雨のような銃撃を浴びせるか。
しかし、速度に決定的な差がなければ追いつけないし手だって無限にあるわけじゃないから瞬間火力にも限度がある。そしてなにより、ロクヨンとMP5の二丁持ち
「これでも足りないかッ!」
そう乱暴に吐くのぞみ。投射できる最高の火力を的確に叩き込んでも、シールドを正面突破することは出来ないらしい。いつだったか
MP5の弾倉が空になる。装弾数はロクヨンと同じだがこちらは9㎜パラベラムの短機関銃。先に球が切れるのは分かっていたことだ。
ロクヨンから、再び手を放す。突如として空中に放り出された歩兵小銃は
「……?!」
MP5を空いた右手へ。ただ一つだけの動作のために、全身の筋肉に動員をかける。
「食らええええぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」
振りかぶって、右腕に全身全霊を。相手は何の躊躇いもなく固有魔法を使ってきた。それこそ、演習場を揺さぶる程に。一方のぞみの固有魔法は怪力でしかない。怪力は今や陸戦ウィッチのほうが役に立つ固有魔法で、持てる武装の重量がどうしてもストライカーの出力に左右される航空ウィッチじゃ決して華やかとは言えないだろう。
それで結構。カールスラント製短機関銃MP5がシンガポールの空を駆ける。そのままアウストラリス空軍ウィッチに直撃。無論シールドが展開されるが、弾丸よりか遥かに質量の大きい物体を高速で叩きつけたのだ。重い一撃が刺さる。
相手の動きが、止まった。正確に言うなら釘付けにさせた。
距離を詰める。改めて互いの顔がよく見えるぐらいまで踏み込んでやる。
「――――ッ!」
「これで終いっ!!」
フレアを解放。大量の赤外線を発する金属粉末の燃焼は、なんらダメージにもならないだろう。だがいい目くらましにはなる。ましてや手が届いてもおかしくない距離でばら撒いてやったのだ。
直上へと飛び上がる。F-35でもB型にしか出来ない噴射ノズルの調整により素早く銃口を向ければ、案の定相手さんは腕で顔をかばっている。
引き金を引く。弾丸が飛ぶ。アウストラリスのウィッチがペイント弾の色に染まる。
終わってみれば一瞬。F-18ホーネットは既に30年以上前の機体、それに二機のF-35で挑んでようやく勝利。決してキレイな勝ち方ではない。
だが、勝利は勝利だ。のぞみはロクヨンを振り上げた。