ゴールデンカイトウィッチーズ   作:帝都造営

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shame [ʃeɪm]
【名詞】1.恥ずかしい思い、恥ずかしさ、羞恥心
    2.a,恥辱、恥、不真面目
     b,(a shameで)面汚し、不名誉な事物
    3.(a shameで)残念な(気の毒な、ひどい)こと
【動詞】1.(…に)恥をかかせる (…の)面子を潰す
    2.(優秀さなどで)(…を)顔色なからしめる 赤面させる
    3.〔+目的語+前置詞+(代)名詞〕
     a,〈人を〉恥じさせて〔…〕させる 〔into〕
     b,〈人を〉恥じさせて〔…を〕やめさせる 〔out of〕



2-3-1"Shame"

「ちぃ……っ! ティティのやつ落ちやがったっ!」

 

 レクシーはそう叫びながらペイント弾の列を避ける。アドバンスド・ハリアーのエンジン音が急上昇、加速。そのまま背後にいる華僑人……なんで華僑人が扶桑海軍の制服なんて着ているのかは知ったことじゃない……から距離をとらんとする。

 

F-15(イーグル)相手に空中戦じゃさすがに分が悪いか」

 

 F-15戦闘飛行脚は空中戦最強の名を何十年もほしいままにしてきた制空権奪取に特化したストライカーだ。堅牢な機体に魔力の大量消費と引き換えに得た高出力魔導エンジン。それらに支えられた空戦格闘能力はどんな飛行脚と比較しても圧倒的優位を誇るとまで言われる。

 

「だけど、ガキンチョに負けるほど、リベリアンは甘く、ないっ!」

 

 レクシーは一気に姿勢を変える。空気抵抗増大。その減速の勢いで機体が軋む。警報が鳴る。うるさいが仕方ない。無視。体を右にひねるようにして、後ろを確認。目の前に弾丸が迫る。首をひねって回避。重力に引かれるままにわずかに降下する。追ってきていた華僑人が真上を超過飛行(オーバーシュート)する。

 

 その刹那、弾丸が交差する。

 

お行儀がよくてよろしい(You are good girl)

 

 華僑人の声が無線に乗る。きれいな英国語(クイーンズ・ブリティッシュ)、粗雑な振る舞いには全く似合わないその声に歯がみする。F-15が一瞬アフターバーナー(オーグメンター)を使用、レクシーを足場に飛び上がるような動きをする。その出力に弾かれレクシーは高度を落とすも、数回転するうちに動きを安定させる。空力限界ぎりぎりで、誰も被弾していないにもかかわらず、金属が軋む音が響く。

 

「こんのぉ……余裕そうに笑いやがって……!」

 

余裕そうじゃなくて(You think I may afford it,)余裕なんです( but I can afford it.)

 

 華僑人がそういって高空から撃ち下ろす。いちいち嫌らしい正確さが鼻につく。

 

《Yumeka, zouen iru?》

 

《Yumeka ja naitte ittendesyouga ! Mong-fa!》

 

 共用無線で扶桑語で会話されても何を話しているかわからない。こちらの注意力をそぐつもりだろうか。

 

《Zouen nante hituyou ne desu. Damatte mite yagari kudasai》

 

 とりあえず、馬鹿にされた気がした。動く理由はそれで十分だ。

 

「あーもう、腹立つなぁ」

 

 アドバンスド・ハリアーが一気に加速。弾倉の予備はまだある。玉をケチるのはやめた。目の前のこいつと泥棒猫だけ撃ち落とせればいいや。

 

やかまし屋(フープラ)を舐めるなぁあああああっ!」

 

なにが楽しくてフラフープなんて(I think that it is not delicious)舐める必要があるのでしょう(to lick hula hoops, so I will not lick)

 

 華僑人が笑う。小銃の銃口がこちらを向く。小銃のリロードは終わった。このまま突っ込む。

 

フラフープならせいぜい(Rock and Roll)回ってろ(,hoopla)

 

 照星越しの目が、楽しそうに歪んだ。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、ゆめかのやつ、一人で突っ込んじゃった」

 

 のぞみが軽いテンションでそういった。その横で飛びながらひとみは不安顔だ。

 

「もんふぁちゃん大丈夫なのかな……」

 

「大丈夫でしょ。天下の扶桑イーグル乗ってるんだし、格下のハリアーなんぞとタイマンでやって落ちる程度なら、香港沖の時にとっくに化けの皮が剥がれてるわよ」

 

 のぞみはそう言って周囲に目を走らせた。青い魔力光が自分たちよりも低いところで弾けては消える。

 

「にしても、あんな低空で格闘戦なんざ気が狂ってるとしか思えないね。平均高度1,000とか正気?」

 

 高度1,000フィートと言えば海面からの距離は約300メートルしかない。そんな低空では一歩間違えれば一瞬で海面に突っ込んでしまう。

 

「なんで高度を上げないんでしょう……?」

 

「たぶんハリアードライバーがゆめかに低空での戦闘を強要してるんだ」

 

 のぞみがそう言ってその戦闘の様子を見る。めまぐるしく上下が入れ替わってはいるものの、夢華が上昇しようとするたびに、ハリアーの少女は夢華を海面に追い込むように弾をばらまいている。

 

「ゆめかは確かに強いけど、あいつは遠距離戦はあんまり得意じゃない。ゆめかが遠距離からミサイル攻撃したり、狙撃するの見たことある?」

 

「言われてみれば……ないです」

 

「でしょ。未来予知だって数秒レベルだし、風の影響とかコリオリ力とか、予知に関わる要素が多くなる遠距離攻撃は不安定になってしまう。だからゆめかは接近戦にいっつも持ち込んでるんじゃないかな。……ゆめかは自分の弱点をわかってる。だからハリアーから離れられない」

 

 のぞみは目を細める。一気に距離を詰めようとする夢華をハリアーはふわりと避け、背後に回り込もうとする。夢華が直線的な剃刀のような軌道なら、ハリアーは柳の枝ような柔らかな曲線を描いて空に軌跡を残す。

 

 ハリアーから放たれたライフル弾を夢華は真上に飛び上がるようにして回避。失った運動エネルギーをエンジンで補う前に追撃が下る。強制的に立ち上がったような姿勢に持って行かれては、空気抵抗のせいで一気に減速してしまう。翼の揚力を失えば、いくら空戦格闘最強のF-15でも動きは鈍重になる。果てには海面に引きずり落とされてしまいかねない。

 

《ーーーーこの》

 

 夢華はのどこか苛立った声が無線に乗ると同時、彼女が左手で何かを落とすように投げた。それを片手で持った小銃で射貫く。焦ったのはハリアーだ。翼が海面をなぞるようなすれすれの軌道で左旋回。落ちてきた手榴弾を避ける。

 

「ゆめかも焦っちゃってまぁ」

 

 のぞみがのんきにそう言って、弾かれたように一度距離をとる二人の影を見る。

 

「ハリアーは低速域での粘りがあるからなぁ。ホバリング性能だとハリアーに勝てないし、低空で失速寸前の戦いを強いられたらそりゃF-15は不利だ。あのハリアードライバー、結構頭に血が上ってるかと思ったら、案外冷静だ。それに」

 

 上昇しようとする夢華に向けて曳光弾が伸びる。

 

「ゆめかより銃は上手い」

 

 のぞみは64式小銃を持ち直した。

 

「援護に入るよ。カイトツー、プリパレーション」

 

「ら、らじゃー! カイトツー、プリパレーション、スナイピングサポート、レディ!」

 

 のぞみに言われ、狙撃銃(WA2000)を構える。セーフティに指をかけ、解除。

 

「夢華と私で追い込む。カイトツーの狙撃で締める」

 

《手出し無用って言ってるのが聞こえてねーんですか》

 

 共用無線に流れ込むへたくそな無線にのぞみが笑う。

 

「あんたじゃ分が悪すぎる。手に余るって言ってんの。さっさと下がりなさい」

 

《DO NOT TOUCH! こいつは、あたしの獲物だ》

 

 夢華の声が、冷えた。

 

《手出しはいらない。そこで黙って見てやがってください。大村(ダーツォン)

 

「命令違反なんだけど」

 

《知りやがりませんね》

 

 無線が切れる。

 

「あの馬鹿、ブリタニア語の発音は異様にいいのね。驚いた」

 

 のぞみが場違いなところに関心する。ひとみは小さくため息をついた。

 

 

 

 

 ひとみがどこかあきれたようにため息をついた時、当の夢華もため息をついていた。

 

「まったく、足を引っ張るしかできねーんでやがりますか、あの編隊長殿」

 

 夢華は高度を稼ぎ見下ろす。逃げる側は不利だが、あれと低空戦は分が悪い。悔しいがのぞみの指摘は当たっている。だからこそ、あれを高空に引きずり上げなければならない。

 

 だから、追わせる。隙を見せてやるから上がってこい。

 

 ハリアーは最低限の高度上昇に押さえ込みたいらしい。弾の消費を気にせずに弾幕を張ってくるのは噂のリベリオンの工業力にものを言わせているからか。たしかにこれはやっかいだ。

 

「あーもう、めんどくせぇですね」

 

 弾を避けた動きそのままロールを打って降下。距離を適度に詰めつつ、弾切れを待つのが得策らしい。それまでは攻めはお預けだ。

 

卑怯者!(Cowards!) 逃げるしかできないのかおまえは(Do you only have the ability to escape)!? 撃ってこいっ(ATTACK ME)!》

 

 共用無線にそんなことを叫ばれてもため息をつくしかない。夢華はせめて皮肉に笑って高度を落とした。背面飛行でハリアーを見上げる。右手に小銃を握ったまま、降参するかのように両手を掲げる。

 

撃つ必要がありますか?(I do not need to shoot, do you?)

 

当然だっ(You have to)!》

 

それは困りましたね(I was in trouble)戦いは嫌いなんですが(I am a pacifist)

 

 よく言うよ、と扶桑語で割り込んだ編隊長殿のぼやきは黙殺。

 

私には理由がないので(I have no reason to win,)負けてあげてもいいんですよ(so I can lose to you as well)

 

うっさい黙れっ(NO KIDDING)! 心にもないことを(You do NOT think such a thing.)

 

 降ってくる弾丸。前髪を掠って抜けていく。斜めに上昇しつつ海面から離れつつ、引き金を軽く引く。指切りで三発ずつ、相手に向けてたたき込む。相手はそれをふわりと最小限の動きで避けていく。

 

(……おかしいでやがりますね)

 

 夢華は弾丸をたたき込みながら、わずかに首をかしげた。おかしい。当たらない。

 

 手を抜いているのは確かだが、長引かせるつもりもない。しっかり固有魔法も使っている。相手の動きを予測して、そこに弾丸を送っているにもかかわらず、相手はそれを最小限の動きで避けていく。

 

 まるで、こっちの動きが読まれているように避けられる。なぜだ。

 

《ーーーー単純すぎる(Toooooo simple,)へたくそ(unskilled)

 

 その一瞬の思考の隙を突かれた。

 

「ーーーーーーっ!」

 

 目の前に突き出された銃口を、体を大きくそらすようにして避ける。衝撃波が顔を撫でて地味に痛い。いつの間に間に飛び込んできた?

 

 真上から振り落とすようにM27 IAR自動小銃の銃身(バレル)が迫る。高度もあまりない。バランスを崩しすぎれば、墜ちる。

 

馬鹿にするなヤンキー(我是傻瓜美國人)!」

 

 降ってくる小銃の先を95式自動歩槍を頭の上に掲げて受ける。エンジン全開、出力にものを言わせ無理矢理上昇、パワー勝負なら絶対に負けない。逆にバランスを崩したハリアーを見下ろして小銃弾を浴びせようと構えた直後、不意にバランスを崩した。

 

捕まえた(I catch you)

 

 銃の先端、消炎器(フラッシュハイダー)をつかまれ、無理矢理引っ張られたのだ。夢華が引き金を引いたころには、すでに銃身はあさっての方向に向けられ、曳光弾は空しく宙を走る。相手は小銃を手放したらしい。

 夢華は銃を真下に降るような動きでその手を離させる。相手がそのままこちらの頭か首をつかんでくるのは予測済み。スロットル最小、相手のストライカーを蹴るようにして無理矢理危険域から頭を引き抜く。髪の毛を数本捕まれてかなり痛いが、そのまま頭突きされるよりはマシだ。

 

「ふんっ!」

 

 避けた動きの流れで、水平安定板(スタビレーター)を相手のストライカーに引っかける。そこを軸にするように体を振りだし、体重をかけてぐるりと回る。すぐに滑って引っかかりは外れたが体を支える支点に近いところを崩されれば相手は否応なしにバランスを崩す。夢華の体をつかもうと腕を前に伸ばした姿勢ならなおさらだ。

 

あっぶないなぁっ(It's dangerous)!」

 

 夢華の天地が入れ替わる。タイミングを見てエンジンを吹かす。相手を吹き飛ばすように上昇。尾翼が相手の服を切り裂いたらしいがとりあえずは無視。

 

《演習中止! 危険行為だ!》

「「伊洛沉默(Shut up, outsiders!)!」」

 

 こういうときだけ相手と気があっても全然うれしくないが、続けられるのはありがたい。軽い発砲音、拳銃に相手は切り替えたのだ。

 

「ガキンチョ、名前は?」

 

「……高夢華、華僑民国空軍第四九九戦術戦闘機連隊所属」

 

 胸元を一袈裟に切り裂かれた彼女は、それを聞いて鼻を鳴らした。

 

「リベリオン海兵隊第三海兵遠征軍第一航空兵団第十二海兵航空群第二四二攻撃飛行中隊所属、海兵隊少尉、アレクシア・ブラシウ」

 

 アレクシアーーーーレクシーが笑う。

 

「なら、夢華。楽しかったけど、これで終わりにしよう」

 

 強大な魔力光が、あふれる。

 

「墜ちろ」

 

 

 

 

 

「もんふぁちゃんっ!」

 

「あの馬鹿、意地張りやがってっ!」

 

 のぞみ、オーグメンター全開。急加速。そのまま飛び出す。何が起こったのかは分かっていた。理屈は全くもって分からないが、起こったことは簡単だ。いきなり夢華が弾き飛ばされた。

 

「いきなりゆめかが避けきれずにまともに食らったんだ。まともな攻撃じゃない! 固有魔法だ!」

 

 空中で耳を押さえて高度を落とす夢華。鼓膜を抜かれたか。のぞみが魔導回線を開く。

 

《夢華、一回距離とりなさい。こっちで対応する!》

 

《……ちゃんと発音できるなら普段からしやがりください》

 

《毒づく余裕があるならそのまま離脱! 方位1-2-5! まだ戦えるなら演習空域からは出ないでよ!》

 

 のぞみが一方的に通信を切り、腰のベルトからゴム製の銃剣を引き抜いた。接触禁止(ちゃっけんNG)とか今更知るかと開き直る。もう米川以外全員大乱闘スマッシュシスターズだ。全員そろって後で正座すればいいなら泥は相手に多く塗らせたもの勝ちだ。

 

「一番槍じゃないのが癪に障るけど、仕方ない。着剣!」

 

 のぞみが加速度をつけたまま真一文字にレクシーに向けて突っ込む。それを斜め後ろに飛び退くようにして勢いを殺したレクシーは左足を軸にするようにくるりと空中で回り、のぞみをやりすごす。加速度がつきすぎたのぞみに拳銃を向け、発砲。弾丸がいくつも伸びていく。

 

「あっ……ぶなっ!」

 

 辛くも髪の毛数本を散らしたかというきわどいレベルで弾丸が飛び抜ける。それでものぞみの姿勢が崩れた。オーグメンター使用時ではそのわずかなブレが体に悲鳴を上げさせる。

 

 レクシーの拳銃のスライドが後退したまま止まる。ホールドオープン、弾切れだ。彼女の左手が代えの弾倉に伸び――――それが弾かれ海と空の青の合間に小さく消える。

 

「――――くっ」

 

 レクシーは弾倉をはじき飛ばした弾丸の線の出所を探し、高い位置に青い魔力光を認め――――目をつぶされた。太陽を直接見てしまった。出力最大、緩降下、アンロード加速を行い最大効率で加速度を得る。せめて動かねば第二射がくる。逃げつつその先にいた―――――のぞみに飛びかかる。

 

「のぞみ先輩っ!」

 

 ひとみの忠告も間に合わない。のぞみが小銃を向けるよりも早く、レクシーとのぞみの進路が交差する。

 

「その銃よこせぇえええええええ!」

 

 そのまま体当たりをする。互いのシールドがぶつかり、強烈な魔力光が残る。勢いを殺しきれないせいで、のぞみとレクシーが団子になったまま海面近くまで急降下した。

 

「こんのぉ!」

 

 のぞみが全力でレクシーを蹴り飛ばす。海軍用F-35Bにつけられたリフトファンが始動、背中側のダクトが立ち上がり、轟音とともに無理矢理のぞみの体を押し上げた。

 

 そしてのぞみは気がつく。

 

 蹴り飛ばした時に小銃をもぎ取られた。銃剣ごと。

 

 

 

「ふっっっざけんなぁああああああああああああっ! 返せ私の銃剣―――――――っ!」

「ほしいの銃剣だけですかっ!?」

 

 

 

 思わずひとみが突っ込んだが、その余裕もなくなる。ひとみの方に小銃弾が飛んでくる。左ロール、回避。その刹那に右耳に爆轟の音が飛び込むと同時、激痛が走る。

 

「えっ……なにっ!?」

 

 どこかくぐもったような音しか返さなくなった右耳を押さえて、ひとみは回避行動を続ける。まだ小銃の銃撃は続いている。一発一発は体から遠く離れたところを通っているはずなのに、痛い。空気に殴られているような感じだ。

 

「……そっか! 衝撃波だ! のぞみ先輩! 衝撃波ですっ!」

 

《衝撃波がどうしたっ?》

 

 銃剣を返せーっ! と素手でレクシーをぶん殴ろうとするのぞみに通信を飛ばす。ひとみを狙っていた銃口がのぞみに向く。発砲をするりと避けた望みが痛みに顔をしかめた。

 

「きっとこの人衝撃波をコントロールして威力を強めてます!」

 

《よくやった米川っ! だったらやりようがあるっ!》

 

 レクシーの懐まで飛び込んで、のぞみは右肘を相手にたたき込まんとする。レクシーは首をそらすようにしてそれを回避するも、その間にのぞみの左手は64式小銃に伸びていた。マガジンキャッチのリリースボタンを押し込み、弾倉を落下させるのぞみ。これで残弾一発。予備の弾丸はのぞみしか持ってない。これでレクシーの攻撃をほぼ封じた。

 

能力には察しがついてる(I understand your abilities)これであんたは衝撃波は使えない(You can not use shockwaves anymore)!」

 

 のぞみの叫びに吹き出すレクシー。

 

お馬鹿さんだね嬢ちゃん(You’re stupid, kid)いつから衝撃波を操っていると錯覚していた(When did you realize that I would manipulate the shock wave)?」

 

 のぞみが慌ててシールドを張りながら飛び退くがすでに遅い。レクシーの背後に一瞬魔法陣が現れた。

 

「――――去ね(Get out)

 

 レクシーの声がのぞみの脳を揺さぶった。三半規管が狂う。

 

(……音波そのものを増幅してんのか! さっきのアウストラリスのデカオッパイといい、なんつーデタラメな固有魔法だっ!)

 

 音波はシールドでは防げない……正確には防げる方法がわからないのだが……おかげで真正面からもろに食らってしまった。視界が回る。人力スタングレネードなんて何の冗談だと思いたい。

 

「よし、後はあんただ泥棒猫!」

「ええっ!?」

 

 そう言ってレクシーが振り返った直後。彼女の目の前に手榴弾(リンゴ)が落ちてきた。避ける間もなく、炸裂。

 

「――――三対一でやっとでやがりますか。無様としか言いようがねーですね」

 

 夢華が痛みに左目をきつく閉じながらそうつぶやく。

 

「……赤軍二番機を撃墜(Kill Red Wing 2)

 

 夢華のその報告に、のぞみがハッとした表情を浮かべる。夢華は僚機として編隊長に報告を上げたのだ。受けるのは編隊長の役目だ。

 

「お疲れ、カイトスリー。こちらブルーウィング、レッドウィングの全機撃墜を確―――――」

 

《何が全機撃墜だ馬鹿者!》

 

 飛び込んできた怒声に203空面々全員の肩が跳ね上がった。

 

《全員今すぐ降りてこい。楽しい楽しい反省会(デブリーフィング)だ》

 

 それっきりで無線が途絶える。

 

「えっと……石川大佐、かなり怒ってます、よね?」

 

 ひとみが冷や汗をかきながらそういえば、すでに全身汗でびっしょりののぞみが乾いた笑みを浮かべた。夢華はため息。レクシーが片耳押さえて渋い表情をしているのを見ている限り、レクシーたちも似たような境遇らしい。

 

《降りてこいと言ったのが聞こえなかったのか?》

「アイマムっ!」

 

 同情の視線を送る合間もなく、のぞみが踵を返す。ひとみたちもそれに続いた。

 

 

 なお、皆が正座から解放されるのは3時間後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

南洋日報電子版

シンガポールの空を飛ぶ扶桑軍ウィッチたち

2017年7月4日(火)午後8時10分

【新発田・シンガポール支局】

 人類連合第203統合戦闘航空団は本日午前、シンガポールにおいて東アジア司令部と合同の演習を行った。同航空団に所属する我が国のウィッチ二名もこれに参加、同司令が「過酷な任務に備え結束を高める」と語った通りその連携を確認した。

 今後は地中海への打通作戦を遂行していく予定である第203統合戦闘航空団。人類連合軍を構成するリベリオン合衆国とガリア共和国ならびにアウストラリス連邦も参加の意を表明しており、今後も活躍が期待される。

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