《石川大佐、緊急》
飛んできた無線を寝ぼけ眼でとった石川大佐だったが、無線の言の葉を聞いて瞬間的に覚醒した。ベッドを転がり出て、壁のロッカーを乱暴に開くところまで脊髄反射でこなしつつ無線を聞く。
「状況報せ、ポクルィシュキン中尉」
緊急で飛行隊の隊長がたたき起こされる事態だ。普段の男性用スラックスではなく女性用のローライズを引き出す。足を通す石川大佐の耳に、無線の主は告げる。
《加賀艦内でなにか異変が起こってる》
「異変? 報告は明瞭に」
そういいながら石川大佐はブラジャーのホックをはめ、肩紐を直していく。ロッカーの中には、のりがバッチリ効いた制服がハンガーに掛けられている。取り出してハンガーをロッカーに叩き込みながら最悪の事態の可能性を考える。
少なくとも船に動揺はない。ここでは音も聞こえない。至って平穏だ。加賀の致命的なメカトラブルによる総員退艦の可能性を除外する。飛行隊の隊長に連絡が来る事態だ。最も可能性があるのはネウロイの急襲だが「加賀艦内で」異変が起こっているなら考えにくい。
となると所属ウィッチに異変があったか、その身に危険が生じているか。
思えば通常ならこのような連絡は艦隊側からあるはずだ。部下であるポクルィシュキン中尉から連絡が上がっている時点で、既に異常。
《加賀艦内で何らかのサボタージュが行なわれている》
「サボタージュ? 霧堂は?」
《霧堂艦長が下士官食堂で倒れているのが確認された。艦内巡回中の人員が廊下で何者かに殴られ全滅。CICが緊急事態に備えて動き出してる》
「ポクルィシュキンは大丈夫なのか? 今どこにいる?」
加賀艦内でサボタージュとは考えにくい事態だが、可能性がないわけではない。となれば石川大佐がやるべき事は配下のウィッチの安否確認と保護だ。ウィッチはネウロイに抵抗するための訓練は積んでいるが、対人戦闘は不得手だ。暴徒に囲まれればなすすべもない事態も考えられる。
《部屋にいる。非常事態につき、電子錠をいじらせてもらってる》
「ということは正規錠があっても開かない状態だな。よし、緊急避難措置として大佐権限をもって追認する。ポクルィシュキンはそのまま自室待機、俺以上の権限を持つ人物による別命があるまで自室待機」
《了解。自室待機する。大佐は?》
ジャケットを羽織り、ポケットに忍ばせていた鍵を使ってデスクの引き出しを開けた。デスクの中のボックスにIDカードをかざす。ロック解除。聞き慣れた軽快な解除音が静寂の仲で響く。
「他のウィッチの確認が先だ」
自前の
《大佐も危険。下手に動かない方がいい》
察したかのように告げる無線の奥。聞かずに石川大佐はセーフティだけ掛けた拳銃を腰のホルスタに差し込む。
「護衛を待ってられないのでな。それにシールドは一応張れる。拳銃弾程度ならなんとかなるさ」
ゆっくりと扉を開ける。やはりと言うべきか廊下は夜間の非常灯に照らされ静まりかえっている。
「さて、あの霧堂を仕留める手練れだ。蛇が出るか何が出るか……」
背筋を伸ばして廊下に出る。203空の長い夜が幕を開けた。
《203空、ネガティブレポート》
魔導無線に入感し、大村のぞみがイヤホンを押さえた。横の米川ひとみも肩をぴくりと跳ね上げる。団全体への呼びかけだ。
「カイト1」
「か、カイト2」
しばらく無線の間隔が開いた。雑音の後で、入感。
《こちらカイト4》
そう答えたのは眠そうなアレクシア・ブラシウ少尉の声。再び間隔が開く。
《ストリックス1》
コ―ニャの返答を最後に返事がなくなる。
《カイト3、カイト5、応答せよ。繰り返す。カイト3、カイト5。感度いかが》
無線越しに夢華とティティを呼びかけるが一向に返答がない。
《203空、石川だ。第二級戦闘配備。各員、加賀艦内における武装の携帯を飛行隊長権限で許可する。加賀艦内で何らかの破壊活動が発生していることが確認された。加賀所属ウィッチはストライカーによる脱出を想定せよ》
「ストライカーによる、脱出……!? 加賀を捨てるんですかっ!?」
その指示にひとみの顔が青ざめる。加賀からの『脱出』。そんな可能性なんて考えたことがなかった。一方のぞみの表情は変わらない。
「まぁ、内輪のごたごたでウィッチとストライカーなんてめちゃくちゃ値の張る必殺兵器を失うわけにはいかないか。そもそも移動は簡単だしね。……石川大佐、こちらカイト1」
《カイト1》
石川大佐がコールサインを復唱、発言を許されたのぞみが廊下の先を睨みながら告げる。
「現在03デッキ03-Dブロック廊下で米川と一緒にいますが、今さっき倒されたばかりと思われる加賀
《了解した。対策は菊池砲術長を中心として対応中だ。まもなく北条司令に引き継がれる。203空は戦闘能力の維持を優先して行動せよ》
「戦闘能力の維持……?」
「要は捨て置け、ということですね」
のぞみがどこか不満そうに言えば、無線の奥で深いため息が聞こえた。
《ウィッチが奪われたら対処が不可能になるからだ。大村お前はポクルィシュキンや米川、ゴールドスミス少尉を相手に鎮圧戦闘をやりたいか》
「御免被りますね」
《そういうことだ。一般兵士なら尚更だ》
石川大佐はそう言ってのぞみの意見をねじ伏せ、すぐ無線に繋いだ。
《護衛を送る。現在地にて待機。何者かに襲われた場合は反撃してよろしい。可能な限りでいいが、殺すなよ》
「善処します」
《よろしい。カイト3およびカイト5の捜索はこちらで行なうが、もし見かけた場合は保護せよ》
「併せて了解しました。カイト1」
「……カイト2」
《カイト4》
《ストリックス1》
全員から了解の確認が出来たためか無線が一度沈黙。ひとみは不安顔だ。
「ど、そうなるんですか……?」
「さぁ、でも非常事態なのは確かだ。それを考えればなにがあるか分からないが……起こってないことを考えることは大切だが、心配してもしかたない。何かあったら全力でシールド張りつつ逃げるよ」
「えっと……加賀のみなさんは……?」
「どっちみち私たちだけじゃ救いきれないから無理。石川大佐の命令に従う、今できるのはそれだけよ。最大限の警戒をしつつ護衛が来るのを待つ」
「はい……」
背中合わせに立つような形になってひとみは暗い廊下の向こうを見る。甘ちゃんなんだからと小声で言ったのぞみに小さく舌を出してみる。どうせ背中合わせで見えないし。
「ひとみーん、のんちゃーん、生きてるー?」
「あ、加藤中尉!」
そんな二人の前に拳銃片手に現れたのはひとみ専用F-35Aの機付長、加藤中尉だ。横にいるのは確かF-35整備チームのメカニックだったはず……ひとみとあまり接点がない人だから名前は覚えられていない。
「石川大佐からエスコートを頼まれました、二人とも無事だね?」
「はいっ!」
ひとみの頭を撫でながらのぞみを見る加藤中尉。
「のんちゃんも無事でなにより。とりあえずこれ」
二人に差し出されたのは正式装備の自動拳銃だ。のぞみはためらいなく受け取るがひとみはそれをためらってしまう。
「あの……」
「持っておきなさい。許可は取り付けてあるから」
そう言ってから、笑う加藤中尉。
「大丈夫、あなたが使わなきゃいけなくなるのは私たちが守れなくなった後、まずそんなことないわ。伍長も腕利きだし、あたしも中東帰り、大船に乗ったつもりでいなさいってば」
加藤中尉はそう言ってひとみに銃を握らせて自分も銃を構えた。
「それじゃ、直接格納庫に向かうから。先導は私がやる、伍長は
「はっ」
伍長が軽く笑いながら小さく敬礼。それを認めて加藤中尉が歩き始めた。
廊下はあくまで静かだ。それがどこか落ち着かなくてひとみは周囲をきょろきょろと見回してしまう。
「不安ですか? 米川少尉」
「えっと、あの……少し」
拳銃を低く構えた伍長が笑ってひとみにウインクをする。
「安心してください。我らが天使に指一本触れさせませんよ」
「おー、言うねぇ親衛隊長」
先導する加藤中尉がチャチャを入れる。
「えっと、親衛隊長……さん?」
「伍長はひとみんのファンなんだってさ。下手に墜ちれないねぇ、ひとみん?」
「えっと……?」
非常時とは思えない会話にのぞみはどこか苦笑いだ。
「ひとみんも人を使うことを覚えときなよ、君はもう少尉でウィッチだ。みんなのあこがれで希望の星だ。女の子にとっても男の子にとってもね。ひとみんかわいいし、艦内でも一 二を争う人気者なんだから」
「わ、わたしがですか?」
「ひとみんが、うまくやれば加賀で絶対王政作れるぞー?」
「あのですね加藤中尉、不用意に軍規を乱しかねない発言は……」
「あれ、のんちゃんの親衛隊やたらと自治意識高いけど統制してるんじゃないの?」
「だれがしますか!」
ケタケタと笑いながら加藤中尉はのぞみをからかっていたが、後方の物音に足を止める。殿の伍長がとっさに片膝立ちの姿勢をとり加藤中尉に射線を開けつつエイミング、一気に空気が張る。
「……騒ぎすぎた、かな?」
加藤中尉がそういうタイミング、伍長が左手でハンドサイン。壁際に寄れの指示。ひとみが息をのむ。
「対象が敵性だった場合、伍長は遅滞戦闘に努め、私が二人を護衛しつつ抜ける、ルート1-3、伍長」
「了解」
「二人は合図したら走ってね」
「了解」
「わかりました……」
物音が大きくなる。現れた影を見て、二人の銃口が一斉に照準された。その影を見て――――ひとみが声を上げる。
「ティティちゃんっ!」
「あー、ひとみちゃんだー」
至極嬉しそうな顔のティティが走ってくる。
「どこに行ってたの? 心配したよ?」
「ごめんなさーい、少し遊んでてぇ……」
「ティティちゃん……?」
その言動にひとみはどこか違和感を覚えるが、それを言い表せないままに状況が動いていく。伍長が拳銃のセーフティをかけ直す。口を開いたのはのぞみだ。
「ほらティティ、いろいろ大変なんだからさっさとこっちに来る」
「えー」
「えーじゃない、遊び足りないならいくらでも遊んであげるから、米川が」
「えっ? わたしですか?」
「仲いいでしょ? それともいや?」
首を横にぶんぶんと振って意思表示をするひとみ。その動作にこてんと首を倒すティティ
「ひとみちゃんが遊んでくれるの?」
「えっと、うん。だから一緒にいこう?」
「はぁい」
そういった直後、その姿がひゅんと消える。
「少尉!」
その刹那、ひとみの前に大きな背中が割り込んだ。そしてその背中が吹き飛ばされる。
「伍長さんっ!?」
「ティティっ!?」
ひとみは目の前の事を信じられないまま呆然としている。笑顔のティティが視線の先にいる、拳を振り抜いた姿勢のティティ。壁に叩き付けられたような姿勢の伍長がうなりを上げて腰を押さえている。
「ひとみちゃん?」
「てぃ、ティティちゃん……なにを」
「遊ぼ、ね?」
「ひとみんっ!」
加藤中尉がひとみの制服の襟首をつかんでティティの前から引っこ抜く。そのまま加藤中尉に担がれる。揺れる視界の奥でティティが笑っている。
「一度撤退っ! のんちゃん走って! 全力疾走!」
「とっくに全力っ!」
ひとみを背負ったまま加藤中尉がラッタルに飛び込む。手すりを軍靴が滑り、耳障りな音を立てながら滑り降りる。1階層下の廊下に飛び出すと同時に無線を繋げる。
「石川大佐っ! こちら加藤!」
《何があった》
無線の奥の声が緊張している。
「犯人判明! ティティちゃんだ! ティティちゃんが元気いっぱい大暴走中!」
《……なんだと?》
「なんか知らんけど
《と、とりあえず位置報せ》
「02-Eブロックを艦首方向に向けて疾走中! とりあえずは適当に鬼をまかないと……っ!」
加藤中尉の顔に焦りが見える、目の前のドアががちゃりと開いたのだ。
「うるさくて寝れねーです! 夜は騒ぐなってママに教わら……!」
「走れゆめか! ティティに殺される前に!」
「なに言ってやがります……って、えええええええっ!?」
壁際に寄って一行をなんとか避けた高夢華少尉だが。その後ろから笑顔で追いかけてくるティティを見てさらに驚愕。
「こーんばーんはー!」
穏やかな声だがその動きは物騒この上ない。飛んでくる拳をしゃがみ込んでなんとか避ける。
「あっ……ぶねぇやがりますっ!」
全力疾走で追いついてくる夢華。
「なんでこうなってんです!?」
「 知 る か ! ティティに聞けっ!」
「クスリか何かキメてる相手にどう話せって言いやがりますっ?」
「だったら逃げろ!」
「あぁもう、なんでこんなことに……! で、丸太な
肩に担がれたままのひとみを横目で見ながら走り続ける夢華、答えたのはのぞみだ。
「現状生き餌!」
「私、餌ですかっ!?」
「最悪ティティに投げ渡せばおとなしくなるでしょ」
「そんな殺生な!」
ひとみが抗議するがそれどころじゃないらしいのぞみが横に向け叫ぶ。
「ゆめかアンタ未来予知できるでしょ! 解決法くらい思いつくでしょっ!?」
「んな無茶なっ!」
「ならみんなで仲良く追いかけっこだ! ティティとあたしたちでどちらが先にへばるか賭けるかい? 験担ぎで私たちが生き残るに10ドル!」
「逆に賭けろはやめやがれください、ったく。高く付きやがりますよ」
夢華の頭にハチクマの翼が現れ、そしてすぐに仕舞う。
「……見なかったことにしよう」
「で、どうなの?」
落ちる沈黙。
「だあああああ! もう使えないわねアンタの一里眼!」
「一里眼とは失礼なっ!」
夢華がそう叫び返し一気に喧噪が大きくなる。
「ならさっさと未来予知でなんとかして……こいっ!」
のぞみが横に足を繰り出し、夢華がそれをなんとか避けるが、それで足が追いつかない間にティティに捕捉された。
「夢華ちゃーん!」
「頑張れゆめか! 骨は拾ってやるっ!」
のぞみの声が恨めしいがこうなっては言ってられない。なんとか向き直り足を止める。
「ダーツォン、後でオムライス山ほどおごらせてやる……」
嬉しそうな顔でティティが足を止める。静かににらみ合う。双方使い魔の耳が頭にぴょこんと出ているが、夢華の顔に冷や汗が垂れる。
(……全く勝てる未来が見えねーのはなんででやがります)
じりじりと間合いを計るように距離を調整し、――――その刹那、二人とも同時に動き……。
「そーれ、たかいたかーい」
「ひやあああああああっ!」
響くかわいらしい悲鳴。宙を舞う夢華。
「も、もんふぁちゃあああああああん!」
「……ゴールドスミス少尉、だと?」
いろいろ混迷を極める無線を聞いて石川大佐は頭を抱えた。その様子を見たアレクシア・ブラシウ少尉が怪訝な顔でのぞき込む。赤い夜間灯に照らされた格納庫は今いろいろな音が反射してそれも掻き消えそうだった。
「何かありましたか?」
「あったもなにも、魔力全力使用のゴールドスミス少尉が艦内で暴れ回っているらしい」
「……ティティが?」
「たった今、
「何やってるのよ、あのデカチチ……」
こうなってくると状況はかなり変わってくる。この事態の沈静化に際し、誰がイニシアチブを握るかが大きく変わってきた。加賀艦内の問題であれば、艦長と扶桑海軍の責任の下で大捕物となるが、その犯人が203空のウィッチだということになれば話は別だ。そのお鉢は部隊長である石川大佐に回ってくる。
「配下に置かれている同盟国のウィッチによる破壊工作の可能性を除外していたな。まったく面倒だ」
「どうします?」
レクシーが拳銃を掌の上で転がしながら問いかける。
「どうしますもこうしますもない。さっさと沈静化させる」
「沈静化させるって……どうやって?」
「それは今から考えるしかあるまい。とりあえず、北条艦隊司令に一報をいれる」
何を言われるやらとぼやきながらも石川大佐は壁に掛けられた艦内電話に手を掛けた。コール音も待たずに艦橋要員が電話を取り、北条司令へと取り次いで貰う。
《石川君、私だ。今格納庫にいるんだな? 被害は?》
「いえ、幸いにもストライカー・艦載機共に被害を免れています」
《それは良かった。直ぐに飛行甲板に来てくれ》
「……はい?」
報告のつもりが、逆に移動しろと言われてしまってはたまったものではない。しかし電話先の北条司令はどこか焦るような調子で続けるのである。
《駆逐艦漣からヘリが出た。増援陸戦隊一個分隊の輸送が目的だが……遣欧艦隊司令部はこの機の往路で司令部を移動することになる》
その言葉を聞いた石川大佐は何を言っているんだと眉をひそめ……すぐに察しをつけた。
北条司令にとってはまだ「加賀」の艦内で正体不明の敵が暴れているのである。
指揮系統の維持は何よりも優先である。北条司令の下には強襲揚陸艦1駆逐艦5潜水艦1で構成される遣欧艦隊がいるのだ。彼が倒れることはあってはならない。
故に「加賀」からの脱出を図るべく護衛艦から艦載機を寄越させたのだ。
《とにかく時間が惜しい、同盟国ウィッチの防護が最優先だ》
「……いえ、北条司令」
その同盟国ウィッチが大暴れしているのだが。とは言い出しにくいが事実である。致し方ないので混乱させないよう注意しながら状況を説明する。上官相手の説明で変な汗が流れたのは本当に久しぶりだ。
《……石川君。つまりこういうことだな? 霧堂大佐以下加賀乗組十数名に危害を与えしはアウストラリスのウィッチだと》
理解が及ばないと言った様子の北条司令。破壊活動を想定していただけに、飲み込めていないのであろう。
「そういうことになります」
《あれか、我が国はネウロイだけでなく同盟国とも戦うのか》
「いえ、そうではありません。これはゴールドスミス少尉の個人的な……」
《なら、君たち203航空団の問題だな。意味が分からんがとっとと片付け給え、艦内設備への損壊は私の安眠分までしっかり請求させて貰うからな》
ガシャンと激しい雑音と共に電話が切られる。音のしなくなった受話器を握りしめた石川大佐の表情は、なんとも言えないモノだった。
艦番号113。高波型駆逐艦の四番艦である漣搭載のSH-60K。陸戦隊一個分隊を満載したそれは航空管制の誘導通りに進路を描きながら「加賀」の直上へと滑り込む。
巨大な飛行甲板を持つ強襲揚陸艦とはいえ海に浮かべてしまえば笹舟のように小さな目標。インド洋の波にゆらゆら揺れるそれに着艦することはいくら「加賀」が誘導してくれるとはいえそう簡単ではない。
しかしそれを容易に成し遂げた漣搭載機は、飛行甲板に描かれるヘリコプター向けの着艦エリアにピタリと車輪を押しつけた。着艦による僅かな揺れとインド洋の空気を切り裂く盛大な
端から見ればこれほど滑稽な光景もない。維持コストも馬鹿にはならないヘリで颯爽と現れておきながら、徒手空拳で敵と戦うというのか。
だが、これが正解なのである。甲板員の示す通りに
「いいかお前ら! ここで暴れているのはウィッチなのは聞いたな! いくら暴れているとはいえ、ウィッチに危害を加えることは許されない! 我々は紳士だからだ!」
初めは「加賀」で起きた破壊活動の鎮圧、そして
「お前ら! ドレスコードは大丈夫か!」
「全員戦闘服であります! 隊長!」
「ならよろしいィッ! 総員単横陣!
しかし、その言葉は最後まで続かない。何故ならば彼らの頭上に黒い影が現れたからである。空を切り裂くその羽ばたきは、疑いようもなく扶桑海軍の
《ーーーーこちらァ、駆逐艦「曙」陸戦隊ッ! ウィッチの淑女を救うべく、ただいま参上!》
スピーカーでも使ったのか、艦隊中に声を響かせながら乱暴に高度を落としながら、なにか紐のようなモノが落とされる。
「貴様らァ! 無線封止を解除したからってなにをしてるんだァッ!」
我慢ならぬように誰かが叫んだような気もするが、陸戦隊の面々にとっては落とされた紐が問題だ。アレは疑いようもなくファストロープ。高所から素早く兵員を降下させる装備だ。
「あの野郎っ、リペイリングでショートカットする気だ!」
「しまった! 先を取られるぞ!」
「ええい村雨型に後れを取るなっ! 突撃!」
艦の上で笑うメイビス “ティティ” ゴールドスミス少尉。その笑みが深まる。
「わぁああ、お友達たくさーん!」
悪魔の饗宴が幕を開けた。